ギレイの旅
ドルエド王都の学院8
「ギレイ、ギレイ……どっかで聞いたような。ギレイ・マドイってギレイ! あいつ、まさか!」
儀礼達の去った地下通路で、クレイルは目を見開いた。
「ようやく気付いたか。そうだよ。あいつがギレイ・マドイ。ドルエドの『蜃気楼』だ。」
にやりとしてトウイは笑った。
「握手っ!――したな。」
自分の右手を見つめて呆然とした様子でクレイルは呟く。
「そうだ、サイン!」
「何か適当な書類でも用意するか?」
くすりと、皮肉げな笑みを浮かべてトウイが言う。
高ランクの者のサインとなれば、偽の書類を作るために利用されかねない。
そんな物を求めてどうするつもりだ、とトウイは苦笑する。
「そうか。そうだよな。」
ガリガリとクレイルは自分の頭をかいた。
「ギレイ・マドイか。もっと話しておけばよかった。」
「仕事中だからな。また戻ってくるよ。俺もここにいるし。いざとなれば通信機もあるけど。」
銀色の小さな機械を手の平に乗せてトウイはクレイルに見せる。
「いや、仕事の邪魔するわけにはいかないだろう。Sランクの研究者なんて。本当に、よく来たな、学生の、行方不明者の捜索なんかに。」
「あいつはおまけ。頼まれたのは、俺達のパーティだから。」
なんでもないことのようにトウイは言った。
「Sランクがおまけって……お前らどういう関係だよ。」
「雇い主と雇われ者? いや、ちょっと違うかな。」
考え込むようにトウイは呟く。
「ドルエドの『蜃気楼』か。」
クレイルは儀礼達の消えた通路の先を見つめる。
「マドイ。マドイ……待ってくれ、その苗字、俺、他にもどこかで見たことがある気がする……。」
頭を抱えて、クレイルは考え込むように眉間にしわを寄せる。
「ギレイ・マドイ、レイ……マドイ、っそうだ! レイ・マドイ! 昔、俺の部屋を使ってた奴の中にその珍しい苗字の奴がいた。名前も確かレイが付いて、俺と同じだとか思ってたんだ。」
ガリガリと、クレイルはぼさぼさの髪をかきむしる。
「ギレイ・マドイ。そんな昔にいたわけないし。まさかあいつの父親か?」
「父親は学院の生徒だったことがあるって言ってたけど、そんなに気になるの?」
不思議そうにトウイは聞き返す。
「この魔法陣だよ! 作った奴がレイっていうんだ。陣の中に古代の文字で名前が刻まれてる。俺に読めるのが『レイ』の2文字だけだったんだけどな。それ以外の文字が壁からはがした時に破れて読めなくなっちまったってのもあるんだけどよ。」
壁を補強するという魔法陣の紙をバサバサと揺らして、クレイルは興奮したように説明する。
「俺は、調べられる限りの過去の資料の中から調べて、俺の部屋を使ったレイが付く奴はレイイチ・マドイ、そいつしかいなかった。」
「魔法科の男子寮の地下に壁を補強する魔法陣ね。父親の方も只者じゃないかもしれないってこと?」
トウイの、真剣なような、冷めたような表情を受け止めながら、クレイルはまだ、興奮したように瞳を輝かせている。
「ただ者な訳がないだろう! この魔法陣が! 発表されてないのが不思議な位だ。古代の遺跡建設の能力に劣らないんだぞ。それも、この陣を貼るだけだ。魔力は必要だけどな。とにかく、こいつは十分凄いものなんだ。だから俺は、一生懸命この魔法陣の研究をしているんだ。いつか世界にこいつを発表するためにな。」
クレイルは熱く語る。
「そんなに凄いものなんだ。ただの紙切れなのにね。」
「ただの紙切れだからだからこそ凄いんだよ。この陣には無限の可能性がある。こいつで魔法の攻撃を防ぐ事だってできると思うんだよ!」
魔法陣の描かれた紙を、クレイルは壁に貼らずに魔力を込めてみせる。
透明な膜が魔法陣を中心に、四角い板のように空中に現れた。
