ギレイの旅
半年間のできごと
その日、儀礼と獅子と白たちはドルエドの王都で高級な宿に泊まることになった。
これからの仕事について詳しい打ち合わせをするためだった。
エンゲルとロッドにはドルエドの王城に泊まるよう勧められたが、儀礼たちは丁重にお断りした。
王のいる城でなど、ゆっくりと休めるはずがない。
しかもドルエド国王には、儀礼は何故か敵視されているような感覚があった。
嫌われているわけではないのだろうが、何か試されているような感じを覚えるのだ。
そんな落ち着かない所よりは、と選んだ宿だったが、普段儀礼たちの使う中規模の宿とは全く違う。
従業員の態度から宿の外装内装まで、完全に別物と言ってよかった。
これで落ち着いて眠れるかと言われたら答えはノーだ
ふかふかを通り越して、ふんわりとした敷布団。
掛け布団は肌触りが滑らかでシルクが使われているのだろうことがわかる。
中に入っている綿は最高級の羽毛だ。
「……選択、間違えたかな。」
虚ろな瞳で儀礼は言った。一般人の感覚では恐ろしくて触れることすらできない。
室内に飾られている皿や壷も同様だ。
「お前、毎回普通の宿に行くもんな。Sランクが知られて貴族たちに招かれても、高級宿用意されても。」
平淡な口調で獅子が言う。儀礼の態度に呆れているようである。
Sランクを与えられてからすでに1年以上が経過していると言うのに、Sランクらしい生活が身に付かない。
儀礼らしいとも思うのだが、と獅子は苦笑する。
「後で、談話室使わせてもらって打合せしよう。まずは荷物の整理が先かな。」
儀礼は鞄の中身を室内に広げる。
「白の依頼受けるために慌ててきたから、準備が整ってないんだよね。」
そう言いながら儀礼は白衣の中の機械の調整を始める。
白衣の中にはたくさんの武器や機械が内蔵されている。
「それ、見る度にロボットが思い浮かぶぞ。」
光の剣の手入れをしながら獅子が笑う。
コンコン。
そこへ、扉がノックされた。
獅子が迷わずに扉へと向かう。
その表情にはまだ笑みが浮いている。
ガチャリ。
「シシ! ギレイ君!」
開いた扉から入ってきたのは鎧を脱いだ白だった。
嬉しそうに二人に駆け寄ってくる。
「話がしたくて、来ちゃった。いい?」
わくわくと言うような表情で瞳を輝かせて白は言う。
断る理由は儀礼にも獅子にもない。
「もちろん。白は元気そうだね。変わりはない?」
白衣を着終えて、儀礼は白へと問いかける。
「うん。ずっと城にいたんだ。騎士たちに混じって剣の訓練をさせてもらってた。腕は落ちてないよ。」
にっこりと笑って白は拳を握る。
「ギレイ君たちも変わり無さそうで安心したよ。たまにフィオたちが来て色々話していってくれたけど。」
嬉しそうに白は笑う。
「ギレイ君がドラゴンを飼い始めたとか、また女の人に間違われてナンパされたとか……。」
言いつのる白の口を儀礼は手のひらでふさぐ。
「っ怖いね、精霊って。筒抜け……。」
儀礼の表情は若干青ざめている。
「《大事なことは言ってないから大丈夫だよ。》だって。他にも何かあったの?」
大きな瞳をパチパチとさせて白は儀礼を見上げる。
「えっと、……あ、背が伸びたよ。」
にっこりと嬉しそうに微笑んで儀礼は言う。
「うん、そうだね。前より少し差がついてる。」
と、白は儀礼の頭の上に手を延ばす。
「ギレイ君、前よりもっと大人っぽくなって……。」
綺麗な女の人に見える、とは儀礼が落ち込むことを知っている白には言うことができない。
しかし、事実、儀礼は以前よりも、より母親に似てきていた。
「それで、他にはどんなことしてたの?」
話を逸らすように白は獅子にも話を振る。
「ほとんとが遺跡の探索だな。儀礼が次々に依頼受けてきやがって。下はDランクから、上はAランクまで、色々行ったな。」
剣の手入れを終え、鞘に納めながら獅子は言う。
「獅子が魔物とかガーディアンとか倒してくれるから、僕はマップと仕掛けに集中できてぴったりなんだ。ギルドでも管理局でも実績になるし、いいこと尽くし。」
楽しそうに儀礼は語る。
