ギレイの旅
探査魔法
疲れた体に鞭打っての連続での移転魔法で、シュリは物凄く疲れていた。
あっという間に眠りに付いたシュリだったが、回復は早い。
2時間ほどの眠りで目が覚めた。
時刻はまだ深夜、特にすることもないので、そのまま横になり体の疲れを癒す。
なんとはなしに、シュリは向かいのベッドで眠る儀礼を見た。
シュリは儀礼といる間に、数度の探索魔法の気配を感じ取った。
ノーグの家、黒獅子の居た魔獣のいる森の中、そしてまた、ノーグの家。
間違いなく、儀礼を探している探査魔法の気配だった。
それも、切っても、切っても、別の探査魔法が追いかけてくるのだ。
その状態で一人で病院に放り込んだとすれば、確かに、儀礼の語った怪談が本物になりかねない。
シュリのベッドには安眠のため、見よう見まねの結界魔法がかけてあった。
そこから儀礼を出した途端に、その探索魔法がノーグ家を襲った。
初心者のシュリが見よう見まねでかけた魔法でも、その結界は確かな効果をもたらしているらしかった。
小さな子供達のいるノーグ家にとっては、危険な状態の『蜃気楼』を、黒獅子に押し付けようとしてみたが、黒獅子には本当に結界を張る力も、魔法防御能力もないのだった。
仕方なく、シュリがまたノーグ家に戻れば、すぐに探索魔法がかかる。
シュリの父であるバクラムは気にもしていないようだった。
敵が襲いかかってきたら返り討ちにする。
それだけ。
しかし、シュリにはこの家を守るという気持ちが、幼い頃から植えつけられていた。
父が外に出るので、家は母とシュリで守る。
だから、小さな弟妹のいる家に、恐ろしい敵の探索魔法がかかることは絶対に許せなかった。
そして、その安全地帯がシュリの作った2段ベッドの上という、小さな結界の中。
この状況は、仕方のないことだった。
「お前の護衛たちどうなってんだよ。」
シュリは言っても仕方のない愚痴をこぼす。
「アーデスさんの隠れ家には3人の侵入者がありました。」
あると思わなかった返事が儀礼の声であった。
「寝てなかったのか?」
「寝てます。」
明らかにおかしい返答に、シュリは笑った。
「ごめん、シュリ。さっさとケリつけとけばよかった。君の家に迷惑かけるつもりなかったのに。」
ごろりと儀礼が壁際から寝返りを打つ。
同じ高さにあるベッドでシュリと儀礼の目線が合う。
「いや。それが本来、親父達の仕事だろ。お前が片すことじゃないだろうが。」
守られるべき存在の少年にシュリは苦笑する。
「でもさ、シュリなら自分の敵は自分で倒したいとか思わない?」
真剣な目が真っ直ぐにシュリを見ていた。
「自分の敵、か。俺はまだそういうのに会ったことないけど。確かに、そうかもな。」
少し考えて、シュリは答える。
自分の敵。それは一体どういう存在なのかと。
「例えばシュリなら、ハルバーラの魔物とかだよ。階層が低くなればなるほど強い敵になるけど、仲間がいれば楽に倒せる敵でも、一人で最下層まで行きたいって思うんだろ?」
儀礼が口の端を上げて微笑む。
「ああ。ああ、そういう事か。」
納得したように、シュリは頷く。
シュリの手に入れた武器と鎧は、そのハルバーラと言う遺跡の最下層に眠っていた宝だ。
最下層で、遺跡の守護者がずっと持っていた物。
それをシュリは受け継いだ。
だから、シュリは一人でその遺跡を攻略したい、しなければならないと感じていた。
「僕も、自分の手の及ぶ限りは自分で何とかしたいんだ。」
真剣な儀礼の言葉に、シュリはまた、頷いた。
「熱はいいのか?」
眠っている弟達を起こさないように小さな声でシュリは尋ねる。
「だいぶ下がった。薬効いたし、少し寝たし。」
