シンリーは龍族の子に呪われた

千夜ニイ

龍族

  人間国と魔族国の他に、世界にはもう一つ国がある。
 龍族の住む龍国だ。
 龍族は人によく似た姿をしているが、頭部には角が二本あり、肌は硬いうろこに覆われている。
 耳は尖り、白目部分のない黒く丸い瞳をしていた。
 皮膜のある翼を持ち、長命で、人族も魔族も持ち得ない不思議な力を有している。

  軽い傷を瞬時に治したり、火種を大きく燃やしたり、突風を竜巻へと変えてしまうような力だ。
 この龍族を味方に付けられれば、人族の未来は変わる。

 だが龍族は自然を愛し、弱肉強食を好む種族。
 人族を食料と定めた魔族を是としても、歴史上で環境破壊を繰り返し、魔族と戦うために多用する兵器で、秒単位で世界を蝕んでいく人族に手を貸そうとはしない。
 我関せずという傍観の構えだった。

  人族にも魔族にも肩入れしない。
 好きな時に好きな場所で、好きなものを狩り食べる。
 世界に君臨する訳でもなく、その強大な力を自然の流れのまま、世界と共存していた。

 外見だけは人型をしているが、龍族は世界最強の種族である。
 その力は子供でもグレーライオンを瞬殺する。
 そう、龍族の子供は素手で魔物を倒せるのである。

「おい人間、俺を助けろ!」

 先ほどからずっと、私の周りで一頭のグレーライオンから逃げ回っている少年。
 歳は十歳に届かないくらい。
 両の耳は尖り、頭には龍族特有の二本の角がある。
 皮膜を張った翼は少年が走るたびにパタパタと揺れている。

「その程度の魔物、倒せないならそこで死ぬのがお前の運命だ。残念だったな」

 私の記憶の中の同じ年頃の男の子は、死ぬのを覚悟でその獣に向かっていった。

『おー、さんきゅ。のど渇いてたんだ』
 目の前のお盆からお茶の入ったコップが消える。
『それあたしの〜』
『なんであんたが飲むのよ!』
 蜂の巣を突いた様に少女たちが騒ぎ立てる。
『やーい、のろまー』
 その騒ぎを物ともせず、笑いながら走っていく男の子の背中が思い浮かぶ。

  緑色のあの丘の草原を。
 少女たちがシートを広げ、少年たちが駆け回る。

 私は雲の上を見上げた。
 青空の下、そこではまだあの光景が広がっている気がした。

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