ギレイの旅
アルバドリスクの残党戦
儀礼、獅子、白の三人は車に乗ってアルバドリスクへと入った。
その瞬間に、今までとは空気が変わったことが三人共に分かった。
夏の暑さの中に涼しい風が流れ、カラッとした日差しが肌の汗を乾かしていく。木陰を提供する林からは甘い果実の香りが漂ってくる。
精霊に守護されるアルバドリスクの豊かさを確かに三人は感じ取っていた。
そこかしこで精霊達が集まり、ヒソヒソと噂をしてははしゃぐ。風も土も、火も水も、闇も光も関係なく、手を触れ合っては喜んで飛び回る。
《私たちの子が帰ってきた》
《ーーの子が帰ってきた》
精霊達は嬉しそうに笑って、三人の乗る車の周りを飛び回る。
白の守護精霊シャーロットも、久しぶりに会うアルバドリスクの仲間達に気分を高揚させて笑みを浮かべていた。
「ギレイ君、シシ、精霊がいっぱいいるよ! みんな喜んくれてる。歓迎するって」
窓から顔を出して白が大きな声で言う。自分の国に帰れた事が余程嬉しいのか、笑って落ち着く様子がない。
「よかったね、白」
運転席から後ろの白をちらりと見て、儀礼もまた嬉しそうに微笑む。
精霊達が白を歓迎しているなら、きっとこれからも白のことを守ってくれるだろう、そう安堵して。
《おかえり》
《おかえり〜》
《おかえりシャーロットの子》
沢山の精霊達が近寄ってきては挨拶をしてまた離れて行く。
《帰ってきた》
《ーーの子が帰ってきた!》
《ーーが帰ってくる!》
だんだんと、精霊達の数が増えて興奮し出し、ついには白にも、彼らが何を言っているのか聞き取れなくなってきた。
ただ、とても喜んでいるのがわかる。
喜ぶだけでは足りない、歓喜、祝福、感謝、幸福、そんな感情が白の下へと届けられる。
《ああ、そうだったの!》
白の守護精霊シャーロットまでもが驚いたように目を見開いて、そして幸せそうに微笑む。
《帰ってきたのね》
笑いながら涙を流し、精霊シャーロットは歓喜を噛みしめているようだった。
精霊達の心情に取り残され、白は困ったように首を傾げる。
そんな時、獅子が低い声で儀礼に呼びかけ、儀礼は車の速度を落とした。
「どうしたの、シシ、ギレイ君?」
「待ち伏せされてるね、結構な数だ。まあ、ドルエドからアルバドリスクへと入るルートは限られてるから、来るのはわかってたんだけど」
儀礼が車を止めると、獅子と白は武器を持って降り立つ。血走った目をした反乱軍の兵士達が各々武器を構えて車の前へと躍り出てくる。あと少し進んでいれば車は取り囲まれていただろう。
「起死回生の一手に白を利用しようとしてる連中だよ。残党ってやつだね、全員捕まえちゃって」
クスリと笑って、儀礼は頼もしい味方に任せる。
獅子は瞬時に走り出し、その速度に対応しそびれた数人を通り過ぎざまに薙ぎ倒す。鞘から抜かれた剣は光を放ち、周囲の敵へと線を走らせる。隙もなく、油断もなく、冷酷さもない。
次々と人を倒しては気絶させ、獅子は敵の戦力を削いでいく。
一斉にと襲いかかってきた者達には剣の力を使い、あたかも巨人の振るう巨大な剣ででもあるかの様に広範囲で攻撃を受け止め、そのまま薙ぎ払う。
吹き飛ばされた相手が起き上がる前に、獅子はさらに剣を突き出す。巻き起こった剣圧が周囲の地面をえぐり、襲撃者達を埋めていく。
光の剣の刃は獅子の思うようにその力の範囲を広げてくれた。獅子の戦闘の跡地は天災の通り過ぎたかのような有様だった。
怯んだ襲撃者達はターゲットを絞った。元々の狙いである、アルバドリスクの王女、白に。
だが獅子の守りに隙はない。獅子の後ろに一歩をも踏み込むことが出来ず、襲撃者達はことごとく倒されていく。
