ギレイの旅
ドルエド王都の学院5
男子寮の中に入った。
授業中の今は、中にいる生徒はいない。
しんとした寮の中を5人は歩く。
「どこから入ろうか。」
考えるようにして儀礼は言う。
「人の使っていない部屋のがいいだろう。と言うか、鍵がかかってるだろう、どの部屋も。」
儀礼たちは、寮の管理人から鍵をもらってはいない。
「え? この程度の鍵なら開けられるでしょう。」
当然のように儀礼は言う。
儀礼だけではなく、ゼラードやトウイにもこれくらいの鍵なら問題なく開けられるだろうと。
「いや、できるできないの問題じゃなくてだな。」
押さえる様にしてゼラードは前髪をかきあげた。
「わかってる。人の使ってない部屋ね。僕はちゃんと常識はあるよ。」
にっこりと笑って儀礼は言った。
正規の鍵ではなく、針金で鍵をこじ開けようという時点で、常識がどうこうという状態を逸脱しているということにこの少年は気付いているのだろうか。
「本当は、ガスカル君かクレイル君の部屋から調査したかったんだけどね。」
「それはせめて、同室者の許可を取らないとだめだろう。」
儀礼の言葉を、ゼラードは否定した。
止めなければ、本当にやりそうなところが怖い。
長い廊下を歩きながら、奥の方の部屋で、ネームプレートのかかっていない、取っ手にほこりの被った部屋を見つけた。
「ここならいいかな。」
確認するように後ろに居たゼラードたちを振り向いて、儀礼はポケットから細い針金を取り出した。
「そうだな。まぁ、ここなら……誰も使ってないようだからいいだろう。」
言いたいことをいろいろと我慢して、ゼラードは頷いた。
カチャリと音をさせて、すぐに、儀礼は扉の鍵を開けた。
「ギレイ君て……。」
白が何かを言いたそうにしていたが、今は、先に進むことを急ぐことにする。
儀礼たちは部屋の中へと入っていった。
古い建物の中の部屋は、ほこりを被った寝台が二つ、木製の勉強机と、本棚に、クローゼットが二つずつあった。
窓にはカーテンがかかっていて、部屋の中は昼間だと言うのに薄暗かった。
そのおかげか、室内はどこかひんやりとしている。
獅子が無言でカーテンを開け放った。
室内に太陽の光が入り込む。
温かい光と共に、室内に大量のほこりが舞うのが見て取れた。
「獅子、ついでに窓も開けてよ。」
口元を押さえながら儀礼は言う。
獅子はすぐに窓を開け放った。
風のない日だったが、窓を開け放った瞬間に室内の空気が入れ替わったように綺麗になった気がした。
いや、事実、一陣の風が吹いて室内のほこりが大分外へと流れていった。
「ふぅ。これで一息つけるね。」
口元から手を離して、儀礼はぐるりと周囲を見回した。
「うーん、壁とかには異常ないね。すぐ隣の部屋だし。となると……床下から聞こえる声。地下か。」
儀礼は足元に目をやった。
「倉庫だとすると、真ん中にはないよね。どこだろう、入り口。」
ゆっくりと視線を動かしながら儀礼は室内の床を見回す。
大きなベッドが部屋の右と左に別れて置いてある。
室内は、人が二人すれ違うことができる程度で、広くはない。
「ベッドの下ってことはないよね。物をしまうための倉庫なら。」
考えるように儀礼は顎に手を当てている。
室内は、5人も入れば、窮屈なものになっていた。
トウイとゼラードはベッドの上でくつろぐように足を伸ばしている。
獅子は窓際に立ったままだ。
白は入り口付近で興味深そうに室内を見回している。
《左のベッドの奥だ。》
部屋の中に、突如赤色の精霊が姿を現して、白に向かっていった。
火の精霊、フィオだ。
「ギレイ君、左のベッドの奥だって。フィオが。」
儀礼に言っても無駄だと分かっているからこそ、白に言ったのだろうが、なぜフィオがそんなことを知っているのか、不思議に思って白はフィオの顔を覗き込んだ。
《俺、昔ここに住んでだ。この学院にな。数百年居たから、大体のことは分かるぞ。》
くすりと笑ってフィオは白を見た。
本当ならば、儀礼に直接話したいのではないか。
白には、なんとなくそう思えたが、フィオの瞳は楽しそうに輝いている。
地下への入り口を見つけた儀礼の瞳と同じ様だった。
《久し振りだな、地下へ行くのは。》
「前にも行ったことあるの?」
《あるさ。何回もな。それこそ、この学院ができたばかりの頃は、しょっちゅう入ってたぜ。》
明るい炎の体を、さらに明るくともらせて、フィオは楽しそうに語る。
《こっちの、寮の下はそれぞれ荷物をしまう倉庫になってるんだが、いざという時の避難経路にもなってるんだ。だから……。》
にやりと、フィオはそこで口を止めた。
その視線の先には、儀礼が映っている。
「ギレイ君に、見付けさせてあげるんだね。」
フィオのしたいことが分かって、白も元気良く頷いた。
