チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第2話、リサの憂鬱

 リサさんに連れられて、結構遠い所まで来たと思う。
 僕がそう思う理由は、見渡す限りの草原地帯から、馬が30分ぐらい走ってやっと、1つの門の前まで来ていたから。
 その門は凄く大きくて、栄えているであろう国内の様子が簡単に想像出来た。
「優、着いたぞ。ここから先は徒歩で行くから、先に降りてくれ」
 歩くの?えっと……門の前、国境検問所らしき所は、馬で行くのは禁止されてるのかな。まぁいいや。
「うん、分かったよ」
 リサさんの言う通りに、鞍から降りる。
「少し待っていろ、門番に話を通してくる」
 リサさんはそう言って僕の返事も待たずに、馬に乗って、門番の人がいる窓口みたいな場所に行っちゃった。

 それから、リサさんが帰ってくるのを待ってたら、馬を何処かに置いてきたリサさんが小走りでやって来た。
「優、待たせたな……疲れただろう。来い、こっちだ」
 僕にある程度近付いてから、リサさんが手招きのジェスチャーをする。
「うん」ギュッ
 手招きされたし、はぐれても困るから、僕はリサさんの手を握る。
「おい、待て。何だこの手は……」
 何故か呆れてる様子のリサさんに、しょうがないから教えてあげる。
「はぐれないようにした方が良いかなって思ったんだけど、あっ……その、手繋ぐの嫌だった?」
 しまった、実はリサさんは一匹狼な人で、僕との触れ合いはうっとおしいとか思われてるかも……とか考えてたら、リサさんが小さなため息を吐いた。
「…はぁ、別に嫌ではない。が、私のイメージが崩れかねないな……」
 まさかと身構えたけれど、大丈夫だった。
 それどころか、やれやれといった様子で、リサさんは僕の手を力強く握り返してくれた!
「わーい。ありがとー」ニコッ
 嫌われてた訳じゃないって安心して、自然と笑みが溢れた。
「……ふふっ、門番に話は通してある。行くぞ」
 あっ!リサさんが自然体っぽい穏やかな笑みを浮かべてる。珍しいなぁ。
「うん」
 少し歩くのが早いリサさんと、大きな門を通ると、そこは異世界だった。

「わぁー、まるで中世ヨーロッパみたいな外観の建物が沢山建っててきっと殆どの現代人は見た事も無い様な煌びやかな装飾が否応なしに目に入るちょっと装飾過剰気味な城が中心にデカデカと見える一見すると国民も他国から流れ着いた非国民も何不自由無く暮らせそうな豊かな国に来たみたいだなぁ」
「っ!?……!?」
 急にピタッと動きを止めたリサさんに2度見される。
「どうしたの?」
「いや、どうしたは此方の台詞だ!突然どうした!?優!」
 リサさんに何故か心配された。
「どうもしないけど……リサさん、大丈夫?」
「えっ!?えぇっと……わ、私がおかしいのか?」
 素直に思ったことを口に出しただけだから、リサさんが驚くのは、きっと文化の違いのせいだと思った。
「うん、そうだと思う」
「そう、か……はは、私も普段からもう少し他人と深く話すべきだったな……うん」
 そう言いつつ乾いた笑い声を出すリサさんは、何故か少し楽しそうに見えた。

 それから少しの間歩いた先で、リサさんが不意に呟いた。
「む……出店があるな」
 リサさんの目線の先には、馬車に直接くっ付けたみたいな移動式のお店があった。
「あるねー。何が売ってるのかな?」
 少し離れたここからじゃあ、何が売ってるのかまでは良く見えない。
「あぁ、アレは……いや、丁度いいな。優、少し甘味を摘むか」
 この人僕を寮舎に連れて行くって言ってたのに寄り道しようとしてる!!!!!
 やっぱり食いしん坊なのかな?でも女性にそういう事を聞くのは失礼だろうし、やめておこうかな。
「やっぱり食いしん坊なの?」
「………」ギリギリギリ
「ぅあ、痛い!」
 うわー!リサさんに手を不必要なぐらい強く握られる。
「やっぱりとは何だ?おい、食いしん坊はともかく、やっぱりとは何だ?」
 リサさん、凄く怒ってる。何で何だろう、まるで理由が分からない。
「痛いよー!」
 じたばたしてリサさんから離れようとする。けど、この人凄く力が強くて全然離れられない。
 そうやってリサさんと戯れていたら。

「うわぁ……」ヒソヒソ「アラヤダー……」ヒソヒソ
 いつの間にか周囲から、こそこそ話にしては比較的聞き取れる大きさの、僕達を刺すような嫌な声が聞こえた。
 それに加えて、リサさんを見る他人の目に、他者の心にズカズカと踏み入る様な悪意を感じる。
 たぶん、何人かは意図的に此方に聞こえる声で話している。正直、不快だった。

「っ……優、行くぞ」グイッ
「あっ、ま、待ってよ、歩くの早いよ」
 ……隠し切れていない悔しそうな表情(かお)をしたリサさんに引っ張られて、大通りから離れた人の少ない道へと、僕達は進んだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品