いきなり異世界転生!?〜目覚めて始まる異世界生活〜

狼狐-Roco-

第一章・スライムとスライム

 七話

 ーー悩むこと数分、陸斗は未だに悩み続けています。

 まあ、武器を持つことは初めてのため仕方ありませんが、それでも悩みすぎな気がします。

「はは……慎重にとは言ったけど……やたらと悩んでるね?」

「まぁ、初めて武器持つからこそ、どれが俺に合うのかわからないからな。剣だからどっちも一緒ちゃ一緒だが」

「……なら使う?」

 悩み続けている陸斗に提案して来ました。確かにそれならば自分にあった武器を選ぶ事ができます。

 と、その案を聞いたシェラはなにか閃いたかのような顔をして、陸斗の手を掴むと店の奥にあった地下へと続く階段を降り進みました。

 地下に降りて直ぐには扉があり、ガチャりと扉を開けると、石でできた訓練所の様な部屋が広がっていました。見渡しても何もなく、ただの多目的部屋の雰囲気があります。

「ーーでなぜか試すとは言ってないのにも関わらず訓練所みたいな所に連れてこられたわけだが」

「あはは、確かに試すとは言ってないけど、試さないことには決まらないでしょ?それにここはーー」

 ルエラは陸斗と鈴が居ることを確認して扉を閉めるとパチンと指を鳴らしてみせます。その瞬間何もなかった部屋が一瞬にして草原の様な場所に変わり、数メートル離れた場所に青く丸い生き物が数体ほど跳ねて遊んでいました。

「え!?転移か!?」

「あったりぃ!さっきの部屋は簡易転移魔法を巡らせててね、私が指を鳴らすと草原に転移するようになってるの!あ、戻る時も指を鳴らせば戻るんだ~」

「……この草原にしか、転移、しない」

「へぇ……」

 それで俺を召喚してくれたら戻れたんだろうなぁと思いつつ、陸斗は目の前に見えてる魔物の事を口に出します。

「であの丸いのは、見たところスライムで合ってるのか?」

「……そうスライム、洗濯のり、水、謎の粉、入れて作る、あれ」

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「それねー聞いたときは半信半疑だったけどいざ試したら本当に作れてびっくりしたよー」

「ここのスライムって作れるのか……ってそれ“スライム”違いだろ!?」

 当たり前の様に鈴は日本で作れるスライムだと言いますが、まさかシェラにそれの作り方を教え、それを魔物のスライムだと信じ込ませているなんて用意周到すぎます。というか誤った情報を普通に教えてしまうことに驚きです。

 そんなことよりとルエラは短剣を渡し、「とりあえずあのスライムに向けてぶん回せ」と笑顔で親指まで立てて言い放ちました。

「と、とりあえずって……まあやってみるしかないか」

「……頑張れ」

 凄く適当に応援されていますが陸斗はそれを聞き流し、スライムに向かって行きました。

「はあ!」

 短剣はリーチが短くなおかつ軽く扱いやすいときっと思われてますが、短いが故に力を入れないと攻撃が通らないこともあります。そのため彼が放った初撃は全く歯が通らず、跳ね返されてしまいます。

「もっと力入れないとだめか……なら!」

 先程よりも力を加え、思ったよりも軽い短剣の刃でスライムを二つに切り裂く事に成功。
 そして切られたスライムはシューという空気が抜ける音と共に蒸発しました。

「……さすが下級、弱い」

「と、ところで一つ聞きたいんだが、このスライム集まったら合体……とかはーー」

「合体はしないかな?」「……残念、合体、しない」

 陸斗はゲームなどで出てくるあの大型スライムの事を言ったのですが、そんなのはいないと声を揃えて言われました。

 それを聞いた陸斗は、少しがっかりとしていましたがここはゲームの中ではありません。故に出ないのもしょうがありません。

「まあ、ほら次!」

 一度彼女達の方へ戻り、はぁっと短い溜息をつくと、彼の目の前に長剣が刺さりました。次はこれを使えという指示でしょう。

 それに驚いたものの持っていた短剣を彼女に渡し、地面に刺さった長剣を引き抜くと「うおっ!」というような素っ頓狂な声が自然と出ていました。

「な、なんだこれ……重いな」

「一般的な重さだよ?」

「……短剣、急に長剣、そうなる」

「た、確かに短剣は軽かったから余計か……」

 鈴が言う通り、先程まで軽い短剣を振り回し、その後に長剣を持ったことで無意識に重いと思ってしまったのです。

「……よし、もう一度行ってくるか」

 そう言い放つとまだぴょんぴょんと飛び跳ねているスライムを退治しに走っていきます。

 先程の短剣と似たような感覚で扱っていく彼ですが、長剣は重く、力を入れなければ上手く扱えない武器。故に少し大振りにスライムを切り刻みます。

 ただ、途中から重さにも、力加減にも慣れたのか次々とスライムを二つに切り裂いて行きました。それも、武器を使うのが楽しいのか日が暮れるまで、スライムをまるでカカシのように、切り刻み続けました。