確かにそれは、魔法で言う障壁や結界のようであった。
「『蜃気楼』の父親か。やっぱり普通の人じゃなかったんだな。」
トウイは、遠いものでも見るようにして現れた四角い板を見つめていた。
その表情に寂しさが見て取れた気がして、不思議に思ってクレイルは聞く。
「お前の親は?」
「……両親とも死んでるよ。だから俺が働いてるんじゃないか。」
「悪かった。」
クレイルが頭を下げる。
「いいよ。今はいい仕事に就いたと思ってるから。」
フッと大人びて笑うトウイだが、その表情は本当に嬉しそうだった。
「退屈しないんだ。」
「大変じゃないか?」
世界有数の研究者の下で小さな子供が働くということ。
「大変だよ。見てた通り、わがままというか、我が道を行く人だから。」
くすりと可笑しそうに笑ってトウイは言う。
「その道が、常人には通れない道なんだな。」
「そこに、皆を引っ張って行こうとするんだ。俺らもいつの間にか……。」
トウイはそっと自分の足に触れる。
以前はずっとあった痛みが今はない。
儀礼が自分の装備を崩して義足を作ってくれてから、時々、トウイの成長に合わせて、メンテナンスも兼ねて調整してくれているのだ。
義足に慣れた今では、素早く動くこともできる。
そして、惜しげもなく分け与えてくれた強力な武器。
世界中が欲しがるそれを、トウイには迷いもなく預けてくれたのだ。
信頼。
そういう言葉が浮かんでくる。
以前の仕事の中にあったものとはまったく違ったその言葉。
温かくて、嬉しい気持ちになってくる。
グシャグシャと、クレイルがトウイの頭をかき回した。
「そう言う顔してろ。年相応っぽい。似合ってるぞ。」
くすりと笑って、クレイルは荷物を背負った。
「じゃ、あいつらがもう一人の行方不明者を見つけてしまう前に、急いで補強作業を終わらせるか。」
元気良く、クレイルは歩き出した。
トウイはその後に続く。
学院地下のマップはもう間もなく完成されようとしていた。
儀礼達の去った地下通路で、クレイルは目を見開いた。
「ようやく気付いたか。そうだよ。あいつがギレイ・マドイ。ドルエドの『蜃気楼』だ。」
にやりとしてトウイは笑った。
「握手っ!――したな。」
自分の右手を見つめて呆然とした様子でクレイルは呟く。
「そうだ、サイン!」
「何か適当な書類でも用意するか?」
くすりと、皮肉げな笑みを浮かべてトウイが言う。
高ランクの者のサインとなれば、偽の書類を作るために利用されかねない。
そんな物を求めてどうするつもりだ、とトウイは苦笑する。
「そうか。そうだよな。」
ガリガリとクレイルは自分の頭をかいた。
「ギレイ・マドイか。もっと話しておけばよかった。」
「仕事中だからな。また戻ってくるよ。俺もここにいるし。いざとなれば通信機もあるけど。」
銀色の小さな機械を手の平に乗せてトウイはクレイルに見せる。
「いや、仕事の邪魔するわけにはいかないだろう。Sランクの研究者なんて。本当に、よく来たな、学生の、行方不明者の捜索なんかに。」
「あいつはおまけ。頼まれたのは、俺達のパーティだから。」
なんでもないことのようにトウイは言った。
「Sランクがおまけって……お前らどういう関係だよ。」
「雇い主と雇われ者? いや、ちょっと違うかな。」
考え込むようにトウイは呟く。
「ドルエドの『蜃気楼』か。」
クレイルは儀礼達の消えた通路の先を見つめる。
「マドイ。マドイ……待ってくれ、その苗字、俺、他にもどこかで見たことがある気がする……。」
頭を抱えて、クレイルは考え込むように眉間にしわを寄せる。
「ギレイ・マドイ、レイ……マドイ、っそうだ! レイ・マドイ! 昔、俺の部屋を使ってた奴の中にその珍しい苗字の奴がいた。名前も確かレイが付いて、俺と同じだとか思ってたんだ。」
