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ギレイの旅

千夜ニイ

ドルエド王都の学院6

 地下通路はほぼ一本道だった。
両側にそれぞれの部屋の地下倉庫があって、出入り口はどこも長い間使っていないようだった。
5人は、それぞれの部屋の位置をなんとなく確かめながら、真っ直ぐに通路を歩いていった。
誰にも出会うことなく、5人は通路の先へと出た。
通路の出口は、学院の校舎の非常口に繋がっていた。


「あれ、学校に出ちゃったね。」
周囲を見回して、儀礼は楽しそうにマップへと記す。
「人通りのない廊下だな。こんな古びた非常口、随分使われてないだろうに……いや、この扉だけやけに綺麗だ。」
非常口の扉を見ていたゼラードが真剣な表情で扉を確かめる。


「誰かが使ったってことだな。」
トウイが同じ様に扉の周囲の足跡を探り、自分たちの物でないものを見つけた。
「これ、俺達よりは大きいけど、『黒獅子』よりは小さいな。」
「うん。いなくなった学生のものである可能性が高いね。」
誇りの中にまみれた靴跡を見て、儀礼は口元に拳を当てる。


「もう一度、地下を見てみようか。今度は学院側も。」
学院の地下にあるのは、倉庫や、実験室などの設備だ。
地図などはないが、迷うようなところでもない。
しかし、実際に学院の地下へと入ってみると、そこはかなり長い間使われていなかったようで、くもの巣がかかり、ほこりに覆われ、そして、所々の壁が、崩壊して欠落していた。
まるで、小さな通り道のように、抜け穴ができている。


「……っ天然の迷宮だ!!」
儀礼が瞳を輝かせて叫んだ。
正規の道とは異なり、荷物を持っていたり、獅子ほどの背の高さになると通るのに一苦労するような小さな抜け穴。
そして、古くなった壁が壊れてできた道なので、設計図などに表されるような規則性がない。
儀礼は嬉しそうに、そして丁寧にそれらの道をマッピングしていった。


 30分ほど儀礼のマッピングに付き合った頃だろうか、かすかにした人の気配に、獅子やゼラードたちは身構える。
広くて薄暗い地下通路の中、遠くに、小さなランプの明りが見えてきた。
儀礼達は、その明りに向かって歩いていった。
「ほらっ、儀礼、行くぞ!」
「まって、まだここのマップが描けてないんだ。」
「いいから行くぞっ!」
首根っこを掴んで、獅子は強制的に儀礼を引きずっていく。


 ちらちらと光るランプの先にいたのは、黒っぽい髪をぼさぼさに一つにまとめて結んでいる、一人の少年だった。
ランプが照らし出す瞳の色は、明るい水色。
行方不明になっている少年の一人、クレイルだと思われた。


 クレイルは大きなリュックサックを背負っている。
手には、儀礼のように大きな紙とペンが握られていた。
「何してるの?」
引っ張られた襟首を正しながら、儀礼は少年へと向き直って問う。


「お前らも地下への入り口を見つけたのか? 俺は、マッピングだよ。あとは補強。」
にっと笑ってクレイルは言う。
授業をサボっているというのに、悪びれた様子はない。


「補強って? うわあっ。」
ズザザザ……。
クレイルに近寄ろうとした儀礼が足を滑らせた。
いや、儀礼の足元で、床のブロックが砕けて割れたのだ。
半分ほどは砂のようになってしまっている。


「ははは、ドジ。」
おかしそうに獅子が笑う。
確かに、獅子達ならば、足場が急に崩れたとしても、態勢を崩したりなどはしない。




「大丈夫か?」
心配そうにクレイルが儀礼に手を貸してくれた。
「ここの岩は古いから、風化しちまってるんだ。見てな。」
そう言って、クレイルはリュックサックから一枚の紙を取り出した。
それには、複雑な模様の魔法陣が描かれている。
ペタン、とクレイルはその紙を崩れたブロックへと貼った。


 すると、透明な膜のような物が現れて、壊れたブロックを覆った。
クレイルが足でコンコンと壊れたブロックを叩いて見せるが、膜は硬いものでできているようで、びくともしていない。
「それ何? 封印陣に似てるけど、模様が違うよね。」
驚いたように儀礼はクレイルの貼った紙を見る。


「封印陣を知ってるのか。なら話は早い。封印陣は魔法トラップを封印するものだが、この陣は壁を強化する。俺は、この崩れかけた地下を補強して回ってたんだ。」
クレイルは何十枚もの魔法陣の描かれた紙を取り出して、儀礼達に見せた。
そして今、新しく補強した位置をマップ上に書き加える。
クレイルの持っている地図には、抜け穴となっている場所や、補強された場所が正確に書き記されていた。
儀礼の作り始めたばかりの地図とは、比べ物にならないほど広い範囲が、詳しく描かれていた。


「すごい。これ、一人で作ったの?」
「まぁな。」
クレイルは頷く。
「こっちの魔法陣も?」
床のブロックに張られた魔法陣を指差して儀礼は聞く。


「あー、まぁな。描いたのは俺だけど、元の魔法陣は俺が考えたんじゃないんだ。」
言いよどむクレイルの顔を、フィオが複雑そうな表情で見ていた。
《あいつが描いて使ってるだけだから、多分、大丈夫だと思う。》
心配そうにした白に、よく分からない説明をするフィオ。


「どうした、白?」
白の様子に気付いて、獅子が近付くようにして問いかける。
その足元には小さめのブロック。


「「あ、それはトラップ。」」
儀礼とクレイルの声が重なった。
ブロックは、カチッと音をたてて、小さく沈み込んだ。
天井から、槍のように鋭い炎が勢いよく噴き出してきた。


「オールシールド!」「トーラ!」
二人の声がまた重なって、周囲に七色の障壁が出来上がっていた。
炎の槍はシールドを突破することなく、段々と威力を小さくして、やがて消えていった。
「……すごい、何今の障壁。見たことない。」
儀礼は目を瞬いて、その障壁を作り出したクレイルを見る。


「全属性を合成させて作ったシールドだ。お前の方こそ、何だよ、その紫色の結界。見たことないぞ、紫属性扱える奴!!」
「これは、魔法石の力なんだ。知ってる? ワイバーンの瞳。」
儀礼はワルツにもらったワイバーンの瞳、トーラを見せる。
「すげぇ。ワイバーンの瞳自体、ドルエドじゃ滅多に手に入らないじゃないか。お前、何者だ?」
「ふふふ、これでも冒険者なんだ。ランクはまだCだけどね。」
にっこりと儀礼は微笑んだ。

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