ギレイの旅
変化の方法
「一部屋でも残されてたのは幸いだな。まずは、このカップとポット辺りから調べるか。」
「でも、ちゃんと洗ったそうですよ。」
儀礼が言う。
「そんなこと、どうやって確認を取ったんだ?」
片方の眉を歪めてアーデスが儀礼に問う。
儀礼はすぐに26枚のカードをガスカルの前に並べた。
『はい。ちゃんと洗いました。』
パソコンに文字を打ち込む要領で、ガスカルは確かに言葉を発した。
しかし、その姿は良く仕込まれた犬の芸のようだ。
「金が取れるな。」
「アーデス。ふざけてる場合じゃないってば。」
大金を稼ぐ冒険者のくせに、見世物をやって得る小金などどうするつもりだろうか。
くだらないことを言うアーデスを背に、儀礼は分析器の用意を始める。
「水や洗剤で落ちない種類の魔法薬もある。まずはその可能性から探ろう。」
真面目な顔に戻ってアーデスが仕事に移る。
そこからは早かった。
ポットやカップやペンを分析器にかけ、薬品が検出されないことを確認、次に、ペンや大量の紙等も確認する。
「持ってきたものは全部反応なしか。」
大きく息を吐き、アーデスは呟く。
しかし、疲れた様子はない。作業はまだ、始まったばかりだ。
「俺は部屋の方に魔法の痕跡がないか探ってくる。ギレイ、お前は、気体を流し込まれた可能性もあるから、その狼たちの血液を少し採って調べてみてくれ。」
「いい? ガスカル君。」
「ウォウ。」
ガスカルはすぐに肯定を示す。
今までは、暇そうに部屋の隅でうつぶせていた。
その姿は本当に、飼い犬か何かのようだ。
白が時折撫で回しているが、ガスカルはおとなしくされるがままになっている。
むしろ、気持ち良さそうに目を細めたりしているので、喜んでいるのかもしれない。
「ギレイ君が狼飼ってたって聞いたときはびっくりしたけど、こうしてみると、何だか本当に可愛いね。」
嬉しそうに白が話す。
「シロは犬。それに、もうちょっと元気だったかなぁ……。」
「得物捕らえる狼は、『元気』じゃねぇ。強暴だ。」
儀礼の言葉を獅子が否定する。
「それは、元気になった証拠だから。」
にっこりと嬉しそうに儀礼は笑った。
そうして、おとなしくしているガスカルから血液を採り、他の眠っている2頭からも血液を採った。
それを分析器にかける。
しばらくして、アーデスが戻ってきた。
部屋にあった魔力の痕跡では、人を変化させるようなものはなかったらしい。
変化させる以外のものはまだ残っているようだ。
やはり、管理局の安い研究室は怖い。
「これで何か分かるといいが。」
「何も出ない可能性もあるんですか?」
分析器を前に真剣に悩むアーデスに、不思議そうに儀礼が尋ねる。
「薬効が、変身時にしか現れないような薬品もある。何も残っていなければ、そういうものだと思わなければならない。」
「そうなんだ。ブローザさんのデータからはどうですか? 何かヒントになりそうなものはあります?」
パソコンのデータを眺めながら儀礼はもう一度アーデスに問う。
「本人にも、薬品の原理が掴めていないようだな。薬品の完成が偶然の類によるものだと思う。これでは、逆作用の薬を作るのも難しい。」
「逆作用? 解毒剤みたいのを作るんじゃないんですか?」
不思議そうに儀礼が首を傾げた。
「そういう可能性もあるが、まず普通は、どういう原理で変化が起こり、その過程の逆を辿っていくのが正規のやり方だな。」
「ふ~ん。狼に変身する薬ができるなら、人間に変身する薬もできそうなものなのにね。」
「そこいらの動物が人間に化けても困るだろう。ましてや、魔獣が人化したらどうする。」
「それ、悪魔ですね。」
くすくすと儀礼は笑う。
「「「作るなよ?」」」
アーデス、獅子、ゼラードの声が重なった。
「なにそれ。僕が悪魔なんて物騒なもの創ると思ってるの?」
三人もの人間に否定されて、儀礼は拗ねたように白の元へと近付く。
「しないよねぇ。」
「う、うん。さすがに。」
それができてしまったら、儀礼は人外の存在となってしまう。
