ギレイの旅
スカイウィング
青い空に高く、土色のドラゴンが大きな翼を広げて、自由自在に飛び回っている。
風に乗り、風に逆らい、風を作り出し、目で追うのがやっとの速度で移動するスカイウィング。
たくさんの人間を襲い、死をもたらした凶悪なドラゴンだった。
だからこそ、Aランクの討伐の依頼が出たのだ。
そして、依頼を達成できずに餌食になった冒険者も出ていた。
「グギャァァァ!」
一鳴きすれば、地面から何本もの岩の柱がせり出してくる。
その柱の先は鋭く尖っていて、当たれば体を貫かれそうな硬さと勢いがある。
それが、高い崖の上で戦う獅子と、拓の周りで、休むことなく生え続けていくのだ。
「くそっ、やっかいだな、この岩。ドラゴンも飛び回ってて近付いて来ないし。攻撃され放題だ。」
忌々しそうに舌打ちをして、拓は生えてくる岩を剣で壊す。
獅子は、上空を飛ぶドラゴンをじっと見つめていた。
それでも、その足元は危なげなく岩の柱を避けている。
そして、生えてきた柱を踏み台にして、獅子は、高い空へと跳び上がった。
「人間だって、上空戦をやることもあるんだぜ!」
光の剣の刃を白く光らせて、獅子はスカイウィングに数度切りかかるが、ドラゴンは軽々とその実体のない刃から身をかわして飛んでいく。
「ちぃっ。」
今度は小さく獅子が舌打ちをした。
「何とかおびき寄せて低空戦に持ち込むか、叩き落して地上戦にしないと、戦いようがないな。」
太陽を背にしたドラゴンを眩しそうに見て、拓は思考をめぐらせる。
その間にも、地面からはまた、岩の柱が槍のように生えてくる。
拓は眉間にしわを寄せてその岩を叩き割ろうとして、その岩が、突如粉々に崩れるのを見た。
グウィンと、不思議な感覚がして、辺りが白い半球体に包まれている。
「これ、やったのお前か? 了?」
呆然と、驚いたように拓が聞くが、獅子は真剣な表情でドラゴンを見つめているばかりで、返答はない。
それだけ、戦闘に集中しているらしかった。
獅子の額には、大粒の汗が浮いている。
「光の剣の力ってやつか。」
自分が包まれている半径10m程の大きな球体に、不思議な感銘を受けて、拓は呟く。
伝説と言われる剣を、確かに獅子は使いこなし始めているらしい。
その白い光の中に生まれてくる茶色い岩の柱は、すぐに粉々に砕け散っていく。
「グギャァァァ!」
状況に気付いたスカイウィングがいっそう高い鳴き声を上げる。
すると、暴風と共に、いくつもの大岩が、上空から降り注いできた。
「おい、マジかよ。」
落ちてきた大岩を避けながら、拓は未知の生物、ドラゴンという存在の力を知る。
このスカイウィングは、風を操りながら、岩をも自在に使えるらしい。
いや、風を使って、この大岩を持ち上げたのかもしれない。
「なんて、馬鹿力だよ。」
Aランクという魔物の力に、拓は己の力が追いついていないことを実感してしまう。
せめて、利香達に害が及ばないよう。
戦っている獅子の邪魔にならないよう、自分の身を守り、ドラゴンの気を逸らす程度の役には立っていたい。
その時、拓は獅子の姿が地上にないことに気付いた。
まさか、岩の下敷きになっているということはあるまい。ならば、獅子はどこへ……。
空中を飛び交う大岩の上に、獅子は立っていた。
地上数十メートルという、この高さなど、気にもしていないようで、その表情はどこか楽しげに笑っている。
次から次へと、岩を足場に、獅子はスカイウィングへと近付いてゆく。
ドラゴンの鳴き声と共に飛び出してくる、岩の棘を、獅子が何もしなくても、白い光が砕き、獅子はただ、空を飛ぶスカイウィングへと視線を定めて駆け寄るだけ。
「あいつ、また強くなってる。」
戦う獅子の姿を目に焼き付けて、拓は強くなった少年を眺める。
未来の、シエンの里を守る戦士。
その強さは、確実に『黒鬼』と呼ばれる男に近付いていた。
実力に、想像以上の差を付けれられていたことに、少しの劣等感を感じずにはいられないが、それ以上に、彼が味方であるということが、拓の口元を笑わせていた。
「倒せ、了。」
戦闘に集中した獅子には、聞こえないであろう小さな声で、拓は獅子を応援する。
いつの間にか、その背を見送るしかできない自分に、不思議と悔しさはなかった。
(あれが、『黒獅子』。シエンに住まう戦士の強さだ。)
そう思えば、いずれシエンの領主になる自分が、誇らしくさえあった。
上空の大岩を足場に、獅子は自由に大空を移動する。
まるで、翼を持って、羽ばたいているかのように軽々と動く。
「くらえ!」
獅子の光の剣が、ついに、飛び回っていたスカイウィングの翼を捉えた。
ジャキン。
鋭い白い剣は、大きな翼を切り落とした。
ついに、スカイウィングはその翼を失い、上空に留まることができなくなった。
崖の上へと落ちていく。
地面へと落ちきる前に、獅子はそのドラゴンへと最後の止めを刺していた。
落下する物質よりも早く移動するその速度。
確実に獅子の実力はAランクのものになっていた。
