ギレイの旅
その頃白は
白はドルエドの王宮で、客人として暮らしていた。
服装は一般的な貴族の少年が着るような格好で、儀礼達といた時よりだいぶ高級な衣装に身を包んでいる。
しかし、白は城の兵士達や騎士達に混ざって訓練に参加したり、魔物討伐の手伝いなどをしたりしている。
それを、お付きの2人の騎士は嘆かわしく思っていた。
特に、若い方の騎士、エンゲルという男はその傾向が強い。
「シャーロ様。またこのような場所で、ドルエドの騎士に混ざって訓練など……。」
咎めるような口調でエンゲルが言う。
金色の髪に水色の瞳、背は高く体格もしっかりとしている。
騎士らしいといえる見栄えのいい男だった。
「わかったよ、エンゲル。私、ちゃんと勉強もするから。」
細々とした事にまで口を挟もうとしてきたエンゲルの言葉を切って、白はうんざりとしたように自分の部屋へと戻った。
豪華な装飾品に囲まれた広い部屋。
そこが、白に与えられた客室だった。
広すぎるとかの文句はない。
ただでさえ、かくまって、守ってもらっているのだ。
これで、ドルエドの国王に文句を言おうものなら、筋違いもいいところだ。
しかし、広い部屋に一人でいると無性に寂しさが襲ってくる。
呼べばいつでも城仕えの女中や、エンゲルたちがやってきてくれるのだが、そうではない。
無音の空間に時折響くように聞こえてくる幻の音。
『白。』
優しく、楽しげに話しかけてくるその声が、耳から離れない。
そうして白は、寂しさを味わうのだ。
《元気を出して。私はいつでもあなたのそばにいるわ。》
青く、美しい精霊が白の頬に擦り寄ってきた。
ひんやりとした冷たさが、澄み渡った湖を想像させて心地よい。
「シャーロット。ありがとう。私は、大丈夫だよ。」
その、小さな体に片手を添えて、そっと包み込むようにして感謝の気持ちを伝える。
にっこりと嬉しそうに微笑むシャーロットの笑顔が嬉しくて、つられて白も微笑みを返す。
ドルエドに来て、白がとても驚いたこと。
それは、極端に感じる魔力が少ないことだった。
そして、精霊たちの数もとても少ない。
儀礼のそばにいた間が、精霊たちが多く居過ぎただけかもしれないが、楽しげにおしゃべりをする精霊たちがいないのは白にはとても静かで、寂しく思えた。
《おーい。白、いるか?》
静寂を破って聞こえてきたのは、白が何度も聞いた事のある声。
「フィオ!?」
赤い炎を纏って現れたのは、火の精霊フィオだった。
《いたいた。元気そうだな。よかった。お前がどうしてるか儀礼が気にしてたからな。ちょっと見に来た。》
にぃ、と笑ってフィオは言う。
「うん。私は元気だよ。お城の人たちに良くして貰ってるし。フィオは、ギレイ君は、シシは、皆元気?」
つい早口になってしまう白の言葉。
それでも、フィオは気にした様子もなく大きく頷く。
《当たり前だろう。そんな何日も経ってないのに、そんなに急に変わるかよ。》
にやりと楽しそうにフィオは言う。
「……え? でもフィオ、何か成長してない?」
別れた時には、13歳程の年齢だった気がするが、今は15歳程の見た目に成長している。
《やっぱり分かるか!》
嬉しそうにフィオは笑った。
「うん。分かるよ。それに、魔力も増えた?」
《そうなんだよ。俺、また強くなった。》
にやりと嬉しそうにフィオは笑う。
もしかしてフィオは、自分が成長したことを見せに来たのではないか、と白には思えてきた。
《あっ、そうだ。忘れてた。ほら、出て来いよ。》
フィオは背後の空気を掴むと引っ張るようにして何かを呼んだ。
《引っ張るな。俺は自分の好きな時に現れて、好きな時に消える。》
そう言いながら姿を現したのは緑色の風の精霊。
人間で言うならば、17、8歳くらいの青年風で、眼つきは細く鋭いが、やはり精霊らしく美しく整った顔立ちをしている。
《こいつは風祇だ。見た通り風の精霊。普段は中々姿を現さないんだけどな。》
フィオが言う。
《現れるのは俺の自由だ。好きな時に好きな場所へ行く。それが風の精霊だ。》
当然だろうとでも言うような、高圧的な態度で風祇が言う。
《その割にはお前、ずっとギレイの周りにいるじゃないか。》
茶化すようにフィオが笑う。
《俺は居心地のいい場所にいるだけだ。》
また、当たり前だとでも言うように風祇は言った。
その言葉を聞いて、何故だがおかしくて、白はシャーロットと顔を見合わせて吹き出した。
《まぁ、そういう訳で、こいつはギレイの新しい友人だ。よろしくな。》
フィオが風祇を示して笑うように言う。
「よろしく風祇。」
白が微笑んで手を差し出す。
しかし、風祇はその手を取らない。睨むように白の背後を見た。
最初に反応したのはシャーロット。
真っ先に白の周囲に青色の結界を張った。
次の瞬間に室内に魔力が立ち込める。
白の背後の空中に、移転魔法の陣が現れたのだ。
「敵!」
白は短剣を構えてその魔法陣に向き合う。
