ギレイの旅
アルバドリスクの不穏
AN:『アルバドリスクで不穏な動きがある。』
AA:『アルバドリスク?』
暗い画面に、白い文字が浮き上がる。
そこで会話しているのは二人だけ。
その場所に侵入できるのもその二人だけだろう。
AN:『貴族の中に、王家に叛く者が出てきているようだ。だが、正体が掴めない。ギレイが一度襲われているが、あいつはその情報を渡すつもりがないらしい。』
AA:『また、潜入しろとでも言うのか?』
呆れたような様子で一人が返事をする。
AN:『できればそうしてもらいたいが、お前らは目立ちすぎる。それに、他にも探ってほしいことがある。』
AA:『何だ。』
AN:『エリザベス・ジェシカ・ランデ・アルバドリスクス。この人物についてだ。データには22年前に、16歳で死亡したとしか残されていない。』
そこで、しばらくの空白の時間があった。
AA:『死んだ人間に何の用がある。』
AN:『お前にも、心当たりがあるんだろう。』
白い文字は、無言を返答とした。
AN:『アルバドリスクの第一王女、シャーロット・ジェシカ・ランデ・アルバドリスクス。全ては彼女に鍵がある。なのに、ギレイは動かない。』
AA:『……欠落した魔力、か。抜け落ちた資料の通し番号。これは、ギレイの両親に関わってくるな。』
AN:『しかし、データ上は異常がない。』
確信したかのように文字は語る。
AA:『ドルエドの、シエンか。やっかいだな。』
そこにいる、伝説と呼ばれる男を想像して、二人の男は同時に、画面越しに苦い表情を浮かべた。
AN:『とにかく、きっとギレイは信じない。確かな証拠を得るまではな。アルバドリスクとシエン。両方の情報をこれからも集める。』
一つの白い文字が語り、もう一つの文字は了解の意味を表示させた。
そして、二種類の白い文字は消える。
画面には黒い色だけが残されていた。
*************
白がドルエドの城で過ごすようになってから半年が過ぎていた。
その日、白の元に黙ってはいられない情報が辿り着いた。
アルバドリスクで、内乱が発生したというのだ。
そんな時だからこそ避難していてよかったと、白付きの騎士達は思った。
しかしそれとは逆に、今すぐにでも国に帰りたいと白は言い出した。
「今はアルバドリスク国内は危険です。ドルエドにいる限りは安全ですから、どうか思いとどまりください!」
髪も髭も真っ白の騎士、ロッドが、すぐにでもドルエド城を出て行こうとする白を引き留める。
「だけど! お父様もお兄様も、妹たちも、危険なんでしょう! 放っておくなんてできない!」
叫ぶように言って、白は剣を持ち出す。
ドルエドに来てから半年で、白の髪は少し伸びた。
肌艶もよくなり、体にも肉が付いていた。
来月には15歳の誕生日を迎える。
そろそろ少年と偽るのも限界に達していると、騎士たちにも分かってはいた。
場所を移すべきではあった。
しかし、どこに。
今現在、ドルエドの王城以上に安全な場所など考えられはしない。
事実、ここに来てから、騎士たちの知る限り、白は、ただの一度も敵の刺客に襲われたことがなかった。
「どうしても、お兄様たちの無事を知りたいの。苦しんでいるのなら、共に戦いたいの。私は、そういう風に育てられたの!」
白はロッドへと訴える。
どうしても、生まれ育った祖国、アルバドリスクへと行きたいのだと。
「……それならば、先に私が行って、国王様たちの安全を確かめてきます。ですからシャーロ様は今まで通り、このドルエド城でお過ごしください。」
「それは、嫌! ロッドだけを危険な場所へは送り出せない。」
すでに老齢な騎士を思いやって、白は再びわがままを言う。
「わしはアルバドリスクの魔法使いですぞ。何の心配がございましょうか。」
おどけた態度で幼子をあやすようにロッドは言う。
「それでも……心配なの。」
目に、涙を浮かせて、思い通りにならないことに白は唇を噛み締める。
「それなら、ロッドとエンゲルの二人でなら? そうして、無事だって分かったら、私も行ってもいいでしょう?」
いいことを思い付いたと言うように、表情を明るくして、白は顔を上げた。
言われたエンゲルは渋面を作る。
「私は二度とシャーロ様の側を離れません。何があっても守りきります。ですから、離れることは決してありません。」
大きな体の騎士が体を屈めて、白へと視線の高さを合わせている。
その片腕は胸へと当てられていて、絶対の忠誠を表している。
「……私には、自由がないんだね。」
中庭から見える高い空を見上げて、思わずと言うように、白の口からは言葉がこぼれ落ちた。
「そのようなことはありません。敵国を黙らせ、国内の反発分子を制圧した暁には堂々とアルバドリスクの姫として、国に帰れます。」
エンゲルが言う。
しかし、白はその言葉に、何だかもわからない違和感を感じた。
姫として国に戻る。
それが、今、白のしたいこと。
(……本当にそうだったっけ?)
