チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第16話、バンサンブル

「内津くん、随分と空腹な様だが……食べるのはしばらくぶりなのか?」
 ゲームに勝った後、クッキーを黙々と食べてたら、レオンさんに心配そうに話された。
「んぐ……そうだね、たぶん…あぁ、20時間ぶりぐらいかな」
 元世界で1時頃に食堂でうどん食べて…6時ぐらいに異世界転移して夕方じゃなくて昼で…それからずっと食べずに今の丑三つアワーだから…20時間以上ほぼ何も(リサさんの淹れてくれた紅茶を除けば)食べて無かったんだなぁ…僕……。
 疲労が溜まって、動きっぱなしから休めた安心感から( ˘ω˘ ) スヤァ…ってなるのも、今思えば当然だったかも知れない。
「何と。それは…ほぼ1日絶食したようなものだろう。育ち盛りだろうに…軍の専属の料理人を呼ぼう。なァに、遠慮せずに好きな物を頼むと良い、私が奢ろうとも」
 !へぇ…悪意は無いね。交渉を有利にしようって魂胆も無さそうな、純粋な優しさだと思うな。
 子供が好きなのか、それとも……いや、深読みし過ぎだね。疑い過ぎるのも失礼だから、考えを回すのは程々にしておく。
「レオン司令官!この者を籠絡させるのは不可能かと思われますが…突然、どうされたのですか?」
 レオンさんの為とは言え、まだ僕ここに居るのにそんなハッキリ言う?怒られない?
 ジキルさんはレオンさんを心配して、レオンさんは僕を心配して、僕はジキルさんを心配してるよ。なかなか面白い事になってるね。
「ジキル!口を慎め!私は内津くんを籠絡させようとしている訳でも、媚を売ろうとしている訳でも無い!」
 うわーびっくりした。それに対して初めて大声で怒るんだもんなぁ…。
「し、しかし……いえ、私が出過ぎた真似をしました。レオン司令官の考えを尊重します。先程の無礼、お許しください」
 ジキルさんは口ではそう言いつつも、あまり納得がいっていない表情かおに見えたよ。
「レオンさん随分と僕のこと甘やかそうとするけど、甘やかした所で僕がリサさんを何とかするとは限らないんだよ?良いの?」
 少し寂しそうな顔をして、レオンさんは静かに僕に話した。
「構わんよ…本当はな、依頼などもう良いのだ。それに内津くん程の頭脳ならば、私が言う前に依頼内容を大方察していて、そして既に結論も決まっているのだろう?」
 流石に厳しいんじゃないかな。まぁ試しに話してみよう。
「察するというか、ただの予想だけど……リサさんが太陽の騎士団に所属して…いや、隊長になって、何かしらの不都合が生じることがある。それも主にリサさん以外の部隊員に。だからリサさんを説得して、どうにかして欲しい……って感じの依頼?」
 少し具体性に欠けるけど、大体リサさんと仲が良かったように見えた僕に対して依頼することと言えば、こういうのが妥当だと思うよ。
「ハハハ…ほォら、正解だ。思えば、最初に隠れて近付いていた私たちに平然と声を掛けてきた時点で、私は気付くべきだったのだ……」
 疑ってるね、僕のこと。
「止めておいた方が良いよ」
 先に声を掛けて、牽制して置く。
「……内津くん。君は、東の国でサトリと呼ばれているバケモノでは無いか?」
 牽制虚しく、レオンさんに睨まれる。しつれいだなぁ。
「違うけど。どうしてそう思うの?」
 紅茶のカップをテーブルの小皿の上に置いて、レオンさんの目を見る。
「……あまりにも、不自然だからだ。君ほどの洞察力を持つ人間がこうも幼い見た目なのが、な」

