チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第20話、大脱走

「リサ隊長!ご無事ですか!?それと優…さん!」
 まぁ何となくは察してたけど、扉を勢い良く開けたのは、ローズさんだったよ。
 サイレンが鳴った直後に、本来報告されるハズの、何が起きたか、という放送が無かった時に確信した。裏でローズさんが手を回してくれてる……ってね。やったね。
 ローズさんは両手で色々な持ち物を抱えてて……僕の予測が外れなかったことに安心する。
「ローズさん、ナイスタイミング。ほらリサさん、起きて起きて」ペチペチ
 失神寸前のリサさんの頬を軽くはたいて、目覚めさせる。
「はっ!…っあぁ!?おい!優、さっきの話を」
「この悪ガキがやりやがったことは、後で聞いてやって下さい!時間がありません。兎に角、リサ隊長、これを背中に付けて下さい!」
 多少強引に話に割り込んで、リュックサックみたいな、物を運ぶのに役立つ装備を、リサさんに手渡しするローズさん。
 色々と入っているのか、リュックは結構膨らんでいた。
「お、おぉ…??」
 クエスチョンマークが頭の上に大量に浮かんでるリサさんは置いといて、僕はローズさんに確認を取る。
「ローズさん、馬は君が既に用意してくれてると思うんだけど、方角はどっちに真っ直ぐ行けば良い?」
「……ふん!…この国の南門を抜けて、東に真っ直ぐ行きなさい。旅費はそれに入ってるからね」
 そう言ったローズさんは僕に向かって、そこそこの大きさのポーチを投げてくれた。受け取ると、結構重い。話が早くて助かる。
「ロ、ローズ?優?今、どういう状況何だ?なぜ私にこれを…?」
 初見の読者と同じような感想を言ってくるリサさんだけど、幸い、混乱しつつもリュックは背負ってくれている。動いてさえくれれば理解するのは後で良いよ。
「…急にごめんなさい、リサ隊長。失礼を承知で、説明します。今から貴女は、軍の厩舎きゅうしゃに走って下さい。馬が一頭外にいますので、それに乗って南門を抜け、東の国ドウテツへ行ってください。良いですか?今すぐにです」
 良いね、無駄の無い指揮だ。司令官にはこの人がなるべきだと思うんだけど……それより、ここまで完璧に動いてくれてるってことは、やっぱりこの部屋、ローズさんに盗聴されてたんだね。結果として、今はプラスに働いたから良いけど。
「………????」プシュー
 ありゃー、リサさんの頭がショートした。
 もう何が何だか分かって無さそうなリサさんに期待するのは、流石に酷だね。僕が引っ張ってあげないと…。
「リサさんはもうダメだね。さて…ローズさん、厩舎はどこ?」
「ダメって…こうなっちゃったのも貴方の仕業でしょ?…太陽寮を出てすぐの道を右に真っ直ぐ行きなさい、行けば……馬が外に居るんだもの、すぐに分かるわ。でも、貴方…乗馬出来るの?」
 ローズさんにジト目で見られつつ、質問に答える。
「馬の様な生物には乗ったことあるから、たぶん行けると思う。本物の馬に乗るのはこれで2回目だけど」
 ローズさんが僕をキツく睨む。許して。
「はぁぁ……とにかく…リサ隊長、優…さん、もう行きなさい!このバカの置き土産の後始末は、私がやっておきます!」
 後始末…あぁ、僕のやらかした不祥事を揉み消したり、誤魔化しておいてくれるんだね。本当に有能だなぁ、ここで別れるのが今更になって惜しくなって来た。
「……あの、私はどうすれば良いのだ?」
 ポカンとした顔の何も理解出来ていない状態のリサさんの手を取り、僕は走り出す。
「まずは僕についてきて!モタモタしてると本当に捕まるから!」
「あ…あぁ、分かった!(?)」
 あぁそうだ、リサさんは置いといて、ローズさんに最後にお礼を言わなきゃ。
「ローズさん、君を信じてて良かった!本当にありがとね!じゃあねー!」ブンブン
 リサさんの手を取っていない、空いた左手を出来るだけ大きく振る。
「っ…早く行きなさい!馬鹿……ああぁ、リサ隊長が遠くへ…うぅー……お気を付けてー!」
 おそらく僕抜きで、リサさんだけを心配しているであろうローズさんを尻目に見て、僕はリサさんの手をしっかり握り、厩舎へ向けて走り出した。
 ……ローズさんには、悪いことしたなぁ。でもこの行動も、リサさんの為って割り切れてるだろうし、そこまでショックを受けてる訳でも無いだろうけどね。



 ーー厩舎までの道のりを走ってたら、それまで黙って付いてきてくれていたリサさんが、僕に話し掛けてきた。
「……ゆ、優!頼む聞いてくれ、あの…私は、今、どうすれば良いか分からない…状況が分からんのだ!少しでもいい、状況を説明してくれないか?」
 どこか不安そうに話すリサさん。僕の手を強く握ってるのも、不安だからだろうね。
「…後でね、と言いたいところだけど……良いよ、話してあげる。リサさんは、この先何があるのか分からなくて不安なんでしょ?」
 僕たちの走る速度が少し落ちる。小走りしてる程度の速さだけど、まだ…問題ない。

「…そうだ。私抜きで話が進んでいるようで…私はもう、太陽の騎士団の皆と…お別れしないといけないのか?」

「お別れ何かじゃないよ。リサさんはね、これから僕と2人で…そうだな……10日…いや、7日間の間、色んな所に行くんだよ。勿論、この国の外の…ね」

「…ふ、2人で、7日間も!?騎士団の皆は来ないのか!?」

「来ないね。これから1週間、リサさんと騎士団の皆は、少しの間物理的に距離を置いて貰うよ」

「な、何で…」

「……君の為だよ、リサさん。おや…ローズさんの言ってた通りだね、馬が待ってくれてるよ」
 よし、話はここで切り上げよう。
 見覚えのある、栗毛のサラブレッド…この馬、昨日見たね。思えば、あの時草原での出会いから乗りこなしてたね…リサさんの愛馬なのかな。

「………」
「ほら、行こう?リサさん?」
 …リサさんが足を止めた。嫌な予感がする。まさか……ここまで来て?
 リサさんは黙って、その場で俯いている。僕を不安にさせるには、その行動は……充分過ぎた。

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