チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第26話、ゆっくり休息していってね!

「何!?全ての客室が既に予約済みで、今から泊まることは出来ないだと!?」
 受付の30代に見える、旅館の女将さんみたいな人と話してるリサさんから、聞きたくない声が聞こえた。勘弁してよ本当に。
「すみませんお客様…何分、小さな旅館ですから……」ペコペコ
 女将さんの平身低頭な様子から、本当に空きが無いことが僕に伝わる。
 でも、別の宿に1日泊まって、この宿にまた戻ってくればまだ大丈夫…大丈夫さ……豪華な宿でのんびり過ごす計画はまだ……。
「何!?しかも1週間先まで予約は埋まっているだと!?」
「すみません、大人気旅館で本当にすみません……」ペコペコ
 ふーん、なるほどね。発狂しておこうかな。うんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんちうんち
「アァ、オワッタ……」ガクッ
「おわー!ゆ、優!しっかりしろ…!立て、立つんだ!」
 真っ白に燃え尽きそうだよ。これが本当のやけくそってね、HAHAHAHAHA!

「みてー、ちょうちょ。わーい」
「ゆ…優、私が悪かった、気をしっかりしてくれ…!…っ…ごほん、女将さん、私こそ事前に連絡を入れずに来てしまい、本当にすまない。それでも女将さん、無理を承知で頼みたいんだが…屋根裏部屋やほったて小屋でも構わない…そうだ、今日のお昼まででも良い、空いている部屋は無いのか?」
「あらあら……んー、そうですわねぇ、空いている部屋は、あるにはあるのですが…」
 女将さんが困ったような表情を浮かべ、僕たちに話すのをおろおろと迷っている。
 家畜小屋です、とか言われたら僕はポチを召喚して物語の全てを投げ出すからね。とうの昔に僕の限界は超えてるよ、寝ちゃいたい。
「えっ!?あるのか?あるなら、多少散らかっていようが、私たちはそこでも構わない。そこに泊まらせてくれないか?」
 男女だけど、もうこの際寝室が別々じゃなくても気にしないよ。リサさんだし、よこしまなことも無いでしょ、たぶん。
「いえ、とんでもないですわ!私の旅館に誓って、どの部屋も散らかって何かいないと、約束します。寧ろ綺麗で設備もしっかりしていますし、1階のどの客室よりも広く、豪勢なのですが……」
 ん、2階にあるのかな、その、聞く限りではリッチでプレミアムな部屋。
 そんな優良な部屋を何で出し渋ってるのさこの人、そこでいいじゃん。おい、泊まらせろよ。
「む?なんだ、そこで良いじゃないか。何か不味いことでもあるのか?」
 そうだそうだ!

「えぇと…出るんですのよ、オバケが。2階の特別な部屋にだけ……」

「優、帰るか」
「何処に!?え、リサさん!?ちょ、ちょっと…逃げないで!」
 ……足早に旅館の出口に向かうリサさんの手を急いで取って連れ戻し、女将さんに事情を聞いた。
「どういうことなの?オバケって……」
 隣のリサさんの視線があっちこっちに動いてて落ち着かないけど、無視して女将さんの話を聞く。
「すみません、ここで話すのは少し…リサさん、優さん。ここより後ろ手の…はい、授業員の休憩室で……申し訳無いのですが、此方に来て下さい。お茶もお淹れしますわ」
「確かに、他の人にホイホイと聞かせる内容じゃないね。分かったよ」
 リサさんの手を引いて、先を歩く女将さんの後をついて行こうとした。
 ……ガチッ。えっ。そこそこの力で引っ張っても、僕が握っている手の主が動かない。いや、なんで?
「リサさん」
 声で催促する。相変わらず動かないし、返事も返って来ない。
「リサさん」
 僕は振り向いて、リサさんの様子を見た。
「………!」フルフルやだやだ
 首を横に振って、無言で僕を見つめているリサさんが背後に居た。ポンコツ…?
「リサさん」
「………」フルフル
「リサさん」
「………」フルフル
 え、何これバグった?進行不可能になったんだけど。
「女将さん、行っちゃうよ。まずは女将さんの話だけでも聞こうよ」
 女将さんはニコニコと僕らの様子を見て、奥ゆかしくその場で待ってくれている。この旅館がやたらと人気な理由わけが分かった気がした。
「………」グイグイ
「無言で僕を旅館の出口側に引っ張らないで、リサさん。ダメだよ」
「優、本当に無理なんだ。子供の頃から私は幽霊は本当に無理なんだ、死ぬんだ」
 よ、弱すぎる……。
「死なないよ!もう……良いから行こうよ、直ぐ例のオバケが出る2階の部屋に行く訳じゃないよ、きっと」
「よ、良くない…!ぎゃ、逆に優は、怖くないのか?オバケだぞ?」
 いや別に…。
「別に怖くないよ……リサさん、ほら、子供じゃないんだから、っ、コッチに、いや力強くない?全然動かないんだけど」
「死ぬんだぁ……」
「だから死なないってば……」
 今にも背後から、女将さんのクスクスといった笑い声が聞こえてきそうだった……。