白は腰に提げた短剣を見る。
思い起こすのは、儀礼たちと過ごした楽しかった日々。
いつ襲われるか分からない不安はあったが、同時に、何故か、常に守られている安心感があった。
仲間とはぐれて、不安だった日々に光の差した1ヶ月の旅路。
(ギレイ君。ギレイ君ならどうする? 家族の危機に、じっとなんかしてられないよね。)
人間兵器と呼ばれた彼が、大量の兵器を持って、アルバドリスクの王城へと駆けつける様を白は想像してしまった。
その儀礼の周囲には、たくさんの精霊たちがいることだろう。
くすくすくす。
白は、いつのまにか笑いだしていた。
そんな白を二人の騎士は顔を見合わせて不思議そうに見ている。
「シャーロット、あなたが守るものは何?」
白の言葉に二人の騎士が首を傾げる。
《あなたと、アルバドリスクの国よ。》
答えたのは、凛とした青い精霊の声だった。
「そう。私が守るべきは国なの。」
白は真っ直ぐに二人の騎士を見て言った。
「私は国を守りたい。アルバドリスクの王族として。だから、力を貸して。」
白の、力のこもった瞳を見て、二人の騎士は深々と頭を垂れた。
「わかりました。我が主。それがあなたの望みであるならば、叶えるのが臣下の務め。」
白髪の騎士、ロッドが言う。
「シャーロット様。命の限りに。」
膝を着き、胸の前に右腕を掲げて、騎士、エンゲルは宣言した。
そうして、白は動き出す。
自国、アルバドリスクへと向けて。
しかし、その旅は来る時と同じく危険を伴う旅になる。
二人の騎士は護衛を雇うことにした。
Aランクで、信用のおける護衛を、ギルドに依頼した。
それから待つこと数日。
護衛の適任者が現れたと、ギルドから通達があった。
三人は王城から一番近い冒険者ギルドへと向かった。
そこにいたのは――。
金色の髪に、真っ白な白衣、茶色いサングラスをかけた、女性だった。
「ドルエドで、Aランクの護衛を探してるって聞いて。」
耳に心地よい、透き通った声で言い、にっこりと女性は笑う。
白の顔に輝くような笑みが浮かぶ。
「ギレイく……。」
「探しているのはAランクの護衛だぞ! こんな護衛される側のような女性では困る!」
エンゲルが大声で怒鳴った。
とたんに、儀礼はびくりと震える。
(相変わらずだ。)
くすりと白は笑った。
《なんだ、お前。やる気か? いいぜ、相手してやる!》
儀礼の前に出て、強気に言い張るフィオ。
そのたぎる炎の火の粉が、儀礼の体へと降り注いでいる。
「冒険者ギルドも何を考えているんだ。俺たちが頼んだのは腕っぷしの強い護衛だぞ。お前なんかお断りだ!」
儀礼が動けずにいる間に、エンゲルは白を無理矢理引き離す。
白が説明しようと口を開こうとするのすら待ってはくれない。
そうして、エンゲルは文句を言うためにだろう、ギルドの中へと入っていった。
そのあとをやれやれといった様子でロッドが追いかけて行く。
一人残された儀礼は夏の日差しの中だと言うのに、冷たい風が通り過ぎたかのような寂しさを感じていた。
AA:『アルバドリスク?』
暗い画面に、白い文字が浮き上がる。
そこで会話しているのは二人だけ。
その場所に侵入できるのもその二人だけだろう。
AN:『貴族の中に、王家に叛く者が出てきているようだ。だが、正体が掴めない。ギレイが一度襲われているが、あいつはその情報を渡すつもりがないらしい。』
AA:『また、潜入しろとでも言うのか?』
呆れたような様子で一人が返事をする。
AN:『できればそうしてもらいたいが、お前らは目立ちすぎる。それに、他にも探ってほしいことがある。』
AA:『何だ。』
AN:『エリザベス・ジェシカ・ランデ・アルバドリスクス。この人物についてだ。データには22年前に、16歳で死亡したとしか残されていない。』
そこで、しばらくの空白の時間があった。
AA:『死んだ人間に何の用がある。』
AN:『お前にも、心当たりがあるんだろう。』
