ギレイの旅 番外編

千夜ニイ

ワイバーンの瞳が見たい

「ほ~ら、見てみろギレイ。これがワイバーンの瞳だぞ~。ドルエドじゃぁ滅多に手に入らないよな~」
緑色の直径4cm程の宝石を手の平に乗せ、ワルツは儀礼の目の前を泳がせる。
ワイバーンの瞳はワイバーンを倒した時に稀に手に入る宝石で、拾ったその時からカッティングされたような綺麗な多角形をしている。
宝石の色は、倒したワイバーンの瞳の色と同じ。この宝石がワイバーンの瞳と呼ばれる所以だ。
そして、大量の魔力を秘めたこの宝石は古代の遺跡などで不思議な力を発する。


「うわぁ。わぁ」
儀礼の頭がその宝石の動きに合わせて右に左に大きく振られる。


「見せて欲しかったらワルツって呼んでみな~」
楽しそうにワルツはその宝石を儀礼の手の届かない頭の上へと持ち上げる。
「ああぅ。ワルツさん」
ワルツの肩に片方の手をかけ精一杯反対の腕を伸ばすが、背伸びをしても儀礼はその宝石に手が届いていない。
「ワルツ、さんじゃねぇ。ワルツだ。ワ・ル・ツ」
ワルツはワイバーンの瞳を空中で反対の手に投げ移す。
それを追って儀礼の茶色い瞳も移動する。
「うう。ワルツぅ。それ、見せてくださいっ」
ぴょんぴょんと儀礼は飛び跳ね始める。


 右に左にふらふらと宝石に釣られる儀礼の体。
手はじゃれ付くようにワイバーンの瞳に伸びている。
「こっちは、~~の遺跡の入り口の鍵。こっちの赤いのは~~と~~の遺跡でパネルの操作ができるんだぞぉ」
ワルツは青い宝石と赤い宝石をそれぞれの手の平に乗せる。
「うわ、すごい。パネルの操作!? どうやるんです!?」
儀礼の瞳は興味深く見開かれる。
「ふっふっふ、それはだなぁ……」
ワルツが笑いながらも、丁寧に説明すれば、ふむふむと瞳を輝かせて儀礼は頷く。
その口はしばらく開きっぱなしだ。
「ほら見てみろ、ギレイ。こっちは~~の遺跡のトラップを全解除できるんだぜ。こっちはほとんどの遺跡でマップの上に魔法トラップの位置を表示させる瞳だ」
ワルツはまた違う色の宝石を手の平に乗せる。
「うわぁ、すごい。見せて見せて」


 右に左に、儀礼は身長が足りず、ワルツにいいように遊ばれている。
安価なものでも500万はするワイバーンの瞳。
大量に持っているワルツも異常だが、


「最近の猫じゃらしは高価になったな」
静かに眺めていたアーデスがにやにやと笑う。


「いや、これお前が先にマップでやったから」
それがあまりに楽しそうだったので、ついワルツも調子に乗ったのだ。


「俺のマップは非買品だからな」
腕を組んでアーデスは言う。売っていないので値段の話にはならない。
まず、危険な物過ぎて、扱いたがる情報屋もそういないだろう。


「今、売れば1億にはなるよね」
そんな宝物を手に入れた儀礼は得意そうに言った。
「ほう、売れる当てでもあるのか?」
「……ないです」
青い顔で視線を逸らす儀礼の言葉に信憑性はなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品