ギレイの旅
ブローザ・ジェイニ
犯人がわかったことはいいが、依然としてガスカルたちを狼に変えた方法が分からない。
それに、ガスカルの借りた1人~2人用の研究室は儀礼逹4人とガスカル逹狼3頭が入るには少し狭すぎた。
「調査のためにも機械を借りなきゃいけないし、少し広めの研究室を借りるか。」
ぎゅうぎゅう詰めの研究室内を、自由に動き回ることもできずに、儀礼は不満そうに渋面を作る。
その意見には全員が賛成のようだった。
まだ気絶している2頭の狼からは意見は出ていないが、この際問題はないだろう。
儀礼は手早く受付で手続きを済ますと、ガスカルの借りた研究室から、等級の上の研究室へと移動する。
場所は受け付けを挟んで、逆側の廊下へ歩いていった方だ。
ガスカルの部屋からコップやポットなど怪しいと思われる物を何点か持って、設備の整った部屋へと全員で移動する。
その姿は目立った。
なぜかお盆にティーセットを持った金髪、茶瞳の美女に、寄り添うように歩く茶色の狼。
その後ろから好奇心をあらわに、キョロキョロと周囲を見回している美女によく似た子供。
そして、気絶しているのか死んでいるのかわからない大きな狼をそれぞれ肩に担いだ武人の少年が2人。
何が恐ろしいのかもわからない、不穏な迫力がこの集団から発せられていた。特に、後ろの2人はやばい。
事なかれ主義の研究者逹は異様な光景を目の端だけで捉えて、近付かないようにしていた。
その集団の向かいから、高位の研究者らしい集団が歩いてきた。
何故、高位だと分かるのか、その研究者逹は上階の最上級の研究室のある場所から降りてきたからだ。
その集団の中心にいた女性が何かに気付いたように儀礼逹を見た。
40代であろう女性は細い鎖の付いた、銀縁の眼鏡をかけている。
色の濃い銀色の髪は肩ほどの長さで、内側に綺麗にカールされている。
眉間に寄ったシワが、威圧するように儀礼の方を向いていた。
儀礼はピリピリとした空気を感じ取り、つばを飲み込んで拳を握りしめる。
表情を崩してはだめだ、と自分に言い聞かせる。
ドルエドにこそ珍しい銀髪の女性。
間違いなく、魔法薬の権威ブローザ・ジェイニ、その人だと思われた。
「失礼だけど、あなた逹の連れている狼は、わたくしの研究所から逃げ出したものではないかしら。」
断定するような強い語調でブローザは儀礼を睨み付ける。
「そうだ、研究所から逃げ出した狼だ。」
ブローザを取り囲む研究者逹がざわざわと騒ぎ立て始める。
じろりと、調べるように睨まれたガスカルは怯えたようにクーンと鳴いて、儀礼の背後へと隠れた。
「いいえ。」
にっこりと微笑みを浮かべながらも、儀礼はブローザに対し、はっきりと否定を口にする。
「この子逹は私の友人。信じていただけないかもしれないですが、れっきとした人間なんです。」
ブローザをまっすぐに見て、儀礼は答えた。
「それこそ、この方の研究するテーマ、『人体の変化』に関わっている証拠だ。」
「新参者で知らないのかもしれないが、この方はドルエド国王にも認められているAランクの研究者だぞ。」
研究体を奪っていこうとする儀礼逹に怒りを覚えたようで、ブローザを取り囲む研究者逹が次々に捲し立てる。
そして、強引にも一人の男がガスカル体を捉えようと前に踏み出してきた。
グルゥゥゥと、ガスカルは低く唸り、獅子、ゼラード、白の3人は前に出ようとする。
腕を一振りして、そのすべての動きを止めさせると儀礼は獅子がかけていたサングラスを外す。
突然現れた黒い瞳に、ブローザ側の研究者逹は息を飲んだ。
そして、その少年が怒りを抑え込んでいることにもまた、気が付いたようだった。
「ここにいるガスカル君も、灰色の『グレイシル・トラバ』さんも、茶色の大柄な『タザニア・シート』さんも――」
