ギレイの旅 番外編
ドラゴンとの戦闘の没シーン
*****ヤンの戦闘没案********
凶悪なドラゴンと仲間の戦う姿を見ながら、ヤンはフロアキュールでの出来事を思い返した。
「もう手を入れてあるんだ」
そう言って笑った儀礼に、ヤンが解析装置を見直せば、部屋全体とも言えるその装置に薄っすらと魔力が行き渡っているのがわかった。
それはいわゆる魔法具と呼ばれる物の状態。
あれほど大きな装置を一人で魔法具に改造しようと思ったら、普通数ヶ月を要する。
そしてそれには機械を作る技術と、魔力を込める技術の両方が必要になるもの。
それが何故、ついさっきその部屋に初めて入った儀礼の手元で、魔法具へと変わっていたのか。
部屋全体を覆うほどの魔力。それを使ったはずの儀礼の体から魔力が消えた様子はない。
装置の上でゆらゆらと足をゆらす少年に、満ち足りた魔力が巡っているのがヤンにはわかった。装置と一体になる程の大量の魔力。
窓もない室内なのに、草原にいる錯覚を覚えるほどの爽やかな空気と太陽の光のような暖かい魔力。
それが、まぶしい物のように思えて、ヤンは目を細める。
その瞳に映る壁中の装置が、儀礼の背中から出る魔力の翼のようだった。
その光景にしばし見惚れいていたヤンは、はっと気付く。これほど目立つ魔力が取り巻く者はそうはいない。
きっと、探せる人にはすぐに見つけ出せてしまえる。
こんなに、目立つのだ。転移陣の魔力の流れに乗って移動したなら……。
魔力を感知する者には、大空を飛ぶ鯨の様に、異形なものとして、儀礼の持つ魔力の鮮やかさに気付くことだろう。
この少年を一人で、魔力の道に行かせてはならない。ヤンの中に焦燥が走る。
そして、その危険性を告げたヤンに、儀礼はにっこりと微笑んだ。
「心配してくれるんだ。ヤンさんは優しいよね。ありがとう」
優しいと、ヤンがそう言われることは少なかった。役立たずだとか、抜けているといつもそう言われてきた。
さらに儀礼は言った。
「ごめんね、僕は頼りなくて」
ヤンは、儀礼と言う少年を頼りないと思ったことなどなかった。
ヤンが護衛についたSランクの少年は、Dランクの冒険者とは思えない、しっかりとした強さを持っていた。
ヤンの頭に置かれた手から、儀礼の魔力が直接流れ込んできた。
魔法の知識のない儀礼には無意識の行動だったのだろうと、ヤンは思う。
しかしそこから、確かに儀礼の意思が伝わってきた。
『頼りないままではいない』
そう願う、強い意思が。己の身を解析装置と言う危険に晒してでも、強さを手に入れようとする少年の強かさ。
頼りないままではいけない。ヤンはその時、今までの自分が恥ずかしくなった。
ヤンは自分にできないものは仕方がないと思っていた。
移転魔法は自分だけ落ちる。
人物の顔を覚えることができない。
けれど、自分が移動せずに人を送り込むことができるのだと、さっきわかった。
フロアキュールの医務室から溢れ出た大勢の人を、ヤンは医療の進んだ国へ移転させた。
次々と各地から来る冒険者をキュールへと送り、転送されてきた怪我人の治療をする。
周囲の魔法使いが魔力を切らしていく中、ヤンはまだ自分の魔力に余裕があることを知っていた。
余裕どころかヤンは自分の魔力を半分も使い切ってはいなかった。
ヤンはようやく自分の魔力の高さに気付くことができた。
ヤンの冒険者ランクはAだ。
攻撃魔法がBランク相当しかないにもかかわらず、アーデスのパーティとして、ギルドの仕事を請け負い、いつしかAランクの冒険者となっていた。
強い攻撃魔法の使えないヤンは、自分は戦闘の役には立たないと思っていた。Aランクの冒険者に見合う実力などないと。
だから、いつも後方で邪魔にならないように小さくなって、できるだけ皆を守れるように障壁を張り、結界を張り、治療をして、それで役に立てない自分を嘆いていた。
『頼りないままではいないから』
恐ろしい程に、密度の高い魔力の塊であるドラゴンを前に、今また、儀礼のその強い意志の魔力がヤンの中で膨れ上がっていた。
これは、人心操作の魔法の一種。でもそれは、今のヤンにとっては励ましだった。