にっと儀礼が元気な笑みを見せる。
その頬はまだ赤いので、全快とまではいかないのだろう。
「お前、記憶ないって言ってたが大丈夫か?」
頬杖を付くように自分の腕を枕にしてシュリは儀礼に問いかける。
「ごめん。僕、熱が高くなるとたまに記憶なくすらしくて。しかも、その記憶のない時に結構、大変なことやらかしてて……。」
枕に顔を埋めるようにして、儀礼は下を向く。
「なんだよ、大変なことって。眠ったまま探検でもしたか?」
先程の儀礼の怪談を思い出し、シュリは適当に聞いてみる。
「いや、……女の人に膝枕されてたり、一緒に居てって頼んだり、薬飲ませてもらったり……してたらしい。」
言いずらそうに、儀礼は枕に顔を押し付ける。
くぐもった声が本当に本人にとっても、不確かな様子を物語る。
「うっわ、すっげぇありそう。」
先程の儀礼の様子を思い出し、シュリは楽しそうに笑う。
面倒そうだった黒獅子の様子にも納得だった。
「ギレイ、いるか?!!」
その時、部屋を包み込むような白い光と共に、アーデスの慌てた声が、低い位置から響いた。
狭い部屋の中に、アーデスが移転魔法で現れたらしい。
「移転魔法で来たってことは、僕の位置確かめてから来たんでしょ。何慌ててるんです?」
儀礼はベッドの上からアーデスの頭に呼びかける。
「あ、僕アーデスより高い。」
ベッドの上に座り、嬉しそうに儀礼は笑った。
「何をのんきな……。」
アーデスが息を吐いて額を押さえる。
「探せなかったから慌てたんだ。まさか、シュリのベッドにいるとは思わないだろ!!」
「なんで?」
儀礼は首を傾げる。
「いると思っていいんですか?」
呆れたようにアーデスが儀礼を見上げる。
「……?」
しばらく首をかしげた後に儀礼は答える。
「アーデスにも探知できない、安全な場所なんでしょう。」
にやりと儀礼のその口は、大きく弧を描いて笑っていた。
あっという間に眠りに付いたシュリだったが、回復は早い。
2時間ほどの眠りで目が覚めた。
時刻はまだ深夜、特にすることもないので、そのまま横になり体の疲れを癒す。
なんとはなしに、シュリは向かいのベッドで眠る儀礼を見た。
シュリは儀礼といる間に、数度の探索魔法の気配を感じ取った。
ノーグの家、黒獅子の居た魔獣のいる森の中、そしてまた、ノーグの家。
間違いなく、儀礼を探している探査魔法の気配だった。
それも、切っても、切っても、別の探査魔法が追いかけてくるのだ。
その状態で一人で病院に放り込んだとすれば、確かに、儀礼の語った怪談が本物になりかねない。
シュリのベッドには安眠のため、見よう見まねの結界魔法がかけてあった。
そこから儀礼を出した途端に、その探索魔法がノーグ家を襲った。
初心者のシュリが見よう見まねでかけた魔法でも、その結界は確かな効果をもたらしているらしかった。
小さな子供達のいるノーグ家にとっては、危険な状態の『蜃気楼』を、黒獅子に押し付けようとしてみたが、黒獅子には本当に結界を張る力も、魔法防御能力もないのだった。
仕方なく、シュリがまたノーグ家に戻れば、すぐに探索魔法がかかる。
シュリの父であるバクラムは気にもしていないようだった。
敵が襲いかかってきたら返り討ちにする。
それだけ。
しかし、シュリにはこの家を守るという気持ちが、幼い頃から植えつけられていた。
父が外に出るので、家は母とシュリで守る。
だから、小さな弟妹のいる家に、恐ろしい敵の探索魔法がかかることは絶対に許せなかった。
そして、その安全地帯がシュリの作った2段ベッドの上という、小さな結界の中。
この状況は、仕方のないことだった。
「お前の護衛たちどうなってんだよ。」
