ギレイの旅

千夜ニイ

誕生石

 儀礼達の前に現れた、ミランダと言う少女は、シュリの友達のようだった。
「お前の方こそ、そろそろうちに嫁に来る気になったのか?」
にぃ、と口を真横に開いて、シュリが笑う。
後継者問題が落ち着いた今になっても、シュリの癖は収まっていないらしい。


「あなたの方こそ、うちに買い物に来なさいよ。」
シュリの冗談を軽く流して、商売を出してくるとは、仕事上手な少女だなぁ、と儀礼は感心する。
「ミランダの家は、何屋さん?」
儀礼は首を傾げて問いかける。


「文具店だよ。」
シュリが答えた。
「学校卒業したら、ほとんど使わないだろう。」
当然だろうと、言うように、腰に手を当ててシュリはミランダを見る。


「だって、卒業したらぱったり来なくなるなんて……。一緒に卒業したカナルは、たまに来るわよ。」
「カナルのは親父の遣いだろ。」
言い合う2人の間に、儀礼が首を傾げて言葉を挟む。


「あれ? 一緒に卒業って、シュリって1学年上だよね。」
「ああ。俺、カナルと一緒に学校に入ったんだ。だから、1年遅れてるんだよ。俺が6歳になった時は、うち、金銭的に余裕がなくてな。」
苦笑するように笑い、頬をかいて、シュリが答えた。


「そうなんだ。なんだ。シュリ、同学年じゃん。」
カラカラと儀礼は笑う。
「せっかくだから、買い物していこうよ。」


「何買うんだよ。」
ミランダの家はどこにでもあるような文具店だ。
Sランクの儀礼が買いたがるような物騒な物など置いていない。
「鉛筆1ダースと、消しゴム1ダース。」
シュリの失礼な思考を読んだ様に、にやりと笑って儀礼は言う。


「毎度あり~♪」
ミランダが明るい返事をした。


 そうして3人は、ミランダに連れられて、文具店へとやってきた。
「消耗品はいくらあっても困らないだろう。ん? ミランダ。これって何?」
文具店の店先に、小さくて、綺麗な石が蓋のない箱に入って並んでいた。


「お守りよ。学業とか、恋愛とか、健康とか、お土産屋さんとかでも売ってるんだけど、見た目が綺麗でしょ。結構売れるのよ。」
雑然と並んだ石を、綺麗に並べ直しながらミランダが説明する。
「ブレスレットにしたり、ネックレスにしたり、袋の中に入れて使えば男の人だって持てるし。」
「魔石なの?」


 儀礼の問いに、ミランダは首を振った。
「ううん。魔石ほどは魔力のない石よ。でも、効き目は結構あるみたいで、運が良くなったとかって言って、よく売れるの。」
嬉しそうにミランダは言う。
確かに、綺麗な石は年頃の少女達に人気がありそうだ。
色ごとに、効果が別れているのも面白い。


「獅子、1個買っていきなよ。」
「何で俺が。」
暇そうにしていた獅子を儀礼は呼び止めた。


「健康運とかって……そっか、バカは風邪引かないんだもんな。必要ないか。」
「そうか、そうか。必要なのはお前だな。」
獅子が手の平で儀礼の頭を掴む。


「いたい! 痛い! 冗談だから。」
ミシミシと音がしそうな程に、獅子の指が儀礼のこめかみに食い込んでいた。
「でも、ピンクトルマリンは利香ちゃんの誕生石だよ。」
頭を押さえて、涙目で儀礼は獅子を見上げる。


「……。」
結局、獅子はピンク色の小さな石を1つ買った。


「ついでに加工してもらいなよ。金具つけて、チェーン通してもらえば、ネックレスになるから。」
「はい、毎度あり! すぐにできるわよ♪」
ミランダが明るい声で答える。


「ギレイ、7月の誕生石って何だ?」
「ルビーだったかな。赤い石だよ。」
シュリの問いに儀礼はすぐに答える。


「ふーん……ミランダ、これも一緒に頼む。」
赤い石を箱から取り出してシュリがミランダに渡した。
「はーい! 毎度あり♪」
嬉しそうに笑いミランダは石を金具で加工する。
その細かい作業の手際は見事で、ミランダはあっという間に二つのネックレスを作って見せた。


「7月生まれはラーシャちゃんだっけ? 皆、順番にあげるのかしら?」
商魂逞しい笑顔でミランダがシュリから代金を受け取る。


「いや、お前にだよ。」
そう言って、シュリはミランダの首にネックレスを下げた。
「赤い石は『命の守護』だってよ。お前は商売が絡むと自分の身をかえりみない時があるからな。一応お守りだろ、それ。」


「うわっ。シュリってばいい男。」
ケラケラと儀礼が笑う。
「バカか。こいつが、お前にケンカ売るような態度、取ったりするからだろう。『Sランク』にケンカ売るなんて、命知らずなこと。」
儀礼の顔を指差して、シュリは言った。


「エ、Sランク?」
硬い声でミランダが言った。若干声が震えている気がする。
「バラすのかよ。僕の身にもなれ。正体バレると身の危険が増えるんだぞ。」
「そのための護衛だろう。そう言う訳で、俺、今、本当に仕事中なんだよ。凄い奴に会えたな、ミランダ。」
くくくっ、とシュリが笑う。


「こいつが幻のSランク、『蜃気楼』だ。」
儀礼の頭に手を置いて、また笑うようにしてシュリは言った。
態度が明らかに、子ども扱いである。


「ったく。改めて、管理局Sランク、ドルエドのギレイ・マドイです。よろしく。気にしないで気楽にしてくれればいいから。」
「あの噂の『蜃気楼』……っ!」
にっこりと笑った儀礼の手を、ミランダは、震える手で握り返していた。

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