ギレイの旅
合流
後のことをアーデス達に任せ、儀礼たちは学院へと戻る。
もと来た道を辿り、人目に付かないよう地下から学院へと入る。
学院から管理局へと幾度と通っていたガスカルは、暗い地下道にも慣れた様子で先頭を歩いていた。
帰れることが嬉しいのか、軽やかに足が進むたび、尻尾がゆらゆらと揺れている。
来た道を戻っていれば、儀礼達を待っていたのか、地下に入ってそれほどしないうちに、クレイルとトウイに合流した。
しかし、先頭にいたのはガスカルで。
「うわっ狼!?」
薄暗い地下通路に突如現れた狼の姿に、驚いて跳び退るクレイル。
そのクレイルを庇うように一歩前へ出て、ナイフを構えるトウイ。
銀色に光る鋭い刃の先を向けられて、慌てたようにガスカルは儀礼の背後へと戻ってきた。
「大丈夫だよ」
儀礼は明るい声で、トウイ達へと話しかける。
「この子はガスカル君です。見付けてきました」
クスクスと楽しそうに儀礼は笑う。
安全だと見せ付けるように、ガスカルの頭を撫でる。
「ガスカルって……どう見ても犬か狼だろう?」
眉を寄せてクレイルは警戒している。
学院の生徒を探しに行って、違う生き物を連れて帰ってくれば誰だって戸惑うだろう。
しかしトウイは、クリームと視線を交わし短く溜息を吐くと、呆れたような、むしろ諦めたような表情でナイフをしまった。
(この人と居れば、何が起こってもおかしくない、んだよな)
その言葉が尊敬や憧れではなく、なぜ溜息とともに出てくるのか。
トウイは思わず、困ったような小さな笑いを浮かべていた。
自分への敵意が無くなり、ほっとしたようにガスカルは座り込んだ。
「管理局で実験に巻き込まれてしまったんです。すぐには元に戻せなくて」
申し訳なさそうに儀礼はガスカルの頭を撫で下ろした。
儀礼のせいではない。けれど、元に戻れるかもしれないと期待する気持ちを抑えきれずに、クーン、とガスカルは小さな声を漏らした。
「まぁとにかく、行方不明者が二人とも見付かったんで先生に報告しようと思って」
気分を変えるように声のトーンを上げ、儀礼はクレイルを見る。
「わかった。俺もやれるだけはやり終えたからな。かまわないぜ」
床に置いていた荷物を背負いクレイルは言う。
「それじゃあ、人目につかないままサンドラー先生の研究室まで行く道はある?」
儀礼はクレイルへと尋ねる。
「ああ。地下のマップは完成したからな。サンドラー先生の所なら、研究室の目の前に出られるぜ」
にっと笑ってクレイルは地図を開く。
「なるほど、この道だね。ずっと地下で行けるんだ。じゃぁ、行こうか」
道案内のクレイルを先頭に、儀礼、ガスカル、獅子、白、クリーム、トウイ。七人の集団で地下の細い道を進んで行った。
その地下の道にはあちこちに魔法陣の描かれた紙が貼られ、透明な膜で補強されていた。
キョロキョロと周囲を見回しながらも、儀礼はクレイルの持つマップへと視線を注ぐ。
「ねぇ、レイ。あとでそのマップ写させてくれない?」
「ああ、いいけど。悪用はするなよ?」
にやりと笑ってクレイルはいたずらな笑みを浮かべる。
「もちろん! お礼はするっ。えーと、どこのマップがいい? ドルエド? フェード? 」
「それよりもさ……今回の、その、そいつが変化した魔法陣。見せてもらえないかな? さすがに無理か」
言いにくそうに、けれど期待を込めた表情でクレイルが言う。
「レイ、この補強の魔法陣使えるようにしたって言ってたよね……。いいよ。少しでも早く人間に戻してあげたいし」
一瞬、考える素振りを見せた儀礼だが、自分に魔法陣を解明する知識がないことは分かっていた。
なので、可能性を持っているクレイルに許可を出す。
真剣な顔で周囲を見回す。
「ここ、探査魔法に引っかからないんだよね。レイは、探査魔法打ち消せる?」
「こいつを知られないように俺の部屋には厳重に結界が張ってある」