シュリは言っても仕方のない愚痴をこぼす。
「アーデスさんの隠れ家には3人の侵入者がありました。」
あると思わなかった返事が儀礼の声であった。
「寝てなかったのか?」
「寝てます。」
明らかにおかしい返答に、シュリは笑った。
「ごめん、シュリ。さっさとケリつけとけばよかった。君の家に迷惑かけるつもりなかったのに。」
ごろりと儀礼が壁際から寝返りを打つ。
同じ高さにあるベッドでシュリと儀礼の目線が合う。
「いや。それが本来、親父達の仕事だろ。お前が片すことじゃないだろうが。」
守られるべき存在の少年にシュリは苦笑する。
「でもさ、シュリなら自分の敵は自分で倒したいとか思わない?」
真剣な目が真っ直ぐにシュリを見ていた。
「自分の敵、か。俺はまだそういうのに会ったことないけど。確かに、そうかもな。」
少し考えて、シュリは答える。
自分の敵。それは一体どういう存在なのかと。
「例えばシュリなら、ハルバーラの魔物とかだよ。階層が低くなればなるほど強い敵になるけど、仲間がいれば楽に倒せる敵でも、一人で最下層まで行きたいって思うんだろ?」
儀礼が口の端を上げて微笑む。
「ああ。ああ、そういう事か。」
納得したように、シュリは頷く。
シュリの手に入れた武器と鎧は、そのハルバーラと言う遺跡の最下層に眠っていた宝だ。
最下層で、遺跡の守護者がずっと持っていた物。
それをシュリは受け継いだ。
だから、シュリは一人でその遺跡を攻略したい、しなければならないと感じていた。
「僕も、自分の手の及ぶ限りは自分で何とかしたいんだ。」
真剣な儀礼の言葉に、シュリはまた、頷いた。
「熱はいいのか?」
眠っている弟達を起こさないように小さな声でシュリは尋ねる。
「だいぶ下がった。薬効いたし、少し寝たし。」
にっと儀礼が元気な笑みを見せる。
その頬はまだ赤いので、全快とまではいかないのだろう。
「お前、記憶ないって言ってたが大丈夫か?」
頬杖を付くように自分の腕を枕にしてシュリは儀礼に問いかける。
「ごめん。僕、熱が高くなるとたまに記憶なくすらしくて。しかも、その記憶のない時に結構、大変なことやらかしてて……。」
枕に顔を埋めるようにして、儀礼は下を向く。
「なんだよ、大変なことって。眠ったまま探検でもしたか?」
先程の儀礼の怪談を思い出し、シュリは適当に聞いてみる。
「いや、……女の人に膝枕されてたり、一緒に居てって頼んだり、薬飲ませてもらったり……してたらしい。」
言いずらそうに、儀礼は枕に顔を押し付ける。
くぐもった声が本当に本人にとっても、不確かな様子を物語る。
「うっわ、すっげぇありそう。」
先程の儀礼の様子を思い出し、シュリは楽しそうに笑う。
面倒そうだった黒獅子の様子にも納得だった。
「ギレイ、いるか?!!」
その時、部屋を包み込むような白い光と共に、アーデスの慌てた声が、低い位置から響いた。
狭い部屋の中に、アーデスが移転魔法で現れたらしい。
「移転魔法で来たってことは、僕の位置確かめてから来たんでしょ。何慌ててるんです?」
儀礼はベッドの上からアーデスの頭に呼びかける。
「あ、僕アーデスより高い。」
ベッドの上に座り、嬉しそうに儀礼は笑った。
「何をのんきな……。」
アーデスが息を吐いて額を押さえる。
「探せなかったから慌てたんだ。まさか、シュリのベッドにいるとは思わないだろ!!」
「なんで?」
儀礼は首を傾げる。
「いると思っていいんですか?」
呆れたようにアーデスが儀礼を見上げる。
「……?」
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