シンリーは龍族の子に呪われた
龍国との別れ
「うーむ、惜しいな。実に惜しい。これだけの元気な人間族、なかなかに見られない逸材だ。
いいか、人間。婚姻の証は龍族と同等になれるんだぞ。解くともう龍国に入れないんだぞ? 龍族と対等だぞ」
今度はセーレンの父親が幼な子に言い聞かせるように繰り返す。
「龍の国になんて願いも望みもない!」
はあ、はあ、と息を荒げる。声の限りに叫んで私はようやく人心地がついた。
あまりに静かになった空間に周囲の状況を確認する。
目と口を開いたまま、驚いたという顔で私を見つめる龍族たち。
(しまった。龍国を敵に回したら人間国のピンチだ)
ようやく冷静になって人族の滅びの危機に考え至る。内心でおろおろとし始めた私をよそに、龍族の父親は愉快とばかりに笑い声を上げた。
「ハハ。これは面白い。人族とは助けを乞うものばかりと思っていた。そこまで嫌だと言うなら解いてやろう。セーレン、嫌われたものだなあ」
さも可笑しそうに男は笑い続ける。
「うう、そうですか。仕方ありませんね」
空間父親とは反対に、セーレンの母親は悲し気に目元の涙を拭いている。
「こんなに若いのに証を剥奪されるなんて、可哀想に」
うるると涙を流しながら、母親はセーレンの頭をなでた。
「せっかく見つけたのに……」
セーレンは両目に涙を溜め、口をへの字に曲げる。
「なんだこの、私が悪者みたいな空気は。やめろ、私は私の命を返せと言ってるだけだ」
「うむ、大丈夫じゃ。もう解けたぞ」
セーレンの父親に言われ、身体を見回してみるが特に変わった様子もない。
命を繋げられた時も何もなかったからこんなものかもしれない。
試しに、と私はセーレンの手を取った。
龍族の鱗に覆われているが、なんの変哲も無い綺麗な手だ。
私に手を握られ、期待に満ちた目でセーレンが見上げてくる。
私はナイフを取り出して、期待とともにセーレンの指先の鱗を切り裂いた。
薄っすらと傷が付いて、セーレンの指先には、じんわりと血が滲む。
しかし、私の指は痛くない。怪我もない。
「よし。それじゃエリカさん、私を人間国まで送ってくれ」
重要な確認を終えた私は、セーレンの護衛であり、この中では一番常識を知っていそうな彼女に声をかけた。
翼のない私が山頂にある龍国から自力で帰るのは大変だ。
幾らかの金貨の入った袋をエリカに渡し、私は帰りの足を手にいれた。
「あー、俺の嫁がー」
背後から恨めしげな声が聞こえたが、空耳の類と考えて私は龍国を後にする。
振り返りもしない。
グレーライオンに襲われる幼い龍族の少年の顔が一瞬脳裏を掠めたが、目を閉じてやり過ごす。そこは私には、なんの関係もない国なのだから。
いいか、人間。婚姻の証は龍族と同等になれるんだぞ。解くともう龍国に入れないんだぞ? 龍族と対等だぞ」
今度はセーレンの父親が幼な子に言い聞かせるように繰り返す。
「龍の国になんて願いも望みもない!」
はあ、はあ、と息を荒げる。声の限りに叫んで私はようやく人心地がついた。
あまりに静かになった空間に周囲の状況を確認する。
目と口を開いたまま、驚いたという顔で私を見つめる龍族たち。
(しまった。龍国を敵に回したら人間国のピンチだ)
ようやく冷静になって人族の滅びの危機に考え至る。内心でおろおろとし始めた私をよそに、龍族の父親は愉快とばかりに笑い声を上げた。
「ハハ。これは面白い。人族とは助けを乞うものばかりと思っていた。そこまで嫌だと言うなら解いてやろう。セーレン、嫌われたものだなあ」
さも可笑しそうに男は笑い続ける。
「うう、そうですか。仕方ありませんね」
空間父親とは反対に、セーレンの母親は悲し気に目元の涙を拭いている。
「こんなに若いのに証を剥奪されるなんて、可哀想に」
うるると涙を流しながら、母親はセーレンの頭をなでた。
「せっかく見つけたのに……」
セーレンは両目に涙を溜め、口をへの字に曲げる。
「なんだこの、私が悪者みたいな空気は。やめろ、私は私の命を返せと言ってるだけだ」
「うむ、大丈夫じゃ。もう解けたぞ」
セーレンの父親に言われ、身体を見回してみるが特に変わった様子もない。
命を繋げられた時も何もなかったからこんなものかもしれない。
試しに、と私はセーレンの手を取った。
龍族の鱗に覆われているが、なんの変哲も無い綺麗な手だ。
私に手を握られ、期待に満ちた目でセーレンが見上げてくる。
私はナイフを取り出して、期待とともにセーレンの指先の鱗を切り裂いた。
薄っすらと傷が付いて、セーレンの指先には、じんわりと血が滲む。
しかし、私の指は痛くない。怪我もない。
「よし。それじゃエリカさん、私を人間国まで送ってくれ」
重要な確認を終えた私は、セーレンの護衛であり、この中では一番常識を知っていそうな彼女に声をかけた。
翼のない私が山頂にある龍国から自力で帰るのは大変だ。
幾らかの金貨の入った袋をエリカに渡し、私は帰りの足を手にいれた。
「あー、俺の嫁がー」
背後から恨めしげな声が聞こえたが、空耳の類と考えて私は龍国を後にする。
振り返りもしない。
グレーライオンに襲われる幼い龍族の少年の顔が一瞬脳裏を掠めたが、目を閉じてやり過ごす。そこは私には、なんの関係もない国なのだから。
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