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ギレイの旅

千夜ニイ

完成したマジックシード

 儀礼の借りた管理局の研究室に、コルロが姿を現した。
ガシャン。
サメの顎のようなトラバサミが、地面からせり出してきて、その大きな口を閉じた。
「オワッ。」
コルロは、挟まれる直前で、避けることに成功した。


「発動は確認、初速に問題ありですね。」
うーむ、と、それを仕掛けたらしい少年は、あごに手を当てて考え込んでいる。
「おい、ギレイ。これ、当たったら、ただの怪我じゃ済まないだろう……。」
発動した機械トラップを見て、コルロは引きつった表情で儀礼を見る。


「だって、みんな、背後に突然現れるんだもん。僕だって、警戒位しておかないと。」
にっこりと儀礼は微笑む。
その笑顔は、悪意などまったく感じていないように、爽やかだ。
「お前、アーデスに影響されすぎ。」
はぁ、と軽い息を吐いてコルロは周囲に他のトラップがないかを確認する。


「……。」
結果、トラップはあった。大量に。
ただ、コルロが動いたところで、すぐに起動するものではないので、気にしないことにする。
「アーデスが、どうこう以前に、元々そういう奴だったか、お前。」
くくくっ、と楽しげにコルロは笑う。


 儀礼がアーデスの研究室に仕掛けたトラップの数々を思えば、これ位のことは許容範囲だ。
むしろ、Sランクだと思えば、おかしくもなんともない。
「とりあえず、敵と味方位は判別しろよ。」
動いたトラップを確認しながら、コルロは言う。


「背後に転移陣で現れた者を無差別で起動条件にしました。背後に現れる必要はないでしょう。背後に。」
言外に、非難の意味を込めて、儀礼は言ってみる。
「あー、俺らも条件反射というか、無意識の行動だよな、それ。突然出現するわけだろ。だから、できる限り、不利にならない状況に出ようとするんだよな。身に染み付いた癖みたいなものだ。」
説明するようにコルロは言う。


「そうですか。それで、何しに来たんですか?」
忙しそうにパソコンや、紙の束に目を通しながら儀礼は言う。
アルタミラーノの資料見聞や、育成し始めたばかりのドラゴンの子供達のデータなどが大量に送られてきていて、儀礼は今、とても忙しい。


「ああ。前に話した『マジックシード』だが、とりあえず形になったから実験段階の物をいくつか持ってきてみたんだ。」
透明なガラス瓶をコルロは手に持って見せる。
中には、ビー玉のような透明な球体の中に白い粒が入っている。
他にも、小さな透明な球体の中には、赤や緑、青や黄色といった色とりどりのコーティングされたかのような綺麗な種のような物がそれぞれ入っていた。




「うわぁ! マジックシード! 本物!?」
「本物か、どうかは俺も知らないがな。」
はははっと、可笑しそうにコルロは笑う。
「この透明の膜が結界の役になっていて、シードを発動しても周囲に魔力を放出させないんだ。」
「綺麗ですね。」
感心したように儀礼はそのビー玉のようなマジックシードに見惚れる。


「これは、全部一度効果は試したやつだから、安全性は確かだ。魔法の使えない人間が使ったらどうなるかと思って、実験するために持ってきた。」
「僕、今、忙しいんですが。」
ものすごく、心惹かれるようにガラス瓶の中を眺めながら儀礼は言う。


「アーデスの方が、ずっと忙しそうにしてたぞ。俺が動いても気取られないほどにな。こんなチャンスはほとんどない。」
にやりと、コルロは笑った。
確かに、儀礼以上に今、アーデスは忙しいはずだ。
最高責任者が儀礼の名前であっても、事実動いているのはアーデスと、その下で働くことになった者たち。
アーデスは、それらの人物が裏切らないかというような、スパイ活動にも気を配らなくてはならないのだ。


「試すなら、今しかないって、ことですね。」
いたずらを思いついた、小さな子供のような表情で、儀礼はコルロを見上げる。
「そういうことだ。」
にぃ、とコルロも口の端を上げた。


「試したいのはどれです? 結構、数ありますね。」
ガラス瓶の中を覗いて、儀礼はカラカラと音を鳴らしてゆっくりと回す。
「まぁ、見れば分かると思うが、赤が炎、青が水、黄色が電撃だ。白は移転魔法な。」
コルロは入れてきた魔法の説明をする。


「フラッシュとかの、光魔法じゃないんですね。」
「お前、ライト持ってるから光源必要ないだろう。」
呆れたようにコルロは笑った。
「それもそうですね。緑が風で、茶色が大地、と。紫はないんですね。」


「不明属性の魔法、操れる奴がいたら、弟子入りしてるぞ。」
世界最高峰の魔法使いが言った。
相変わらずの、儀礼の魔法の知識のなさに、コルロは苦笑する。


「水は、前回試したし、室内に泉創られてもな。炎か風でもやってみるか?」
コルロは瓶の中から、赤色と緑色の種の入った球体を取り出した。


 透明な、ガラスの膜のようなものに包まれた、種は、不思議なことに、球体の中に浮かんでいるように見える。
「やっぱり、凄く綺麗ですね。宝石みたいだ。使うのがもったいない気がする。」
「むやみやたらに使われるようになったら世界が滅ぶからな。」
球体を覗き込む少年が、それを作り出した事実を思い出し、コルロは冷や汗を流していた。

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