ギレイの旅
弱くはない少年
儀礼が運び込まれたのは、最終車両に近い後ろから2番目の車両だった。
そこには、儀礼の他に、利香と、十数人の少女たちが閉じ込められていた。
(アナザーの情報よりも多い。もしかしたら事前から集めていたのかもしれない。)
周囲を観察しながら、儀礼は静かに考える。
車両の中、震えながら寄り添う少女達。
「怖い……怖いよぉ。」
「こんな所で死にたくない……。」
ひそひそと囁かれる声は絶望の言葉。
「大丈夫よ、大丈夫。絶対に助けが来るから。」
明るく、励ますその声も震えていた。
黒い瞳から涙を流して。
「お前もおとなしくこの中で待ってろ。次に逃げ出そう何て考えたら、その足、切り落としてやるからな。」
男はそう言って、儀礼を車両の中へと押し込んでいった。
肩に担がれている時に、儀礼のフードが頭に深く被さっていた。
白い衣に身を包んだ儀礼の表情は立っている見張りの男達からは見えない。
「……ない。……ない。」
肩を震わせて小さな声で、何かを言うその少女の姿もまた、怯えて震えているかのように見えていた。
しかし、利香だけが、その声の主に気付いた。
驚いたように目を見開いた利香に、しかし、儀礼は気付かない。
「あいつら、絶対許さない!」
怒りに震え、そう呟く少年は、いつも通り、白衣に身を包む利香の良く知る『儀礼君』だった。
他の少女達はみな、自由の身なのに、儀礼だけが後ろ手に縛られている。
考えられることは、拓が利香の身を心配して、儀礼をこの場へと送り込んだということ。
見目の麗しい美女だけを集めているらしい、この列車の中に。
眉間にしわを寄せた儀礼のその表情は、可愛い顔が台無しで、残念でならない。
そう思いながら、利香は気付く。
利香の瞳からは、いつの間にか、涙が流れることが止まっていた。
食事の時間になり、人数分の料理が運ばれてきた。
そこで初めて、見張りの男達は人数が一人増えていることに気付いた。
「本当に、節穴だらけだね、ここの奴らの目は。僕を誰だと思ってるんだよ。誰が女だ!」
ようやく気付いてもらえた儀礼は、ここぞとばかりに怒りを爆発させる。
「まさかっ!」
見張りの一人が、儀礼に近付き、その白いフードを持ち上げた。
「……いや、女だろう。」
その言葉に、儀礼のこめかみには青筋が浮かぶ。
「いや、だが、男だろうが女だろうが、この列車の中に紛れ込むとは。どういう意味か分かっているんだろうな。」
見張りの男が短剣を抜いたとき、騒ぎを聞きつけて、先程、儀礼をここへと連れて来た男がやってきた。
彼らをまとめる地位にいる男。
「何の目的でここへ来た。ここがSランクのアルタミラーノ様の試験場と知っていてか!」
怒る男を儀礼は睨み返す。
「その試験を荒らしているのはお前の方だろう。バシリオ。何故こんなことをする。」
そう言った儀礼の頬を男が殴った。
利香が悲鳴をあげる。
「お前に、何が分かる。どうせアルタミラーノ様の資料を狙った盗賊風情だろう。」
儀礼がバシリオと呼んだ、その男の目は不思議なことに、真っ直ぐな光を宿していた。
「ふん。捧げる心がまだ残っているのか。」
バシリオの拳など、大して効いていないように儀礼は笑う。
その挑発に、また男が拳を握る。
「やめて!」
と、利香が悲鳴をあげた。
拓や獅子に手も足も出ない儀礼の弱さを利香は知っている。
一方的にやられてしまうほど、儀礼は弱いのだ。
こんな、屈強で強そうな男に殴られたらただではすまないだろう。
利香の目に涙が浮かび上がる。
「何だ、知り合いだったのか。攫われた娘を助けに来たのか?」
バシリオが儀礼を馬鹿にしたように笑う。
(いや、助けるのを反対して仲間割れになってこのざまだよ。)
縛られた両手を思って儀礼は片方の口の端を上げる。
心の中で愚痴った儀礼。
しかし、何も答えない儀礼に苛立ったように、バシリオが腕を振り上げる。
「きゃぁっ!」
利香は目をつぶった。
しかし、男の腕が儀礼に届く前に儀礼は空中に飛び上がった。
そのまま横に一回転して、バシリオの側頭部に体重を乗せた蹴りを入れた。
バシリオは勢い良く吹き飛ばされる。
ドコン。
列車の装甲がバシリオの体が当たったことで大きく歪んだ。
「何!」
周りで安心したように見ていた男たちが驚き、慌てだす。
「英、もういい。茶番は終わりだ。」
儀礼が言うと、今までじっとしていた護衛機が動き出す。
その二本の足を武器に変え、男達に狙いを定める。
ドドドド……。
英が撃ったのは実弾。
今までのゴム弾とは違い、怪我もするし血も出る。
だが、威力は弱いので、よほど当たり所が悪くなければ死にはしない。
見張りの男達は倒れ、痛みに呻く。
儀礼はいつの間にか両手の縄を切っていた。