白い文字は、無言を返答とした。
AN:『アルバドリスクの第一王女、シャーロット・ジェシカ・ランデ・アルバドリスクス。全ては彼女に鍵がある。なのに、ギレイは動かない。』
AA:『……欠落した魔力、か。抜け落ちた資料の通し番号。これは、ギレイの両親に関わってくるな。』
AN:『しかし、データ上は異常がない。』
確信したかのように文字は語る。
AA:『ドルエドの、シエンか。やっかいだな。』
そこにいる、伝説と呼ばれる男を想像して、二人の男は同時に、画面越しに苦い表情を浮かべた。
AN:『とにかく、きっとギレイは信じない。確かな証拠を得るまではな。アルバドリスクとシエン。両方の情報をこれからも集める。』
一つの白い文字が語り、もう一つの文字は了解の意味を表示させた。
そして、二種類の白い文字は消える。
画面には黒い色だけが残されていた。
*************
白がドルエドの城で過ごすようになってから半年が過ぎていた。
その日、白の元に黙ってはいられない情報が辿り着いた。
アルバドリスクで、内乱が発生したというのだ。
そんな時だからこそ避難していてよかったと、白付きの騎士達は思った。
しかしそれとは逆に、今すぐにでも国に帰りたいと白は言い出した。
「今はアルバドリスク国内は危険です。ドルエドにいる限りは安全ですから、どうか思いとどまりください!」
髪も髭も真っ白の騎士、ロッドが、すぐにでもドルエド城を出て行こうとする白を引き留める。
「だけど! お父様もお兄様も、妹たちも、危険なんでしょう! 放っておくなんてできない!」
叫ぶように言って、白は剣を持ち出す。
ドルエドに来てから半年で、白の髪は少し伸びた。
肌艶もよくなり、体にも肉が付いていた。
来月には15歳の誕生日を迎える。
そろそろ少年と偽るのも限界に達していると、騎士たちにも分かってはいた。
場所を移すべきではあった。
しかし、どこに。
今現在、ドルエドの王城以上に安全な場所など考えられはしない。
事実、ここに来てから、騎士たちの知る限り、白は、ただの一度も敵の刺客に襲われたことがなかった。
「どうしても、お兄様たちの無事を知りたいの。苦しんでいるのなら、共に戦いたいの。私は、そういう風に育てられたの!」
白はロッドへと訴える。
どうしても、生まれ育った祖国、アルバドリスクへと行きたいのだと。
「……それならば、先に私が行って、国王様たちの安全を確かめてきます。ですからシャーロ様は今まで通り、このドルエド城でお過ごしください。」
「それは、嫌! ロッドだけを危険な場所へは送り出せない。」
すでに老齢な騎士を思いやって、白は再びわがままを言う。
「わしはアルバドリスクの魔法使いですぞ。何の心配がございましょうか。」
おどけた態度で幼子をあやすようにロッドは言う。
「それでも……心配なの。」
目に、涙を浮かせて、思い通りにならないことに白は唇を噛み締める。
「それなら、ロッドとエンゲルの二人でなら? そうして、無事だって分かったら、私も行ってもいいでしょう?」
いいことを思い付いたと言うように、表情を明るくして、白は顔を上げた。
言われたエンゲルは渋面を作る。
「私は二度とシャーロ様の側を離れません。何があっても守りきります。ですから、離れることは決してありません。」
大きな体の騎士が体を屈めて、白へと視線の高さを合わせている。
その片腕は胸へと当てられていて、絶対の忠誠を表している。
「……私には、自由がないんだね。」
中庭から見える高い空を見上げて、思わずと言うように、白の口からは言葉がこぼれ落ちた。
「そのようなことはありません。敵国を黙らせ、国内の反発分子を制圧した暁には堂々とアルバドリスクの姫として、国に帰れます。」
エンゲルが言う。
しかし、白はその言葉に、何だかもわからない違和感を感じた。
姫として国に戻る。
それが、今、白のしたいこと。
(……本当にそうだったっけ?)