《その出てくる魔物とかガーディアンが、Aランクなんだ。》
呆れたというように、空中であぐらをかいて、赤い精霊、フィオが言う。
「そういや、儀礼と探索したおかげで、DランクがBランクになった遺跡とかもあったな。」
腕を組み、思い出すようにして獅子が言う。
儀礼は紫色の宝石、トーラをさりげなくポケットの奥深くへと隠す。
しかし、そこからピンク色に近い紫色の精霊が飛び出してきた。
ドラゴンの翼を持った精霊、トーラ。
《私、私。》
とでも言うように、自分の胸元を指差している。
「トーラ! 元気だった?!」
何もない空中に向かって、白は微笑みかける。
《私は元気よ。前よりもずっとね。》
くすりと笑うトーラを見れば、白の知っている姿の年齢から1、2歳ほどは成長している。
特に、胸の辺り。
こほん、と小さく咳払いをして白は赤くなりかけた頬を戻す。
トーラは相変わらずのようだ。
「じゃあ、朝月さんとか、風祇も?」
白はキョロキョロと周囲を見回す。
緑色の小さな旋風を起こして、風の精霊風祇が現れた。
《お前も、元気そうだな。俺の張った結界も役に立ったようでよかった。》
小さく口端を上げて、精霊風祇は言った。
「うん。ありがとう。おかげで、あの後は何も起こらなかったんだ。」
白の言葉に、儀礼の左腕で腕輪の石が光る。
《ギレイにも感謝を忘れるな。見えないところで働くのは精霊だけとは限らない。》
白い体をうっすらとだけ現して、光の精霊朝月は言う。
その言葉を聞き、意味を吟味しようとするが、朝月の美しい姿に白の頭はぼーっとしてしまう。
《白。しっかりして。》
戒めたのは、白の青い守護精霊、シャーロットだった。
シャーロットの冷たくひんやりとした手の感触を頬に感じて、白はハッと意識を取り戻す。
「えっと、そう言えば、アイカは?」
「愛華は王都には入れられなくて、街の外に止めてあるんだ。色々手続きが必要なんだって。今度改正してやろう。」
最後の言葉だけをポツリと儀礼は呟いた。
Sランクの地位を無駄なところで濫用するつもりらしい。
「うん。みんな元気そうでよかった。」
白はまた、嬉しそうに微笑んでいた。
これからの仕事について詳しい打ち合わせをするためだった。
エンゲルとロッドにはドルエドの王城に泊まるよう勧められたが、儀礼たちは丁重にお断りした。
王のいる城でなど、ゆっくりと休めるはずがない。
しかもドルエド国王には、儀礼は何故か敵視されているような感覚があった。
嫌われているわけではないのだろうが、何か試されているような感じを覚えるのだ。
そんな落ち着かない所よりは、と選んだ宿だったが、普段儀礼たちの使う中規模の宿とは全く違う。
従業員の態度から宿の外装内装まで、完全に別物と言ってよかった。
これで落ち着いて眠れるかと言われたら答えはノーだ
ふかふかを通り越して、ふんわりとした敷布団。
掛け布団は肌触りが滑らかでシルクが使われているのだろうことがわかる。
中に入っている綿は最高級の羽毛だ。
「……選択、間違えたかな。」
虚ろな瞳で儀礼は言った。一般人の感覚では恐ろしくて触れることすらできない。
室内に飾られている皿や壷も同様だ。
「お前、毎回普通の宿に行くもんな。Sランクが知られて貴族たちに招かれても、高級宿用意されても。」
平淡な口調で獅子が言う。儀礼の態度に呆れているようである。
Sランクを与えられてからすでに1年以上が経過していると言うのに、Sランクらしい生活が身に付かない。
儀礼らしいとも思うのだが、と獅子は苦笑する。
「後で、談話室使わせてもらって打合せしよう。まずは荷物の整理が先かな。」
儀礼は鞄の中身を室内に広げる。
「白の依頼受けるために慌ててきたから、準備が整ってないんだよね。」
そう言いながら儀礼は白衣の中の機械の調整を始める。
白衣の中にはたくさんの武器や機械が内蔵されている。
「それ、見る度にロボットが思い浮かぶぞ。」
光の剣の手入れをしながら獅子が笑う。
コンコン。
そこへ、扉がノックされた。
獅子が迷わずに扉へと向かう。
その表情にはまだ笑みが浮いている。
