ギレイの旅 番外編
困りごと
ただの買い物目的で儀礼は町の中を歩いていた。
その時、一台の黒塗りの馬車とすれ違った。
高級そうな出で立ちの馬車は、遠ざかる目にも貴族の物であるとわかる。
儀礼の手は素早く白衣の懐に滑り込み、銀色の銃を握ると、その馬車の車内へと狙いを定めた。
その手を、掴んだ者がいた。
「なぜあの男が犯罪者だと?」
動き出した儀礼の手を鋭い眼光と、強い力でアーデスは止めた。
確かに儀礼は、余程の理由がなければ戦闘態勢で銃を抜いたりはしない。
しかし、だからと言って、儀礼の攻撃理由を『犯罪者だから』と一度で言い当てるアーデスの洞察力はやはり普通ではない、と儀礼は感じる。
「人間コレクターはわかるよ。僕のことをコレクションに加えたいなって目で見るから。」
すれ違った馬車に乗っていた男の『儀礼を見た視線』を思い出し、儀礼は胸の内から出る嘲笑の言葉を伝える。
心の中で唱える儀礼の声は、そういう人間を確かに嘲り笑っているのに、ナゼだろう、その口から出る本物の声が、勝手に震えているのは。
『人間コレクター』。
集める人間は、生きたままだったり、死体だったり。どちらにしろ、まともな神経ではない。
そして、それをする者はほぼ全て、犯罪者だ。
笑えているはずの儀礼の顔には、流すつもりのない涙までもが浮いていた。
「これは何でもない。」
笑えなかった自分に不満そうに口元を歪め、儀礼は焦ったように涙を拭う。
情けない自分に嫌気がさす。
そしてまたすぐに、儀礼は得意の、人を惹き付ける綺麗な笑みを浮かべた。
見えなくなった馬車に、儀礼は元通りに銃をしまった。
隣りに立つ、金髪の冒険者は黙ってその儀礼の動作を見ていた。
同情なんてするような人間ではない。
世界に名の知れたその冒険者は、儀礼よりもひどい境遇の人間を大勢見てきて、おそらくは、本人も辛い幼少時代を過ごしているはずだった。
しかし、儀礼は知っている。
この男が次に何と言うのかを――。
「切りましょうか?」
すがすがしい、爽やかな笑みを浮かべて男は言う。
まるで伸びてきた枝葉を少し刈ろうかとでも言うように、さらりと。
人の命をかけた言葉を告げた。
儀礼は、はっきりと嫌だという意思を顔に表して、アーデスを見る。そして――、
「捕まえて。」
先ほど通り過ぎた、すれ違っただけの馬車の行った道を示して、儀礼はにっこりと笑って答えた。
慰めの言葉を持たない冒険者だからこそ、儀礼は安心する。
心配されたいわけじゃない。
気を引きたいわけでもない。
守って貰いたいと思う年でもない。
本当なら、自分で闘う力が欲しい。
けれど、現実には一人では足りないから。
その力を貸して欲しいと、儀礼は不器用な冒険者の強い力を頼る。
(借りた分は必ず返す。)
それは儀礼の、いやシエンの流儀に近い。
(※拓の場合は倍返しだ。←違う)
借りを返せる場と、儀礼は考える。
AAランクのアーデスが困りそうなこと……、そう考えて儀礼は思い浮かばなかった。
欲しがりそうなもの……、法に触れるので儀礼には手が出せない。
好きそうなもの……以前、儀礼が訪ねても気付かないほどにアーデス達は、お酒を飲んで眠っていた。
「……お酒でいいの?」
「何がです?」
儀礼が問えば、さっそく仕事に取り掛かろうとしていた聡明な冒険者は、その問いの意味がわからないと言った様子で、困ったように眉をしかめたのだった。
その時、一台の黒塗りの馬車とすれ違った。
高級そうな出で立ちの馬車は、遠ざかる目にも貴族の物であるとわかる。
儀礼の手は素早く白衣の懐に滑り込み、銀色の銃を握ると、その馬車の車内へと狙いを定めた。
その手を、掴んだ者がいた。
「なぜあの男が犯罪者だと?」
動き出した儀礼の手を鋭い眼光と、強い力でアーデスは止めた。
確かに儀礼は、余程の理由がなければ戦闘態勢で銃を抜いたりはしない。
しかし、だからと言って、儀礼の攻撃理由を『犯罪者だから』と一度で言い当てるアーデスの洞察力はやはり普通ではない、と儀礼は感じる。
「人間コレクターはわかるよ。僕のことをコレクションに加えたいなって目で見るから。」
すれ違った馬車に乗っていた男の『儀礼を見た視線』を思い出し、儀礼は胸の内から出る嘲笑の言葉を伝える。
心の中で唱える儀礼の声は、そういう人間を確かに嘲り笑っているのに、ナゼだろう、その口から出る本物の声が、勝手に震えているのは。
『人間コレクター』。
集める人間は、生きたままだったり、死体だったり。どちらにしろ、まともな神経ではない。
そして、それをする者はほぼ全て、犯罪者だ。
笑えているはずの儀礼の顔には、流すつもりのない涙までもが浮いていた。
「これは何でもない。」
笑えなかった自分に不満そうに口元を歪め、儀礼は焦ったように涙を拭う。
情けない自分に嫌気がさす。
そしてまたすぐに、儀礼は得意の、人を惹き付ける綺麗な笑みを浮かべた。
見えなくなった馬車に、儀礼は元通りに銃をしまった。
隣りに立つ、金髪の冒険者は黙ってその儀礼の動作を見ていた。
同情なんてするような人間ではない。
世界に名の知れたその冒険者は、儀礼よりもひどい境遇の人間を大勢見てきて、おそらくは、本人も辛い幼少時代を過ごしているはずだった。
しかし、儀礼は知っている。
この男が次に何と言うのかを――。
「切りましょうか?」
すがすがしい、爽やかな笑みを浮かべて男は言う。
まるで伸びてきた枝葉を少し刈ろうかとでも言うように、さらりと。
人の命をかけた言葉を告げた。
儀礼は、はっきりと嫌だという意思を顔に表して、アーデスを見る。そして――、
「捕まえて。」
先ほど通り過ぎた、すれ違っただけの馬車の行った道を示して、儀礼はにっこりと笑って答えた。
慰めの言葉を持たない冒険者だからこそ、儀礼は安心する。
心配されたいわけじゃない。
気を引きたいわけでもない。
守って貰いたいと思う年でもない。
本当なら、自分で闘う力が欲しい。
けれど、現実には一人では足りないから。
その力を貸して欲しいと、儀礼は不器用な冒険者の強い力を頼る。
(借りた分は必ず返す。)
それは儀礼の、いやシエンの流儀に近い。
(※拓の場合は倍返しだ。←違う)
借りを返せる場と、儀礼は考える。
AAランクのアーデスが困りそうなこと……、そう考えて儀礼は思い浮かばなかった。
欲しがりそうなもの……、法に触れるので儀礼には手が出せない。
好きそうなもの……以前、儀礼が訪ねても気付かないほどにアーデス達は、お酒を飲んで眠っていた。
「……お酒でいいの?」
「何がです?」
儀礼が問えば、さっそく仕事に取り掛かろうとしていた聡明な冒険者は、その問いの意味がわからないと言った様子で、困ったように眉をしかめたのだった。
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