「お待たせしましたわ、リサさん、優さん。まずは…2階の部屋の、現在までの成り行きについて、お話しますね」
 それからリサさんを何とか宥めて……休憩室に来た。
 今僕たちは3人で畳の上の座布団に座り、ちゃぶ台を囲んで話をしている。
「うん、お願い」
「……頼む」
 リサさんの元気が明らかに無い。あはは、苦しんでる姿を見るのは実に心苦しいなぁ。

「はい、任せて下さい。元々、この旅館……『鶯亭うぐいすてい』は、お客様に合わせて、部屋ごとに提供するサービスが違いますの。もちろん、料金も…こほん。さて、それらのサービスの部屋数は合わせて10部屋あり、『松』が6部屋、『竹』が3部屋、そうです、これらの部屋は1階にあります。そして2階を丸ごと使い、1部屋のみあるのが、『梅』です」
 え、この旅館の広さで客室が10部屋しか無いの?損じゃない?
 僕は少なくとも客室が30部屋はあると思ってたから、まずソコに驚いた。
 そして更に驚いたのが、2階全てが1つの部屋の『梅』コース……って、貸し切りじゃないか。贅沢の極みだね。
「『松』と『竹』、どちらもお客様にはとてもご盛況で……えぇ、これもひとえにお客様のご愛顧、ご支援の賜物でございます。私としてもそれに関しましては、とても嬉しいのですが…『梅』だけは、その…始めはご理由されるお客様も多かったのですが、悲しいかな。ある日、妙なウワサが流れ始めたのです。この旅館の2階には、幽霊が住み着いて居ると言うウワサだったのですが……いえ、ウワサと言うより、これは必然だったのかも知れません。だって、泊まったお客様がみな、口を揃えて言うんですもの。2階で恐ろしい幽霊を見た、幽霊に悪戯された、幽霊に…と、挙げればキリがありません」
「……ッ!……ッ!!」ガタガタ
「……!?」
 ふむ……って、痛い痛い痛い!!!いつの間にか直ぐ隣に居たリサさんが、怯えて抱きついて来ている。僕の左手に。
「り、リサさん…!痛いんだけど、離してよ…!!」
「いや…む、無理だ……もうダメだ…一緒に帰ろう、怖すぎる…」ガタガタ
「早いよ!どう考えても、まだ話のオチじゃないでしょ…!何とか、話が終わるまでは耐えてよ……」
 妙に女将さんの語りが上手いのもあってか、オバケ嫌いのリサさんはすっかり怯えてしまっている。大丈夫かなぁ…。
「うふふ、続けますね……もう、お察しかも知れませんけど、それからは徐々に客足も遠のき…このままではいけないと…私どもが意を決し、本来ならば最も高級な『梅』を、1番安い『松』よりも格安で提供した日を境に、お客様は不審がって、この旅館の2階には、誰も完全に近寄らなくなってしまいました…およよよ……」
 着物の袖で顔を隠し、わざとらしく悲しむ女将さん。可哀想だと思った。
「……しかも、それだけには留まらず、噂に尾ひれが付いて、2階から幽霊が1階に降りてくるだとか、2階に泊まると祟られるだとか、好き放題言われてしまいまして…結局、『梅』の部屋は今では封鎖され、ソコに立ち入るのは、この旅館の女将である私だけ…本当に私以外誰も2階には上がらないので、掃除は楽なのですけど、ね……」