この城に来てからは初めてのことだったが、儀礼達と出会う前、何度となく襲われたことがあるので、すでに良く分かっていた。
服装は一般的な貴族の少年が着るような格好で、儀礼達といた時よりだいぶ高級な衣装に身を包んでいる。
しかし、白は城の兵士達や騎士達に混ざって訓練に参加したり、魔物討伐の手伝いなどをしたりしている。
それを、お付きの2人の騎士は嘆かわしく思っていた。
特に、若い方の騎士、エンゲルという男はその傾向が強い。
「シャーロ様。またこのような場所で、ドルエドの騎士に混ざって訓練など……。」
咎めるような口調でエンゲルが言う。
金色の髪に水色の瞳、背は高く体格もしっかりとしている。
騎士らしいといえる見栄えのいい男だった。
「わかったよ、エンゲル。私、ちゃんと勉強もするから。」
細々とした事にまで口を挟もうとしてきたエンゲルの言葉を切って、白はうんざりとしたように自分の部屋へと戻った。
豪華な装飾品に囲まれた広い部屋。
そこが、白に与えられた客室だった。
広すぎるとかの文句はない。
ただでさえ、かくまって、守ってもらっているのだ。
これで、ドルエドの国王に文句を言おうものなら、筋違いもいいところだ。
しかし、広い部屋に一人でいると無性に寂しさが襲ってくる。
呼べばいつでも城仕えの女中や、エンゲルたちがやってきてくれるのだが、そうではない。
無音の空間に時折響くように聞こえてくる幻の音。
『白。』
優しく、楽しげに話しかけてくるその声が、耳から離れない。
そうして白は、寂しさを味わうのだ。
《元気を出して。私はいつでもあなたのそばにいるわ。》
青く、美しい精霊が白の頬に擦り寄ってきた。
ひんやりとした冷たさが、澄み渡った湖を想像させて心地よい。
「シャーロット。ありがとう。私は、大丈夫だよ。」
その、小さな体に片手を添えて、そっと包み込むようにして感謝の気持ちを伝える。
にっこりと嬉しそうに微笑むシャーロットの笑顔が嬉しくて、つられて白も微笑みを返す。
ドルエドに来て、白がとても驚いたこと。
それは、極端に感じる魔力が少ないことだった。
そして、精霊たちの数もとても少ない。
儀礼のそばにいた間が、精霊たちが多く居過ぎただけかもしれないが、楽しげにおしゃべりをする精霊たちがいないのは白にはとても静かで、寂しく思えた。
《おーい。白、いるか?》
静寂を破って聞こえてきたのは、白が何度も聞いた事のある声。
「フィオ!?」
赤い炎を纏って現れたのは、火の精霊フィオだった。
《いたいた。元気そうだな。よかった。お前がどうしてるか儀礼が気にしてたからな。ちょっと見に来た。》
にぃ、と笑ってフィオは言う。
「うん。私は元気だよ。お城の人たちに良くして貰ってるし。フィオは、ギレイ君は、シシは、皆元気?」
つい早口になってしまう白の言葉。
それでも、フィオは気にした様子もなく大きく頷く。
《当たり前だろう。そんな何日も経ってないのに、そんなに急に変わるかよ。》
にやりと楽しそうにフィオは言う。
「……え? でもフィオ、何か成長してない?」
別れた時には、13歳程の年齢だった気がするが、今は15歳程の見た目に成長している。
《やっぱり分かるか!》
嬉しそうにフィオは笑った。
「うん。分かるよ。それに、魔力も増えた?」
《そうなんだよ。俺、また強くなった。》
にやりと嬉しそうにフィオは笑う。
もしかしてフィオは、自分が成長したことを見せに来たのではないか、と白には思えてきた。
《あっ、そうだ。忘れてた。ほら、出て来いよ。》
フィオは背後の空気を掴むと引っ張るようにして何かを呼んだ。
《引っ張るな。俺は自分の好きな時に現れて、好きな時に消える。》
そう言いながら姿を現したのは緑色の風の精霊。
人間で言うならば、17、8歳くらいの青年風で、眼つきは細く鋭いが、やはり精霊らしく美しく整った顔立ちをしている。
《こいつは風祇だ。見た通り風の精霊。普段は中々姿を現さないんだけどな。》
フィオが言う。
《現れるのは俺の自由だ。好きな時に好きな場所へ行く。それが風の精霊だ。》
当然だろうとでも言うような、高圧的な態度で風祇が言う。
《その割にはお前、ずっとギレイの周りにいるじゃないか。》
茶化すようにフィオが笑う。
《俺は居心地のいい場所にいるだけだ。》
また、当たり前だとでも言うように風祇は言った。
その言葉を聞いて、何故だがおかしくて、白はシャーロットと顔を見合わせて吹き出した。
《まぁ、そういう訳で、こいつはギレイの新しい友人だ。よろしくな。》
フィオが風祇を示して笑うように言う。
「よろしく風祇。」
白が微笑んで手を差し出す。
しかし、風祇はその手を取らない。睨むように白の背後を見た。
最初に反応したのはシャーロット。
真っ先に白の周囲に青色の結界を張った。
次の瞬間に室内に魔力が立ち込める。
白の背後の空中に、移転魔法の陣が現れたのだ。
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