一人が剣を振り上げた時には、既に獅子が懐に入り込んでおり、その胸に剣の柄を打ち込む。その男が崩れ落ちる前には、次の魔法使いが放とうとしていた魔法を剣の力で斬り払い、顎へと蹴りを入れて気絶させる。
返す剣で背後から襲いかかる剣を弾き飛ばし、相手の体を蹴り飛ばして周囲の敵へとぶつける。その先を確認する間もなく、白を狙う弓兵を見つければ剣から闘気の刃を飛ばして矢と弦を切り裂く。
白は気負って車から降りたものの、獅子の活躍にポカンと戦況を眺めているだけだった。
それでも油断などはしていない。白の背後、車の中にいるのは非戦闘員の儀礼だ。
ボヒュン。
突如、何かが白の横を通り過ぎた。いや、通り過ぎたのかどうかも本当は分からない。だが、白の背後で金属同士が衝突した音がして、事実、儀礼の車には小石ほどの穴が空いていた。
うわっ、と儀礼が叫び声を上げ車から飛び降りる。
「愛華!」
トーラの障壁を展開して愛華と白を囲い、儀礼は愛華のフロントの穴を覗き込む。
「良かった、外装だけだ。これなら動けるね。ごめん、愛華。傷つけて」
車の傷をそっと撫で、それから儀礼は真剣な瞳を襲撃者達の方へと向けた。
ガチュン。
儀礼の眼前でピンクの障壁が揺れ、円錐形の金属の塊が地面へと落ちる。
車に空いた穴の位置と、今聞こえたその音で、儀礼は狙撃方向を推定する。肉眼では確認できず、朝月の能力を頼る。
右前方、林の木の上。枝葉に隠れ、何かを構えている者がいる。
(千メートルも離れたこの距離を狙撃? ばかな、ありえない)
もしもそれができるなら。
儀礼は自分の予想に恐ろしくなり、青い顔で対抗手段を探す。
「獅子、一度戻って。厄介な武器を相手が持ってる」
「厄介な武器?」
「長距離武器だ。一キロ先から狙撃されてる」
「なんだ、それ。そんな武器があるのか?」
お前が作ったとか、と疑惑の目で儀礼を見る獅子に儀礼は首を横に振る。
「違うよ、僕は作ってない。銃を作れる者ならいつか思い付く物なんだ。でも長距離を飛ばす推進力と長い銃身が必要で、作り上げるのは簡単じゃない。まさか、狙撃銃を完成させた者がいるなんて」
「どうする」
「狙撃手を先に叩きたい。あの林の木の上にいる奴が武器で撃ってきてる。弾に当たれば獅子でも重傷だ。だけど連射はできない。慎重に行けるか?」
儀礼の言葉に獅子は笑う。
「当たり前だ、楽勝」
親指を立てて獅子はすぐに林へ向けて走り出した。
「白は近くにいる奴らを頼む。フィオ、風祇、白の援護をお願い」
《おう》
《わかった》
小さな火花と旋風が返答する。
白は剣を正面に構えると、周囲の敵をキッと見据えた。
「シャーロット、国を守護する水の精霊、力を貸して。お父様やお兄様を苦しめた相手だ、思い切りいくよ!」
《ええ、任せて》
走り出す白の周囲に水の渦が巻き起こる。白の振るう剣の後を激流が押し通る。大河のような膨大な量の水に取り込まれ、重い武具を身に付けた兵士達は体の自由を失い沈んでゆく。
水没する兵士達の足元から空気の泡が湧き出した。ボコボコと音を立て、その数は増していく。そしてついに地面は隆起し大量の泡を吐き出して、小さな火口が現れた。
ドロドロとした赤いマグマは水に触れると瞬時に黒く変色し固い溶岩へと変貌する。兵士達の足を固定し水中に巨大な岩盤が出来上がった。
兵士達の抵抗がなくなった事を確認し、白は水を引き揚げさせた。
「どうしよう、仲間が自然災害起こす」
周囲一面に広がった光景に、儀礼は困ったように苦笑した。
その頃、獅子は高い木の上にいる狙撃手へと迫っていた。
二度、目視出来ぬ速さの弾丸が獅子へと飛んで来たが、光の剣が作り出す防御壁はそれを難なく弾いた。
走り寄る獅子と言う脅威に、狙撃手の男は焦り、狙いを定めず弾を連射する。
