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ギレイの旅

千夜ニイ

名前のリスト

【Aalto,Adil(アーデイル・アールト) Aalto,Daisy(デイジー・アールト) Aalto,Hana(ハナ・アールト)
 Aalto,Olive(オリバー・アールト) Aalto,Rovert(ロバート・アールト)
 Aaltonen,Adolf(アドルフ・アールトネン) Aaltonen,Braian(ブライアン・アールトネン)
 Aaltonen,Diana(ディアナ・アールトネン) Aaltonen,Quincy(クインシー・アールトネン)
 Aarne,Aimee(エイミー・アールネ) Aarne,Nikola(ニコラ・アールネ)
 Aaron,Alexej(アレクセイ・アーロン) Aaron,James(ジェームズ・アーロン)
 Aaron,Jim(ジム・アーロン) Aaron,Leo(レオ・アーロン) Aaron,zoe(ゾーイ・アーロン)
 Aattela,Angela(アンジェラ・アーテッラ) Aattela,Boris(ボリス・アーテッラ)
 Aattela,Konstantin(コンスタンティン・アーテッラ) Aattela,Marek(マルク・アーテッラ)
 Aavikko,Audrey(オードリー・アーヴィッコ) Aavikko,Patrik(パトリク・アーヴィッコ)
 Aavikko,Simon(サイモン・アーヴィッコ) Aavikko,Xaver(クサヴェル・アーヴィッコ)…………】


 Aから始まる人名がずらりと並んだリスト。
儀礼の資料の中にあって、4、5日に1回は儀礼がアクセスしている。


『これは何の資料だ?』
無数に並んだ名前の列に、アーデスは不思議に思って、それらの資料に詳しい『アナザー』へと訊ねる。
『儀礼が将来、自分の子供には付けない名前だそうだ。』
からかうような調子で、アナザーは答える。


 リストはずっと下へスクロールしてもまだまだ先へと続いている。
『苗字までもか?』
ふざけた態度のアナザーに呆れたようにアーデスは言う。


『ギレイに関わって、捕まったり、殺されたり、死んだりした人物の名前だよ。』
今度は正直にアナザーは返した。
『それは……こんな物、覚えていてもおかしくなるだけだろう。』
『全部暗記してるんだってよ。ギレイは。』


 儀礼は自分の兵器を管理局に使わせる時、相手の事を徹底的に調べさせる。
それが、この名前を知るためでもあったのだろう。
『気違いじみてる。』
眉をひそめてアーデスは言う。


 アーデスはもう、自分が殺した相手のことなどほとんど覚えていない。
覚えられないほどの人を殺してきた。
それを、儀礼は全てを覚えていると言うのだ。


『そういう奴なんだよ。こんな物、作る必要ないって言ったって、聞きやしない。命の重さってものを背負ってるつもりなんだな。きっと。』
分かる、とアーデスは眉間のしわを消した。
共感したのは儀礼に、ではない。このアナザーという人物にだ。


 こんなリストは作る必要などない。毎日、大量にそこに名が増えていくのを、数日置きに儀礼は確認している。
そんな深い罪を、その少年一人で、背負う必要などないというのに。
それなのに、それを背負おうとする少年だからこそ、アーデス達は心を引き寄せられる。
不安定に揺らぎそうに見えながら、いつでも真っ直ぐで、その髪の色のように透き通るように綺麗な少年の心。


 精霊たちが引き寄せられるのと同じ様に、多くの人間もまた、彼に引き寄せられる。
魅力のある人間。そういうものなのだろう。


『それより、カイダルの人身売買の組織のことだが、辿っていったら人体収集家に行き着いた。氷の谷に関わっているかは分からないがな。』
アナザーの言葉に、アーデスは面倒そうに溜息を吐く。
『そこまで調べろよ。』
『データになってないものは専門外なんだよ。』
当然というようにアナザーは答える。


『仕方ない。こちらで探るか。』
『女の方が侵入しやすいぞ。主のティーレマンは女にめっぽう弱い。集めているのも女性の標本ばかりだがな。』
『悪趣味だな。』
口の端に苦い笑みを浮かべてアーデスは鼻で笑う。
世の中、そういう人間ばかりだ。


 しかし、とアーデスは考える。
アーデスの仲間の女性2人。
ヤンは情報収集能力と、潜入などはできるが、いざという場合の攻撃力に欠ける。
もう一人の、ワルツは、攻撃力はあるが、あまり情報収集には向かない。
2人、ペアで送り込むのが妥当なところか、とアーデスはあごに手を当てる。


『カイダル!? 行きたい!』


 アーデスの頭の中に、幻聴が聞こえた。
「……。」
アーデスの護衛対象は随分と無茶苦茶な少年だ。
しかし、情報を扱う能力はずば抜けている。


 それに、美女にしか見えないという、容姿を持っている。
何より、氷の谷に関しては責任者でもある。
全権をアーデスに委ねてはいるが。
『全権を』。その言葉に、にっこりとアーデスは意味深な笑みを浮かべた。


 ***


「氷の谷の人が関わってるかの調査? やるよ。」
迷う間もなく、儀礼は答えた。
アーデスの思惑通りで、思わず浮かびそうになる邪悪な笑みを爽やかな微笑みの下に隠す。


「場所はカイダルです。金持ちの収集家、ティーレマン氏の家に客人として紛れ込んでください。ただし、常にヤンとワルツと一緒にいることが条件ですが。」
「いいよ。それ位。二人が僕の護衛って事ね。」
にっこりと嬉しそうに笑って儀礼は言う。


「ええ。絶対に二人と一緒に。ドレスで。」
爽やかな微笑みのまま、アーデスは言う。
「えーっと、ドレスコードがあるから正装でって事だよね。」
笑顔から、冷や汗を流して儀礼はアーデスの言う間違いを正そうとする。


「いえ、女性物のドレスです。ティーレマンは女性に特別甘いらしいので。」
にっこりとアーデスは微笑んでいる。
「僕、やっぱり裏方に回ろうかな――」
「やる、と言いましたよね。」


 儀礼が断りの言葉を言い終える前に、アーデスが強い語調で確認を取る。
「……はい。」
仕方なく、儀礼はうなずいた。
しかし、ドレスを着る意味がまったく持って分からない。
単なる、アーデスの思いつきのいたずら心だとは、さすがの儀礼も考えが及ばなかった。

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