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ギレイの旅

千夜ニイ

遊戯

 その時、儀礼の食事を持ったウェイターがやってきた。
「ありがとうございます。わー、おいしそう。」
湯気のあがる料理に楽しげに儀礼は笑う。


「あ、食べ終わったら先に行ってていいよ。僕ものんびり食べるし。」
テーブルにいる面々に言ってから、儀礼ははしを取る。
痛めたのが利き腕でなくてよかった。
左腕は肩の痛みからほとんど上がらなくなっていた。
このままでは不自然な食事スタイルになってしまう。


 異国の白やロッドはごまかせても、獅子は無理だろう。
「浴場の向かいに、遊戯室があったよ。白を連れてってあげてよ。」
今思い付いたと言うように儀礼が言った。
「ゆうぎ室?」
首を傾げる白。


 見かけたことはあっても、白は今まで入ったことがなかった。
「ゲーム機もあったし、エアホッケーとか、もぐら叩きとかもあったよ。」
小皿の漬物をつつきながら儀礼は言う。


「へぇ~。面白そうだな、行ってみるか。」
獅子は興味を持ったようで白を誘う。
「では、私もご一緒させていただこうか。」
お目付け役のつもりだろうか、ロッドも立ち上がった。


「白、何かで獅子に勝てたらチョコケーキおごるよ。」
儀礼が白に笑いかける。
「よーし、のった! 覚悟しろシシ!」
楽しそうに獅子を指差す白。
「うぉ。お前なんかにゃ負けねぇぞ、ちび。」
ぐしゃぐしゃと白の髪をかき回す獅子。


「あ、壊さない程度にね。」
やる気な二人に少しの不安を感じて儀礼は忠告した。
「儀礼も終わったら来いよ?」
テーブルを離れ出した獅子が、ふと振り返って言う。


「いや、今日は疲れたから寝るよ。風呂も入ったし。」
あいまいな感じで笑って儀礼は答える。
「ああ、風呂行くなら一声かけてくれりゃよかったのに。」
いつもは獅子が、本を読んだり研究にぼっとうしている儀礼を引きずるように風呂に連れていく。


「ん、ごめん。早く寝たかったからさ。明日から忙しくなりそうだし。」
儀礼にしては歯切れが悪い。
気にはなるが、早く行こうと白が獅子の手を引いている。
「この宿のチョコケーキは絶品なんだ! 絶対食べるぞー!」
白は妙な気合いを入れている。


「はは、んじゃ行くか。」
ロッドと白をひきつれて、獅子が食堂を出ていく。


 儀礼はほっ息を吐く。
「あとで痛み止めでも飲も。」
ぼそりとつぶやくと、器用に片手だけで食事を片付けていく儀礼だった。


***************


「くっそー! 一勝もできなかった。」
廊下から響いてくる白の声で儀礼は目を覚ました。
※このセリフ、ロッドは目を白黒させていそうだ(笑)
(いつの間に寝たんだろう。)
痛み止めが効いているのだろう、だるい感じはするが、痛みはない。


「まだまだだな、白。」
全勝したらしいので気分がいいのだろう。獅子の声ははずんでいる。
カチャッと音がしてドアが開く。
廊下の明かりが部屋の中にのび、儀礼はまぶしそうに目をつぶる。


 「儀礼? 寝てんのか?」
電気の消えている部屋に入り、獅子が聞く。
「おやすみー。」
と、ドアを横切り白が声をかけていく。
「おう、明日な。」
軽く手をあげ、返す獅子。


「今、起きた。」
のろのろと起き上がると、儀礼はベッドサイドのランプをつける。
「寝てていいぞ、もう夜中だし。俺らも風呂から帰ってきたとこだ。」
パタン、とドアを閉めかばんに手荷物をしまっている様子だ。


「ん~、そうだな。飲んだら寝るよ。」
そう言ってベッドサイドに置いてある水差しからコップに水をつぎ、一気に飲み干す。
「ふぅ。」
だるい体が一気に冷めていくようだ。
(生き返るー。)


「で……、だ。」
再び布団にもぐりこもうとした所で、獅子が儀礼のベッドに腰掛ける。
「ん? あぁ、仕事の話?」
そう言えば獅子に明日からの話をしてなかったと気付く。
まったく自分らしくないミスだと、儀礼は苦笑する。


「それはさっきだいたい聞いたよ。ロッドから。」
「そうか。」
よかったと思うのと、仲間うちのミスを他人にしてもらうとは、という情けない気分。


「何があった?」
探るように獅子が儀礼の目をのぞきこんでくる。
思わず視線を逸らす儀礼。


「なにが……?」
瞬時に頭をめぐらせて、言い訳を考えるが、どこを見て獅子が疑いを持ったのかが重要だ。
「左手、使ってないだろ。さっきから。」
言われてみれば確かに。
ランプをつけるのから、水を飲むまで全て右手だけだ。


(そりゃおかしいよなぁ。)
自分に苦笑しつつ、儀礼は獅子に向き直る。
「しびれてるんだ。つぶして寝てたみたい。」
左手を軽く振ってみせる。にぶい感じはするが、痛みはそれほどない。


「ふうん、そうか。エンゲルと何かあったんじゃないのか?」
儀礼は目を見開いた。
だが、それはただ純粋に驚いた、というような不思議そうな顔だった。


「……モメゴト?」
儀礼は首を傾げた。
「いや、俺じゃなくて、お前がな?」
獅子も首を傾げた。
なんだか話が通じていないようだ。


 儀礼の身に、何かがあったのは事実だろうが、エンゲルは関係ないのだろうか。
獅子は、ふぅ、と息を吐くと付け足すように話し始める。
「さっき浴場で会った時に、エンゲルがなんで儀礼と一緒にいるんだって聞いてきたからさ。いつもみたいになんかあったのかと思ったんだよ。」
なるほど、と儀礼は思った。


(エンゲルと会ってたのか。)
儀礼と獅子は二人でパーティーを組んでいるので、護衛や討伐の時、よく他のパーティーと合同になる。
そういう時、たいていの人間はひ弱そうな儀礼を獅子の腰ぎんちゃくととらえる。
そのため、黒獅子の崇拝者や、武に重きを置く者にたびたび襲われることとなっていた。
まぁ、たいてい睡眠薬でバッタリか、獅子が割って入るのだが。


「あぁ、なるほど。」
儀礼はうなずいていた。
獅子が核心をついてきたことに素直に驚いてしまったが、エンゲルの方から近付いたりと、珍しくヒントが揃っていたようだ。


『白に近付いたことに嫉妬され、弱いくせにでしゃばるな、といじめられた。』


 情けなさすぎて言う気にもなれない。
ましてや獅子に言うなど、告げ口するようなもので、これで獅子がエンゲルをぶちのめせば、まさしく儀礼は獅子の保護下におかれていることになってしまう。
(冗談じゃない。)
儀礼はギュッと口を結ぶ。


(自分の事は自分でけりをつけるし、獅子の子分になったつもりもない。)
ひどいけがをしたわけでもないし、心配させ、原因を聞かれるのも嫌だ。
何より、「何故すぐに言わない!」と怒る獅子が目に見えるようだ。
それだけで、儀礼はため息が出る。


「エンゲルは、白のことをすごく大事に思ってるみたいだね。僕じゃ守れると思えないって。ま、言われた分は返しといたけどね。」
儀礼はにっと笑う。


「大丈夫なのか?」
射抜くように見てくる獅子の目に、儀礼は心配ないと返す。
「困ったことがあれば言うよ。」
「言えよ?」
お互い頷き合うと、夜遅いこともあり、二人は眠りについた。

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