「死ね!」
正面で捉えても、獅子が全ての銃弾を剣でいなしたのを見て、チッと舌打つと男は木から飛び降り逃げようとする。しかしそれを逃す獅子ではない。男が地面へと着地する前に獅子は光の剣を振るい、見えない刃が男の両脚をえぐった。
ぐうっと呻き声を上げ地面に突っ伏した男を気絶させると、獅子は男の落とした武器と男を掴み上げ、儀礼達の下へと戻った。
そうして全ての襲撃者の捕縛が完了すると、儀礼は通信機を起動し、王都にいるロッドへと呼びかけた。
やがて儀礼を中心にして周囲に移転の魔法陣がいくつも浮かび上がる。
現れたのはアルバドリスクの騎士達が大勢、それからクリームを始めとするDesertの数人と、アーデス達いつものメンバー。
予想外の人数の多さに、儀礼は表情をひきつらせた。
「『蜃気楼』様、此度のお力添え、誠にありがたいことにございました」
「向こうが荒くれ者を集めてるって聞いたからね、王都の反乱側に、うちの荒くれ者に紛れ込んでもらっただけだよ」
長い白髪と白髭の騎士、ロッドに感謝を告げられ、儀礼は軽く受け流す。こう言うパターンには大分慣れてきた。気を抜けばなぜか大事に進化していくのだ。
武器を取り上げた襲撃者達はアルバドリスクの騎士達に引き渡す。これで、国に背いた反逆者として彼らは裁かれることになるだろう。
「ロッド、エンゲル、無事でよかった」
白が嬉しそうに二人に駆け寄ると、互いに無事を確認し合う。白の家族も皆無事でいると聞いて、白はにこやかに笑った。
その光景を儀礼は微笑ましい気分で眺めていた。
その間も騎士が襲撃者を連行していく。中にはもちろん、獅子の捉えた長距離武器の狙撃手もいる。気絶から覚めたようで両手を縛られて歩かされているが、その瞳はまだギラギラと血走っていた。
ふと、儀礼は狙撃に使われた武器が気になった。あれが世界に広まるのは避けたい。
武器や鎧は集められ、荷車に積んで運ぶらしく、儀礼はその荷車へと向かった。
無造作に積まれた武器の中から儀礼は目的の物を探す。長い銃身を持つ特徴的な武器だ、すぐに見つかると思ったのだが、ない。
唯一、それらしい物は発見したがそれはただの長い筒だった。
「撃鉄も弾倉も、持ち手すらない。筒の中にも螺旋の溝はないし、これでどうやってあの弾を撃ったんだ?」
一キロもの距離を進んだ弾丸、その推進力はどこから生み出されたのか。
儀礼は首を傾げる。
火薬も電気もガスもなく、回転を与える溝もない。あるのは射撃の精密さを上げるための長い筒のみ。
「それしか必要無かったら?」
ポツリと出た自分の言葉に、儀礼は跳び上がって走り出す。本人にその力があったなら、物に頼る必要なんてない。そう、世界には儀礼の想像の及ばない魔法という力がある。
「白! トーラ、白を守って」
儀礼は遠くで笑っている白を見つけた。襲撃者達に狙われた存在。
(だめだ遠すぎる、トーラの障壁の範囲外だ)
蒼ざめて走る儀礼に、周囲の者は警戒を高めるが、すでに遅かった。その武器は狙撃手の魔法により音速を超えて撃ち出されていた。
《キャアッ!》
白の耳に最初に響いたのはトーラの悲鳴だった。次いで、体に強い衝撃があり、受け身を取る間も無く後ろに倒された。後頭部を打ち付け、一瞬視界が真っ白になるも、直ぐに起き上がろうとして、体の自由が利かない事に焦燥する。
「シャーロット様!」
エンゲルとロッドの叫びに顔を向ければ、血の気の引いた顔をしているのが見える。その先の人集りの中では、一人の男が地面に押し付けられている。
(あれ、頭は動く)
そう思った白は自分の体を何かが上から押し潰している事に気付いた。それが人であり、金髪で白衣を着ているのを認識した瞬間、白は叫んだ。