 ジャキッ。

 レオンさんが腰に下げていた長剣を抜いて、僕に切っ先を向けている。なんかデジャヴ。
「レオン司令官…!?」
 ジキルさんが驚いてる。剣は怖いけど別に大丈夫そう、レオンさんから悪意は感じない。警戒心はビリビリ伝わってくるけどね。
「全く、最後まで隙は見せなんだが…まぁいい。つまりだ、少年……本当は人間では無いな?嘘は吐くなよ。今ここで貴様の真の名を答えろ…!」
内津 優うつつ ゆうだけど…」
 いや真の名なんて無いよ…若干申し訳なさそうに答える。だって名前聞かれたから…。
「…とぼけるな。凡夫には分からぬだろうが、私には分かるのだ。貴様からは常人が決して纏えぬ、形容しがたき闇を纏っている…気配がする」
 えぇー?気配って。
「何かハッキリしない言い方だね…一応弁明するけど、僕には闇なんて無いよ。その剣、収めてよ。怖いなぁ」
 半分呆れたようにレオンさんに話す。闇なんてそんな失礼な…。
「黙れ、私は…!」
「れ、レオン司令官!貴方は1度落ち着くべきです!冷静になって下さい…!」
「そうだそうだー!」
 ジキルさんが仲裁に入ってくれたから、僕も便乗する。よーしいけー!
「ぐっ…だが……」
「先に、依頼を頼む立場と言ったのは貴方では有りませんか!敵でない者に剣を向けるなど、有ってはなりません!」
 おー、言ってる言ってる。敵の味方は敵って奴だね。あれ、違う?
「ジキル…くっ、下がれ」チャキッ
 レオンさんは物悲しそうな顔で、やっと剣を鞘に収めてくれた。
「有り得ぬ……まさか、本当にただの人の子なのか…この風貌で…」
 信じられない物を見るような驚きと困惑が混ざった顔で僕を見る、失礼な人。
「だから、正真正銘人の子だよ!ついでに言うと、さっき幼いってさ…僕16歳だよ?喧嘩売ってる?」
 ジト目でレオンさんを見る。
「……そう、か…何という事だ…私が真実を見誤るなど…」
「レオンさん元気出して、失敗は誰にでも有るよ」
 僕も昼間に失敗したしね(砂漠ハウスにて)。


 ……それから、少し間を置いてから。
「内津くん…先程の非礼、本当に申し訳無く思う。許してくれないだろうか、大抵の条件は飲もう……」
 悪い人ならここでお金をふんだくったり、土下座させたりするんだろうけど、僕は良い子だからしない。
「んー、奢ってくれるんでしょ?僕はそれで良いよ、レオンさ…いや、ふふっ……お馬鹿さん」
 良い子だけど…何もねだらないのも相手が不審に思うだろうから、ご飯は貰うけどね。これぐらい良いでしょ、剣向けられたんだし。
 レオンさんは落ち込んでるけど、人を疑うのは悪じゃない。でも、行動を誤るのはダメ。僕はそう思う。まぁ今回はレオンさんの今後の為にも、ちょっとからかい気味に注意しておく。
「な…それだけで済ませようと言うのか…!?内津くん、君は何処まで…ッ!」
 うへー…真面目な人だね。僕にそれ相応の対価を支払わないと気が済まないみたい。良いって言ってるのに。
「僕としては料理が出来るまでの間に、リサさんについての当初の依頼の話もしたいんだけど。何時まで引き伸ばす気?」
 料理も楽しみだし、ここらで手綱を引く。グダグダと話す気は無い。
「ハッ……!馬鹿は私だったか……よォし、ジキル!料理長を呼んでこい、ご馳走付きでな!」
 わーい。なんだ、すぐに立ち直れてるし、思ってたよりバカじゃない。嫌いじゃないよ。
「…はっ!仰せのままに!」
 ジキルさんは心底安心した様な顔で、小走りで扉の外へ駆けて行った。
 料理は30分ぐらい後かな?交渉の傍ら、楽しみにしておこう。

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