『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

残り3分 都市を破壊する連撃

 どよめきが起きる。

 勝ち名乗りを観客に向けて行っていた『不破壊』はソレに気づいた。



 「驚いた。下手をすれば二度と立ち上がれぬダメージを与えたはずだが……」

 「……すまない。お前の事を侮っていた」

 「へぇ、侮っていたら、どうするんだい?」



 「今から本気でお前を倒す」



 ピリピリと皮膚がひりつくような空気感。

 まるで魔法の起動直前の杖を互いに押し付けあっているかのような剣呑感。



 「使うのかい? お得意の毒を?」

 「既に使っている」

 「なに!?」



 『不破壊』は敵から目を逸らし、手足の指を動かして確認する。

 気づかぬ間に毒を打ち込まれた痕跡は……ない。



 「安心しろ。毒を打ち込んだのはお前ではない。俺自身の体に……だ」



 『不破壊』は不可解な表情を見せ、それから「なるほど、毒で痛みを取り除いたか」と納得した。



 「そうだ。俺の毒は敵を殺すためだけのためじゃない」

 「なんだ? 毒にも薬にもなるって言いたいのか?」



 「ふっ」とベルトは短く笑った。

 なんだ?」と『不破壊』



 「薬なんて、そんなに可愛いもんじゃない。10分後に俺は死ぬ」

 「……ほう、興味深いね」

 「死と引き換えに身体能力を大幅に増加する劇薬を打ち込んだ。解毒をしなければ、戦闘不能まで3分だな」

 「命と引き換えに本気を出す……ね」

 「卑怯だと思うかい?」

 「まさかだろ……むしろ、光栄だよ」

 「そうか、それはよかった」



 2人は小さく笑い合い。

 その笑いが止まった時――――

 最後の戦いは始まった。



 ≪劇毒強化ポイズン・ブースト



 ベルトは、そのスキルを使用した。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 『不破壊』の目前からベルトが消える。



 打撃。



 打たれてから初めて分かる高速の上段回し蹴り。

 高速の打撃は留まらない。止まらない。



 突き、蹴り、肘、膝、頭突き。

 パンチ、キック、エルボー、ニー、ヘッドバッド。

 正拳突き、前蹴り、猿臂、鉄槌、掌底打ち、裏拳、手刀。

 ストレート、フック、アッパー、ロー、ミドル、ハイ。

 バックハンドブロー、ローリングエルボー、ローリングソバット。

 後ろ回し蹴り、縦拳、崩拳、孤拳、旋風脚、諸手突き、真空飛び膝蹴り……



 まるで打撃の見本市。



 残念ながら『不破壊』も無論、観客も、闘技者も、ベルトの高速打撃を肉眼で捉えることが出来なかった。

 終わりなき打撃の暴風雨。

 『不破壊』は見えない打撃に身を晒しながら、辛うじて防御を固める。



 いつか終わる。 いつか反撃の機会が来る。

 でも、本当に?

 不安が心理を支配する。肉体よりも早く、徐々に精神が削られていく。



 『不破壊』は弾かれたように後方へ下がっていく。

 気がつけば、闘技場の端。観客席を遮る壁まで追い込まれる。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 最初に異変に気づいたのは観客席の最前列。

 関係者や招待客が座るスペシャルリングサイドと言われる席だ。



 「おい! なんか、壁に亀裂が入ってないか!」



 安全地帯。そう思われていた場所に恐怖が感染していく。



 「逃げろ! 巻き込まれるぞ。この打撃に!」



 一斉に最前列の観客たちは席を立ち非難を開始した。

 その直後である。

 壁が崩れ落ち。『不破壊』とベルトが観客席に流れ込む。

 それでも止まらない。

 両者は、スペシャルリングサイドを破壊し尽し、リングサイド、一般席まで到達。

 誰かが叫んだ。



 「破壊される! 闘技場が! それどころか人工都市オリガスが破壊される!」



 まるで神話。

 人が素手で都市を壊滅させる。

 だが、その神話が行われる予感が観客たちにはあった。



 しかし、恐ろしいのはベルトが行動停止になるまで残り時間2分50秒。

 ここまで、わずか10秒の出来事だった。


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