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ギレイの旅

千夜ニイ

ロームの遺跡攻略

「古の神々よ。六芒星の契約により、邪悪なる者を捕らえ、聖なる力で昇華せよ。」
儀礼の声と共に、白い光が室内を満たし、灰色の霧は居場所を失い、うめき声を上げながら少しずつ消滅していった。


「何だ、今の魔法……。」
「……見たことねぇ。」
シュリとカナルが目を見開いて驚いている。
魔法を知らないドルエド育ちの儀礼が放った魔法が、今までほとんどダメージを与えられなかった魔物に大ダメージを与えたのだ。


 しかし、まだ倒せたわけではなかった。
体積を小さくしながらも、霧は再び魔鳥の姿をとって攻撃態勢に入る。
「朝月!」
それを儀礼は朝月の結界で閉じ込めた。


「おお。やったな!」
カナルが笑って武器の構えを解こうとした。
「まだだ!」
儀礼が鋭い声で言う。


 朝月の結界を突き破り、棘のように小型化した魔鳥が、儀礼の方へ向かって飛び出してきた。
儀礼はとっさに身を守るように右腕を体の前に出す。
「儀礼!」
獅子が叫ぶ。
かろうじて体を捻って、魔鳥は儀礼の右腕の白衣だけを引き裂いて壁へと激突した。


 鋭いくちばしは、儀礼の白衣の一部を口にくわえたまま、壁に突き刺さっている。
儀礼の腕は、白衣を衝撃吸収材ごと切り裂かれ、素肌が露わになっている。
それを見て、儀礼はにやりと笑った。


 魔物のくわえたその白衣の中身は――。
「待ってたんだ。質量を持って攻撃してくる瞬間を。」


 ポチッ
儀礼は左手でそのボタンを押した。
 ドガーーン!!!
大爆発を起こして、魔物のいた場所の遺跡の壁は粉々に崩れ落ちた。


「あーあ。遺跡は壊したくなかったのにな。」
仕方ない、という風に肩を落として、儀礼は壊れた外壁の様子を見る。
「うーん、何とか直せないこともないね。よかった。」
安心したように5階からの景色を眺めて、儀礼はポケットから空っぽのガラスの瓶を取り出す。


 塔の外には、わずかに灰色の霧が残っていた。
「風祇、こいつ閉じ込めて。」
儀礼は風の精霊に頼み、残った灰色の霧を透明な瓶の中へと押し込み、しっかりと封をする。
素早く蓋の上に、魔石の粉を使って六芒星を書き記した。


「これで多分大丈夫だね。遺跡の修復も依頼出したし、魔物も捕まえたし。」
言いながら儀礼は魔物を封じたガラス瓶を念のため聖布でくるみ、ポケットの中へとしまう。
「朝月、ありがとう。さすがに遺跡全部を囲えるか不安だったけど、やってみるもんだね。やらないと、遺跡全体が崩れるか、こいつに逃げられるところだったから。」
儀礼は、爆発の瞬間に、朝月の結界でロームの遺跡全体を囲っていた。
爆発の衝撃から守るためと、魔物を外へ逃がさないためだ。


 それをやってくれた精霊に、儀礼は感謝を示す。
銀色の腕輪の透明な宝石に、儀礼はそっと唇を付ける。
「トーラもありがとう。」
朝月に次いで、自分を守ってくれていた宝石にも、儀礼は口付けた。
「それから風祇も、フィオもね。ありがとう。」
にっこりと微笑んで、儀礼は銃とライターをそれぞれ握り締める。


 その瞬間に、キラキラと輝く魔力の移動をシュリとカナルは感じ取った。
魔力を扱う者ならば感じ取れない方がおかしい量の魔力の流れである。
「おい、ギレイ! お前、何やってるんだよ……。」
半ば呆然としながら、シュリは魔力の流れを辿る。


「何って、力を借りた精霊に感謝してるんだよ。感謝することが大事だって、母さんが言ってたからね。」
「感謝ってお前。その量の魔力……異状ないのか?」
儀礼の頭のてっぺんからつま先までを確かめて、顔色を青くしたカナルが呟く。
「? さすがに疲れたよ。Aランクの魔物を4体も相手にしたんだもんな。僕、皆みたいに体力ないし。安心したせいかな、眠くなってきたよ。」
魔力が減ったことが原因とは気付かない儀礼はのほほんとした様子で、ふああ、と大きなあくびをする。


「じゃ、遺跡攻略も終わったし、帰ろうっか。」
最後のマップを更新し終えた儀礼は、ペンとメモ用紙を持って下に降りる階段へと進む。
「待て、ギレイ。帰りに魔物の復活してる場所があるはずだ。お前は後ろ。」
進もうとした儀礼を慌てて止めて、シュリは儀礼を自分の後ろへと送る。


 今度は、シュリが先頭になり、カナル、儀礼、最後に獅子が並んで遺跡の階段を下りていった。
昇る時とは違って魔物の数は極端に少ないし、遺跡の全てを攻略している。
トラップの位置も道筋もだ。


「で、ギレイ。あの魔法は何だったんだ?」
歩きながら、後ろを振り返る余裕を見せてシュリが聞く。
「六芒星とその呪文。僕も詳しくは知らないんだけど、精霊が力を貸してくれるんだって。封魔の力があるんだ。」
眠そうに目を擦りながら儀礼は答える。
遺跡の中を歩いているという緊張感は微塵も感じられない。


「そうか……。結局、一人で片付けちまったな。」
眠そうに歩く儀礼を見ながら、苦い笑いを浮かべて、シュリは小さな声で呟いた。
その声を聞き取れたのは、儀礼よりもシュリの近くにいたカナルだけだった。
カナルもまた、その言葉に苦く奥歯を噛み締めていた。


 全くの平常心でいるように見える獅子は、すでに儀礼の起こす突飛な行動に慣れてしまっていたからだ。


 3日かけた探索の帰り道は、あっという間に、遺跡の外へと到達した。

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