白は腰に提げた短剣を見る。
思い起こすのは、儀礼たちと過ごした楽しかった日々。
いつ襲われるか分からない不安はあったが、同時に、何故か、常に守られている安心感があった。
仲間とはぐれて、不安だった日々に光の差した1ヶ月の旅路。
(ギレイ君。ギレイ君ならどうする? 家族の危機に、じっとなんかしてられないよね。)
人間兵器と呼ばれた彼が、大量の兵器を持って、アルバドリスクの王城へと駆けつける様を白は想像してしまった。
その儀礼の周囲には、たくさんの精霊たちがいることだろう。
くすくすくす。
白は、いつのまにか笑いだしていた。
そんな白を二人の騎士は顔を見合わせて不思議そうに見ている。
「シャーロット、あなたが守るものは何?」
白の言葉に二人の騎士が首を傾げる。
《あなたと、アルバドリスクの国よ。》
答えたのは、凛とした青い精霊の声だった。
「そう。私が守るべきは国なの。」
白は真っ直ぐに二人の騎士を見て言った。
「私は国を守りたい。アルバドリスクの王族として。だから、力を貸して。」
白の、力のこもった瞳を見て、二人の騎士は深々と頭を垂れた。
「わかりました。我が主。それがあなたの望みであるならば、叶えるのが臣下の務め。」
白髪の騎士、ロッドが言う。
「シャーロット様。命の限りに。」
膝を着き、胸の前に右腕を掲げて、騎士、エンゲルは宣言した。
そうして、白は動き出す。
自国、アルバドリスクへと向けて。
しかし、その旅は来る時と同じく危険を伴う旅になる。
二人の騎士は護衛を雇うことにした。
Aランクで、信用のおける護衛を、ギルドに依頼した。
それから待つこと数日。
護衛の適任者が現れたと、ギルドから通達があった。
三人は王城から一番近い冒険者ギルドへと向かった。
そこにいたのは――。
金色の髪に、真っ白な白衣、茶色いサングラスをかけた、女性だった。
「ドルエドで、Aランクの護衛を探してるって聞いて。」
耳に心地よい、透き通った声で言い、にっこりと女性は笑う。
白の顔に輝くような笑みが浮かぶ。
「ギレイく……。」
「探しているのはAランクの護衛だぞ! こんな護衛される側のような女性では困る!」
エンゲルが大声で怒鳴った。
とたんに、儀礼はびくりと震える。
(相変わらずだ。)
くすりと白は笑った。
《なんだ、お前。やる気か? いいぜ、相手してやる!》
儀礼の前に出て、強気に言い張るフィオ。
そのたぎる炎の火の粉が、儀礼の体へと降り注いでいる。
「冒険者ギルドも何を考えているんだ。俺たちが頼んだのは腕っぷしの強い護衛だぞ。お前なんかお断りだ!」
儀礼が動けずにいる間に、エンゲルは白を無理矢理引き離す。
白が説明しようと口を開こうとするのすら待ってはくれない。
そうして、エンゲルは文句を言うためにだろう、ギルドの中へと入っていった。
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