ギレイの旅 番外編

千夜ニイ

通路に置かれた怪しげなボタン2

 長い通路の途中に突然ボタンが一つ、ありました。
まるで押してくださいと言わんばかりに。
さて、どうしますか?




§9.儀礼とクリームの場合。


 ボタンの前に立つ儀礼とクリーム。
「トラップの可能性があるな、ちょっと待って」
そう言って、瞬時に解体を始める儀礼。それをじっと見ているクリーム。
流れるような作業の途中でピタリと儀礼の手が止まった。ゆっくりとクリームを振り返る。
「……もしかして、覚えた?」
「同じのならな」
冷や汗をたらす儀礼に、クリームは短く答える。
クリームの特技、トレース。模写。模倣。まったく同じことをする。
飲み込みの速い仲間に儀礼は苦笑する。
しかし、その後の儀礼の思考の転換も速い。


 作業の続きを手早く終わらせ、立ち上がると、儀礼は周囲を見回す。
「他にもないか探してみよう」
きらきらと瞳を輝かせ、儀礼は歩き出す。
「いや、先進もうぜ」
クリームは儀礼の服を掴み、引きずるように先へ進む。
その少年に付き合えば、ろくな目にあわないと、クリームはもう知っていた。


(この二人、イメージが似てるんです。クリームはトレースして、儀礼は先を読む。そのうち、言葉での会話が減りそうだ)






§10.儀礼とワルツの場合。


 ボタンの目の前に立ち、儀礼が手を出す前にワルツはそれを押した。


「何で押すんですか!?」
発動した武器トラップに儀礼は身構える。
大量の槍や矢が壁と言わず天井と言わず、あちこちから突き出し、飛んでくる。
袖の中でワイヤーを延ばし、全てを絡め取れるよう準備をする。
儀礼達の身に届くまで、2秒もないその間に。
だが、儀礼の活躍の場はなかった。


 ワルツは愛用のハンマーを振るう。竜巻のような激しい風圧と共に全ての武器が破壊されていた。
壁と言わず、天井と言わず、その通路ごと。壊れた天井から見事な晴天が覗いていた。
トラップによる被害に悩まない者が居るのだと、儀礼は初めて知った。
破壊されたのが重要な遺跡だったなら――儀礼は何をおいても、ワルツがボタンを押すのを阻止しなければと心に誓った。

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