「ーーよし決めた、この二つから選べというならこの長剣だな。この剣使っててしっくりきたし」

「長剣だね!でもそれ重いって言ってたし……よし、それじゃ陸斗専用の剣を作ってあげよう!ちなみにお金は結構、陸斗は金無いんだし今回は特別大サービス!」

 長剣を扱うのを堪能し終わった彼はシェラ達のところへ戻り、短剣、長剣の中から一番使いやすかった長剣を選びます。

 しかし彼は選んだところでこの世界のお金は持っていません。ですがシェラは全てを見ただけあって、彼がこの世界のお金がない事も知っています。故に、一文無しな陸斗に気を使い特別に専用武器を作ってくれるようでした。

「……あと、行くところ…………そういえば、陸斗、寝るとこ、ない?」

「あっ……そういえば」

 他に行くところを考えた鈴はふと、陸斗の寝床の心配をし始めます。というのも彼はこの世界に来て間もないため、家も無ければ眠る所もありません。それにこの世界の金もないため宿を借りる事もできないのです。

「うーん……流石にシルヴァのとこは難しいだろうし……そうだ!私のとこに泊まってく?」

 シルヴァと言うのはクウフウク食堂のマスターと言われていた男性の事です。シェラとシルヴァは昔からの仲のため彼女は名前を知っているよう                      です。

 またそのシルヴァは鈴を居候として家の空き部屋に泊めていますが、狭い部屋のため寝る場所はあまり無いのです。そのため厳しいということでしょう。

「……相変わらず、お人、好し」

 シェラの所に泊まると聞くと鈴はジトっとシェラを見てそう言いました。確かにシェラは初めて会った彼に宿泊する場所、武器を与えるなどお人好しすぎます。
 でも今回ばかりはそれに甘えるしかありません。ただそうなると迷惑がっかかってしまうのではないかと心配になり聞いてみました。

「でも迷惑じゃないか?」

「そんなことはないよ、一人だと結構有り余るから」

「ならいいんだけどさ……ってまずくないか?男だぞ俺」

「そんなこと言ったら鈴のとこのシルヴァも男だよ?」

 陸斗は一応、不登校気味ですが健全な男子高校生、女子がいる家に泊まるなんて色々と問題があるものです。それでも尚彼女は問題ないと言っていました。

 そんな話をしながらシェラが指を鳴らし、石でできた修練所のような場所に戻ると、階段を登り店内に戻ります。

「……じゃあ私、一度帰る。明日、シェラの家、行く」

「了解。じゃあ陸斗は私の家にレッツらゴー!」

 鈴を見送ると、そのまま店店じまいをちゃちゃっと済ませ、彼女は陸斗を先導して自宅に向かいました。

 ーー数十分ほど歩き暫くしてたどり着くとそこはちゃんとした家……ではなく立派な豪邸。確かに一人では有り余るほどでした。

「シェラ、お前は一体……」

「ん?あぁそっか、グライヴ家は昔、かの英雄の装備を作ったとして名家になったんだ。まあ、今でこそ私で最後の台になっちゃってるんだけど」

「な、なるほどな……」

 グライヴ家の末裔が彼女だけと知った陸斗は、申し訳なさそうに謝りますが気にしないでと元気よく返されます。

「さ、入って入って」

「し、失礼します……」

 中に入ると直ぐに明かりが灯り、豪邸の中が良く見えますが、やはり外見同様かなりの豪邸感があり、彼は唖然としてしまいます。
 しかし、そんな彼は気にせずこっちこっちと早々と目の前にある大きな階段へと向かった彼女が手招きしていました。

 階段を上れば直ぐに二階の廊下に出て、一階の広い玄関を見渡せる程開放的でした。

「この部屋好きに使っていいよ、何かあれば隣の部屋にいるから!あ、トイレは左にまっすぐ進んだらあるよ。それじゃあおやすみ~」

 こっちこっちと廊下を進む彼女に手招きされ、少し歩くと彼女は急に止まり、左側にある扉を開いてそう言い放つと、隣にある自室へと向かっていきました。その際、彼も「おやすみ」と緊張した声で言って部屋の中に入ります。

 部屋の中は誰か使っていたような、されどもつい先日に掃除をしたような綺麗さを誇る部屋で、一つ一つ凄いなと思いつつも、ダブルベッドに身を委ね彼は眠りにつきました。

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