チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第26.5話、起床(※別視点)





「( ˘ω˘ )スヤァ…」「(°д° )」
 優が…私の隣の布団で寝ている……。




「ここは…どこだ…?」
 自分でも意図せず、微かに声が出ていた。
 まずは状況を整理しよう……そうか、私は…情けないことに、女将の話が怖すぎて気絶してしまった…みたいだ。
 旅館の経営難につけ込む悪霊共め…相当悪い奴に違いない。私が退治してやる…と、怯えながらも対策を考えたのは良いが、残念なことに今の私には、幽霊に対して有効打が無い。
 魔よけの十字架も無いし清めの塩も無い。何よりも、私のお守りの銀のナイフが無い。突然の出発だったからか、太陽寮に忘れて来てしまった。銀のナイフさえ有れば、幽霊などドヤ顔で退治出来るのだが…無い。
 あぁ、恐ろしい……有効打が無いのに、敵…幽霊に襲われたら、ひとたまりもない。聖なる武器が欲しい、光魔法か除霊術を勉強しておけば良かった……明確な対抗策が何か1つは無いと、私は自他ともに認めるよわよわへなちょこ女になってしまう。
「あっ……」
 しまった、優の心配を忘れて、私は…思えば、昔からそうだ…自分のこと、自己防衛の手段ばかり考えて、他人に優しくする余裕が無く、突っぱねて、直ぐに孤独になってしまう…周囲と感覚がズレてて、空気も読めないみたいだし…バカだし…しかも口下手なのも相まって、人に気ばかり使わせてしまう……うぅ。
 いかん、泣きそうになってきた…布団から出て、優の隣に行こう……。

「( ˘ω˘ ) スヤァ…」
「ゆ、ゆう……起きてるか……?」ゴソゴソ
 ………起きない…疲れている様子だったが、こうも熟睡するとは…。
 でも、布団が大きめのサイズで助かった…自分の布団に置いてあった枕を持って、優の布団の中に入る。ぬくぬくと温かい。
 優を置いて何処かに行く訳にもいかない……仕方ない、まだ早いが、私も少し眠るか。
「ふぅ……あ」
 潜り込むと優の服装が、謎の言語が描かれたシャツから、ドウテツ特有の紺色の浴衣に変わっているのを見つけた。
 …つまりここは、宿の中か。私が気絶している間に、何処の宿屋に向かってくれたのだろう。
「……着替えるか」
 布団からゆっくりと出て、傍にあった大きな茶箪笥の引き出しを引いた。寝るには寝間着と決まっているからな。

「……よし」
 着替え終わったし、その他の寝る準備も終えた。浴衣の色は色々あったが、私は橙色の浴衣を着た。軽く、動きやすい。
「んぅ…スー……スー……」スヤスヤ
 うっ…可愛い寝顔だ……本当に男なのかと私は今でもたまに疑っている。
「ん…そうだ、ふふ……」
 寝顔を見て、ふと、前に私が眠っている所を、優にいたずらされた記憶が蘇る。
 その時は優に何か、寝惚けて言ってしまった気がする…確か、何だったか……まぁいいか。あの時の仕返しに、この無防備な優に、少しいたずらをしてやるか。
「ほら……それそれ」ツンツンほっぺ
「んっ…う…ぁ……やぁ……」
 うおっ……な、何だか、イケナイことをしている気になってきた。やめよう。
 しかし、寝ようと思っても、実はそんなに眠くないからな…うーむ。
「………」ツンツン
 柔らかい。
「…んぅ……喰い殺すぞ小娘………」
 !?
「ひっ…す、す、すまない…!あの、違う、違うんだ、その……」
「……すぅ…すぅ…」スヤスヤ
「………」ドキドキ
 よ、良かった…何だ、寝言か……急に流暢に喋るんじゃない…と言うか寝言の内容怖すぎるだろう……。

「ふぅ……」
 優へのいたずらをやめ、仰向けになり、考える。
 太陽軍の皆は今頃、どうしているだろう。私はこれから先、この国でどうすれば良いのだろう。先の見えない不安が、私の心をジワジワと蝕んでいた。
 兄さんはドウテツで自由に楽しんで来いと言ったが…私は、1人では駄目だ。優と共に行動しないと、きっと純粋に楽しめない。しかし…優に四六時中ベッタリなのも……優に迷惑だろう。
 ……今更かも知れない。でも私は、優が異世界からこの世界に来て1人なのを、最初に出会った時点で確信しておきながら、何も知らぬ振りをして近付いた…卑怯な女だ。
 いや…優が1人だったから、近付いたんだったな。私は、優がこの世界で私以外に、他に繋がりが無いから、安心して……クソッ…最低だ、私は……!
 他に選択肢が無い相手を、半ば強制的に側に置いて、私だけ安心感を得るなんて…そんなの間違っている!
 そうだ……思えば、サン・ソリュートへ着いた時点で、異世界人の優は、神官様に送り届けるべきだったんだ…!!異世界人の叡智は、時に莫大な恩恵を人類にもたらしてくれる…。
 特に優には、異常なまでに正確な、未来を予想する力がある…最早未来予知だ。この力があれば恐らく…軍を指揮し、他国を攻め込み勝利を得ることも…逆に、計略をめぐらし、悪夢のような世界戦争を起こすことも出来るだろうな、きっと……。
 そんな可能性の塊を、私は今愚かにも、誰にも話さず、渡さず、独り占めしている…。
 しかも、優はやさしいから、私の様な駄目人間でも見捨てずに…。

「…っ、はっ……!?」
 私はいつの間にか、泣いていた。頬に伝う涙がいやに冷たくて、それに驚いた。
 ……少し、考え過ぎたか。思考を止め、涙を拭い……ふと、優の顔を見た。
「スー……スー………」
 一見すると何の変哲もない、可愛い少年だ。なのに私は、彼の言動に時折、底知れぬ闇を感じることがある。知ってしまったら元には戻れない、そんな危うさを優からは感じる。
 だけど……。
「今は……まだ………」
 私は目を閉じて、意識を手放した。

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