なのに、できてしまいそうで、白は完全な否定ができない気がしていた。
「ウォウ。」
ガスカルだけが、真摯な瞳で、儀礼の言葉に肯定の返事をしていた。
自分を人間に戻してくれると、信じている少年の信頼の声だった。
「だめだ。やはり血液の中にも薬物の反応がない。普通に人間のものだな。こう見ると、本当に人間なんだな。」
感心したように検査の結果を見てアーデスが頷く。
「だから、人間なんですって。骨とかも人間の物ですよ。」
「……『見た』んですか?」
「朝月に探してもらってる時に。大丈夫、離れてたから安全。」
にっこりと儀礼は笑う。
「可哀想に。話に聞けば、まだ学院に通う少年だと言うのに。」
よしよし、と、哀れむようにアーデスはガスカルを撫でる。
「さっきから、何気に僕に失礼なこと言ってません? 人を何だと思ってるんだ。」
ぶつぶつと儀礼は小さな声で呟く。
「「「「Sランク。」」」」
(人外。)
(危険人物。)
(超人。)
(すごい人。)
4人の声が揃っていた。
「……くそぅ。そうだけどさ。」
悔しそうにして、儀礼はカップに入れた水を飲もうとした。
その瞬間、カップの中で水が白く輝く。
カップの奥底に白い魔法陣が現れていた。
「アーデス、これっ!」
それはもちろん、ガスカルの借りた部屋から持ってきたカップ。
そしておそらくはガスカルが使っていたと思われる、机の上に置いてあったカップだ。
「不用意にそんな物を使うな! しかし、お手柄だ。」
アーデスがにやりと笑う。
儀礼の危機に反応して、遺跡の魔法トラップを解除する時のように、朝月がその魔法陣を出現させたようだった。
白い光がすぐに小さくなり収まってゆく。
しかし、その魔法陣の形を儀礼もアーデスもはっきりと覚えていた。
「これは、上薬の下に魔法薬で魔法陣を描いてあったのか。手の込んだことだ。」
これで、ブローザがやった研究の犯罪の証拠は現れた。
証拠があれば、罪は認めさせられる。
管理局の暗黙の了解は破られたのだ。
後は、ガスカルたちを元に戻す方法を探ること。
ブローザ達にもできていないそれを、一刻も早く、完成させなければならない。
「でも、ちゃんと洗ったそうですよ。」
儀礼が言う。
「そんなこと、どうやって確認を取ったんだ?」
片方の眉を歪めてアーデスが儀礼に問う。
儀礼はすぐに26枚のカードをガスカルの前に並べた。
『はい。ちゃんと洗いました。』
パソコンに文字を打ち込む要領で、ガスカルは確かに言葉を発した。
しかし、その姿は良く仕込まれた犬の芸のようだ。
「金が取れるな。」
「アーデス。ふざけてる場合じゃないってば。」
大金を稼ぐ冒険者のくせに、見世物をやって得る小金などどうするつもりだろうか。
くだらないことを言うアーデスを背に、儀礼は分析器の用意を始める。
「水や洗剤で落ちない種類の魔法薬もある。まずはその可能性から探ろう。」
真面目な顔に戻ってアーデスが仕事に移る。
そこからは早かった。
ポットやカップやペンを分析器にかけ、薬品が検出されないことを確認、次に、ペンや大量の紙等も確認する。
「持ってきたものは全部反応なしか。」
大きく息を吐き、アーデスは呟く。
しかし、疲れた様子はない。作業はまだ、始まったばかりだ。
「俺は部屋の方に魔法の痕跡がないか探ってくる。ギレイ、お前は、気体を流し込まれた可能性もあるから、その狼たちの血液を少し採って調べてみてくれ。」
「いい? ガスカル君。」
「ウォウ。」
ガスカルはすぐに肯定を示す。
今までは、暇そうに部屋の隅でうつぶせていた。
その姿は本当に、飼い犬か何かのようだ。
白が時折撫で回しているが、ガスカルはおとなしくされるがままになっている。
むしろ、気持ち良さそうに目を細めたりしているので、喜んでいるのかもしれない。
「ギレイ君が狼飼ってたって聞いたときはびっくりしたけど、こうしてみると、何だか本当に可愛いね。」
嬉しそうに白が話す。
「シロは犬。それに、もうちょっと元気だったかなぁ……。」
「得物捕らえる狼は、『元気』じゃねぇ。強暴だ。」
儀礼の言葉を獅子が否定する。
