ギレイの旅
アルバドリスクの王族
アルバドリスクという国は、ドルエドの東にある国で、精霊に守護される国。
儀礼の母、エリはその国の出身だ。
精霊たちに守られた豊かな実りと、豊穣な大地、精霊魔法の発達した国。
多くの国から敬われる国。
古くから、神殿を建て、精霊の恩恵を受けている。
神殿、神官たちの聖地でもある。
そんな精霊の国、アルバドリスクの王族には、若くして亡くなった者がいる。
それは、現国王の妹、エリザベス・ジェシカ・ランデ・アルバドリスクスという姫だった。
当時、まだ16歳だった姫は、同盟国、ドルエドへと留学をしていた。
しかし留学とは名目上で、実際には、毎日のように襲い来るユートラスという国からの刺客から逃れるために、国外へと逃がしたのだった。
だが、その逃亡も虚しく、姫は、若くしてその命を落とした。
ただ一つの幸いに、姫の連れていた守護精霊は、姫を守るためにその力を使い果たして、消滅したということ。
つまり、ユートラスの手に強大な力を持った精霊が落ちることはなかったということだ。
その報せを、当時まだ王子だった国王は、妹からの最後の手紙で知らされた。
届けに来たのは、ドルエド人には珍しい、黒髪の若者だった。
手紙には、逃亡の生活に耐えられず、自ら敵の手に落ちると、悲しい別れの言葉が記されていた。
その時ほど、アルバドリスクの王が、自分の無力を嘆いたことはなかった。
手紙を握り締めて、堪えきれない涙をぽたぽたと絨毯の上にこぼれ落とさせた。
その辛い過去からすでに20年以上が経過している。
それでも、今でもまだ、アルバドリスクの国王は妹を亡くしたことを嘆いていた。
自分の子供達は何としてでも守ると、国王の地位にかけて誓っていた。
アルバドリスクの王には4人の子供がいる。
1番上の子は王子で、下の3人は姫だった。
第一王子は幼い頃に、守護精霊と契約を結んだ。
しかし、その日から、王子は何者かに命を狙われるようになった。
そのため、王子は外出は自由にできなくなり、魔法での移転すら、困難を極める。
だから、その下の子、妹姫には成人直前まで、自分の精霊を持たせなかった。
精霊を見る目を持つと言う才能に恵まれながら、精霊を持つことを許されなかった姫。
けれども、妹姫は守護精霊を抱くその日のために、精霊魔法を勉強した。
そして、身を守るための術をできる限りに会得していった。
やがて妹姫は、姫とは思えぬほどの強さを手にしていた。
冒険者ランクにして、Bランク程の腕前。
普通の冒険者としてなら十分にやっていける程の力。
しかし、守護精霊を手に入れたその日から、やはり、妹姫もまたユートラスからの刺客に襲われるようになった。
どこからか、結界に穴を作り、姫の目の前へと移転してくる。
そして、命を狙う。
おそらく、敵方は、守護精霊の契約主を殺すことによって、守護精霊を連れ帰る術を、何か知っているのだと思われた。
常に、何人もの騎士が姫の身に寄り添う生活。
姫として、少女として、心の休まる時がなかった。
王宮抱えの魔法使い達は、次期国王である、王子のみを守ることで手一杯で、下の姫にまで力を回す余力はなかった。
アルバドリスクの王は辛い決断をした。
かつて、自身の妹を失った悲しみを堪え、ドルエドへ、娘を保護する要請を出した。
ドルエド国王は快諾し、姫の魔力を結界で隠し、密かに連れ出すことを提案した。
姫の魔力の一部を、変わり身の人形へと移し、姫は極秘にアルバドリスクの城を出た。
たった二人の騎士に連れられて。
移転魔法も、転移陣も使うのは危険だった。
以前、王子が転移陣の使用中に妨害に会い、たった一人、異国へと飛ばされたことがあった。
その飛ばされた先が、侵入の難しいドルエドであったために、王子の命は無事だった。
今度また妨害に会ったなら、どこに飛ばされるかも分からない。
姫のためにも、そんな危険は犯せない。
移転魔法を使えば、折角隠した、姫の姿を敵方に見せることに繋がる可能性もある。
大丈夫かもしれないが、やはり、危険を冒すのは恐ろしかった。
そして、姫と騎士たちの三人での旅の中、身代わり人形の効果が切れ、姫はついに敵に見つかり襲われた。
ユートラスは、アルバドリスクの町中を探す人海戦術を用いてきていた。
命を狙った攻撃を仕掛けてくる敵の刺客たち。
本気で、姫を狙っていると思わされるできごとだった。
そして姫は、二人の騎士に守られて逃げながら、ついには、ドルエドとの国境になっている大きな川に落ちてしまった。
その頃、王城では、兄である王子が、妹の行方不明を聞き、暴れだしていた。
「俺を、俺の方をドルエドへ送ればよかったんだ! 妹は精霊を見る目を持っていた。あの子こそが、この国の王にふさわしいんだ! あの子を探せ。何としても探し出せ! 俺を囮にして構わない。あの子を助けてくれ!!」
