『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

死を身に纏いて

 冒険者にはお馴染みになっている下水道に現れるジャイアントクロコダイル。

 通常サイズのクロコダイルでも尻尾の振りで人間のアバラ骨は容易く砕ける。

 ジャイアントクロコダイルなら民家程度でも破壊するただろう。

 では、ティラノサウルスの尻尾は? どれほどの破壊力を秘めているのか?

 答えは――――



 わからない。なぜなら――――



 「消えた?」

 「ベルトはどこに行ったんだ?」



 そう動揺の混じった観客の声。

 会場からベルトは消えていた。



 ――――否。



 消えていたわけではない。

 闘技場の最上階の観客席。



 「ぐっ……がぁはっ……」



 呻き声が漏れている。

 場所は闘技場の最も後ろ。その壁にベルトは叩きつけられていた。



 いや、正確には壁に肉体がめり込んでいた……。



 距離にして100メートル以上。測定不能のパワーで吹き飛ばされていたのだ。

 ベルトのダメージは膨大。 もはや戦闘不能と思われるほど……

 しかし、試合は止められなかった。

 なぜなら、ベルトを吹き飛ばしたはずのティラノザウルスも動けずにいた。

 これは後から分かったことだが――――

 その凶悪な牙でベルトと捕らえていた時、口内に大量の毒が叩き込まれていたようだ。

 しかし、その強大で強靭な肉体は毒の進行を遅らせ、効果が万全ではなかったらしい。



 先に動けるようになったのはベルトだった。

 観客たちは左右に分かれ、ベルトが戻るために道が開けた。

 そして、ベルトが横切るたびに――――



 「勝てよ!」

 「がんばれ!」



 と声援をあげた。

 それは徐々に会場内へ浸透して、巨大な声援がベルトへ送られた。

 そして、再びベルトがティラノサウルスと対峙するきょりになると――――

 今度は水を打ったように静寂が会場を支配した。



 ベルトが発する殺意。

 その漏れが観客にも伝わったのだ。



 「でるか! あの≪劇毒強化ポイズン・ブースト≫とやらが!」



 その歓喜の叫びはキング・レオンの物。

 彼が、このマッチメイクを――――人間対恐竜なんて馬鹿げた戦いを仕組んだ理由はそれだった。

 あの『不破壊』を破壊してみせた連撃。 

 自ら肉体に毒を打ち込む事で短時間、身体能力を大幅に増加させるベルトのスキル。

 それを見極め、対策を行う事が、このマッチメイクの目的であり――――

 何よりも、この戦いでベルトが負けるとは微塵も思っていないのが、この男だった。



 だが、その思惑は覆される。



 なぜなら、ベルトがこの後に使用したスキルは≪劇毒強化ポイズン・ブースト≫……

 ではなく、さらに恐ろしいスキルだったのだ。





 ≪死の付加デス・エンチャント



 そうベルトが呟く。

 小さな低い声。しかし、会場のどこにいても聞こえる不思議な声だった。

 暫くすると、彼の足元から影が蠢き始める。

 なにやら、黒い赤子の手足のように見える。

 それはベルトの脚から這い上がっていき、やがて彼の全身を覆い隠した。

 その様子に、観客席のあちらこちらで悲鳴があがる。

 おそらく失神者も出ただろう。 それは正しい。

 なぜなら、ベルトが身に纏った影は人の死そのものなのだから……



 「≪死の付加デス・エンチャント≫……冥王襲名バージョン」



 どこか、こもったベルトの声が聞こえると彼を覆い隠していた影が弾けて霧散した。

 そして再び姿を現したベルトは――――


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