ギレイの旅
白の護衛
痛む手と、肌をじりじりと焼く感触に儀礼は硬直する。
エンゲルというこの騎士とは、前に白と別れる時に一瞬、会っている。
たくましい体つきをしており、短い金髪に水色の瞳。
整った顔立ちをしており、まさに、カッコイイ騎士という感じだ。
「これ、エンゲル。失礼だぞ。以前は、シャーロ様を守って旅をした方たちだ。」
白髪に、白いひげを蓄えた老齢の騎士が言った。
「ロッド……。」
不満そうではあるが、先人である騎士に言われ、しぶしぶとエンゲルは黙った。
「失礼をしたね。確か、マドイ殿と言ったか。しかし、今回はシャーロ様の身を守るため、Aランクの実力と実績を持った護衛を募集しているのですよ。」
やんわりと、儀礼の申し出を断ろうとするロッドに、儀礼はぎこちない動作で向き直る。
まだ、エンゲルは儀礼を睨んだままだ。
(睨まれてるだけでこれじゃあなぁ……。)
儀礼の存在は、とても頼りなく見えることだろう。
溜息が出てくる。
「『黒獅子』では不満ですか?」
儀礼は、肌の焼ける感覚を無視して、精一杯に微笑む。
出すのが自分の名ではない辺りが儀礼らしいが。
「『黒獅子』とは、Aランクの実力者ではあるが、黒髪に黒い瞳と聞く。あなたがそうとはとても思えませんが?」
いぶかしむように眉根を寄せてロッドが儀礼に問いかける。
「いえ、獅子は連れです。でも、私の方でも、あなたたちに取っての重要な情報を掴むことはできそうですよ。心強い味方も大勢いますし。」
最後は意味深に、儀礼は付け足す。
「重要な情報?」
さらに困惑したように、ロッドはしわの寄った顔で儀礼を見つめる。
儀礼はにっこりと微笑む。
「情報網は明かせませんが……。」
そう言いながら、儀礼は色付きの眼鏡を外した。
「この顔は使えると思えませんか?」
儀礼の素顔を見たエンゲルとロッドはハッと息を飲んだ。
茶色の瞳以外は、映した様に白に似た顔立ち。
ほんの少し、白よりも背が高く、大人びた感じはするが。
「似ている。」
エンゲルが呟いた。
「……エリザベス様。」
震えるような声で、ロッドが言った。そして、慌てて口元をふさぐ。
二人の反応に満足そうに微笑むと、儀礼はまた眼鏡をかけ直す。
(叔母様に……似ているの?)
白は、ロッドの反応に不思議そうに首を傾げた。
白の父の妹、エリザベスは、白が生まれる前に亡くなっているため、その顔を白は知らない。
しかし、よく似ていると、周りから言われることはあった。
ロッドは古くから城に仕えているので、エリザベスという人物に実際に会っているはずだ。
「最悪、シャーロ君の身代わり位にはなれますよ。」
いたずらをする少年のような笑みを浮かべて儀礼は言った。
一瞬、何もかもばれているのでは、と思わされた騎士たちは、儀礼のその言葉に安堵した。
白が、少女だと気付いたわけではないようだ、と。
「な、何言ってるの!! そんなのだめだよ!」
儀礼の白衣を掴んで、白が詰め寄っていた。
ドルエドの王城で、ずっと守られているだけでも、大勢の人たちに迷惑をかけてきた。
それなのに、また、自分のために誰かの命を犠牲にするなんて、白にはとても許せなかった。
小柄な白に、勢いよく押されて、儀礼は足元がふらついた。
さらに、白の必死な表情に気圧される。
「うわっ……!」
儀礼は後ろへと転びそうになった。
ガシッ。
倒れかけた儀礼を、後ろから片腕で支える男がいた。
「誰が、誰の身代わりになるって……?」
怒ったような口調と、鋭い視線が儀礼を刺す。
「あ、はは。獅子。」
今まで、じっと黙っていただけに、その存在を忘れかけていた。
肌を焼く怒気に儀礼は固まる。
なんとか、ぎこちなくも、ありがとう、と述べ、自分の足でしっかりと立つ。
「ふ、二人ともさ。万が一だよ、最悪の場合。そうならないようにするのが、一番の目的だよ。」
もう一度、儀礼を一睨みした後、獅子はふぅ、と息を吐く。
「分かったよ。二度と言うなよ。」
「私も嫌だからね。」
「うん。」
二人に言われて、儀礼は力なく頷く。
(騎士二人を納得させようとしただけなのに……。)
涙が出そうな儀礼だった。
一方、儀礼達のやり取りを見ていた二人の騎士。
ゴクリ。
と、緊張からつばを飲み込んでいたのに気付いた。
儀礼の後ろから現れた黒髪の青年。
背は儀礼よりも頭一つ分高く、体には鍛えられた筋肉がついている。
身のこなしは、立っているだけで分かるように、隙がない。
何より近くにいるだけで、とんでもない圧迫感が、気迫がある。
それなのに、儀礼の後ろに立つまで、まるで気配を感じなかったのだ。
数々の修羅場と、訓練を積んできた騎士達。
そんな自分たちが、ひどく小さく感じた。
半年前、ちらりと出会った時には、まだ幼さがあり、噂を聞いては、年の割には素晴らしい素質があると認めていたのだが……。
たった半年で、化けた。
それもとんでもなく強大に。
(これが黒獅子。)
二人の騎士は視線を合わせる。
ロッドは無言のまま頷いた。
エンゲルも頷き返す。
「あなた方に、アルバドリスクまでのシャーロ様の護衛を頼みたい。」
ロッドが獅子へと手を差し出す。
儀礼が笑ったのを気配で感じた獅子は、その手を取る。
「わかりました。必ず、守り通します。」
力強く握手を交わし、獅子は答えた。
エンゲルというこの騎士とは、前に白と別れる時に一瞬、会っている。
