ギレイの旅
魔法薬の知識人
「まずは、どうやって人間を狼に変えてしまったのか、その方法を調べないといけないよね。」
持ってきたお盆の上からポットやカップを机の上に並べて、儀礼は難しい顔で考え込む。
「カップもポットも洗って使ったって言うし、ペンや紙にも一見、おかしなところは見当たらないし。ここはやっぱり、魔法薬に詳しい人を呼ぶのが正解かな。」
口元に当てていた拳を振りほどき、パソコンへと向かう儀礼。
「誰だ? 魔法薬に詳しい奴って。」
獅子がパソコンを覗き込む。
だが、そこに表示されるフェードの言葉は、獅子には読めない。
「アーデスさん。」
にやりと笑って儀礼は呟く。
「げっ。あいつかよ。」
胡散臭い笑みを浮かべるアーデスを思い浮かべたのか、獅子が苦い笑いを浮かべる。
「でも、本当に優秀だから。その分野では僕なんか、足元にも及ばないからね。」
「お前は魔法音痴なんだったな。」
くくくっ、とゼラードが小さく笑った。
「失礼な。トーラだって朝月だって使えて、遺跡の魔法トラップだって解除できるようになったんだよ。もう音痴じゃありません。」
パソコンに文字を打ち込みながら、にぃと、儀礼は楽しそうに笑う。
「どっちも精霊の力だろう、それ。」
「精霊使いも、魔法使いの仲間だそうです。」
「お前、精霊使いじゃないだろう。契約してないんだろ?」
ゼラードの言葉に儀礼は唇を結ぶ。
「力貸してくれるんだもん。」
不満そうな声は、小さな子供のようだ。
「ギレイ君は、十分魔法使いだと思う。」
白が助けを出すように声を出した。
「私たちが知ってるより、ずっと不思議なことする魔法使い。魔力は普通の人以上に持ってるし。」
どこか、引っかかるような言い方の白。
表情が微妙に引きつっている気がする。
「常識はずれってことな。」
くくくっ、と今度は可笑しそうにゼラードが笑った。
「白、褒めてる? けなしてる?」
目元に薄っすらと涙を浮かべて儀礼は白を見た。
「わ、私は褒めてる。と思う。」
「思うってなんだよ。」
不満そうに儀礼は唇を尖らせた。
その時、室内に白い光が現れ、アーデスが姿を現した。
「自分の常識はずれを理解しないで、何、他人を責めてるんですか?」
今までの話の流れを聞いていたかのようにアーデスが話に割り込んできた。
いや、実際聞いていたのだろう。
「僕は常識人だよ。ねぇ。」
儀礼は部屋の隅に丸まっていたガスカルに問いかける。
ガスカルは困ったように首を傾げていた。
「なるほど。で、あれが何ですって?」
その狼を見て、アーデスは呆れたように溜息を吐く。
「狼になったガスカル君です。」
にっこりと儀礼は微笑む。
「ただの狼にしか見えないがな。それを一瞬で判断するお前は、やはり異常だ。」
そう、言いながら、アーデスはぐしゃぐしゃと儀礼の頭を撫でた。
髪がぼさぼさに散らばる。
「……管理局の異常性は納得できません。これを許していくなんて……。」
儀礼は俯いていた。
「なのでアーデスさん、上層部に入ってください。」
にっこりと微笑んで、儀礼はアーデスを見上げた。
「そこに入るのはSランクのお前が先だろう。」
「ここはやっぱり年功序列です。アーデスさんのが年上じゃないですか。」
「そんなことを押し付けるために俺を呼んだのか?」
ふざけた笑みを押し隠すと、アーデスは真剣になって儀礼に呼びかけた。
「ふざけてる場合じゃないですね。早く、ガスカル君たちを元に戻してあげないと。」
一度瞳を伏せてから、儀礼は真剣な瞳でガスカルを見る。
「必ず、戻してあげるから。安心して。」
優しい言葉で語りかける儀礼だが、その心中は複雑だった。
アナザーが見つけ出し送ってくれたブローザ・ジェイニの資料の中にはまだ、変身した人間を元に戻す方法が確立されていないと記されていたのだ。
「どれが怪しいと思います? ガスカル君の部屋はそのまま借りられていますが、残りの二人の部屋は、管理局の法則にしたがって、すでに解放されてしまっています。荷物は部屋に置き去りになっていたのを受付で保管しているそうですが、当の本人たちが姿を眩ませていたので、借り主なしとみなされてしまっていました。」
「そこはすでに、片付けられていると思ったほうがいいな。」
儀礼の言葉を聞いて、アーデスは顎に手を当てて考える。
「ですよね。証拠を残しておくとは思えません。」
管理局は、二日間、借り手が姿を現さないと、安全確認のために受付けのものが中を確認する義務を請け負っている。
灰色の狼グレイシルと、大柄な狼タザニアは、二日以上前に狼になっていて、受付へと姿を見せることができなかった。
そして、受付の者が研究室へと入ってくる前に、狼として捕らえられることを恐れて、窓から管理局を抜け出したのだろう。
広い王立公園ならば、見付かる可能性はとても低い。
ただし、食料などを手に入れる手段がないため、今も気絶している2人は弱っているようにも見えた。
儀礼は栄養補給のための点滴を2頭に行う。
ガスカルには食べやすい食料を揃えた。
お腹が空いていたらしいガスカルは、あっという間に食料を平らげた。