「ヤン、もっと下がってていいぞ」
全ての人の目標とも言うべき強さを持った人物、『双璧』のアーデス。側に立つその男がヤンに言った。
いつも、そのはるか後方にヤンは立っていた。
そこはアーデスという存在には遠すぎて、傷ついた時に助けを求めてすらもらえない位置だった。
「私も、頼りないままでは嫌なんです!」
ヤンは木製の杖を掲げる。その中に己の持つ魔力を組み込んでいく。
細かい、絹の糸を編むように繊細な精度を持って、詠唱と共にヤンは杖の中にその魔法陣を描いていく。
極限まで集約された魔力。解けることのない正確さで組まれた小さな陣がヤンの杖の前に浮かび上がる。
炎や氷を使った攻撃はヤンにはできない。ならば、有り余る魔力自体を高密度に圧縮する。
魔法だけが術ではないと、Sランクを持つ少年が実行して示した。
杖の前に光り輝く拳大の小さな魔法陣。そこに込められた魔力は上位魔法使い数人分の魔力に匹敵する。
真剣な瞳でドラゴンを見据え、ヤンは口を開く。狙うはドラゴンの心臓、魔力を魔物の形に組み上げている『核』と呼ばれる部分。
「我が魔力よ動脈の導と成れ」
唱えた言葉は、ヤンの知るどの魔法とも違う。
陣が一層鮮やかに黄緑色の光を放ち、一直線に灰色の巨大なドラゴンへと向かう。
集約された魔力の道。これはもうヤンの魔法だった。
ヤンが放ったビームの様な物は、ドラゴンの体を高密度の魔力で貫いて、穴を開けた。
苦しそうに呻くドラゴン。穴の開いた腹からは大量の黒い血が流れ出ている。
今の一撃は障壁の厚いドラゴンの核をも傷付け、致命的なダメージを与えていた。
ドラゴン(地上最強の魔物)の魔力に力業で人類が打ち勝つと言う、偉業。
それを見届け、ふっと倒れそうになったヤンをアーデスが慌てて受け止める。
「大丈夫か、ヤン。無理をするな」
目の前の光景に驚いた様子でアーデスが言う。
「すみません、アーデス様っ。私、大量の血はダメなんです」
口元を押さえ、ヤンは目に涙を浮かべる。
「……お前はもう、ずっと後ろにいろ」
頭を抱えてアーデスが言った。
凶悪なドラゴンと仲間の戦う姿を見ながら、ヤンはフロアキュールでの出来事を思い返した。
「もう手を入れてあるんだ」
そう言って笑った儀礼に、ヤンが解析装置を見直せば、部屋全体とも言えるその装置に薄っすらと魔力が行き渡っているのがわかった。
それはいわゆる魔法具と呼ばれる物の状態。
あれほど大きな装置を一人で魔法具に改造しようと思ったら、普通数ヶ月を要する。
そしてそれには機械を作る技術と、魔力を込める技術の両方が必要になるもの。
それが何故、ついさっきその部屋に初めて入った儀礼の手元で、魔法具へと変わっていたのか。
部屋全体を覆うほどの魔力。それを使ったはずの儀礼の体から魔力が消えた様子はない。
装置の上でゆらゆらと足をゆらす少年に、満ち足りた魔力が巡っているのがヤンにはわかった。装置と一体になる程の大量の魔力。
窓もない室内なのに、草原にいる錯覚を覚えるほどの爽やかな空気と太陽の光のような暖かい魔力。
それが、まぶしい物のように思えて、ヤンは目を細める。
その瞳に映る壁中の装置が、儀礼の背中から出る魔力の翼のようだった。
その光景にしばし見惚れいていたヤンは、はっと気付く。これほど目立つ魔力が取り巻く者はそうはいない。
きっと、探せる人にはすぐに見つけ出せてしまえる。
こんなに、目立つのだ。転移陣の魔力の流れに乗って移動したなら……。
魔力を感知する者には、大空を飛ぶ鯨の様に、異形なものとして、儀礼の持つ魔力の鮮やかさに気付くことだろう。
この少年を一人で、魔力の道に行かせてはならない。ヤンの中に焦燥が走る。
そして、その危険性を告げたヤンに、儀礼はにっこりと微笑んだ。
「心配してくれるんだ。ヤンさんは優しいよね。ありがとう」
優しいと、ヤンがそう言われることは少なかった。役立たずだとか、抜けているといつもそう言われてきた。
さらに儀礼は言った。
「ごめんね、僕は頼りなくて」
ヤンは、儀礼と言う少年を頼りないと思ったことなどなかった。
ヤンが護衛についたSランクの少年は、Dランクの冒険者とは思えない、しっかりとした強さを持っていた。