悲痛な叫びが、城内にこだましていた。
だが、その爆発的な魔力のおかげで、姫を狙っていた刺客たちは姫を探す目を一時的に眩まされ、それが、妹姫の逃げる時間になった。
兄と二人の妹。大好きなその人たちが、一緒に居れば狙われる。
逃げる妹姫はそのことを理解していた。
まだ幼い妹達でも、誘拐し、子を成せば、その子供は守護精霊を得る資格を持つ。
そして後は、アルバドリスクの王が死ねばいい。
時を待つだけになる。
アルバドリスクは幼い二人の妹姫の存在を世界に公開していない。
第一王子アルフォードと、第一王女シャーロットだけが世間に公開されていた。
兄の王子が狙われたのは、第一王女のことを公開した後のことだったからだ。
その頃、ユートラスはしばらく静かにしていたのだ。
当時、ユートラスは他の国に手を出していた。
隣り合った別の国、ナギアイとスロスス。
しかし、ユートラスに取ってのうまみはやはりアルバドリスク。
精霊に守護された豊かな国。
二代に渡って繰り返されようとする悲劇を、アルバドリスクの王と王子は何としてでも食い止めたかった。
ドルエドから、姫を無事に保護したという報せを受けたときには、本当に安堵したものだ。
そして、どういうわけか、王城で暮らす姫の元に、ユートラスからの刺客も姿を見せないという。
それどころか、敵国であるユートラスは現在、国内で起こった事故により、混乱中だという。
ドルエドの王城で、剣戟の音が響く。
キン、カキン、カン。
テンポ良く打ち合わされる剣は、剣術に慣れた者同士の打ち合いのようだった。
耳が隠れる程度の長さの金色の髪。
長いまつげと、ラピスラズリを嵌め込んだかのような深い青の瞳。
肌の艶なども良くなり、とても上品な顔立ちが、良い生まれであることを思わせる容姿の、少年の服装をした――。
「シャーロ様! また、そんな格好で、騎士達に混じって。あなたはどうしてそう、姫としての自覚が……。」
背の高い、騎士の格好をした逞しい体つきの男が、ドルエドの騎士たちの剣の訓練に混じっていた白を咎めようとするのを急いでその口を塞いで体の小さな少年は黙らせる。
「エンゲル! 私はここでは姫ではないよ。アルバドリスクの貴族の少年、シャーロだ。」
刃の白い剣を、慣れた動作で一振りし、鞘に収めると、小声で言って、にっこりと白は微笑む。
「ギレイ君の弟の、ただの白でもいいんだけどね。」
眼鏡をかけるまねをして、白は嬉しそうに笑った。
守護精霊シャーロットが、青い光を放ち、その隣りで微笑んでいた。
儀礼の母、エリはその国の出身だ。
精霊たちに守られた豊かな実りと、豊穣な大地、精霊魔法の発達した国。
多くの国から敬われる国。
古くから、神殿を建て、精霊の恩恵を受けている。
神殿、神官たちの聖地でもある。
そんな精霊の国、アルバドリスクの王族には、若くして亡くなった者がいる。
それは、現国王の妹、エリザベス・ジェシカ・ランデ・アルバドリスクスという姫だった。
当時、まだ16歳だった姫は、同盟国、ドルエドへと留学をしていた。
しかし留学とは名目上で、実際には、毎日のように襲い来るユートラスという国からの刺客から逃れるために、国外へと逃がしたのだった。
だが、その逃亡も虚しく、姫は、若くしてその命を落とした。
ただ一つの幸いに、姫の連れていた守護精霊は、姫を守るためにその力を使い果たして、消滅したということ。
つまり、ユートラスの手に強大な力を持った精霊が落ちることはなかったということだ。
その報せを、当時まだ王子だった国王は、妹からの最後の手紙で知らされた。
届けに来たのは、ドルエド人には珍しい、黒髪の若者だった。
手紙には、逃亡の生活に耐えられず、自ら敵の手に落ちると、悲しい別れの言葉が記されていた。
その時ほど、アルバドリスクの王が、自分の無力を嘆いたことはなかった。
手紙を握り締めて、堪えきれない涙をぽたぽたと絨毯の上にこぼれ落とさせた。
その辛い過去からすでに20年以上が経過している。
それでも、今でもまだ、アルバドリスクの国王は妹を亡くしたことを嘆いていた。
自分の子供達は何としてでも守ると、国王の地位にかけて誓っていた。
アルバドリスクの王には4人の子供がいる。
1番上の子は王子で、下の3人は姫だった。
第一王子は幼い頃に、守護精霊と契約を結んだ。
しかし、その日から、王子は何者かに命を狙われるようになった。
そのため、王子は外出は自由にできなくなり、魔法での移転すら、困難を極める。
だから、その下の子、妹姫には成人直前まで、自分の精霊を持たせなかった。
精霊を見る目を持つと言う才能に恵まれながら、精霊を持つことを許されなかった姫。
けれども、妹姫は守護精霊を抱くその日のために、精霊魔法を勉強した。
そして、身を守るための術をできる限りに会得していった。
やがて妹姫は、姫とは思えぬほどの強さを手にしていた。