「ギレイ君!!」
その瞬間に、今までとは空気が変わったことが三人共に分かった。
夏の暑さの中に涼しい風が流れ、カラッとした日差しが肌の汗を乾かしていく。木陰を提供する林からは甘い果実の香りが漂ってくる。
精霊に守護されるアルバドリスクの豊かさを確かに三人は感じ取っていた。
そこかしこで精霊達が集まり、ヒソヒソと噂をしてははしゃぐ。風も土も、火も水も、闇も光も関係なく、手を触れ合っては喜んで飛び回る。
《私たちの子が帰ってきた》
《ーーの子が帰ってきた》
精霊達は嬉しそうに笑って、三人の乗る車の周りを飛び回る。
白の守護精霊シャーロットも、久しぶりに会うアルバドリスクの仲間達に気分を高揚させて笑みを浮かべていた。
「ギレイ君、シシ、精霊がいっぱいいるよ! みんな喜んくれてる。歓迎するって」
窓から顔を出して白が大きな声で言う。自分の国に帰れた事が余程嬉しいのか、笑って落ち着く様子がない。
「よかったね、白」
運転席から後ろの白をちらりと見て、儀礼もまた嬉しそうに微笑む。
精霊達が白を歓迎しているなら、きっとこれからも白のことを守ってくれるだろう、そう安堵して。
《おかえり》
《おかえり〜》
《おかえりシャーロットの子》
沢山の精霊達が近寄ってきては挨拶をしてまた離れて行く。
《帰ってきた》
《ーーの子が帰ってきた!》
《ーーが帰ってくる!》
だんだんと、精霊達の数が増えて興奮し出し、ついには白にも、彼らが何を言っているのか聞き取れなくなってきた。
ただ、とても喜んでいるのがわかる。
喜ぶだけでは足りない、歓喜、祝福、感謝、幸福、そんな感情が白の下へと届けられる。
《ああ、そうだったの!》
白の守護精霊シャーロットまでもが驚いたように目を見開いて、そして幸せそうに微笑む。
《帰ってきたのね》
笑いながら涙を流し、精霊シャーロットは歓喜を噛みしめているようだった。
精霊達の心情に取り残され、白は困ったように首を傾げる。
そんな時、獅子が低い声で儀礼に呼びかけ、儀礼は車の速度を落とした。
「どうしたの、シシ、ギレイ君?」
「待ち伏せされてるね、結構な数だ。まあ、ドルエドからアルバドリスクへと入るルートは限られてるから、来るのはわかってたんだけど」
儀礼が車を止めると、獅子と白は武器を持って降り立つ。血走った目をした反乱軍の兵士達が各々武器を構えて車の前へと躍り出てくる。あと少し進んでいれば車は取り囲まれていただろう。
「起死回生の一手に白を利用しようとしてる連中だよ。残党ってやつだね、全員捕まえちゃって」
クスリと笑って、儀礼は頼もしい味方に任せる。
獅子は瞬時に走り出し、その速度に対応しそびれた数人を通り過ぎざまに薙ぎ倒す。鞘から抜かれた剣は光を放ち、周囲の敵へと線を走らせる。隙もなく、油断もなく、冷酷さもない。
次々と人を倒しては気絶させ、獅子は敵の戦力を削いでいく。
一斉にと襲いかかってきた者達には剣の力を使い、あたかも巨人の振るう巨大な剣ででもあるかの様に広範囲で攻撃を受け止め、そのまま薙ぎ払う。
吹き飛ばされた相手が起き上がる前に、獅子はさらに剣を突き出す。巻き起こった剣圧が周囲の地面をえぐり、襲撃者達を埋めていく。
光の剣の刃は獅子の思うようにその力の範囲を広げてくれた。獅子の戦闘の跡地は天災の通り過ぎたかのような有様だった。
怯んだ襲撃者達はターゲットを絞った。元々の狙いである、アルバドリスクの王女、白に。
だが獅子の守りに隙はない。獅子の後ろに一歩をも踏み込むことが出来ず、襲撃者達はことごとく倒されていく。
一人が剣を振り上げた時には、既に獅子が懐に入り込んでおり、その胸に剣の柄を打ち込む。その男が崩れ落ちる前には、次の魔法使いが放とうとしていた魔法を剣の力で斬り払い、顎へと蹴りを入れて気絶させる。