ひらりと、補強の魔法陣が描かれている紙を取り出してクレイルは答えた。
「それなら、大丈夫だね。わかった事があったら教えて。今、その魔法陣の解明を最優先で進めてるから」
差し出された魔法陣を受け取るために手を出して、けれどその紙が渡されないことに疑念を感じて、クレイルは視線を儀礼の顔へと向ける。
真っ直ぐと、重たいほどに真剣な瞳で見つめられ、クレイルは思わず息を飲む。
これは――この一枚の紙が、管理局Sランクの『蜃気楼』からの情報の分与であると理解した。
ただの知識欲だった気持ちが緊張をもって引き締められる。
手の先が震える。クレイルはグッと拳を握り腕に力を入れ直した。
(人の命を預かる仕事だ)
クレイルは拳を開くと儀礼へと腕を伸ばした。
(俺がやっていた地下空間の補強も、この学院に住む大勢の人間の命が懸かってた。俺……何が自分でやりたいだよ。世間に発表するだよ)
渡された紙を強く握り締めてクレイルは頷く。
(世界最高峰はこんなにも違う)
「狼化の魔法陣、確かに預かった」
そして、
「ドルエド学院魔法科3年クレイル、魔法陣解明のため微力ながら尽力します!」
地に片膝を着き、真っ直ぐに儀礼を見上げて宣言するクレイル。
「え? う、うん。でも、立ってね」
ぎこちなく返事をし、クレイルを立つように促す。
「あなたのお役に立てるよう務めます!」
クレイルを立たせようとした手を両手で捉まれ、儀礼は困惑する。
突然のクレイルの態度の変容に。
「儀礼崇拝者が増えた」
獅子が呟く。
「しろぉ~、代わって?」
白を振り返って縋るような視線を送る儀礼。
自分が身代わりになると言っていた人物の言葉とは思えない。
「そっか、朝月が――」
「朝月さん何もしてないよ?」
理解したように大きく頷く儀礼に、首を振って答える白。
「いつも通りだろ」
「いつも通りだな。そろそろ慣れろ」
クリームと獅子の言葉に儀礼はがっくりとうなだれた。
もと来た道を辿り、人目に付かないよう地下から学院へと入る。
学院から管理局へと幾度と通っていたガスカルは、暗い地下道にも慣れた様子で先頭を歩いていた。
帰れることが嬉しいのか、軽やかに足が進むたび、尻尾がゆらゆらと揺れている。
来た道を戻っていれば、儀礼達を待っていたのか、地下に入ってそれほどしないうちに、クレイルとトウイに合流した。
しかし、先頭にいたのはガスカルで。
「うわっ狼!?」
薄暗い地下通路に突如現れた狼の姿に、驚いて跳び退るクレイル。
そのクレイルを庇うように一歩前へ出て、ナイフを構えるトウイ。
銀色に光る鋭い刃の先を向けられて、慌てたようにガスカルは儀礼の背後へと戻ってきた。
「大丈夫だよ」
儀礼は明るい声で、トウイ達へと話しかける。
「この子はガスカル君です。見付けてきました」
クスクスと楽しそうに儀礼は笑う。
安全だと見せ付けるように、ガスカルの頭を撫でる。
「ガスカルって……どう見ても犬か狼だろう?」
眉を寄せてクレイルは警戒している。
学院の生徒を探しに行って、違う生き物を連れて帰ってくれば誰だって戸惑うだろう。
しかしトウイは、クリームと視線を交わし短く溜息を吐くと、呆れたような、むしろ諦めたような表情でナイフをしまった。
(この人と居れば、何が起こってもおかしくない、んだよな)
その言葉が尊敬や憧れではなく、なぜ溜息とともに出てくるのか。
トウイは思わず、困ったような小さな笑いを浮かべていた。
自分への敵意が無くなり、ほっとしたようにガスカルは座り込んだ。
「管理局で実験に巻き込まれてしまったんです。すぐには元に戻せなくて」
申し訳なさそうに儀礼はガスカルの頭を撫で下ろした。
儀礼のせいではない。けれど、元に戻れるかもしれないと期待する気持ちを抑えきれずに、クーン、とガスカルは小さな声を漏らした。