光の剣は、ゆっくりとその光を消し去っていき、獅子は大きな息を吐いて、剣を鞘へと収めたのだった。
風に乗り、風に逆らい、風を作り出し、目で追うのがやっとの速度で移動するスカイウィング。
たくさんの人間を襲い、死をもたらした凶悪なドラゴンだった。
だからこそ、Aランクの討伐の依頼が出たのだ。
そして、依頼を達成できずに餌食になった冒険者も出ていた。
「グギャァァァ!」
一鳴きすれば、地面から何本もの岩の柱がせり出してくる。
その柱の先は鋭く尖っていて、当たれば体を貫かれそうな硬さと勢いがある。
それが、高い崖の上で戦う獅子と、拓の周りで、休むことなく生え続けていくのだ。
「くそっ、やっかいだな、この岩。ドラゴンも飛び回ってて近付いて来ないし。攻撃され放題だ。」
忌々しそうに舌打ちをして、拓は生えてくる岩を剣で壊す。
獅子は、上空を飛ぶドラゴンをじっと見つめていた。
それでも、その足元は危なげなく岩の柱を避けている。
そして、生えてきた柱を踏み台にして、獅子は、高い空へと跳び上がった。
「人間だって、上空戦をやることもあるんだぜ!」
光の剣の刃を白く光らせて、獅子はスカイウィングに数度切りかかるが、ドラゴンは軽々とその実体のない刃から身をかわして飛んでいく。
「ちぃっ。」
今度は小さく獅子が舌打ちをした。
「何とかおびき寄せて低空戦に持ち込むか、叩き落して地上戦にしないと、戦いようがないな。」
太陽を背にしたドラゴンを眩しそうに見て、拓は思考をめぐらせる。
その間にも、地面からはまた、岩の柱が槍のように生えてくる。
拓は眉間にしわを寄せてその岩を叩き割ろうとして、その岩が、突如粉々に崩れるのを見た。
グウィンと、不思議な感覚がして、辺りが白い半球体に包まれている。
「これ、やったのお前か? 了?」
呆然と、驚いたように拓が聞くが、獅子は真剣な表情でドラゴンを見つめているばかりで、返答はない。
それだけ、戦闘に集中しているらしかった。
獅子の額には、大粒の汗が浮いている。
「光の剣の力ってやつか。」
自分が包まれている半径10m程の大きな球体に、不思議な感銘を受けて、拓は呟く。
伝説と言われる剣を、確かに獅子は使いこなし始めているらしい。
その白い光の中に生まれてくる茶色い岩の柱は、すぐに粉々に砕け散っていく。
「グギャァァァ!」
状況に気付いたスカイウィングがいっそう高い鳴き声を上げる。
すると、暴風と共に、いくつもの大岩が、上空から降り注いできた。
「おい、マジかよ。」
落ちてきた大岩を避けながら、拓は未知の生物、ドラゴンという存在の力を知る。
このスカイウィングは、風を操りながら、岩をも自在に使えるらしい。
いや、風を使って、この大岩を持ち上げたのかもしれない。
「なんて、馬鹿力だよ。」
Aランクという魔物の力に、拓は己の力が追いついていないことを実感してしまう。
せめて、利香達に害が及ばないよう。
戦っている獅子の邪魔にならないよう、自分の身を守り、ドラゴンの気を逸らす程度の役には立っていたい。
その時、拓は獅子の姿が地上にないことに気付いた。
まさか、岩の下敷きになっているということはあるまい。ならば、獅子はどこへ……。
空中を飛び交う大岩の上に、獅子は立っていた。
地上数十メートルという、この高さなど、気にもしていないようで、その表情はどこか楽しげに笑っている。
次から次へと、岩を足場に、獅子はスカイウィングへと近付いてゆく。
ドラゴンの鳴き声と共に飛び出してくる、岩の棘を、獅子が何もしなくても、白い光が砕き、獅子はただ、空を飛ぶスカイウィングへと視線を定めて駆け寄るだけ。
「あいつ、また強くなってる。」
戦う獅子の姿を目に焼き付けて、拓は強くなった少年を眺める。
未来の、シエンの里を守る戦士。
その強さは、確実に『黒鬼』と呼ばれる男に近付いていた。
実力に、想像以上の差を付けれられていたことに、少しの劣等感を感じずにはいられないが、それ以上に、彼が味方であるということが、拓の口元を笑わせていた。
「倒せ、了。」
戦闘に集中した獅子には、聞こえないであろう小さな声で、拓は獅子を応援する。
いつの間にか、その背を見送るしかできない自分に、不思議と悔しさはなかった。
(あれが、『黒獅子』。シエンに住まう戦士の強さだ。)
そう思えば、いずれシエンの領主になる自分が、誇らしくさえあった。
上空の大岩を足場に、獅子は自由に大空を移動する。
まるで、翼を持って、羽ばたいているかのように軽々と動く。
「くらえ!」
獅子の光の剣が、ついに、飛び回っていたスカイウィングの翼を捉えた。
ジャキン。
鋭い白い剣は、大きな翼を切り落とした。
ついに、スカイウィングはその翼を失い、上空に留まることができなくなった。
崖の上へと落ちていく。
地面へと落ちきる前に、獅子はそのドラゴンへと最後の止めを刺していた。
落下する物質よりも早く移動するその速度。
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