返す剣で背後から襲いかかる剣を弾き飛ばし、相手の体を蹴り飛ばして周囲の敵へとぶつける。その先を確認する間もなく、白を狙う弓兵を見つければ剣から闘気の刃を飛ばして矢と弦を切り裂く。
白は気負って車から降りたものの、獅子の活躍にポカンと戦況を眺めているだけだった。
それでも油断などはしていない。白の背後、車の中にいるのは非戦闘員の儀礼だ。
ボヒュン。
突如、何かが白の横を通り過ぎた。いや、通り過ぎたのかどうかも本当は分からない。だが、白の背後で金属同士が衝突した音がして、事実、儀礼の車には小石ほどの穴が空いていた。
うわっ、と儀礼が叫び声を上げ車から飛び降りる。
「愛華!」
トーラの障壁を展開して愛華と白を囲い、儀礼は愛華のフロントの穴を覗き込む。
「良かった、外装だけだ。これなら動けるね。ごめん、愛華。傷つけて」
車の傷をそっと撫で、それから儀礼は真剣な瞳を襲撃者達の方へと向けた。
ガチュン。
儀礼の眼前でピンクの障壁が揺れ、円錐形の金属の塊が地面へと落ちる。
車に空いた穴の位置と、今聞こえたその音で、儀礼は狙撃方向を推定する。肉眼では確認できず、朝月の能力を頼る。
右前方、林の木の上。枝葉に隠れ、何かを構えている者がいる。
(千メートルも離れたこの距離を狙撃? ばかな、ありえない)
もしもそれができるなら。
儀礼は自分の予想に恐ろしくなり、青い顔で対抗手段を探す。
「獅子、一度戻って。厄介な武器を相手が持ってる」
「厄介な武器?」
「長距離武器だ。一キロ先から狙撃されてる」
「なんだ、それ。そんな武器があるのか?」
お前が作ったとか、と疑惑の目で儀礼を見る獅子に儀礼は首を横に振る。
「違うよ、僕は作ってない。銃を作れる者ならいつか思い付く物なんだ。でも長距離を飛ばす推進力と長い銃身が必要で、作り上げるのは簡単じゃない。まさか、狙撃銃を完成させた者がいるなんて」
「どうする」
「狙撃手を先に叩きたい。あの林の木の上にいる奴が武器で撃ってきてる。弾に当たれば獅子でも重傷だ。だけど連射はできない。慎重に行けるか?」
儀礼の言葉に獅子は笑う。
「当たり前だ、楽勝」
親指を立てて獅子はすぐに林へ向けて走り出した。
「白は近くにいる奴らを頼む。フィオ、風祇、白の援護をお願い」
《おう》
《わかった》
小さな火花と旋風が返答する。
白は剣を正面に構えると、周囲の敵をキッと見据えた。
「シャーロット、国を守護する水の精霊、力を貸して。お父様やお兄様を苦しめた相手だ、思い切りいくよ!」
《ええ、任せて》
走り出す白の周囲に水の渦が巻き起こる。白の振るう剣の後を激流が押し通る。大河のような膨大な量の水に取り込まれ、重い武具を身に付けた兵士達は体の自由を失い沈んでゆく。
水没する兵士達の足元から空気の泡が湧き出した。ボコボコと音を立て、その数は増していく。そしてついに地面は隆起し大量の泡を吐き出して、小さな火口が現れた。
ドロドロとした赤いマグマは水に触れると瞬時に黒く変色し固い溶岩へと変貌する。兵士達の足を固定し水中に巨大な岩盤が出来上がった。
兵士達の抵抗がなくなった事を確認し、白は水を引き揚げさせた。
「どうしよう、仲間が自然災害起こす」
周囲一面に広がった光景に、儀礼は困ったように苦笑した。
その頃、獅子は高い木の上にいる狙撃手へと迫っていた。
二度、目視出来ぬ速さの弾丸が獅子へと飛んで来たが、光の剣が作り出す防御壁はそれを難なく弾いた。
走り寄る獅子と言う脅威に、狙撃手の男は焦り、狙いを定めず弾を連射する。
「死ね!」