「それは、元気になった証拠だから。」
にっこりと嬉しそうに儀礼は笑った。
そうして、おとなしくしているガスカルから血液を採り、他の眠っている2頭からも血液を採った。
それを分析器にかける。
しばらくして、アーデスが戻ってきた。
部屋にあった魔力の痕跡では、人を変化させるようなものはなかったらしい。
変化させる以外のものはまだ残っているようだ。
やはり、管理局の安い研究室は怖い。
「これで何か分かるといいが。」
「何も出ない可能性もあるんですか?」
分析器を前に真剣に悩むアーデスに、不思議そうに儀礼が尋ねる。
「薬効が、変身時にしか現れないような薬品もある。何も残っていなければ、そういうものだと思わなければならない。」
「そうなんだ。ブローザさんのデータからはどうですか? 何かヒントになりそうなものはあります?」
パソコンのデータを眺めながら儀礼はもう一度アーデスに問う。
「本人にも、薬品の原理が掴めていないようだな。薬品の完成が偶然の類によるものだと思う。これでは、逆作用の薬を作るのも難しい。」
「逆作用? 解毒剤みたいのを作るんじゃないんですか?」
不思議そうに儀礼が首を傾げた。
「そういう可能性もあるが、まず普通は、どういう原理で変化が起こり、その過程の逆を辿っていくのが正規のやり方だな。」
「ふ~ん。狼に変身する薬ができるなら、人間に変身する薬もできそうなものなのにね。」
「そこいらの動物が人間に化けても困るだろう。ましてや、魔獣が人化したらどうする。」
「それ、悪魔ですね。」
くすくすと儀礼は笑う。
「「「作るなよ?」」」
アーデス、獅子、ゼラードの声が重なった。
「なにそれ。僕が悪魔なんて物騒なもの創ると思ってるの?」
三人もの人間に否定されて、儀礼は拗ねたように白の元へと近付く。
「しないよねぇ。」
「う、うん。さすがに。」
それができてしまったら、儀礼は人外の存在となってしまう。
なのに、できてしまいそうで、白は完全な否定ができない気がしていた。
「ウォウ。」
ガスカルだけが、真摯な瞳で、儀礼の言葉に肯定の返事をしていた。
自分を人間に戻してくれると、信じている少年の信頼の声だった。
「だめだ。やはり血液の中にも薬物の反応がない。普通に人間のものだな。こう見ると、本当に人間なんだな。」
感心したように検査の結果を見てアーデスが頷く。
「だから、人間なんですって。骨とかも人間の物ですよ。」
「……『見た』んですか?」
「朝月に探してもらってる時に。大丈夫、離れてたから安全。」
にっこりと儀礼は笑う。
「可哀想に。話に聞けば、まだ学院に通う少年だと言うのに。」
よしよし、と、哀れむようにアーデスはガスカルを撫でる。
「さっきから、何気に僕に失礼なこと言ってません? 人を何だと思ってるんだ。」
ぶつぶつと儀礼は小さな声で呟く。
「「「「Sランク。」」」」
(人外。)
(危険人物。)
(超人。)
(すごい人。)
4人の声が揃っていた。
「……くそぅ。そうだけどさ。」
悔しそうにして、儀礼はカップに入れた水を飲もうとした。
その瞬間、カップの中で水が白く輝く。
カップの奥底に白い魔法陣が現れていた。
「アーデス、これっ!」
それはもちろん、ガスカルの借りた部屋から持ってきたカップ。
そしておそらくはガスカルが使っていたと思われる、机の上に置いてあったカップだ。
「不用意にそんな物を使うな! しかし、お手柄だ。」
アーデスがにやりと笑う。
儀礼の危機に反応して、遺跡の魔法トラップを解除する時のように、朝月がその魔法陣を出現させたようだった。
白い光がすぐに小さくなり収まってゆく。
しかし、その魔法陣の形を儀礼もアーデスもはっきりと覚えていた。
「これは、上薬の下に魔法薬で魔法陣を描いてあったのか。手の込んだことだ。」
これで、ブローザがやった研究の犯罪の証拠は現れた。
証拠があれば、罪は認めさせられる。
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