「まぁとにかく、行方不明者が二人とも見付かったんで先生に報告しようと思って」
気分を変えるように声のトーンを上げ、儀礼はクレイルを見る。
「わかった。俺もやれるだけはやり終えたからな。かまわないぜ」
床に置いていた荷物を背負いクレイルは言う。
「それじゃあ、人目につかないままサンドラー先生の研究室まで行く道はある?」
儀礼はクレイルへと尋ねる。
「ああ。地下のマップは完成したからな。サンドラー先生の所なら、研究室の目の前に出られるぜ」
にっと笑ってクレイルは地図を開く。
「なるほど、この道だね。ずっと地下で行けるんだ。じゃぁ、行こうか」
道案内のクレイルを先頭に、儀礼、ガスカル、獅子、白、クリーム、トウイ。七人の集団で地下の細い道を進んで行った。
その地下の道にはあちこちに魔法陣の描かれた紙が貼られ、透明な膜で補強されていた。
キョロキョロと周囲を見回しながらも、儀礼はクレイルの持つマップへと視線を注ぐ。
「ねぇ、レイ。あとでそのマップ写させてくれない?」
「ああ、いいけど。悪用はするなよ?」
にやりと笑ってクレイルはいたずらな笑みを浮かべる。
「もちろん! お礼はするっ。えーと、どこのマップがいい? ドルエド? フェード? 」
「それよりもさ……今回の、その、そいつが変化した魔法陣。見せてもらえないかな? さすがに無理か」
言いにくそうに、けれど期待を込めた表情でクレイルが言う。
「レイ、この補強の魔法陣使えるようにしたって言ってたよね……。いいよ。少しでも早く人間に戻してあげたいし」
一瞬、考える素振りを見せた儀礼だが、自分に魔法陣を解明する知識がないことは分かっていた。
なので、可能性を持っているクレイルに許可を出す。
真剣な顔で周囲を見回す。
「ここ、探査魔法に引っかからないんだよね。レイは、探査魔法打ち消せる?」
「こいつを知られないように俺の部屋には厳重に結界が張ってある」
ひらりと、補強の魔法陣が描かれている紙を取り出してクレイルは答えた。
「それなら、大丈夫だね。わかった事があったら教えて。今、その魔法陣の解明を最優先で進めてるから」
差し出された魔法陣を受け取るために手を出して、けれどその紙が渡されないことに疑念を感じて、クレイルは視線を儀礼の顔へと向ける。
真っ直ぐと、重たいほどに真剣な瞳で見つめられ、クレイルは思わず息を飲む。
これは――この一枚の紙が、管理局Sランクの『蜃気楼』からの情報の分与であると理解した。
ただの知識欲だった気持ちが緊張をもって引き締められる。
手の先が震える。クレイルはグッと拳を握り腕に力を入れ直した。
(人の命を預かる仕事だ)
クレイルは拳を開くと儀礼へと腕を伸ばした。
(俺がやっていた地下空間の補強も、この学院に住む大勢の人間の命が懸かってた。俺……何が自分でやりたいだよ。世間に発表するだよ)
渡された紙を強く握り締めてクレイルは頷く。
(世界最高峰はこんなにも違う)
「狼化の魔法陣、確かに預かった」
そして、
「ドルエド学院魔法科3年クレイル、魔法陣解明のため微力ながら尽力します!」
地に片膝を着き、真っ直ぐに儀礼を見上げて宣言するクレイル。
「え? う、うん。でも、立ってね」
ぎこちなく返事をし、クレイルを立つように促す。
「あなたのお役に立てるよう務めます!」
クレイルを立たせようとした手を両手で捉まれ、儀礼は困惑する。
突然のクレイルの態度の変容に。
「儀礼崇拝者が増えた」
獅子が呟く。
「しろぉ~、代わって?」
白を振り返って縋るような視線を送る儀礼。
自分が身代わりになると言っていた人物の言葉とは思えない。
「そっか、朝月が――」
「朝月さん何もしてないよ?」
理解したように大きく頷く儀礼に、首を振って答える白。
「いつも通りだろ」
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