正面で捉えても、獅子が全ての銃弾を剣でいなしたのを見て、チッと舌打つと男は木から飛び降り逃げようとする。しかしそれを逃す獅子ではない。男が地面へと着地する前に獅子は光の剣を振るい、見えない刃が男の両脚をえぐった。
ぐうっと呻き声を上げ地面に突っ伏した男を気絶させると、獅子は男の落とした武器と男を掴み上げ、儀礼達の下へと戻った。
そうして全ての襲撃者の捕縛が完了すると、儀礼は通信機を起動し、王都にいるロッドへと呼びかけた。
やがて儀礼を中心にして周囲に移転の魔法陣がいくつも浮かび上がる。
現れたのはアルバドリスクの騎士達が大勢、それからクリームを始めとするDesertの数人と、アーデス達いつものメンバー。
予想外の人数の多さに、儀礼は表情をひきつらせた。
「『蜃気楼』様、此度のお力添え、誠にありがたいことにございました」
「向こうが荒くれ者を集めてるって聞いたからね、王都の反乱側に、うちの荒くれ者に紛れ込んでもらっただけだよ」
長い白髪と白髭の騎士、ロッドに感謝を告げられ、儀礼は軽く受け流す。こう言うパターンには大分慣れてきた。気を抜けばなぜか大事に進化していくのだ。
武器を取り上げた襲撃者達はアルバドリスクの騎士達に引き渡す。これで、国に背いた反逆者として彼らは裁かれることになるだろう。
「ロッド、エンゲル、無事でよかった」
白が嬉しそうに二人に駆け寄ると、互いに無事を確認し合う。白の家族も皆無事でいると聞いて、白はにこやかに笑った。
その光景を儀礼は微笑ましい気分で眺めていた。
その間も騎士が襲撃者を連行していく。中にはもちろん、獅子の捉えた長距離武器の狙撃手もいる。気絶から覚めたようで両手を縛られて歩かされているが、その瞳はまだギラギラと血走っていた。
ふと、儀礼は狙撃に使われた武器が気になった。あれが世界に広まるのは避けたい。
武器や鎧は集められ、荷車に積んで運ぶらしく、儀礼はその荷車へと向かった。
無造作に積まれた武器の中から儀礼は目的の物を探す。長い銃身を持つ特徴的な武器だ、すぐに見つかると思ったのだが、ない。
唯一、それらしい物は発見したがそれはただの長い筒だった。
「撃鉄も弾倉も、持ち手すらない。筒の中にも螺旋の溝はないし、これでどうやってあの弾を撃ったんだ?」
一キロもの距離を進んだ弾丸、その推進力はどこから生み出されたのか。
儀礼は首を傾げる。
火薬も電気もガスもなく、回転を与える溝もない。あるのは射撃の精密さを上げるための長い筒のみ。
「それしか必要無かったら?」
ポツリと出た自分の言葉に、儀礼は跳び上がって走り出す。本人にその力があったなら、物に頼る必要なんてない。そう、世界には儀礼の想像の及ばない魔法という力がある。
「白! トーラ、白を守って」
儀礼は遠くで笑っている白を見つけた。襲撃者達に狙われた存在。
(だめだ遠すぎる、トーラの障壁の範囲外だ)
蒼ざめて走る儀礼に、周囲の者は警戒を高めるが、すでに遅かった。その武器は狙撃手の魔法により音速を超えて撃ち出されていた。
《キャアッ!》
白の耳に最初に響いたのはトーラの悲鳴だった。次いで、体に強い衝撃があり、受け身を取る間も無く後ろに倒された。後頭部を打ち付け、一瞬視界が真っ白になるも、直ぐに起き上がろうとして、体の自由が利かない事に焦燥する。
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エンゲルとロッドの叫びに顔を向ければ、血の気の引いた顔をしているのが見える。その先の人集りの中では、一人の男が地面に押し付けられている。
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