英の攻撃で倒しきれなかった男たちが次々に襲いかかってくる。
それを、儀礼はかわし、蹴りを入れ、倒していく。
改造銃を取り出せば、離れていた所にいた男達すらも気絶させてゆく。
(全然、弱くない。)
利香は呆然と儀礼の戦いを見ていた。
次々と男達を倒し、英と二人、あっという間にその場を制圧してしまったのだ。
今度は、この列車から脱出するため、先頭車両へと掛け合わなくてはならないと言う。
「ここに残していくのは心配だし、一緒に来る?」
儀礼がにっこりと微笑めば、少女達はみな、一様にその笑みに見惚れて、思わずというように頷いていたのだった。
そこからも、儀礼は、怯える少女達の手を引き、辺りを警戒しながら、英と共にその車両を抜け出す。
見張りや、研究者を見つけるたびに瞬時に気絶させ、安全な通り道を確保する。
場所によっては、荷物が詰まれていて、よじ登らなければ先に進めないようになっている場所もあった。
そんなばしょでは、儀礼は少女達を力強く引き上げる。
一緒に捕まり、怯えていた少女達の頬が赤く染まっていくのを、利香は確かに見た。
「言っておこうか?」
不思議そうな顔をしている利香を見て、にやりとイタズラな笑みで儀礼が笑う。
「僕が弱いんじゃなくて、拓ちゃんたちが強すぎるんだからね。」
にぃと、笑う儀礼の笑みから、利香は、大好きな人物の姿を思い浮かばされた。
強すぎる人。それが、利香の大切な人。
そこには、儀礼の他に、利香と、十数人の少女たちが閉じ込められていた。
(アナザーの情報よりも多い。もしかしたら事前から集めていたのかもしれない。)
周囲を観察しながら、儀礼は静かに考える。
車両の中、震えながら寄り添う少女達。
「怖い……怖いよぉ。」
「こんな所で死にたくない……。」
ひそひそと囁かれる声は絶望の言葉。
「大丈夫よ、大丈夫。絶対に助けが来るから。」
明るく、励ますその声も震えていた。
黒い瞳から涙を流して。
「お前もおとなしくこの中で待ってろ。次に逃げ出そう何て考えたら、その足、切り落としてやるからな。」
男はそう言って、儀礼を車両の中へと押し込んでいった。
肩に担がれている時に、儀礼のフードが頭に深く被さっていた。
白い衣に身を包んだ儀礼の表情は立っている見張りの男達からは見えない。
「……ない。……ない。」
肩を震わせて小さな声で、何かを言うその少女の姿もまた、怯えて震えているかのように見えていた。
しかし、利香だけが、その声の主に気付いた。
驚いたように目を見開いた利香に、しかし、儀礼は気付かない。
「あいつら、絶対許さない!」
怒りに震え、そう呟く少年は、いつも通り、白衣に身を包む利香の良く知る『儀礼君』だった。
他の少女達はみな、自由の身なのに、儀礼だけが後ろ手に縛られている。
考えられることは、拓が利香の身を心配して、儀礼をこの場へと送り込んだということ。
見目の麗しい美女だけを集めているらしい、この列車の中に。
眉間にしわを寄せた儀礼のその表情は、可愛い顔が台無しで、残念でならない。
そう思いながら、利香は気付く。
利香の瞳からは、いつの間にか、涙が流れることが止まっていた。
食事の時間になり、人数分の料理が運ばれてきた。
そこで初めて、見張りの男達は人数が一人増えていることに気付いた。
「本当に、節穴だらけだね、ここの奴らの目は。僕を誰だと思ってるんだよ。誰が女だ!」
ようやく気付いてもらえた儀礼は、ここぞとばかりに怒りを爆発させる。
「まさかっ!」
見張りの一人が、儀礼に近付き、その白いフードを持ち上げた。
「……いや、女だろう。」
その言葉に、儀礼のこめかみには青筋が浮かぶ。
「いや、だが、男だろうが女だろうが、この列車の中に紛れ込むとは。どういう意味か分かっているんだろうな。」
見張りの男が短剣を抜いたとき、騒ぎを聞きつけて、先程、儀礼をここへと連れて来た男がやってきた。
彼らをまとめる地位にいる男。
「何の目的でここへ来た。ここがSランクのアルタミラーノ様の試験場と知っていてか!」
怒る男を儀礼は睨み返す。
「その試験を荒らしているのはお前の方だろう。バシリオ。何故こんなことをする。」
そう言った儀礼の頬を男が殴った。
利香が悲鳴をあげる。
「お前に、何が分かる。どうせアルタミラーノ様の資料を狙った盗賊風情だろう。」
儀礼がバシリオと呼んだ、その男の目は不思議なことに、真っ直ぐな光を宿していた。
「ふん。捧げる心がまだ残っているのか。」
バシリオの拳など、大して効いていないように儀礼は笑う。
その挑発に、また男が拳を握る。
「やめて!」
と、利香が悲鳴をあげた。
拓や獅子に手も足も出ない儀礼の弱さを利香は知っている。
一方的にやられてしまうほど、儀礼は弱いのだ。
こんな、屈強で強そうな男に殴られたらただではすまないだろう。