ガチャリ。
「シシ! ギレイ君!」
開いた扉から入ってきたのは鎧を脱いだ白だった。
嬉しそうに二人に駆け寄ってくる。
「話がしたくて、来ちゃった。いい?」
わくわくと言うような表情で瞳を輝かせて白は言う。
断る理由は儀礼にも獅子にもない。
「もちろん。白は元気そうだね。変わりはない?」
白衣を着終えて、儀礼は白へと問いかける。
「うん。ずっと城にいたんだ。騎士たちに混じって剣の訓練をさせてもらってた。腕は落ちてないよ。」
にっこりと笑って白は拳を握る。
「ギレイ君たちも変わり無さそうで安心したよ。たまにフィオたちが来て色々話していってくれたけど。」
嬉しそうに白は笑う。
「ギレイ君がドラゴンを飼い始めたとか、また女の人に間違われてナンパされたとか……。」
言いつのる白の口を儀礼は手のひらでふさぐ。
「っ怖いね、精霊って。筒抜け……。」
儀礼の表情は若干青ざめている。
「《大事なことは言ってないから大丈夫だよ。》だって。他にも何かあったの?」
大きな瞳をパチパチとさせて白は儀礼を見上げる。
「えっと、……あ、背が伸びたよ。」
にっこりと嬉しそうに微笑んで儀礼は言う。
「うん、そうだね。前より少し差がついてる。」
と、白は儀礼の頭の上に手を延ばす。
「ギレイ君、前よりもっと大人っぽくなって……。」
綺麗な女の人に見える、とは儀礼が落ち込むことを知っている白には言うことができない。
しかし、事実、儀礼は以前よりも、より母親に似てきていた。
「それで、他にはどんなことしてたの?」
話を逸らすように白は獅子にも話を振る。
「ほとんとが遺跡の探索だな。儀礼が次々に依頼受けてきやがって。下はDランクから、上はAランクまで、色々行ったな。」
剣の手入れを終え、鞘に納めながら獅子は言う。
「獅子が魔物とかガーディアンとか倒してくれるから、僕はマップと仕掛けに集中できてぴったりなんだ。ギルドでも管理局でも実績になるし、いいこと尽くし。」
楽しそうに儀礼は語る。
《その出てくる魔物とかガーディアンが、Aランクなんだ。》
呆れたというように、空中であぐらをかいて、赤い精霊、フィオが言う。
「そういや、儀礼と探索したおかげで、DランクがBランクになった遺跡とかもあったな。」
腕を組み、思い出すようにして獅子が言う。
儀礼は紫色の宝石、トーラをさりげなくポケットの奥深くへと隠す。
しかし、そこからピンク色に近い紫色の精霊が飛び出してきた。
ドラゴンの翼を持った精霊、トーラ。
《私、私。》
とでも言うように、自分の胸元を指差している。
「トーラ! 元気だった?!」
何もない空中に向かって、白は微笑みかける。
《私は元気よ。前よりもずっとね。》
くすりと笑うトーラを見れば、白の知っている姿の年齢から1、2歳ほどは成長している。
特に、胸の辺り。
こほん、と小さく咳払いをして白は赤くなりかけた頬を戻す。
トーラは相変わらずのようだ。
「じゃあ、朝月さんとか、風祇も?」
白はキョロキョロと周囲を見回す。
緑色の小さな旋風を起こして、風の精霊風祇が現れた。
《お前も、元気そうだな。俺の張った結界も役に立ったようでよかった。》
小さく口端を上げて、精霊風祇は言った。
「うん。ありがとう。おかげで、あの後は何も起こらなかったんだ。」
白の言葉に、儀礼の左腕で腕輪の石が光る。
《ギレイにも感謝を忘れるな。見えないところで働くのは精霊だけとは限らない。》
白い体をうっすらとだけ現して、光の精霊朝月は言う。
その言葉を聞き、意味を吟味しようとするが、朝月の美しい姿に白の頭はぼーっとしてしまう。
《白。しっかりして。》
戒めたのは、白の青い守護精霊、シャーロットだった。
シャーロットの冷たくひんやりとした手の感触を頬に感じて、白はハッと意識を取り戻す。
「えっと、そう言えば、アイカは?」
「愛華は王都には入れられなくて、街の外に止めてあるんだ。色々手続きが必要なんだって。今度改正してやろう。」
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