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ギレイの旅

千夜ニイ

Aランクの依頼

「「ドラゴン?」」
冒険者ギルドの受付で、二人の少年の声が上がった。
一人は金色の髪に色付きの眼鏡、隠していても分かる整った顔立ちに、白衣を着た研究者風の少年。
もう一人は、黒い髪に黒い瞳、黒いマントを羽織った、全身真っ黒な姿に、背中に白い剣を背負った少年。


 白と黒の二人組みは、多くの冒険者がいるギルドの中でも目立っていた。
その二人が、出された依頼書を見て同時に声を上げたのだ。
「そうだ。ここから少し距離はあるんだが、広大な岩場地帯に巣を作っているらしくて、近隣でドラゴンに襲われるって被害が多発してるんだ。」
仕事の依頼書を示しながらギルドのマスターは説明する。


「このドラゴンの種類は空飛竜スカイウィングと言ってな、大きな翼に、細い体で、一日に数千キロも飛行することができるんだ。」
「スカイウィング、カッコイイ。」
頬をピンク色に染めて、興奮したように金髪の少年、儀礼が依頼書を覗く。


「強いのか?」
自然と、剣の柄に手をかけて、獅子が問う。
「当たり前だ! ドラゴンだぞ。ランクはAに認定されている。」
マスターの声に、儀礼は表情を曇らせる。


「それじゃぁ、僕は受けられないな。獅子、一人で受けなよ。」
にっこりと嬉しそうに笑う儀礼の表情は、何かを企んでいるようでもある。
「Aランク、おめでとう。」
今度こそ、邪気のない笑顔で、儀礼は微笑んだ。


 このギルドに入って、受付をしたら、「黒獅子はAランクに認定されている」と言われ、ライセンスの更新を促されたのだ。
そうして獅子はAランクの冒険者になった。
しかし、儀礼の冒険者ランクはDのままなので、二人のパーティーランクはBのままだ。


「ここに白がいたらなぁ、三人で受けられたのに。」
悔しそうに獅子は言う。
「いいよ。別に。獅子が受けてくれればいいだけ。」
くすりと、やはり楽しそうに儀礼は笑う。


「わかったよ。マスター、これ俺一人で受けます。」
「一人で大丈夫か? って、Aランクになった『黒獅子』様に言うことじゃなかったな。食料の補給には3日ほどかかる。だから、しっかり準備をしておけよ。岩場は広大だ。飛竜を見つけるのは楽じゃない。」
真剣な顔で獅子に注意事項を話すギルドマスター。
今までの、低ランクの仕事とは、訳が違うということか。


「わかった。日数がかかるんだな。討伐だよな、この仕事。」
依頼書を読めない獅子は儀礼に確かめる。
「うん。巣穴の場所を確かめて、複数いたら全部、討伐対象だって。」
「そうか。楽しみだな。」
拳を握り締め、うずうずとするといった感じで、獅子の口元が笑っている。


「よし、これで受付は完了だ。頑張れよ。」
依頼書を受け取って、獅子はそれを腰に下げていた鞄の中に入れる。
「じゃぁ、次は準備だね。悪いけど獅子、ちょっと管理局にも寄ってくれる?」
にやりと笑う儀礼はやはり、何かを考えているようだった。


 管理局に入ると、儀礼は受付にライセンスを差し出す。
「すみません。空飛竜くうひりゅうのデータを取りに行きたいんで、許可をもらえますか? ああ、Aランクの護衛がいますので、そちらの手配は必要ないです。」
にっこりと、爽やかな笑みを浮かべて儀礼は受付けの女性に話しかける。
儀礼の顔を見て、一瞬固まっていた女性は、儀礼のライセンスを見て、再び固まった。


「あ、あのこれは、その、失礼いたしました! あの、す、すぐに、用意いたします!」
跳び上がらんばかりに驚いて、椅子に座りなおした女性を見ながら、獅子は苦笑する。
(普段は使いたがらないくせに、よっぽどドラゴンを見たいのか。)
Sランクの権限まで持ち出して、獅子の仕事に付いて来ようというらしい。


 しかし、そこで、討伐の依頼ではなく、データを取りに行くというのが儀礼らしい。
戦うつもりはないということだ。
戦うのは、獅子の仕事だ。
腕が鳴る、と獅子はやはり、興奮したように剣の柄を握り締める。


「はい、獅子落ち着いて。周りの研究者を怯えさせない。」
受付での作業が終わったらしい儀礼が、獅子の頭を軽くはたいた。
周りには、確かに、怯えきった研究者達の姿があった。
研究職に就いている一般人は、獅子の黒い容姿と、光の剣というだけで、十分、見た目に恐怖を感じるらしい。


 それから儀礼達は、車に乗って、ドラゴンの出るという岩場の近くまでやってきた。
「うわぁ、これ本当に岩場だね。」
高い岸壁があちこちにそびえ立っている。
道という道はない。


「これは、愛華で進むのは無理だね。ここに置いて行こう。必要な荷物だけ持って、進もうか。」
儀礼の提案に獅子も頷く。
大きめな袋を持って、二人は岩場を進み始めた。
数分の後、……。


「了様!」
岩場の影から、軽旅装の姿をした利香が飛び出してきた。
「利香! お前、どうやってここに?」
獅子が驚いている。
利香一人で来られるような場所ではない。


「……。」
もはや、儀礼は黙り込んでいた。
(だから、どうやって場所を特定して追いつけるんだよ。)
しばらく前におとなしく帰ったはずの利香が、また村を抜け出してきたことに、呆れと深い溜息を吐いていた。

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