嬉しそうに瞳を輝かせている儀礼に、横槍を入れて、答えを教えてしまうのは、気を削いでしまうような気がした。
《……本当に、どっちが年上かわかんないな。お前らは。》
くすくすと、可笑しそうにフィオは笑った。
「あった、入り口だ。」
木の板でできた床を見つめて、儀礼は声を上げた。
「ちょっとさび付いてるみたいだな。重たくて開かない。獅子、やってみてくれる?」
床の一部を持ち上げようとして、できずに、儀礼は獅子を振り返った。
「どれ。」
獅子が儀礼に代わって床板を持ち上げる。
正方形に床板に線が入り、1m四方ほどの扉が開いた。
床下は、真っ暗で、ほこりとかびと湿った匂いが立ち込めていた。
口と鼻をハンカチで覆って、儀礼は地下への階段を下りていく。
広さは、上の部屋と同じほどあるが、天井が頭が付きそうなほど低い。
獅子などは腰を少しかがめなければならないほどだった。
「荷物置き場みたいだね。昔は学校に通うのも貴族が多かったから荷物が多かったのかもしれないね。」
ぐるりと地下室を見回して儀礼は言った。
暗いので、持っていたランプで室内を照らしている。
《こっちだ。》
ランプの中で、炎が一際明るく輝いた。
照らし出されたのは、地下室の壁の一部。
「……ここ。これ、扉?」
取っ手のない壁の一部を、儀礼は目を細めるようにして見ながら、そっと押してみた。
ギギギギギ……。
重たい音をさせて、壁と同じ色に塗られていた木製の扉は開いた。
外には、真っ暗な長い通路。
じめっとした空気にカビとほこりの匂い。
しかし、わずかに風が通っているのが感じられる。
「人の気配、感じられる?」
「まだ分からないな。結構広そうだ、この空間。」
後からやってきたゼラードが、暗い通りの先を見通すように見ながら言った。
通路の天井は高い。
獅子はようやく背中を伸ばした。
「でも、居る可能性、あるよね。」
にっこりと儀礼は笑う。
「あるというか、高いんじゃないのか?」
ランプに火をつけて、周囲をゆっくりと見回しているのはトウイだ。
「魔物の気配はなさそうだな。」
獅子は光の剣を抜く。
その剣が、薄っすらと光を放って、周囲を明るく照らしていく。
「……なんか、ずるい。」
儀礼が頬を膨らませる。
「意味が分からねぇ。」
くだらない理由で不満をぶつけられて、獅子は苦笑いを浮かべる。
とにかく、行方不明者のいそうな場所は発見した。
これから、その捜索に向かうことになった。
授業中の今は、中にいる生徒はいない。
しんとした寮の中を5人は歩く。
「どこから入ろうか。」
考えるようにして儀礼は言う。
「人の使っていない部屋のがいいだろう。と言うか、鍵がかかってるだろう、どの部屋も。」
儀礼たちは、寮の管理人から鍵をもらってはいない。
「え? この程度の鍵なら開けられるでしょう。」
当然のように儀礼は言う。
儀礼だけではなく、ゼラードやトウイにもこれくらいの鍵なら問題なく開けられるだろうと。
「いや、できるできないの問題じゃなくてだな。」
押さえる様にしてゼラードは前髪をかきあげた。
「わかってる。人の使ってない部屋ね。僕はちゃんと常識はあるよ。」
にっこりと笑って儀礼は言った。
正規の鍵ではなく、針金で鍵をこじ開けようという時点で、常識がどうこうという状態を逸脱しているということにこの少年は気付いているのだろうか。
「本当は、ガスカル君かクレイル君の部屋から調査したかったんだけどね。」
「それはせめて、同室者の許可を取らないとだめだろう。」
儀礼の言葉を、ゼラードは否定した。
止めなければ、本当にやりそうなところが怖い。
長い廊下を歩きながら、奥の方の部屋で、ネームプレートのかかっていない、取っ手にほこりの被った部屋を見つけた。
「ここならいいかな。」
確認するように後ろに居たゼラードたちを振り向いて、儀礼はポケットから細い針金を取り出した。
「そうだな。まぁ、ここなら……誰も使ってないようだからいいだろう。」
言いたいことをいろいろと我慢して、ゼラードは頷いた。
カチャリと音をさせて、すぐに、儀礼は扉の鍵を開けた。
「ギレイ君て……。」
白が何かを言いたそうにしていたが、今は、先に進むことを急ぐことにする。
儀礼たちは部屋の中へと入っていった。
古い建物の中の部屋は、ほこりを被った寝台が二つ、木製の勉強机と、本棚に、クローゼットが二つずつあった。
窓にはカーテンがかかっていて、部屋の中は昼間だと言うのに薄暗かった。
そのおかげか、室内はどこかひんやりとしている。
獅子が無言でカーテンを開け放った。
室内に太陽の光が入り込む。
温かい光と共に、室内に大量のほこりが舞うのが見て取れた。
「獅子、ついでに窓も開けてよ。」
口元を押さえながら儀礼は言う。
獅子はすぐに窓を開け放った。