言いながら儀礼はいつの間にかかけていた色付き眼鏡の中央を押さえる。
今、儀礼が口にした名は、この管理局で1週間以内に行方不明になった者だ。
この短時間でアナザーは調べだしてくれたのだ。
「全員、僕の友人です。」
バサリと白衣を鳴らすようにして強調して、儀礼は不適な笑みを浮かべてみせた。
相手の怒りに怯える儀礼の姿はない。
その相手逹は今、怒りを忘れて驚愕に飲まれている。
突然現れた黒髪黒瞳のシエン人。
この若さで、この辺りにいる可能性があり、一番に名が出てくるシエン人と言えば、『黒獅子』。
そして、その黒獅子と共にいる、金髪茶瞳の研究者と言えば――。
「……『蜃気楼』。」
呆然としたようにブローザが呟く。
「まさか、こんな所にいるなんて。」
「私はこれでも、ドルエドの研究者ですよ。ドルエドの王都にいておかしいことなんてないでしょう。」
くすりと笑うと儀礼は足を進める。
「待って。それがあなたの友人達だというのなら、人間に戻す方法を知っているの? わたくしの持つ研究データが必要なのではない?」
笑みと言うには裏がありそうな、薄い笑顔でブローザは儀礼を引き止める。
「必要ありません。僕の部下にも、魔法薬学に精通した者がいますので。」
儀礼も、冷えた笑みを表情に張り付かせて、ブローザに対応する。
「行きましょう、調べたいことが山ほどあります。」
とまどうブローザ逹研究員とすれ違う形で儀礼は自分が借りた研究室へと歩いて行く。
その後を、ガスカルや白逹が無言で追いかけていった。
バタン。
研究室の中に全員が入って扉を閉めた途端、儀礼が床に座り込んだ。
「はあぁ~。やめてよ皆、殺気だって。ああ、怖かった。」
ね、と言いながら、儀礼はガスカルの首に抱きつく。
ガスカルは嫌がる様子も見せずにおとなしく撫でられている。
「見た目は完全に動物だな。」
背負っていた狼を室内の簡易ベッドの上に寝かせる獅子。
「本当、癒される。この感触。」
狼の毛皮に顔を埋もれさせて、幸せそうに儀礼は呟いた。
それに、ガスカルの借りた1人~2人用の研究室は儀礼逹4人とガスカル逹狼3頭が入るには少し狭すぎた。
「調査のためにも機械を借りなきゃいけないし、少し広めの研究室を借りるか。」
ぎゅうぎゅう詰めの研究室内を、自由に動き回ることもできずに、儀礼は不満そうに渋面を作る。
その意見には全員が賛成のようだった。
まだ気絶している2頭の狼からは意見は出ていないが、この際問題はないだろう。
儀礼は手早く受付で手続きを済ますと、ガスカルの借りた研究室から、等級の上の研究室へと移動する。
場所は受け付けを挟んで、逆側の廊下へ歩いていった方だ。
ガスカルの部屋からコップやポットなど怪しいと思われる物を何点か持って、設備の整った部屋へと全員で移動する。
その姿は目立った。
なぜかお盆にティーセットを持った金髪、茶瞳の美女に、寄り添うように歩く茶色の狼。
その後ろから好奇心をあらわに、キョロキョロと周囲を見回している美女によく似た子供。
そして、気絶しているのか死んでいるのかわからない大きな狼をそれぞれ肩に担いだ武人の少年が2人。
何が恐ろしいのかもわからない、不穏な迫力がこの集団から発せられていた。特に、後ろの2人はやばい。
事なかれ主義の研究者逹は異様な光景を目の端だけで捉えて、近付かないようにしていた。
その集団の向かいから、高位の研究者らしい集団が歩いてきた。
何故、高位だと分かるのか、その研究者逹は上階の最上級の研究室のある場所から降りてきたからだ。
その集団の中心にいた女性が何かに気付いたように儀礼逹を見た。
40代であろう女性は細い鎖の付いた、銀縁の眼鏡をかけている。
色の濃い銀色の髪は肩ほどの長さで、内側に綺麗にカールされている。
眉間に寄ったシワが、威圧するように儀礼の方を向いていた。
