シンリーは龍族の子に呪われた
儚き英雄
「はっ、はぁ、はぁ。あっ」
必死に走る私は、小さなくぼみに足を取られて大きくバランスを崩した。
勢いの付いた体はなだらかな丘をごろごろと転がり落ちる。
体が止まった時にはすっかり目が回っていて、立ち上がろうとしても、どっちが上でどっちが地面だかもわからなかった。
『ガルゥ』
私のすぐ側で獣の唸り声がした。
全身に電気が通ったような痛みが走り、心臓が尋常でない鼓動を刻むんだ。その瞬間、方向感覚が戻った。
仰向けで倒れていた所を、反射神経の速度で跳ね起きて、間一髪私は足を失わずに済んだ。
けれど、獣と向き合った今、どうすればいいのか。
背を向ければ爪が襲い、立ち向かえば牙が襲い、私の体が引き裂かれる運命しか思い浮かばない。
体中を冷や汗が流れていく。
逃げるしかない事は分かっていても、その逃げ出す隙も場所もない。のんびりしている時間もない。
『ギャン』
突如、太い木の枝が私を襲おうとしていた獣の横っ面を叩いた。
『走れ!』
獣の顔面をフルスイングで殴ったのは、さっき私達をからかっていった男の子の一人、ティーダだった。
殴った衝撃で折れた木の枝を放り出し、ティーダは私の手を取って走り出す。
獣は顔をブルブルと振るとすぐに一声唸って追いかけてきた。
全力での攻撃とはいえ、十歳に満たない子供の力などたかが知れている。
頑丈で大型の肉食獣になど、大したダメージにはならない。
走りながらティーダはポケットから折り畳みのナイフを取り出し、私とつないでいた手を放した。
後ろから狙いを定めた獣が私達に襲い掛かってくるその時、ティーダは身をひるがえした。
飛びかかる大きな獣と小さなティーダの体がぶつかる。
『ガウゥ、ガルゥ』
後方から低い唸り声が何度も聞こえ、夢中で走りながらも、私は後ろを振り返った。
見えたのは、両手で獣の鼻面にナイフを突き立てているティーダと、そのナイフを引き抜こうと首を振る灰色の獣だった。
子供の手の平ほどの小さなナイフで、大きな獣に致命傷を与えられるはずがない。
『逃げろ!』
そう叫ぶティーダの腕は獣の爪で大きく切り裂かれ、大量の血と共に白い骨までがさらけ出されていた。
『イヤーーァ!』
何もかもが思考から飛び去り、私は叫びを上げ、ティーダの下へと走り寄ろうとした。
『来るな!』
ティーダは再び叫ぶ。
その間にも獣はティーダの腕を噛み砕き、ティーダは苦悶の声をあげる。
『逃げろ、シンリー。俺の行動、無駄にすんな』
脂汗まみれの顔で、唸るように言ってティーダはもう一度、残った片手だけでナイフを振りかざした。
『うっああ~~~~!』
必死に走る私は、小さなくぼみに足を取られて大きくバランスを崩した。
勢いの付いた体はなだらかな丘をごろごろと転がり落ちる。
体が止まった時にはすっかり目が回っていて、立ち上がろうとしても、どっちが上でどっちが地面だかもわからなかった。
『ガルゥ』
私のすぐ側で獣の唸り声がした。
全身に電気が通ったような痛みが走り、心臓が尋常でない鼓動を刻むんだ。その瞬間、方向感覚が戻った。
仰向けで倒れていた所を、反射神経の速度で跳ね起きて、間一髪私は足を失わずに済んだ。
けれど、獣と向き合った今、どうすればいいのか。
背を向ければ爪が襲い、立ち向かえば牙が襲い、私の体が引き裂かれる運命しか思い浮かばない。
体中を冷や汗が流れていく。
逃げるしかない事は分かっていても、その逃げ出す隙も場所もない。のんびりしている時間もない。
『ギャン』
突如、太い木の枝が私を襲おうとしていた獣の横っ面を叩いた。
『走れ!』
獣の顔面をフルスイングで殴ったのは、さっき私達をからかっていった男の子の一人、ティーダだった。
殴った衝撃で折れた木の枝を放り出し、ティーダは私の手を取って走り出す。
獣は顔をブルブルと振るとすぐに一声唸って追いかけてきた。
全力での攻撃とはいえ、十歳に満たない子供の力などたかが知れている。
頑丈で大型の肉食獣になど、大したダメージにはならない。
走りながらティーダはポケットから折り畳みのナイフを取り出し、私とつないでいた手を放した。
後ろから狙いを定めた獣が私達に襲い掛かってくるその時、ティーダは身をひるがえした。
飛びかかる大きな獣と小さなティーダの体がぶつかる。
『ガウゥ、ガルゥ』
後方から低い唸り声が何度も聞こえ、夢中で走りながらも、私は後ろを振り返った。
見えたのは、両手で獣の鼻面にナイフを突き立てているティーダと、そのナイフを引き抜こうと首を振る灰色の獣だった。
子供の手の平ほどの小さなナイフで、大きな獣に致命傷を与えられるはずがない。
『逃げろ!』
そう叫ぶティーダの腕は獣の爪で大きく切り裂かれ、大量の血と共に白い骨までがさらけ出されていた。
『イヤーーァ!』
何もかもが思考から飛び去り、私は叫びを上げ、ティーダの下へと走り寄ろうとした。
『来るな!』
ティーダは再び叫ぶ。
その間にも獣はティーダの腕を噛み砕き、ティーダは苦悶の声をあげる。
『逃げろ、シンリー。俺の行動、無駄にすんな』
脂汗まみれの顔で、唸るように言ってティーダはもう一度、残った片手だけでナイフを振りかざした。
『うっああ~~~~!』
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