ギレイの旅
儀礼の実力
「失礼ですが、あなた方のお名前と、何故ギレイさんについて聞きたいのか教えていただけますか?」
管理局の男は笑顔を見せているが、体からは異様な警戒心が滲み出ている。
「私はエンゲル。隣はシャーロ・ランデ様。今回、彼に仕事を依頼したのですが、信用度を知りたくて。」
エンゲルはとりあえず、当てはまりそうな理由を述べる。
すると、たちまち男の顔は安堵したような、嬉しいといったような表情に変わった。
「たしかに、シャーロ・ランデさんの名で依頼されてますね。Aランク護衛ですね。エンゲルさんも冒険者確認させていただきました。」
今の一瞬でどうやってそれだけ調べたのか、ある意味不気味だ。
「そういうことでしたら、ギレイ・マドイ様は信頼のおける方です。問題ございません。」
「しかし、彼は冒険者ランクではCですよね?」
エンゲルは聞く。
「確かに、そうですね。そちらの方が我々としては不思議なのですが……。マドイ様があまり好まれないので他言しないのですが、彼は管理局ではランク”S”に認定されています。」
エンゲルは目を見開く。
ランク『S』、それはよほどの事でもなければ認められない。
「まさか……。」
エンゲルはありえないという驚愕で口を動かした。
男は、気持ちはわかる、と言うように幾度かうなずく。
「彼は歴代最年少、さらにはドルエド国内ではただ一人のSランクです。彼の所持する特許品目の中には、国を滅ぼすほどの物がいくつかあります。さらに、水のろ過装置や、風力での発電装置など、今市販されている物にも多くありますよ。」
生活活用品と、国をどうこうするような怪しげな物を同列に並べていいのだろうか。
そして、男はさらに儀礼の作品を紹介しようとする。
「いや、それはいい。しかし、それでSランクだとしても、彼自信に護衛が務まるのか?」
それらは儀礼の作った物や、頭の中に関しての評価だ。儀礼の実力ではない。
エンゲルのもっともな質問に、男はうなずいて答える。
「それでしたら、管理局の処理作業に関わる事ですが、マドイ様はBランクの魔物を何体も処理されています。古代品や遺産などの回収にも度々手を貸していただくのです。」
「だが、それは黒獅子と組んでだろう?」
「ほとんどがそうですが、『黒獅子』と組んではAランクの魔人退治などもされてますね。その他にも、黒獅子以外と組まれてBランクの依頼の処理をされています。お一人でもCランクの~、2週間ですね、遺跡を攻略されてます。射撃の腕は一級品ですしね。」
にこやかに男は儀礼の仕事ぶりを説明していく。
「ギレイ君て……。」
何者だろう。
エンゲル、白の胸に新たな疑問が浮かび上がる。
Cランク遺跡攻略とは、Aランク冒険者数人で、一ヶ月ほどかけるものだ。
「他にも、美術館から古代品を盗んだ盗賊団に、20km以上離れた所から雷撃を打ち込んで壊滅させたこともありますね。」
(……本当に何してるんだろう。)
儀礼の強さは少しずつわかった気がする。
護衛ができるということも理解できた。
しかし、……本当にそれでいいのだろうか。
どこか違和感を感じながらも、もうしばらく話をしてから、二人は応接室を出た。
エンゲルの疑問は少し解消されたが、儀礼の怪しさが増した気がしていた。
二人が応接室から出て来るのを見計らったように、一人の少女が近付いてきた。
「あ、あの、初めまして。私、レミリアといいます。お二人はギレイさんのこと聞きに来たんですよね。あの、よかったら私も話をさせてもらえませんか?! それと、できればギレイさんのいる場所を教えていただけたら嬉しいです。あの、別に迷惑はかけませんから。私、サインと握手してもらえればそれで十分なんで。でも、あの、もしギレイさんが求めるなら私でも心でもなんでもあげてもいいですけど……。」
少しいっちゃった系の……ごほごほ……夢見がちな少女らしい、レミリアさんは早口に言った。
口を挟む暇もなくしゃべり続けた彼女だが、その内容は二人にはほとんど理解不能だった。
聞き取れなかったんじゃない、翻訳不可能だった。
白はパチパチと瞬きした後、苦笑いをする。
(そういえば、ギレイ君て意外ともててたなぁ。)
以前一緒にいた時も、時たま女の子に好かれてトラブルになっていた。
「あの、ごめんなさい。そういうのは、その、ギレイ君忙しいからさ。」
