天意転星

GAAMIN

転移

「私はタロウさんの事が好きです。タロウさん…タロウさんは誰が好きなんですか!」

「待ってくれ。好きとかそういうのは良く分からないっていうか、もっと真剣に考えたい。」

彼女たちの気持ちは無下には出来ない。流石に六人の女の子に迫られるのは精神的に楽ではない。まったく、僕の気苦労というものを考えて欲しい。

「今は戦争中なんだ。これが全て終わったらしっかりと話そう?」

「…わかりました。終わったら絶対!教えてくださいね!」



「ふぅ…こんな所か。」

ここは自宅の一室、かなり長い間作業に没頭していたようで、窓の外はもう暗くなっていた。

「うわ、もうこんな時間か…。明日は…そうだ、アニメ化の初回打ち合わせ会議か。十一時に出れば間に合うな。」

僕の名前は菅原苗人すがわらなえと。趣味でネット小説投稿サイト「小説家の野郎」に自作の小説を投稿している。現在までにかなりの小説を書いたがその一つ、「異世界に転生したら美少女に囲まれていて帝国の王になっていた!?」通称「転帝」が話題となり、なんと書籍化とアニメ化の話を貰ったのだ。

書籍は先日完成品を見せて貰った。自分の作品が一般の商品として販売されることに感動と興奮を隠しきれなかった。
そして明日はいよいよアニメ化の第一回目の会議だ。その前に二巻目の執筆を進めておきたかったので、この時間まで作業をしていたのだった。

「流石に時間配分を間違えたな…書籍化した実物を見たのとアニメ化目前で興奮しているのかもな。」

考えてみれば、ここまで興奮したのはいつ以来だろうか。覚えているのは、大学の頃初めてオリジナルの小説を書いた時だ。思えばあれ以来ずっと小説を書いていた。
自分が考えたキャラ達が映像化するというのは考えただけで心が躍った。

「おっと、明日は寝坊出来ないんだ。さっさと寝よう。」



「寝過ごした!!目覚ましが鳴らないとかこんな古典的な失敗があるかよ!今からタクシー使えばギリギリ間に合うな…。初回の会議は遅刻出来ないし…やむを得ん!」

家を飛び出し大通りに出た。丁度良くタクシーが見え、手を挙げて飛び込み打ち合わせの場所を伝えた。タクシーは問題なく走り出し、席についてやっと落ち着けるようになり今後の打ち合わせに関してどうするかを思案していた。

車は問題なく進み、予定より少し早く間に合いそうな雰囲気であった。今まで間に合わないのではないかと心配していた分、間に合うことを確信して安堵した。

瞬間、世界が壊された。

自分の身に何が起こったか分からなかった。ただ、とても大きな衝撃を受けていた。
その衝撃に驚く暇もなく意識はそこで途切れた。

それが交通事故であることを認識する前に彼は絶命した。

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