利香の目に涙が浮かび上がる。
「何だ、知り合いだったのか。攫われた娘を助けに来たのか?」
バシリオが儀礼を馬鹿にしたように笑う。
(いや、助けるのを反対して仲間割れになってこのざまだよ。)
縛られた両手を思って儀礼は片方の口の端を上げる。
心の中で愚痴った儀礼。
しかし、何も答えない儀礼に苛立ったように、バシリオが腕を振り上げる。
「きゃぁっ!」
利香は目をつぶった。
しかし、男の腕が儀礼に届く前に儀礼は空中に飛び上がった。
そのまま横に一回転して、バシリオの側頭部に体重を乗せた蹴りを入れた。
バシリオは勢い良く吹き飛ばされる。
ドコン。
列車の装甲がバシリオの体が当たったことで大きく歪んだ。
「何!」
周りで安心したように見ていた男たちが驚き、慌てだす。
「英、もういい。茶番は終わりだ。」
儀礼が言うと、今までじっとしていた護衛機が動き出す。
その二本の足を武器に変え、男達に狙いを定める。
ドドドド……。
英が撃ったのは実弾。
今までのゴム弾とは違い、怪我もするし血も出る。
だが、威力は弱いので、よほど当たり所が悪くなければ死にはしない。
見張りの男達は倒れ、痛みに呻く。
儀礼はいつの間にか両手の縄を切っていた。
英の攻撃で倒しきれなかった男たちが次々に襲いかかってくる。
それを、儀礼はかわし、蹴りを入れ、倒していく。
改造銃を取り出せば、離れていた所にいた男達すらも気絶させてゆく。
(全然、弱くない。)
利香は呆然と儀礼の戦いを見ていた。
次々と男達を倒し、英と二人、あっという間にその場を制圧してしまったのだ。
今度は、この列車から脱出するため、先頭車両へと掛け合わなくてはならないと言う。
「ここに残していくのは心配だし、一緒に来る?」
儀礼がにっこりと微笑めば、少女達はみな、一様にその笑みに見惚れて、思わずというように頷いていたのだった。
そこからも、儀礼は、怯える少女達の手を引き、辺りを警戒しながら、英と共にその車両を抜け出す。
見張りや、研究者を見つけるたびに瞬時に気絶させ、安全な通り道を確保する。
場所によっては、荷物が詰まれていて、よじ登らなければ先に進めないようになっている場所もあった。
そんなばしょでは、儀礼は少女達を力強く引き上げる。
一緒に捕まり、怯えていた少女達の頬が赤く染まっていくのを、利香は確かに見た。
「言っておこうか?」
不思議そうな顔をしている利香を見て、にやりとイタズラな笑みで儀礼が笑う。
「僕が弱いんじゃなくて、拓ちゃんたちが強すぎるんだからね。」
にぃと、笑う儀礼の笑みから、利香は、大好きな人物の姿を思い浮かばされた。
強すぎる人。それが、利香の大切な人。
「ギレイの旅」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,576
-
2.9万
-
-
166
-
59
-
-
61
-
22
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
5,015
-
1万
-
-
5,076
-
2.5万
-
-
9,630
-
1.6万
-
-
8,097
-
5.5万
-
-
2,415
-
6,662
-
-
3,137
-
3,384
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,522
-
5,226
-
-
9,303
-
2.3万
-
-
6,121
-
2.6万
-
-
1,285
-
1,419
-
-
2,845
-
4,948
-
-
6,619
-
6,954
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,028
-
2.9万
-
-
319
-
800
-
-
65
-
152
-
-
6,162
-
3.1万
-
-
1,857
-
1,560
-
-
3,631
-
9,417
-
-
105
-
364
-
-
11
-
4
-
-
2,605
-
7,282
-
-
2,931
-
4,405
-
-
9,140
-
2.3万
-
-
4,871
-
1.7万
-
-
599
-
220
-
-
2,388
-
9,359
-
-
1,260
-
8,383
-
-
571
-
1,133
-
-
76
-
147
-
-
2,787
-
1万
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,630
-
1.6万
-
-
9,533
-
1.1万
-
-
9,303
-
2.3万
-
-
9,140
-
2.3万
コメント