 悲しそうな瞳で事の経緯を説明してくれた女将さん……うん、中々に悲惨だ。きっともう修復不可能な所まで、オバケが出るってウワサが広まっちゃってるんだろうね。
 でも妙だな、幾らオバケが出るって言っても、格安で提供されてたら、怖いもの知らずな人が何人かは、2階へ泊まりに来そうなものだけど。
「ねぇ、女将さん。例えばだけど…そもそも霊感が無かったり、或いは単純に、幽霊が怖くない人とかって、ここへ泊まりには来なかったの?」
「いえ、来ましたけど…やはりと言うか、仕方ないと言うべきか…実際に幽霊を見た人はみな、この旅館には近付きません…」
「そっかー。そんなに怖い幽霊が居るのかなぁ…良く分からないや」
 うーん、そんなモノなのかなぁ。元の世界でも、いわくつき物件に住む人が居るように、この世界でも、多少怖かろうが贅沢で格安なココへ泊まる人はいそうなモンだけどね。
「……あら、もしかして優さん…この国の『恐れ話』を知らないのですか?」
 え、何それ。
「恐れ話?知らないな…聞かせて貰っても、良い?」
「勿論良いですよ、と…言いたい所ですけども。お隣の彼女さんは、良いのですか?」
「え?」
 彼女さん?隣を見る。
「………」
 顔を青くして、安らかな表情で目を閉じているリサさんが居た。アカン。
「うわ…大丈夫?リサさん、追い打ちに恐れ話聞かせて良い?」
「( ˘ω˘ ) 」
 し、死んでる……。
「あらあら…優さん、あまり虐めるのは良くないですわ。残念ですけど、ここは諦めて、別の宿屋に行ったほうがよろしいと思いますわよ?」
 女将にあるまじき発言を聞いた気がする。
「でも女将さん、別の宿屋の場所も分からないし…ついでに言うと、僕も疲労で倒れそうだし…2階が空いてるのは、僕たちにとって渡りに船なんだ。どうにかならないかな」
 気絶したリサさんを支えつつ、女将さんに解決策を考えてもらう。脳が回らないからね、何でだろうね。
「そうねぇ……いっその事、リサさんも今なら気絶してるし、コッソリ2階に運んで、何食わぬ顔でネタばらしするのはどうかしら…じゃなくて、どうでしょうか。どんな場所でも住めば都と言いますし、意外と何でも無くて、怖がりさんでも大丈夫かも知れませんわよ?」
「そうだねそれがいいねそれしかないね」
 良いね、それ賛成。リサさんも直ぐ慣れてくれるでしょ、たぶん。
 決して早く寝たいからって適当に賛成してる訳じゃないよ。本当だよ。

「( ˘ω˘ ) 」
 それから、リサさんを背負って2階に運んだ。重かった。疲労もあって、女将さんに手伝って貰わなかったら、多分階段から転げ落ちてた。
 勝手に2階に連れて行って、リサさん起きたら怒るだろうけど、背に腹は抱えられない。1秒でも早く僕も寝たいからね。
「ふぁぁ………ぅん……」
 欠伸がさっきから凄い。早く寝よう、読者に今の状況の説明を放棄するぐらい眠いのは、ダメだ。
 とにかく、詳しくは次の話で…それじゃ、おやすみ……。












「( ˘ω˘ ) 」「( ˘ω˘ ) スヤァ…」

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