白はやんわりと断る。
「そ、そうですよね。ごめんなさい、私ったら、憧れのギレイさんが近くにいるって聞いてはしゃぎすぎちゃって……。恥ずかしいわ。あ、あの、私嫌な噂聞いたんです、ギレイさんについて。『花巫女』が、ギレイさんを狙ってるって。……信じられます?!」
少女は突然語調を荒げると白ににじりより、同意を求める。
「え……? その、『花巫女』って? ……?」
白はよく分からず首を傾げる。
「評判の情報屋だけど、体で情報買ってるって噂よ。そんな人がギレイさんに近づくなんて! 許せないわよね! だめよね! かわいそうだわ! 何でも、薬まで使って無理やり聞き出すんですって。あなた、もし、『花巫女』がギレイさんに近づいたら私に教えてちょうだい。絶対に追い払ってやるんだから。」
見えない何かに向かって、レミリアは怒りをともしている。
「ああ、愛しのギレイ様。あなたの清廉は必ず私が守りますから……。」
天にでも祈るかのようにそう言うと、少女はふらふらと何かを追いかけるように歩き出す。
「いいわね、桃色の髪と瞳を見たら、必ず私に教えてちょうだい。」
突然、キッと振り返ると白を指差して、念を押すように言い、今度は外へ向かって消えていった。
(……怖かった。)
あまりのテンションに圧倒されていた白は、しばし呆然としていが、はっと我に返る。
(桃色……。)
白の頭に一人の人物が思い浮かぶ。
「ネネさん。」
忘れられないような鮮やかな色だ。
宿の廊下で我を忘れたように立ち尽くしていた男達を思い出す。
儀礼はショウフ、と言ったが、あの言葉を受け止めた白は、何か大きな勘違いをしていたんじゃないか、と気付いた。
とたんに、今までの不安定な気持ちが落ち着いてゆく。
パズルのピースが合うように、再び儀礼の姿がイメージに収まった。
優しくて、変わってて、物知りで、でもなんだか情けない。
「くすっ。」
白はかすかな笑い声をたてていた。
「どうなさいました?」
エンゲルが白の顔を覗き込むように尋ねる。
「うん。ごめんね。ありがとう、エンゲル。私、すっきりしたや。」
白はうーん、とのびをした。
すると、その目の先に黒髪の長身が映った。
「シシ! どうしたの?」
宿にいるはずの獅子にシャーロは驚きの声を上げた。
管理局の男は笑顔を見せているが、体からは異様な警戒心が滲み出ている。
「私はエンゲル。隣はシャーロ・ランデ様。今回、彼に仕事を依頼したのですが、信用度を知りたくて。」
エンゲルはとりあえず、当てはまりそうな理由を述べる。
すると、たちまち男の顔は安堵したような、嬉しいといったような表情に変わった。
「たしかに、シャーロ・ランデさんの名で依頼されてますね。Aランク護衛ですね。エンゲルさんも冒険者確認させていただきました。」
今の一瞬でどうやってそれだけ調べたのか、ある意味不気味だ。
「そういうことでしたら、ギレイ・マドイ様は信頼のおける方です。問題ございません。」
「しかし、彼は冒険者ランクではCですよね?」
エンゲルは聞く。
「確かに、そうですね。そちらの方が我々としては不思議なのですが……。マドイ様があまり好まれないので他言しないのですが、彼は管理局ではランク”S”に認定されています。」
エンゲルは目を見開く。
ランク『S』、それはよほどの事でもなければ認められない。
「まさか……。」
エンゲルはありえないという驚愕で口を動かした。
男は、気持ちはわかる、と言うように幾度かうなずく。
「彼は歴代最年少、さらにはドルエド国内ではただ一人のSランクです。彼の所持する特許品目の中には、国を滅ぼすほどの物がいくつかあります。さらに、水のろ過装置や、風力での発電装置など、今市販されている物にも多くありますよ。」
生活活用品と、国をどうこうするような怪しげな物を同列に並べていいのだろうか。
そして、男はさらに儀礼の作品を紹介しようとする。
「いや、それはいい。しかし、それでSランクだとしても、彼自信に護衛が務まるのか?」
それらは儀礼の作った物や、頭の中に関しての評価だ。儀礼の実力ではない。
エンゲルのもっともな質問に、男はうなずいて答える。
「それでしたら、管理局の処理作業に関わる事ですが、マドイ様はBランクの魔物を何体も処理されています。古代品や遺産などの回収にも度々手を貸していただくのです。」
