ようこそ20年前の英雄さん -新種のせいで波瀾万丈生活-

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枯果







「目標…撃墜…」










青黒い髪をかき上げ、息を切らし、青年は呟く。白の軍服に赤い腕章。黒のコンバットブーツ。その何もかもが自らの血と返り血とで赤黒く染まる。






辺り一面に広がるのは大小様々な体躯の魔物。そして青年と同じような服装をした人間と“そうでない”人間。








それらの首が転がる。腕が転がる。足が、胴体が、死体が無造作に転がる。人種人間人外を不問とする死体の丘に、血溜まりの頂点に青年は唯独り立ち尽くす。












青年の目の前には、青年を遥かに上回る測りきれぬ程の大きさの龍の死体。手足は無く蛇のような長い体躯に巨大な翼を持つ、有翼の龍蛇。天災級と呼ばれるその魔物は青年を前に命を光の残滓に変え、散らしている最中だ。












「コイツの…名前。決めなきゃな」










呼吸を整え、思案する。邪悪な禍々しい頭部が三つ、凶悪な視線、天を覆い隠すかのような翼。ふと古い書物で呼んだ悪魔の名前が頭をよぎると、青年はその龍蛇の血を一本の指で掬う。










“天災級:三の凶禍アジ・ダハーカ










青年は血を掬った指に魔力を込め、討伐唱名証書に魔物の名前を殴り書きした。青年の魔力と魔物の血に含まれる生体情報が混ざり、名前以外の特徴が事細かに自動筆記されていく。








「魔力量総数453万、極大魔法所持数4、俺との戦闘で使ったのは3つだったな…。最後の1つは……大崩壊。死ぬとかのレベルじゃないぞ、これ」








大崩壊ディスインテグレートの文字を見て、青年は驚愕する。この呪文は平たく言えば自爆だ。ただ、規模が戦闘区域のみならずアルミナ国やその隣国、果てはどこまでの被害に及ぶかわからないと禁魔。かつて起きた大崩壊では世界の3分の1が消し飛んだという伝承がある。


討伐唱名証書を懐にしまい込み、青年はその場を後にする。これから軍に戻り上層部に詳細を伝えねばならない。戻ることに嫌気がさしてこのままどこかに行ってしまおうかと思う。






しかしふと空を見上げた時に、自分が帰らないことで上から怒鳴られ意気消沈する友の顔が頭に浮かび、流石に可哀想かと思案した彼は足を軍へと向けた。後に大討伐戦と呼ばれた戦場を背にして。




「帰るか…」










此処に大討伐戦を終わらせた青年がいる。圧倒的な武力を以って、圧倒的な魔力を以って、圧倒的な殺意を以って、大討伐戦を終わらせた青年が此処にいる。














青年の名は、ニクス。


















ーーーーニクス・レギオライト。









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