ヤンの頭に置かれた手から、儀礼の魔力が直接流れ込んできた。
魔法の知識のない儀礼には無意識の行動だったのだろうと、ヤンは思う。
しかしそこから、確かに儀礼の意思が伝わってきた。
『頼りないままではいない』
そう願う、強い意思が。己の身を解析装置と言う危険に晒してでも、強さを手に入れようとする少年の強かさ。
頼りないままではいけない。ヤンはその時、今までの自分が恥ずかしくなった。
ヤンは自分にできないものは仕方がないと思っていた。
移転魔法は自分だけ落ちる。
人物の顔を覚えることができない。
けれど、自分が移動せずに人を送り込むことができるのだと、さっきわかった。
フロアキュールの医務室から溢れ出た大勢の人を、ヤンは医療の進んだ国へ移転させた。
次々と各地から来る冒険者をキュールへと送り、転送されてきた怪我人の治療をする。
周囲の魔法使いが魔力を切らしていく中、ヤンはまだ自分の魔力に余裕があることを知っていた。
余裕どころかヤンは自分の魔力を半分も使い切ってはいなかった。
ヤンはようやく自分の魔力の高さに気付くことができた。
ヤンの冒険者ランクはAだ。
攻撃魔法がBランク相当しかないにもかかわらず、アーデスのパーティとして、ギルドの仕事を請け負い、いつしかAランクの冒険者となっていた。
強い攻撃魔法の使えないヤンは、自分は戦闘の役には立たないと思っていた。Aランクの冒険者に見合う実力などないと。
だから、いつも後方で邪魔にならないように小さくなって、できるだけ皆を守れるように障壁を張り、結界を張り、治療をして、それで役に立てない自分を嘆いていた。
『頼りないままではいないから』
恐ろしい程に、密度の高い魔力の塊であるドラゴンを前に、今また、儀礼のその強い意志の魔力がヤンの中で膨れ上がっていた。
これは、人心操作の魔法の一種。でもそれは、今のヤンにとっては励ましだった。
「ヤン、もっと下がってていいぞ」
全ての人の目標とも言うべき強さを持った人物、『双璧』のアーデス。側に立つその男がヤンに言った。
いつも、そのはるか後方にヤンは立っていた。
そこはアーデスという存在には遠すぎて、傷ついた時に助けを求めてすらもらえない位置だった。
「私も、頼りないままでは嫌なんです!」
ヤンは木製の杖を掲げる。その中に己の持つ魔力を組み込んでいく。
細かい、絹の糸を編むように繊細な精度を持って、詠唱と共にヤンは杖の中にその魔法陣を描いていく。
極限まで集約された魔力。解けることのない正確さで組まれた小さな陣がヤンの杖の前に浮かび上がる。
炎や氷を使った攻撃はヤンにはできない。ならば、有り余る魔力自体を高密度に圧縮する。
魔法だけが術ではないと、Sランクを持つ少年が実行して示した。
杖の前に光り輝く拳大の小さな魔法陣。そこに込められた魔力は上位魔法使い数人分の魔力に匹敵する。
真剣な瞳でドラゴンを見据え、ヤンは口を開く。狙うはドラゴンの心臓、魔力を魔物の形に組み上げている『核』と呼ばれる部分。
「我が魔力よ動脈の導と成れ」
唱えた言葉は、ヤンの知るどの魔法とも違う。
陣が一層鮮やかに黄緑色の光を放ち、一直線に灰色の巨大なドラゴンへと向かう。
集約された魔力の道。これはもうヤンの魔法だった。
ヤンが放ったビームの様な物は、ドラゴンの体を高密度の魔力で貫いて、穴を開けた。
苦しそうに呻くドラゴン。穴の開いた腹からは大量の黒い血が流れ出ている。
今の一撃は障壁の厚いドラゴンの核をも傷付け、致命的なダメージを与えていた。
ドラゴン(地上最強の魔物)の魔力に力業で人類が打ち勝つと言う、偉業。
それを見届け、ふっと倒れそうになったヤンをアーデスが慌てて受け止める。
「大丈夫か、ヤン。無理をするな」
目の前の光景に驚いた様子でアーデスが言う。
「すみません、アーデス様っ。私、大量の血はダメなんです」
口元を押さえ、ヤンは目に涙を浮かべる。
「……お前はもう、ずっと後ろにいろ」
頭を抱えてアーデスが言った。
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