ギレイの旅
ロームの遺跡前で
4人は揃って遺跡を出た。
そこで、儀礼の起こした行動よりもシュリたちは、さらに驚かされることになった。
遺跡を出て、目の前を見ると、大勢の研究者達とアーデスが待ち構えていたのである。
「後ろの奴らは遺跡の修繕に来た連中だ。気にするな。」
背後を親指で示して、アーデスが言う。
「気になるだろ……。」
100人はいそうな大集団だ。
いつの間に揃えたのだろうか、研究に必要な機材までがずらりと並んでいる。
ただ、遺跡の修復に来ただけとは思えない。
「『蜃気楼』様!」
若い女性の声に視線を向ければ、そこにはハートリーが両手を胸の前で組んで叫んでいた。
『蜃気楼』に『様』が付いている。
儀礼はぽかんとその様子を眺めていた。
「攻略中の遺跡を進行形で公開などしたら、高ランク位の研究者の関与を知らせているようなものだろう。」
呆れたような声でアーデスが言う。その顔は不機嫌そうにも見える。
(何故、不機嫌。)
と、眠たい儀礼は面倒そうにその護衛を見る。
単純に、護衛の仕事を増やしたことに、今の儀礼は気付いていない。
「昨日は、ご無礼をいたしました。」
その儀礼の前に、3人の男が膝を付いて頭を垂れる。
昨日、儀礼が治療をした、ハートリーと一緒にいた冒険者達だ。
(何故、ひざまずく。)
儀礼は足を一歩後ろに引いた。意識せずの行動だ。
「あなた様が噂に名高い『蜃気楼』様とは知らず、大変な失礼をいたしました。お許しください。」
再び、頭を深く下げて、男達は儀礼に謝る。
「別にもう、気にしてませんから。頭を上げてください。」
困ったように儀礼は3人の男達を立つように促す。
「なんとお心の深い……。」
などと、なぜか感激されているが、本当に儀礼は眠たくて、この連中のことなどもう、どうでもいい。
「儀礼が女に間違われるのはいつものことだしな。」
からかうように獅子が笑う。
「誰が女だ!」
怒ったように儀礼が言えば、冒険者たちが一様に大きく頷く。
「はい。どこからどう見ても麗しい少年にしか見えません。」
麗しい、などという余計な言葉がついてはいるが、その言葉に儀礼の機嫌は良くなった。
例えそれが、目上の者に対する処世のための言葉だったとしても、本人が気付かず満足しているのであれば、それはそれでいいのかもしれない。
「アーデス、これね。多分、Aランクの魔物。」
そう言って儀礼は、透明な瓶に入った灰色の霧をアーデスに手渡す。
「他のAランクの魔物は獅子とシュリとカナルがそれぞれ1体ずつ倒したから3人に聞いて。こいつは中身調べて、管理局に報告してくれる? 僕もう、限界。眠い……。」
それをアーデスに手渡せば、儀礼は大きくあくびをして転移陣へと足を向ける。
「あのっ、『蜃気楼』様! 助けていただいてありがとうございます。このご恩、どうお返しすればよいでしょうか。」
眠たい儀礼の前に、願いを込めたような震える瞳で見つめてくるハートリーの姿。
実際にハートリーを助けたのは獅子だったはずだ。
(眠たい。)
相手をするのも面倒になってきて、儀礼はもうどうでもいいや、とその、目の前の人物に寄りかかる。
「身体、貸して。」
長話しをする、体力もない。
支えが欲しかった。
しかし、ハートリーに儀礼が抱きつくように倒れこめば、その白衣の重さもある身体を細身の女性の身体で支えられるわけもなく、二人は一緒に地面に向かって倒れそうになる。
「お前、何考えてる!?」
公衆の面前で女性を押し倒すような形になった儀礼に、混乱したように顔を真っ赤にしたシュリが儀礼の頭をはたいて、ハートリーの体を支えて、引き離す。
「だって、眠い。」
何でもないことのように、儀礼は答える。
というか、本当に眠そうだった。
儀礼の目がうつらうつらと閉じられていく。
前のめりに地面に倒れそうになった儀礼の体を、そうなることが分かっていたかのように獅子が受け止めた。
「こいつは、また無茶をして。」
「安心しろ、ただの魔力切れだ。」
眉間にしわを寄せる獅子に、安心させるようにシュリが言う。
「魔力切れ?」
不思議そうに問いかける獅子に、シュリは頷いて説明する。
「こいつ、さっき、精霊に礼を言ってただろう。その時に、通常じゃありえない量の魔力を渡していた。普通はさじ一杯分の魔力でいいところを、たらいで注ぎ込むようなことをしていた。それは、魔力切れも起こすさ。」
苦笑するシュリに、アーデスはさらに呆れた顔をする。
「遺跡に入って、戦闘やトラップ解除ではなく、自らの精霊に魔力を与えすぎて魔力切れ、か。」
「バカみてぇだな。」
くくくっ、と笑ってカナルが言う。
