ギレイの旅 番外編
礼儀正しくない理由?
―― 幼い玉城拓の日常に起きた事 ――
ある日のこと。
「我が君なるお方の貴きご尊顔拝謁賜り、光栄至極に存じます。」
高く、耳に通る綺麗な声が、拓の耳に届いた。
その意味は――
『我が主の、貴いお顔を見ることができ、この上なく光栄に思います。』
領主となれば、いずれ拓も王の前に出て使うこともあるだろう言葉。
そして、領主となった拓が、言われることもあろう挨拶の言葉。
それを唱えたらしい小さな子供は、きょとんとした顔で拓を見ている。
金髪の、天使のような顔をした少年。
いずれ、拓の部下となり、シエン領を治める手伝いをする可能性の高い団居家の長男。
「――って、どういう意味?」
首をかしげて、儀礼は困ったように拓を見上げた。
その手元には、紙もぼろくなった、古ぼけた分厚い本。
その日、拓の中に今までにない、苛立ちが生まれる。
***
また、別のある日。
「その誉れ高き王なる血筋にお仕えできることに、我が身は感激に震えるほどの喜悦に満ちております。」
高く、透き通るような声が、拓の耳に届けられる。
『誉れ高い王家の血を引く者にお仕えできることに、私の体は震えるほど感激し、大変な喜びに満ちています。』
そう言った幼い少年はやはり、真っ直ぐに拓の方を見ている。
シエン王家の末裔、玉城拓という人間を。
「――って、どういう意味?」
やはり、首をかしげて儀礼は、澄んだ瞳で拓に問いかけた。
拓なら、答えられると信じて疑っていない様子。
その手にはぼろぼろの紙の束。
「……なんで俺に聞くんだよ。団居先生に聞けばいいだろ。」
苛立ちに、頬を引きつらせて問いかければ、儀礼は涙を浮かべて半歩下がる。
「だって、教えてくれないんだもん。お前にはまだ早いって。」
潤んだ瞳が拓を見つめる。青くも黒くもない瞳。
「なら、他の大人に聞けよっ!」
「……領主様は忙しいし。ちょっと、怖い。」
拓が少し乱暴に返せば、人の父親を怖いなどと言う。
「本当は、ウサギに聞きたいんだけど、意味が分からないから、ウサギの言葉にも直せなくて……。」
うるうるとその瞳から涙が零れ始める。
なぜ、ウサギと話そうなどと思う子供が、古くて難しい言葉の言い回しを暗唱で言えるのか。
拓には、からかわれているとしか思えなかった。
「他の人じゃ、きっと知らないし。拓ちゃんなら分かるでしょ。」
涙を袖で拭いながら、当然のことの様に儀礼は言う。
答えられてしまう拓も拓なのだが、そのせいでまた、儀礼は拓を頼りに来る。
同じような質問を抱えて。
その日から、拓の中で苛立ちは膨れ上がる。
****************
「団居先生! 儀礼の奴全然、礼儀正しくない!」
幼い少年の心は、さらに幼い少年により、歪まされてゆく。
ある日のこと。
「我が君なるお方の貴きご尊顔拝謁賜り、光栄至極に存じます。」
高く、耳に通る綺麗な声が、拓の耳に届いた。
その意味は――
『我が主の、貴いお顔を見ることができ、この上なく光栄に思います。』
領主となれば、いずれ拓も王の前に出て使うこともあるだろう言葉。
そして、領主となった拓が、言われることもあろう挨拶の言葉。
それを唱えたらしい小さな子供は、きょとんとした顔で拓を見ている。
金髪の、天使のような顔をした少年。
いずれ、拓の部下となり、シエン領を治める手伝いをする可能性の高い団居家の長男。
「――って、どういう意味?」
首をかしげて、儀礼は困ったように拓を見上げた。
その手元には、紙もぼろくなった、古ぼけた分厚い本。
その日、拓の中に今までにない、苛立ちが生まれる。
***
また、別のある日。
「その誉れ高き王なる血筋にお仕えできることに、我が身は感激に震えるほどの喜悦に満ちております。」
高く、透き通るような声が、拓の耳に届けられる。
『誉れ高い王家の血を引く者にお仕えできることに、私の体は震えるほど感激し、大変な喜びに満ちています。』
そう言った幼い少年はやはり、真っ直ぐに拓の方を見ている。
シエン王家の末裔、玉城拓という人間を。
「――って、どういう意味?」
やはり、首をかしげて儀礼は、澄んだ瞳で拓に問いかけた。
拓なら、答えられると信じて疑っていない様子。
その手にはぼろぼろの紙の束。
「……なんで俺に聞くんだよ。団居先生に聞けばいいだろ。」
苛立ちに、頬を引きつらせて問いかければ、儀礼は涙を浮かべて半歩下がる。
「だって、教えてくれないんだもん。お前にはまだ早いって。」
潤んだ瞳が拓を見つめる。青くも黒くもない瞳。
「なら、他の大人に聞けよっ!」
「……領主様は忙しいし。ちょっと、怖い。」
拓が少し乱暴に返せば、人の父親を怖いなどと言う。
「本当は、ウサギに聞きたいんだけど、意味が分からないから、ウサギの言葉にも直せなくて……。」
うるうるとその瞳から涙が零れ始める。
なぜ、ウサギと話そうなどと思う子供が、古くて難しい言葉の言い回しを暗唱で言えるのか。
拓には、からかわれているとしか思えなかった。
「他の人じゃ、きっと知らないし。拓ちゃんなら分かるでしょ。」
涙を袖で拭いながら、当然のことの様に儀礼は言う。
答えられてしまう拓も拓なのだが、そのせいでまた、儀礼は拓を頼りに来る。
同じような質問を抱えて。
その日から、拓の中で苛立ちは膨れ上がる。
****************
「団居先生! 儀礼の奴全然、礼儀正しくない!」
幼い少年の心は、さらに幼い少年により、歪まされてゆく。
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