冒険者ランクにして、Bランク程の腕前。
普通の冒険者としてなら十分にやっていける程の力。
しかし、守護精霊を手に入れたその日から、やはり、妹姫もまたユートラスからの刺客に襲われるようになった。
どこからか、結界に穴を作り、姫の目の前へと移転してくる。
そして、命を狙う。
おそらく、敵方は、守護精霊の契約主を殺すことによって、守護精霊を連れ帰る術を、何か知っているのだと思われた。
常に、何人もの騎士が姫の身に寄り添う生活。
姫として、少女として、心の休まる時がなかった。
王宮抱えの魔法使い達は、次期国王である、王子のみを守ることで手一杯で、下の姫にまで力を回す余力はなかった。
アルバドリスクの王は辛い決断をした。
かつて、自身の妹を失った悲しみを堪え、ドルエドへ、娘を保護する要請を出した。
ドルエド国王は快諾し、姫の魔力を結界で隠し、密かに連れ出すことを提案した。
姫の魔力の一部を、変わり身の人形へと移し、姫は極秘にアルバドリスクの城を出た。
たった二人の騎士に連れられて。
移転魔法も、転移陣も使うのは危険だった。
以前、王子が転移陣の使用中に妨害に会い、たった一人、異国へと飛ばされたことがあった。
その飛ばされた先が、侵入の難しいドルエドであったために、王子の命は無事だった。
今度また妨害に会ったなら、どこに飛ばされるかも分からない。
姫のためにも、そんな危険は犯せない。
移転魔法を使えば、折角隠した、姫の姿を敵方に見せることに繋がる可能性もある。
大丈夫かもしれないが、やはり、危険を冒すのは恐ろしかった。
そして、姫と騎士たちの三人での旅の中、身代わり人形の効果が切れ、姫はついに敵に見つかり襲われた。
ユートラスは、アルバドリスクの町中を探す人海戦術を用いてきていた。
命を狙った攻撃を仕掛けてくる敵の刺客たち。
本気で、姫を狙っていると思わされるできごとだった。
そして姫は、二人の騎士に守られて逃げながら、ついには、ドルエドとの国境になっている大きな川に落ちてしまった。
その頃、王城では、兄である王子が、妹の行方不明を聞き、暴れだしていた。
「俺を、俺の方をドルエドへ送ればよかったんだ! 妹は精霊を見る目を持っていた。あの子こそが、この国の王にふさわしいんだ! あの子を探せ。何としても探し出せ! 俺を囮にして構わない。あの子を助けてくれ!!」
悲痛な叫びが、城内にこだましていた。
だが、その爆発的な魔力のおかげで、姫を狙っていた刺客たちは姫を探す目を一時的に眩まされ、それが、妹姫の逃げる時間になった。
兄と二人の妹。大好きなその人たちが、一緒に居れば狙われる。
逃げる妹姫はそのことを理解していた。
まだ幼い妹達でも、誘拐し、子を成せば、その子供は守護精霊を得る資格を持つ。
そして後は、アルバドリスクの王が死ねばいい。
時を待つだけになる。
アルバドリスクは幼い二人の妹姫の存在を世界に公開していない。
第一王子アルフォードと、第一王女シャーロットだけが世間に公開されていた。
兄の王子が狙われたのは、第一王女のことを公開した後のことだったからだ。
その頃、ユートラスはしばらく静かにしていたのだ。
当時、ユートラスは他の国に手を出していた。
隣り合った別の国、ナギアイとスロスス。
しかし、ユートラスに取ってのうまみはやはりアルバドリスク。
精霊に守護された豊かな国。
二代に渡って繰り返されようとする悲劇を、アルバドリスクの王と王子は何としてでも食い止めたかった。
ドルエドから、姫を無事に保護したという報せを受けたときには、本当に安堵したものだ。
そして、どういうわけか、王城で暮らす姫の元に、ユートラスからの刺客も姿を見せないという。
それどころか、敵国であるユートラスは現在、国内で起こった事故により、混乱中だという。
ドルエドの王城で、剣戟の音が響く。
キン、カキン、カン。
テンポ良く打ち合わされる剣は、剣術に慣れた者同士の打ち合いのようだった。
耳が隠れる程度の長さの金色の髪。
長いまつげと、ラピスラズリを嵌め込んだかのような深い青の瞳。
肌の艶なども良くなり、とても上品な顔立ちが、良い生まれであることを思わせる容姿の、少年の服装をした――。
「シャーロ様! また、そんな格好で、騎士達に混じって。あなたはどうしてそう、姫としての自覚が……。」
背の高い、騎士の格好をした逞しい体つきの男が、ドルエドの騎士たちの剣の訓練に混じっていた白を咎めようとするのを急いでその口を塞いで体の小さな少年は黙らせる。
「エンゲル! 私はここでは姫ではないよ。アルバドリスクの貴族の少年、シャーロだ。」
刃の白い剣を、慣れた動作で一振りし、鞘に収めると、小声で言って、にっこりと白は微笑む。
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