「だが、それは黒獅子と組んでだろう?」
「ほとんどがそうですが、『黒獅子』と組んではAランクの魔人退治などもされてますね。その他にも、黒獅子以外と組まれてBランクの依頼の処理をされています。お一人でもCランクの~、2週間ですね、遺跡を攻略されてます。射撃の腕は一級品ですしね。」
にこやかに男は儀礼の仕事ぶりを説明していく。
「ギレイ君て……。」
何者だろう。
エンゲル、白の胸に新たな疑問が浮かび上がる。
Cランク遺跡攻略とは、Aランク冒険者数人で、一ヶ月ほどかけるものだ。
「他にも、美術館から古代品を盗んだ盗賊団に、20km以上離れた所から雷撃を打ち込んで壊滅させたこともありますね。」
(……本当に何してるんだろう。)
儀礼の強さは少しずつわかった気がする。
護衛ができるということも理解できた。
しかし、……本当にそれでいいのだろうか。
どこか違和感を感じながらも、もうしばらく話をしてから、二人は応接室を出た。
エンゲルの疑問は少し解消されたが、儀礼の怪しさが増した気がしていた。
二人が応接室から出て来るのを見計らったように、一人の少女が近付いてきた。
「あ、あの、初めまして。私、レミリアといいます。お二人はギレイさんのこと聞きに来たんですよね。あの、よかったら私も話をさせてもらえませんか?! それと、できればギレイさんのいる場所を教えていただけたら嬉しいです。あの、別に迷惑はかけませんから。私、サインと握手してもらえればそれで十分なんで。でも、あの、もしギレイさんが求めるなら私でも心でもなんでもあげてもいいですけど……。」
少しいっちゃった系の……ごほごほ……夢見がちな少女らしい、レミリアさんは早口に言った。
口を挟む暇もなくしゃべり続けた彼女だが、その内容は二人にはほとんど理解不能だった。
聞き取れなかったんじゃない、翻訳不可能だった。
白はパチパチと瞬きした後、苦笑いをする。
(そういえば、ギレイ君て意外ともててたなぁ。)
以前一緒にいた時も、時たま女の子に好かれてトラブルになっていた。
「あの、ごめんなさい。そういうのは、その、ギレイ君忙しいからさ。」
白はやんわりと断る。
「そ、そうですよね。ごめんなさい、私ったら、憧れのギレイさんが近くにいるって聞いてはしゃぎすぎちゃって……。恥ずかしいわ。あ、あの、私嫌な噂聞いたんです、ギレイさんについて。『花巫女』が、ギレイさんを狙ってるって。……信じられます?!」
少女は突然語調を荒げると白ににじりより、同意を求める。
「え……? その、『花巫女』って? ……?」
白はよく分からず首を傾げる。
「評判の情報屋だけど、体で情報買ってるって噂よ。そんな人がギレイさんに近づくなんて! 許せないわよね! だめよね! かわいそうだわ! 何でも、薬まで使って無理やり聞き出すんですって。あなた、もし、『花巫女』がギレイさんに近づいたら私に教えてちょうだい。絶対に追い払ってやるんだから。」
見えない何かに向かって、レミリアは怒りをともしている。
「ああ、愛しのギレイ様。あなたの清廉は必ず私が守りますから……。」
天にでも祈るかのようにそう言うと、少女はふらふらと何かを追いかけるように歩き出す。
「いいわね、桃色の髪と瞳を見たら、必ず私に教えてちょうだい。」
突然、キッと振り返ると白を指差して、念を押すように言い、今度は外へ向かって消えていった。
(……怖かった。)
あまりのテンションに圧倒されていた白は、しばし呆然としていが、はっと我に返る。
(桃色……。)
白の頭に一人の人物が思い浮かぶ。
「ネネさん。」
忘れられないような鮮やかな色だ。
宿の廊下で我を忘れたように立ち尽くしていた男達を思い出す。
儀礼はショウフ、と言ったが、あの言葉を受け止めた白は、何か大きな勘違いをしていたんじゃないか、と気付いた。
とたんに、今までの不安定な気持ちが落ち着いてゆく。
パズルのピースが合うように、再び儀礼の姿がイメージに収まった。
優しくて、変わってて、物知りで、でもなんだか情けない。
「くすっ。」
白はかすかな笑い声をたてていた。
「どうなさいました?」
エンゲルが白の顔を覗き込むように尋ねる。
「うん。ごめんね。ありがとう、エンゲル。私、すっきりしたや。」
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