ガリガリと、クレイルはぼさぼさの髪をかきむしる。
「ギレイ・マドイ。そんな昔にいたわけないし。まさかあいつの父親か?」
「父親は学院の生徒だったことがあるって言ってたけど、そんなに気になるの?」
不思議そうにトウイは聞き返す。
「この魔法陣だよ! 作った奴がレイっていうんだ。陣の中に古代の文字で名前が刻まれてる。俺に読めるのが『レイ』の2文字だけだったんだけどな。それ以外の文字が壁からはがした時に破れて読めなくなっちまったってのもあるんだけどよ。」
壁を補強するという魔法陣の紙をバサバサと揺らして、クレイルは興奮したように説明する。
「俺は、調べられる限りの過去の資料の中から調べて、俺の部屋を使ったレイが付く奴はレイイチ・マドイ、そいつしかいなかった。」
「魔法科の男子寮の地下に壁を補強する魔法陣ね。父親の方も只者じゃないかもしれないってこと?」
トウイの、真剣なような、冷めたような表情を受け止めながら、クレイルはまだ、興奮したように瞳を輝かせている。
「ただ者な訳がないだろう! この魔法陣が! 発表されてないのが不思議な位だ。古代の遺跡建設の能力に劣らないんだぞ。それも、この陣を貼るだけだ。魔力は必要だけどな。とにかく、こいつは十分凄いものなんだ。だから俺は、一生懸命この魔法陣の研究をしているんだ。いつか世界にこいつを発表するためにな。」
クレイルは熱く語る。
「そんなに凄いものなんだ。ただの紙切れなのにね。」
「ただの紙切れだからだからこそ凄いんだよ。この陣には無限の可能性がある。こいつで魔法の攻撃を防ぐ事だってできると思うんだよ!」
魔法陣の描かれた紙を、クレイルは壁に貼らずに魔力を込めてみせる。
透明な膜が魔法陣を中心に、四角い板のように空中に現れた。
確かにそれは、魔法で言う障壁や結界のようであった。
「『蜃気楼』の父親か。やっぱり普通の人じゃなかったんだな。」
トウイは、遠いものでも見るようにして現れた四角い板を見つめていた。
その表情に寂しさが見て取れた気がして、不思議に思ってクレイルは聞く。
「お前の親は?」
「……両親とも死んでるよ。だから俺が働いてるんじゃないか。」
「悪かった。」
クレイルが頭を下げる。
「いいよ。今はいい仕事に就いたと思ってるから。」
フッと大人びて笑うトウイだが、その表情は本当に嬉しそうだった。
「退屈しないんだ。」
「大変じゃないか?」
世界有数の研究者の下で小さな子供が働くということ。
「大変だよ。見てた通り、わがままというか、我が道を行く人だから。」
くすりと可笑しそうに笑ってトウイは言う。
「その道が、常人には通れない道なんだな。」
「そこに、皆を引っ張って行こうとするんだ。俺らもいつの間にか……。」
トウイはそっと自分の足に触れる。
以前はずっとあった痛みが今はない。
儀礼が自分の装備を崩して義足を作ってくれてから、時々、トウイの成長に合わせて、メンテナンスも兼ねて調整してくれているのだ。
義足に慣れた今では、素早く動くこともできる。
そして、惜しげもなく分け与えてくれた強力な武器。
世界中が欲しがるそれを、トウイには迷いもなく預けてくれたのだ。
信頼。
そういう言葉が浮かんでくる。
以前の仕事の中にあったものとはまったく違ったその言葉。
温かくて、嬉しい気持ちになってくる。
グシャグシャと、クレイルがトウイの頭をかき回した。
「そう言う顔してろ。年相応っぽい。似合ってるぞ。」
くすりと笑って、クレイルは荷物を背負った。
「じゃ、あいつらがもう一人の行方不明者を見つけてしまう前に、急いで補強作業を終わらせるか。」
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