しかし、その笑いの中に、悪意らしきものはない。
「とりあえず、俺んちに帰るか。」
シュリが言う。
「おう、悪いけど半分持ってくれ。」
2泊3日分の遺跡探索の荷物にプラスして、眠ってしまった儀礼自身とその荷物がある。
「荷物だったら俺が持つよ。」
儀礼の荷物を丸ごと持ち上げてカナルが言う。
「いや、重たいのはこっちだ。」
そう言って、獅子は儀礼の白衣を脱がした。
儀礼の白衣は、鎧と同じだけの重さがある。
「おう、それな。」
その重さと重要性を知っているシュリは頷いて白衣を受け取る。
途端に感じるいくつもの探査の魔法――。
「おい、黒獅子! お前、魔力探査切るなんてこと……できないよな、そうだよな。悪かった。」
何だそれ、と言う目で問いかけてきた獅子に、シュリは怒ることを諦めた。
シュリは瞬時に自分の周りに黒い結界を展開する。
儀礼の白衣は管理局からロックされているような、重要なものの宝庫だと言っていた。
それが、今の瞬間、無防備に世に晒されていたのである。
何のための護衛だ、とアーデスを見れば、難しい顔で灰色の霧と見詰め合っていた。
アーデスでも、今までに見たことのないタイプの魔物らしい。
これは、しばらくかかりきりになりそうだった。
そして、100人もの人間がずらりと並んで、獅子達の前に道を作る。
実際は、家に帰るだけならば、シュリの移転魔法で十分なのだが、ここまでされてしまって、移転魔法で消えることは何だか申し訳ない。
大勢の研究者が平伏す中、儀礼を背負った獅子を先頭に、シュリ、カナル、アーデスの順で、ロームの遺跡の前の転移陣へと足を踏み入れた。
場面はさながら、王の凱旋である。
当の本人は、心地よい眠りに落ちて、夢の中なのであるが。
「というか、アーデス。お前も来るのかよ。」
てっきり、研究者連中と共に、遺跡の研究でもしてくるのかと思ったのだが、アーデスもシュリの家まで来るつもりらしい。
「これを、ここにいる連中に渡すのはちょっと危険だと感じてな。」
灰色の霧を示してアーデスは言う。
魔物を強くする力を持った未知の魔物。
間違って世に放たれでもしたら大惨事になりかねない。
「うちの中で研究するのはやめろよ。」
「当たり前だ。自分の研究室に行く。」
面白いおもちゃでも手に入れたように、ニヤニヤと笑っているアーデスはとても不気味で、シュリは見ない振りをすることにしたのだった。
そこで、儀礼の起こした行動よりもシュリたちは、さらに驚かされることになった。
遺跡を出て、目の前を見ると、大勢の研究者達とアーデスが待ち構えていたのである。
「後ろの奴らは遺跡の修繕に来た連中だ。気にするな。」
背後を親指で示して、アーデスが言う。
「気になるだろ……。」
100人はいそうな大集団だ。
いつの間に揃えたのだろうか、研究に必要な機材までがずらりと並んでいる。
ただ、遺跡の修復に来ただけとは思えない。
「『蜃気楼』様!」
若い女性の声に視線を向ければ、そこにはハートリーが両手を胸の前で組んで叫んでいた。
『蜃気楼』に『様』が付いている。
儀礼はぽかんとその様子を眺めていた。
「攻略中の遺跡を進行形で公開などしたら、高ランク位の研究者の関与を知らせているようなものだろう。」
呆れたような声でアーデスが言う。その顔は不機嫌そうにも見える。
(何故、不機嫌。)
と、眠たい儀礼は面倒そうにその護衛を見る。
単純に、護衛の仕事を増やしたことに、今の儀礼は気付いていない。
「昨日は、ご無礼をいたしました。」
その儀礼の前に、3人の男が膝を付いて頭を垂れる。
昨日、儀礼が治療をした、ハートリーと一緒にいた冒険者達だ。
(何故、ひざまずく。)
儀礼は足を一歩後ろに引いた。意識せずの行動だ。
「あなた様が噂に名高い『蜃気楼』様とは知らず、大変な失礼をいたしました。お許しください。」
再び、頭を深く下げて、男達は儀礼に謝る。
「別にもう、気にしてませんから。頭を上げてください。」
困ったように儀礼は3人の男達を立つように促す。
「なんとお心の深い……。」
などと、なぜか感激されているが、本当に儀礼は眠たくて、この連中のことなどもう、どうでもいい。
「儀礼が女に間違われるのはいつものことだしな。」
からかうように獅子が笑う。
「誰が女だ!」
怒ったように儀礼が言えば、冒険者たちが一様に大きく頷く。
「はい。どこからどう見ても麗しい少年にしか見えません。」
麗しい、などという余計な言葉がついてはいるが、その言葉に儀礼の機嫌は良くなった。