風のない日だったが、窓を開け放った瞬間に室内の空気が入れ替わったように綺麗になった気がした。
いや、事実、一陣の風が吹いて室内のほこりが大分外へと流れていった。
「ふぅ。これで一息つけるね。」
口元から手を離して、儀礼はぐるりと周囲を見回した。
「うーん、壁とかには異常ないね。すぐ隣の部屋だし。となると……床下から聞こえる声。地下か。」
儀礼は足元に目をやった。
「倉庫だとすると、真ん中にはないよね。どこだろう、入り口。」
ゆっくりと視線を動かしながら儀礼は室内の床を見回す。
大きなベッドが部屋の右と左に別れて置いてある。
室内は、人が二人すれ違うことができる程度で、広くはない。
「ベッドの下ってことはないよね。物をしまうための倉庫なら。」
考えるように儀礼は顎に手を当てている。
室内は、5人も入れば、窮屈なものになっていた。
トウイとゼラードはベッドの上でくつろぐように足を伸ばしている。
獅子は窓際に立ったままだ。
白は入り口付近で興味深そうに室内を見回している。
《左のベッドの奥だ。》
部屋の中に、突如赤色の精霊が姿を現して、白に向かっていった。
火の精霊、フィオだ。
「ギレイ君、左のベッドの奥だって。フィオが。」
儀礼に言っても無駄だと分かっているからこそ、白に言ったのだろうが、なぜフィオがそんなことを知っているのか、不思議に思って白はフィオの顔を覗き込んだ。
《俺、昔ここに住んでだ。この学院にな。数百年居たから、大体のことは分かるぞ。》
くすりと笑ってフィオは白を見た。
本当ならば、儀礼に直接話したいのではないか。
白には、なんとなくそう思えたが、フィオの瞳は楽しそうに輝いている。
地下への入り口を見つけた儀礼の瞳と同じ様だった。
《久し振りだな、地下へ行くのは。》
「前にも行ったことあるの?」
《あるさ。何回もな。それこそ、この学院ができたばかりの頃は、しょっちゅう入ってたぜ。》
明るい炎の体を、さらに明るくともらせて、フィオは楽しそうに語る。
《こっちの、寮の下はそれぞれ荷物をしまう倉庫になってるんだが、いざという時の避難経路にもなってるんだ。だから……。》
にやりと、フィオはそこで口を止めた。
その視線の先には、儀礼が映っている。
「ギレイ君に、見付けさせてあげるんだね。」
フィオのしたいことが分かって、白も元気良く頷いた。
嬉しそうに瞳を輝かせている儀礼に、横槍を入れて、答えを教えてしまうのは、気を削いでしまうような気がした。
《……本当に、どっちが年上かわかんないな。お前らは。》
くすくすと、可笑しそうにフィオは笑った。
「あった、入り口だ。」
木の板でできた床を見つめて、儀礼は声を上げた。
「ちょっとさび付いてるみたいだな。重たくて開かない。獅子、やってみてくれる?」
床の一部を持ち上げようとして、できずに、儀礼は獅子を振り返った。
「どれ。」
獅子が儀礼に代わって床板を持ち上げる。
正方形に床板に線が入り、1m四方ほどの扉が開いた。
床下は、真っ暗で、ほこりとかびと湿った匂いが立ち込めていた。
口と鼻をハンカチで覆って、儀礼は地下への階段を下りていく。
広さは、上の部屋と同じほどあるが、天井が頭が付きそうなほど低い。
獅子などは腰を少しかがめなければならないほどだった。
「荷物置き場みたいだね。昔は学校に通うのも貴族が多かったから荷物が多かったのかもしれないね。」
ぐるりと地下室を見回して儀礼は言った。
暗いので、持っていたランプで室内を照らしている。
《こっちだ。》
ランプの中で、炎が一際明るく輝いた。
照らし出されたのは、地下室の壁の一部。
「……ここ。これ、扉?」
取っ手のない壁の一部を、儀礼は目を細めるようにして見ながら、そっと押してみた。
ギギギギギ……。
重たい音をさせて、壁と同じ色に塗られていた木製の扉は開いた。
外には、真っ暗な長い通路。
じめっとした空気にカビとほこりの匂い。
しかし、わずかに風が通っているのが感じられる。
「人の気配、感じられる?」
「まだ分からないな。結構広そうだ、この空間。」
後からやってきたゼラードが、暗い通りの先を見通すように見ながら言った。
通路の天井は高い。
獅子はようやく背中を伸ばした。
「でも、居る可能性、あるよね。」
にっこりと儀礼は笑う。
「あるというか、高いんじゃないのか?」
ランプに火をつけて、周囲をゆっくりと見回しているのはトウイだ。
「魔物の気配はなさそうだな。」
獅子は光の剣を抜く。
その剣が、薄っすらと光を放って、周囲を明るく照らしていく。
「……なんか、ずるい。」
儀礼が頬を膨らませる。
「意味が分からねぇ。」
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