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ギレイの旅

千夜ニイ

列車の違和感

「変だ。」
その列車を見た瞬間に儀礼は口に出していた。
「変だよあの列車。装甲が薄すぎる。攻撃されることを考えてないどころか、何万キロも走り抜ける強度を保ってないよ。あんなので、どうして走らせてるんだ?!」
車を列車に並走させながら儀礼は不審すぎる疑問を口にする。
これでは確かに、身内から反対の意見が出てもおかしくない。


「それに、中身が、……何もないみたい。実験段階だから? 荷物も乗客も乗せないから?」
妙な違和感が儀礼の思考を襲う。
設計図には確かに乗車席や貨物車を想定してあるのに、その部品をわざと取り外したかのような違和感。


 まるで、何かに焦っているかのように列車はレールの上を高速で走り抜けていく。
砂煙を上げて、儀礼はその列車に追いすがる。
速度はほぼ同じ。
愛華はもう少し速度を上げることも可能だ。


「あの中に、利香がいるんだな。」
車から身を乗り出して、獅子が外に出ようとする。
「待って、今手を出すのは早い。あの速度で動いてるものにぶつかったら、大怪我で済まないよ。それに、間違いなく結界を張ってあるから、普通には入れない。間違って車体に傷でも付けたら、下手したら、中にいる利香ちゃんとか捕まってる女の子達に怪我を負わせちゃうかもしれないからね。焦っちゃダメ。時を待って。」
「時っていつだよ!」
獅子が怒鳴る。


 儀礼は運転しながらビクリと一瞬体を硬直させた。
車の速度が遅くなる。
「コーテルに入ってからだ。あそこは大きな街だから、速度が出せない。真っ直ぐにレールを敷けなかったんだ。それから、カイダルの国境を越える時。カイダルはドルエド以上に封鎖された国だ。外との関わりをコーテル以外、一切断っている。たとえ、アルタミラーノ様の列車とはいえ、入国の際に一度止められるはずだ。」
ハンドルを握りなおし、もう一度車の速度を上げて、儀礼は列車と並走しながら獅子と拓に説明する。


「列車に入るのはコーテルに入ってから、脱出するのはカイダルに入る直前だ。利香ちゃん以外にも6人の女性が捕まってるらしい。気付かれてないだけで、もしかしたら被害者はもっと多いかもしれない。だから、その人たちを逃がすためにも、多少列車が止まってる状況が必要なんだ。」
ずっと、列車と並走していた儀礼の車に、列車の護衛が不審そうに指を差している。


 儀礼は、にっこりと笑顔で手を振ってみた。
鬼の形相をしている二人の乗車客を隠すように。
安心したように表情を緩ませた護衛が、へらりとした笑みを浮かべて手を振り返してきた。


「これ以上近くにいて怪しまれるのは下策だね。下見はできた。一旦引こう。次に行くのはコーテルだ。装備を準備しなくちゃ。」
「俺は光の剣こいつだけあれば、後は必要ねぇ。」
低い声で獅子が言う。


「俺も剣一本で十分だな。」
ぎりっと、奥歯を噛んで、拓が言う。
「二人とも、暴れるのは攫われた人たちを救出した後でね。」
苦笑を浮かべて、儀礼は二人を押さえ込む。
怒りの気配がじりじりと儀礼の肌を焼いていた。


 機械大国と呼ばれるカイダル。
他国から突出した機械文明を持った国。
古代の遺跡の力を、科学力を持って現代に復興させることが可能だとさえ言われている。
そんな国の中での生活は、他国に比べて随分と潤っている。


 宝石、貴金属、生活を潤すもの全て。欲しい物は何だって揃うと聞いている。
明かり、交通、安全、全てのものが機械の文明によって保たれている。
豊かな国。
機械大国カイダルはずっとそう、言われている。


 けれど、カイダルはその機械知識を世界と共有しようとはしなかった。
自国のみの利益とし、潤いとしていた。
他国にはその文明をもたらさないように、漏らさないように、極秘の国が成り立っていた。
カイダルから知識が流れてくるのはフェード国の中枢、コーテルのみ。
コーテルが世界有数の研究者達の集まってくる場所だという理由はそこにもある。


(その、豊かな国でも手に入りにくいもの。)
儀礼はぎゅっとハンドルを握り締める。
それが、人だ。
カイダルにおいても、異国の美しい少女達は、宝石や貴金属よりも高く扱われる。


(人身売買。)
その列車から車を引き離しながら、儀礼の脳裏には助けを求める女性達の姿が浮かんでくる。
(どうして……。)
アルタミラーノ、その人がいると思われる先頭車両だけは、朝月の力を持ってしても霧がかかったようにぼやけていて、はっきりと見えない。
おそらく、結界が何重にもなって、かかっているのだろう。


(お金のため? いや、違う。)
Sランクとなった者ならば、誰しもが巨万の富を手に入れているはずだ。
(実験のため? 国交のため? どうしてもこの実験を行わなければならなかった? それとも、実験が隠れ蓑?)
今にも戦いに飛び出していきそうな同乗者達に悟られないように、平常心を装いながらも、儀礼の心は疑心暗鬼に捕らわれる。


 世界中に手を伸ばせる人物の手が、暗い霧の中にあるように、世界を滅ぼしに向かっているのではないかと。
『世界を滅ぼす力を持つ者』。それが、Sランクの条件でもあるのだ。
「だからSランクは襲われるんだね。」
ポツリと小さな声で言った儀礼の言葉は、獅子と拓には聞き取れなかったようだ。
弱音を聞かれなかったことに、儀礼は安堵したように、力を入れていた腕から緊張を取る。


「それじゃぁ、お姫様の救出に向かいますか。」
務めて明るく儀礼は雰囲気を変えようとしたのだが、二人の怒りに油を注いだだけのようだった。
儀礼の肌は燃えるように熱くじりじりと焦げ始めていた。

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