例えそれが、目上の者に対する処世のための言葉だったとしても、本人が気付かず満足しているのであれば、それはそれでいいのかもしれない。
「アーデス、これね。多分、Aランクの魔物。」
そう言って儀礼は、透明な瓶に入った灰色の霧をアーデスに手渡す。
「他のAランクの魔物は獅子とシュリとカナルがそれぞれ1体ずつ倒したから3人に聞いて。こいつは中身調べて、管理局に報告してくれる? 僕もう、限界。眠い……。」
それをアーデスに手渡せば、儀礼は大きくあくびをして転移陣へと足を向ける。
「あのっ、『蜃気楼』様! 助けていただいてありがとうございます。このご恩、どうお返しすればよいでしょうか。」
眠たい儀礼の前に、願いを込めたような震える瞳で見つめてくるハートリーの姿。
実際にハートリーを助けたのは獅子だったはずだ。
(眠たい。)
相手をするのも面倒になってきて、儀礼はもうどうでもいいや、とその、目の前の人物に寄りかかる。
「身体、貸して。」
長話しをする、体力もない。
支えが欲しかった。
しかし、ハートリーに儀礼が抱きつくように倒れこめば、その白衣の重さもある身体を細身の女性の身体で支えられるわけもなく、二人は一緒に地面に向かって倒れそうになる。
「お前、何考えてる!?」
公衆の面前で女性を押し倒すような形になった儀礼に、混乱したように顔を真っ赤にしたシュリが儀礼の頭をはたいて、ハートリーの体を支えて、引き離す。
「だって、眠い。」
何でもないことのように、儀礼は答える。
というか、本当に眠そうだった。
儀礼の目がうつらうつらと閉じられていく。
前のめりに地面に倒れそうになった儀礼の体を、そうなることが分かっていたかのように獅子が受け止めた。
「こいつは、また無茶をして。」
「安心しろ、ただの魔力切れだ。」
眉間にしわを寄せる獅子に、安心させるようにシュリが言う。
「魔力切れ?」
不思議そうに問いかける獅子に、シュリは頷いて説明する。
「こいつ、さっき、精霊に礼を言ってただろう。その時に、通常じゃありえない量の魔力を渡していた。普通はさじ一杯分の魔力でいいところを、たらいで注ぎ込むようなことをしていた。それは、魔力切れも起こすさ。」
苦笑するシュリに、アーデスはさらに呆れた顔をする。
「遺跡に入って、戦闘やトラップ解除ではなく、自らの精霊に魔力を与えすぎて魔力切れ、か。」
「バカみてぇだな。」
くくくっ、と笑ってカナルが言う。
しかし、その笑いの中に、悪意らしきものはない。
「とりあえず、俺んちに帰るか。」
シュリが言う。
「おう、悪いけど半分持ってくれ。」
2泊3日分の遺跡探索の荷物にプラスして、眠ってしまった儀礼自身とその荷物がある。
「荷物だったら俺が持つよ。」
儀礼の荷物を丸ごと持ち上げてカナルが言う。
「いや、重たいのはこっちだ。」
そう言って、獅子は儀礼の白衣を脱がした。
儀礼の白衣は、鎧と同じだけの重さがある。
「おう、それな。」
その重さと重要性を知っているシュリは頷いて白衣を受け取る。
途端に感じるいくつもの探査の魔法――。
「おい、黒獅子! お前、魔力探査切るなんてこと……できないよな、そうだよな。悪かった。」
何だそれ、と言う目で問いかけてきた獅子に、シュリは怒ることを諦めた。
シュリは瞬時に自分の周りに黒い結界を展開する。
儀礼の白衣は管理局からロックされているような、重要なものの宝庫だと言っていた。
それが、今の瞬間、無防備に世に晒されていたのである。
何のための護衛だ、とアーデスを見れば、難しい顔で灰色の霧と見詰め合っていた。
アーデスでも、今までに見たことのないタイプの魔物らしい。
これは、しばらくかかりきりになりそうだった。
そして、100人もの人間がずらりと並んで、獅子達の前に道を作る。
実際は、家に帰るだけならば、シュリの移転魔法で十分なのだが、ここまでされてしまって、移転魔法で消えることは何だか申し訳ない。
大勢の研究者が平伏す中、儀礼を背負った獅子を先頭に、シュリ、カナル、アーデスの順で、ロームの遺跡の前の転移陣へと足を踏み入れた。
場面はさながら、王の凱旋である。
当の本人は、心地よい眠りに落ちて、夢の中なのであるが。
「というか、アーデス。お前も来るのかよ。」
てっきり、研究者連中と共に、遺跡の研究でもしてくるのかと思ったのだが、アーデスもシュリの家まで来るつもりらしい。
「これを、ここにいる連中に渡すのはちょっと危険だと感じてな。」
灰色の霧を示してアーデスは言う。
魔物を強くする力を持った未知の魔物。
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