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ギレイの旅

千夜ニイ

調査開始

 その日は学院の寮の空き部屋を借りて泊まった。
同室者に逃げられてしまったガスカルは儀礼と一緒に、クリームとトウイで一部屋、獅子と白で一部屋。
管理局上部との対立の準備と、ガスカルたちを元に戻すための方法探しと、気持ちが急いて寝る間も惜しい儀礼だが、儀礼が作業を行っている間、ガスカルはずっと起きていた。
自分の身がどうなるか、気になって眠れないでいるようだった。


 疲れているのは目に見えてわかる。
儀礼は焦る気持ちを抑えてガスカルを寝かすことにした。
強制的に睡眠薬で眠らせることもできるが、ガスカルは体よりも、心の方がダメージが大きいように思えた。
友人に怯えられたことがより響いているようだ。


 そんなガスカルに、儀礼は話しかける。
ゆっくりと眠れるように、少しでも不安を取り除いていく。
「必ず、元に戻れるからね。今は危険は何にもないから、安心して、体を休ませないともたないよ。」
頭をなで、ガスカルが横になって眠るまで静かに語りかけていた。


 それは、儀礼が自分自身へと言い聞かせているのと同じ言葉でもあった。
不安は次から次へと湧いてくる。
アーデスたちも眠らずに研究を進めてくれている。
先ほど、アーデスから一つの報告があった。


 カップの魔法陣を発動させて、マウスへ与えたところ、魔法は発動したが、変化の途中で全てが死亡したということだった。
『全てが死亡』
その言葉があまりにも不安を冗長させ恐怖へと成長させる。
解決への道が果てしなく遠いのだということを実感させられた。


「大丈夫、きっと元に戻すから。」
掌に触れるふわふわの狼の毛並みに、儀礼の心の方が癒されているようだった。


 翌朝、学院側への詳しい説明を終えると、儀礼たちは昨日借りた管理局の研究室へと戻った。
学院の中では今回の件の作業は進めにくい。


 クリームとトウイはギルドへ依頼完了の報告に行った。
獅子と白は研究室の中へは入らず、外で見回ると言って管理局の外で別れた。
研究室の中でじっとしているのが退屈なのだろうと、思われる。


 儀礼と一緒にいるのはガスカルとクレイルだった。
クレイルはこの事件の魔法陣のことが気になり、昨日も寝ずに研究を進めていたらしい。
興奮して眠れなかったのかもしれない。


 研究室へ入ると儀礼は複数のパソコンを起動する。
アーデスやアナザーから大量の資料が送られてきていた。
全てに目を通すだけでも時間がかかる。


「レイ、手伝ってもらっていい? コルロさんからすごい量の魔法陣の見本みたいのが送られてきてるんだけど、目を通してもらって、違うパターンの魔法陣を試してもらいたいんだ。」
「もちろん!」
心なしか、充血して赤いクレイルの目がきらきらと輝いているように見える。
「なあ、コルロさんて、あの『連撃』だよな。はあ、本当にドキドキしっぱなしだよ。」


 クレイルは儀礼の起動したパソコンの前に座り、作業を始める。
「おおお! 昨日からの短時間でこんなにたくさんの魔法陣が描けるのか。よしっ、気合い入れて始めるか。」
一言叫んだと思ったら、クレイルは急に無言になり、パソコンへと集中しだした。
数々の魔法陣を目で追っていく。


 そこに、クレイルは自分の描きだした魔法陣も加えて検証を続ける。
全てが成功はしていないが、どこかにヒントがあるはずだ。


「ああ、まどろっこしい!」
パソコンに向かって2時間。クレイルが頭をかきむしって声を上げた。
「なあ、ギレイ。これ、直接会って話せないかな。これとか、これとか、この魔法陣とか、この模様とか、この部分とか直接聞きたいんだけど。メッセージだと説明するのがすごい面倒くさい。」


パソコンの画面に映し出された魔法陣を次々と指さして、クレイルはうったえる。
普段の個人で研究している分のレポートなどなら時間をかけてもここまで焦らないが、今回は人命がかかっている。
外周、内円、中心部、右上部、内円下部の中心部、など一つ一つの説明する手間が非常にもどかしかった。


「ん~と、むこうの資料を少しまとめたら一度こっちに来るって。すぐ来ると思うよ。」
応えながらも儀礼はキーボードを叩く手を止めない。
印刷機からは次々に書類が排出されている。
直接紙に書く動作を挟みつつ、またパソコンへと手を戻す。
視線は忙しなく書類と画面を行き来している。


 クレイルはそれ以上言葉をかけることをためらい、静かに待つことにした。
儀礼の表情はひどく真剣なものだった。
複数のパソコンから鳴り続けるメッセージの着信音が研究室内に響き渡り、危機を告げるアラートのようで、クレイルに鬼気迫るものを感じさせた。

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