学院に戻っていなかったことを考えれば、やはり、ガスカルは2日前に狼になってしまっていたのだろう。
ぎりぎりで、ガスカルの部屋は借りたまま、残されることになったのだ。
持ってきたお盆の上からポットやカップを机の上に並べて、儀礼は難しい顔で考え込む。
「カップもポットも洗って使ったって言うし、ペンや紙にも一見、おかしなところは見当たらないし。ここはやっぱり、魔法薬に詳しい人を呼ぶのが正解かな。」
口元に当てていた拳を振りほどき、パソコンへと向かう儀礼。
「誰だ? 魔法薬に詳しい奴って。」
獅子がパソコンを覗き込む。
だが、そこに表示されるフェードの言葉は、獅子には読めない。
「アーデスさん。」
にやりと笑って儀礼は呟く。
「げっ。あいつかよ。」
胡散臭い笑みを浮かべるアーデスを思い浮かべたのか、獅子が苦い笑いを浮かべる。
「でも、本当に優秀だから。その分野では僕なんか、足元にも及ばないからね。」
「お前は魔法音痴なんだったな。」
くくくっ、とゼラードが小さく笑った。
「失礼な。トーラだって朝月だって使えて、遺跡の魔法トラップだって解除できるようになったんだよ。もう音痴じゃありません。」
パソコンに文字を打ち込みながら、にぃと、儀礼は楽しそうに笑う。
「どっちも精霊の力だろう、それ。」
「精霊使いも、魔法使いの仲間だそうです。」
「お前、精霊使いじゃないだろう。契約してないんだろ?」
ゼラードの言葉に儀礼は唇を結ぶ。
「力貸してくれるんだもん。」
不満そうな声は、小さな子供のようだ。
「ギレイ君は、十分魔法使いだと思う。」
白が助けを出すように声を出した。
「私たちが知ってるより、ずっと不思議なことする魔法使い。魔力は普通の人以上に持ってるし。」
どこか、引っかかるような言い方の白。
表情が微妙に引きつっている気がする。
「常識はずれってことな。」
くくくっ、と今度は可笑しそうにゼラードが笑った。
「白、褒めてる? けなしてる?」
目元に薄っすらと涙を浮かべて儀礼は白を見た。
「わ、私は褒めてる。と思う。」
「思うってなんだよ。」
不満そうに儀礼は唇を尖らせた。
その時、室内に白い光が現れ、アーデスが姿を現した。
「自分の常識はずれを理解しないで、何、他人を責めてるんですか?」
今までの話の流れを聞いていたかのようにアーデスが話に割り込んできた。
いや、実際聞いていたのだろう。
「僕は常識人だよ。ねぇ。」
儀礼は部屋の隅に丸まっていたガスカルに問いかける。
ガスカルは困ったように首を傾げていた。
「なるほど。で、あれが何ですって?」
その狼を見て、アーデスは呆れたように溜息を吐く。
「狼になったガスカル君です。」
にっこりと儀礼は微笑む。
「ただの狼にしか見えないがな。それを一瞬で判断するお前は、やはり異常だ。」
そう、言いながら、アーデスはぐしゃぐしゃと儀礼の頭を撫でた。
髪がぼさぼさに散らばる。
「……管理局の異常性は納得できません。これを許していくなんて……。」
儀礼は俯いていた。
「なのでアーデスさん、上層部に入ってください。」
にっこりと微笑んで、儀礼はアーデスを見上げた。
「そこに入るのはSランクのお前が先だろう。」
「ここはやっぱり年功序列です。アーデスさんのが年上じゃないですか。」
「そんなことを押し付けるために俺を呼んだのか?」
ふざけた笑みを押し隠すと、アーデスは真剣になって儀礼に呼びかけた。
「ふざけてる場合じゃないですね。早く、ガスカル君たちを元に戻してあげないと。」
一度瞳を伏せてから、儀礼は真剣な瞳でガスカルを見る。
「必ず、戻してあげるから。安心して。」
優しい言葉で語りかける儀礼だが、その心中は複雑だった。
アナザーが見つけ出し送ってくれたブローザ・ジェイニの資料の中にはまだ、変身した人間を元に戻す方法が確立されていないと記されていたのだ。
「どれが怪しいと思います? ガスカル君の部屋はそのまま借りられていますが、残りの二人の部屋は、管理局の法則にしたがって、すでに解放されてしまっています。荷物は部屋に置き去りになっていたのを受付で保管しているそうですが、当の本人たちが姿を眩ませていたので、借り主なしとみなされてしまっていました。」
「そこはすでに、片付けられていると思ったほうがいいな。」
儀礼の言葉を聞いて、アーデスは顎に手を当てて考える。
「ですよね。証拠を残しておくとは思えません。」
管理局は、二日間、借り手が姿を現さないと、安全確認のために受付けのものが中を確認する義務を請け負っている。
灰色の狼グレイシルと、大柄な狼タザニアは、二日以上前に狼になっていて、受付へと姿を見せることができなかった。
そして、受付の者が研究室へと入ってくる前に、狼として捕らえられることを恐れて、窓から管理局を抜け出したのだろう。
広い王立公園ならば、見付かる可能性はとても低い。
ただし、食料などを手に入れる手段がないため、今も気絶している2人は弱っているようにも見えた。
儀礼は栄養補給のための点滴を2頭に行う。
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