儀礼はピリピリとした空気を感じ取り、つばを飲み込んで拳を握りしめる。
表情を崩してはだめだ、と自分に言い聞かせる。
ドルエドにこそ珍しい銀髪の女性。
間違いなく、魔法薬の権威ブローザ・ジェイニ、その人だと思われた。
「失礼だけど、あなた逹の連れている狼は、わたくしの研究所から逃げ出したものではないかしら。」
断定するような強い語調でブローザは儀礼を睨み付ける。
「そうだ、研究所から逃げ出した狼だ。」
ブローザを取り囲む研究者逹がざわざわと騒ぎ立て始める。
じろりと、調べるように睨まれたガスカルは怯えたようにクーンと鳴いて、儀礼の背後へと隠れた。
「いいえ。」
にっこりと微笑みを浮かべながらも、儀礼はブローザに対し、はっきりと否定を口にする。
「この子逹は私の友人。信じていただけないかもしれないですが、れっきとした人間なんです。」
ブローザをまっすぐに見て、儀礼は答えた。
「それこそ、この方の研究するテーマ、『人体の変化』に関わっている証拠だ。」
「新参者で知らないのかもしれないが、この方はドルエド国王にも認められているAランクの研究者だぞ。」
研究体を奪っていこうとする儀礼逹に怒りを覚えたようで、ブローザを取り囲む研究者逹が次々に捲し立てる。
そして、強引にも一人の男がガスカル体を捉えようと前に踏み出してきた。
グルゥゥゥと、ガスカルは低く唸り、獅子、ゼラード、白の3人は前に出ようとする。
腕を一振りして、そのすべての動きを止めさせると儀礼は獅子がかけていたサングラスを外す。
突然現れた黒い瞳に、ブローザ側の研究者逹は息を飲んだ。
そして、その少年が怒りを抑え込んでいることにもまた、気が付いたようだった。
「ここにいるガスカル君も、灰色の『グレイシル・トラバ』さんも、茶色の大柄な『タザニア・シート』さんも――」
言いながら儀礼はいつの間にかかけていた色付き眼鏡の中央を押さえる。
今、儀礼が口にした名は、この管理局で1週間以内に行方不明になった者だ。
この短時間でアナザーは調べだしてくれたのだ。
「全員、僕の友人です。」
バサリと白衣を鳴らすようにして強調して、儀礼は不適な笑みを浮かべてみせた。
相手の怒りに怯える儀礼の姿はない。
その相手逹は今、怒りを忘れて驚愕に飲まれている。
突然現れた黒髪黒瞳のシエン人。
この若さで、この辺りにいる可能性があり、一番に名が出てくるシエン人と言えば、『黒獅子』。
そして、その黒獅子と共にいる、金髪茶瞳の研究者と言えば――。
「……『蜃気楼』。」
呆然としたようにブローザが呟く。
「まさか、こんな所にいるなんて。」
「私はこれでも、ドルエドの研究者ですよ。ドルエドの王都にいておかしいことなんてないでしょう。」
くすりと笑うと儀礼は足を進める。
「待って。それがあなたの友人達だというのなら、人間に戻す方法を知っているの? わたくしの持つ研究データが必要なのではない?」
笑みと言うには裏がありそうな、薄い笑顔でブローザは儀礼を引き止める。
「必要ありません。僕の部下にも、魔法薬学に精通した者がいますので。」
儀礼も、冷えた笑みを表情に張り付かせて、ブローザに対応する。
「行きましょう、調べたいことが山ほどあります。」
とまどうブローザ逹研究員とすれ違う形で儀礼は自分が借りた研究室へと歩いて行く。
その後を、ガスカルや白逹が無言で追いかけていった。
バタン。
研究室の中に全員が入って扉を閉めた途端、儀礼が床に座り込んだ。
「はあぁ~。やめてよ皆、殺気だって。ああ、怖かった。」
ね、と言いながら、儀礼はガスカルの首に抱きつく。
ガスカルは嫌がる様子も見せずにおとなしく撫でられている。
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