身体の病と心の傷

王帝月ノ宮

彼の記憶と彼女の思い出

笠原悠介の悲しき記憶
「さくら!」
僕が駆け込んだ病室のベッドに人工呼吸器をつけられた桜が横たわっていた。表情を失った彼女は僕が来ても表情を変えなかった。
「先生!さくらの容態は?」
「……もう、目を覚ます可能性は限りなくゼロに近いです。」
「そ、そんな。」
それが、僕が大切な人を失った瞬間だった。僕の中にぽっかりと風穴が出来たような空虚な空間と喜怒哀楽のすべての感情を失った人間が出来上がった瞬間だった。
その翌翌年の八月。僕は彼女と再開するのだがこれはまた別のお話。






竹内桜の淡い記憶 その一
「おーい、××君。」
「おお、来たんですか。」
私の視線の先には背番号10番を背負い、左腕にキャプテンマークを巻いた男の子がいた。母から、サッカーチーム 鷹山FCの小学生チームが全国大会決勝戦をやるから見に行こうと誘われた。
そのチームのキャプテンの××君とは以前会ったことがあるが、怖い印象を持っていた。しかし母に説得されたので行ってみることにした。
「おや、珍しい。今日はさくらも一緒か。いつもは誘っても来てくれないのに。」
「こ、こんにちは。」
私はママの後ろでおどおどしながら挨拶した。
「じゃあ、僕これから試合なので。」
「うん、がんばれ。」
「……がんばってください。」
「ははっ。どうやら嫌われちゃったようだな。」
彼は頭をかいた。その時、
「おーい、キャプテン!早くー。」
「はいよ!」
彼は私たちに背を向け走っていくときに片手を上げてくれた。
「では、鷹山FC対ガッツ大阪の試合を始めます。礼!」
「お願いします!」
試合中
「さくら、どう?」
ママが声を掛けてきた。
「なにが?」
「××君。かっこいいでしょう?」
「……うん、ちょっとかっこいい。」
「でしょ、でしょ!」
「でも、ママが自慢することじゃないと思う。」
私はそう返した。
「いっけー!××君!」
ママは聞こえなかったふりをした。
次の瞬間
ザシュッ
ピー!
得点のホイッスル。××君のチームメートは彼に抱きついたりしていて、相手チームは唖然としている。その視線の先のボールがゴールネットの中に納まっていた。
彼が点を決めた。彼が数秒で点を決めた。なんだか、すごくかっこいい。
「え?どういうこと?」
ママは見逃したのか聞いてきた。
「×、××君がシュートを決めた。」
味方が一点失点した後のキックオフでボールを受け取った瞬間、ものすごいスピードで敵をごぼう抜きして、一気に一点をもぎ取った。
点を取った彼は口元を少し緩めていた。
「キャプテン、ナイス。」
「まだゲームは終わっていない。集中していくぞ。」
「おう!」
その時の彼はとてもかっこよかった。
さらに彼はこっちを見てグーのポーズをとった。すごくうれしかった。
そして、二年後、私は事故に遭う。

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