たくましい体つきをしており、短い金髪に水色の瞳。
整った顔立ちをしており、まさに、カッコイイ騎士という感じだ。
「これ、エンゲル。失礼だぞ。以前は、シャーロ様を守って旅をした方たちだ。」
白髪に、白いひげを蓄えた老齢の騎士が言った。
「ロッド……。」
不満そうではあるが、先人である騎士に言われ、しぶしぶとエンゲルは黙った。
「失礼をしたね。確か、マドイ殿と言ったか。しかし、今回はシャーロ様の身を守るため、Aランクの実力と実績を持った護衛を募集しているのですよ。」
やんわりと、儀礼の申し出を断ろうとするロッドに、儀礼はぎこちない動作で向き直る。
まだ、エンゲルは儀礼を睨んだままだ。
(睨まれてるだけでこれじゃあなぁ……。)
儀礼の存在は、とても頼りなく見えることだろう。
溜息が出てくる。
「『黒獅子』では不満ですか?」
儀礼は、肌の焼ける感覚を無視して、精一杯に微笑む。
出すのが自分の名ではない辺りが儀礼らしいが。
「『黒獅子』とは、Aランクの実力者ではあるが、黒髪に黒い瞳と聞く。あなたがそうとはとても思えませんが?」
いぶかしむように眉根を寄せてロッドが儀礼に問いかける。
「いえ、獅子は連れです。でも、私の方でも、あなたたちに取っての重要な情報を掴むことはできそうですよ。心強い味方も大勢いますし。」
最後は意味深に、儀礼は付け足す。
「重要な情報?」
さらに困惑したように、ロッドはしわの寄った顔で儀礼を見つめる。
儀礼はにっこりと微笑む。
「情報網は明かせませんが……。」
そう言いながら、儀礼は色付きの眼鏡を外した。
「この顔は使えると思えませんか?」
儀礼の素顔を見たエンゲルとロッドはハッと息を飲んだ。
茶色の瞳以外は、映した様に白に似た顔立ち。
ほんの少し、白よりも背が高く、大人びた感じはするが。
「似ている。」
エンゲルが呟いた。
「……エリザベス様。」
震えるような声で、ロッドが言った。そして、慌てて口元をふさぐ。
二人の反応に満足そうに微笑むと、儀礼はまた眼鏡をかけ直す。
(叔母様に……似ているの?)
白は、ロッドの反応に不思議そうに首を傾げた。
白の父の妹、エリザベスは、白が生まれる前に亡くなっているため、その顔を白は知らない。
しかし、よく似ていると、周りから言われることはあった。
ロッドは古くから城に仕えているので、エリザベスという人物に実際に会っているはずだ。
「最悪、シャーロ君の身代わり位にはなれますよ。」
いたずらをする少年のような笑みを浮かべて儀礼は言った。
一瞬、何もかもばれているのでは、と思わされた騎士たちは、儀礼のその言葉に安堵した。
白が、少女だと気付いたわけではないようだ、と。
「な、何言ってるの!! そんなのだめだよ!」
儀礼の白衣を掴んで、白が詰め寄っていた。
ドルエドの王城で、ずっと守られているだけでも、大勢の人たちに迷惑をかけてきた。
それなのに、また、自分のために誰かの命を犠牲にするなんて、白にはとても許せなかった。
小柄な白に、勢いよく押されて、儀礼は足元がふらついた。
さらに、白の必死な表情に気圧される。
「うわっ……!」
儀礼は後ろへと転びそうになった。
ガシッ。
倒れかけた儀礼を、後ろから片腕で支える男がいた。
「誰が、誰の身代わりになるって……?」
怒ったような口調と、鋭い視線が儀礼を刺す。
「あ、はは。獅子。」
今まで、じっと黙っていただけに、その存在を忘れかけていた。
肌を焼く怒気に儀礼は固まる。
なんとか、ぎこちなくも、ありがとう、と述べ、自分の足でしっかりと立つ。
「ふ、二人ともさ。万が一だよ、最悪の場合。そうならないようにするのが、一番の目的だよ。」
もう一度、儀礼を一睨みした後、獅子はふぅ、と息を吐く。
「分かったよ。二度と言うなよ。」
「私も嫌だからね。」
「うん。」
二人に言われて、儀礼は力なく頷く。
(騎士二人を納得させようとしただけなのに……。)
涙が出そうな儀礼だった。
一方、儀礼達のやり取りを見ていた二人の騎士。
ゴクリ。
と、緊張からつばを飲み込んでいたのに気付いた。
儀礼の後ろから現れた黒髪の青年。
背は儀礼よりも頭一つ分高く、体には鍛えられた筋肉がついている。
身のこなしは、立っているだけで分かるように、隙がない。
何より近くにいるだけで、とんでもない圧迫感が、気迫がある。
それなのに、儀礼の後ろに立つまで、まるで気配を感じなかったのだ。
数々の修羅場と、訓練を積んできた騎士達。
そんな自分たちが、ひどく小さく感じた。
半年前、ちらりと出会った時には、まだ幼さがあり、噂を聞いては、年の割には素晴らしい素質があると認めていたのだが……。
たった半年で、化けた。
それもとんでもなく強大に。
(これが黒獅子。)
二人の騎士は視線を合わせる。
ロッドは無言のまま頷いた。
エンゲルも頷き返す。
「あなた方に、アルバドリスクまでのシャーロ様の護衛を頼みたい。」
ロッドが獅子へと手を差し出す。
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「わかりました。必ず、守り通します。」
力強く握手を交わし、獅子は答えた。
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