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ギレイの旅

千夜ニイ

ロームの遺跡3階、4階

 その場で儀礼たちはハートリーたちと別れた。
もちろん、儀礼たちは3階へと上がるためである。
ハートリーはもう一度深く頭を下げて礼を言っていた。
それを、儀礼はにこやかに手を振って別れた。


 3人の男たちが儀礼にしつこく名前を聞いてきて、カナルたちが爆笑していたが、儀礼は無視してやり過ごした。
別に、助けた礼を求めるつもりも、治療費を請求するつもりもないのだから。
儀礼が「ギレイ・マドイ」の名を名乗って、『黒獅子』と共にいる『蜃気楼』という存在に気付かれるのは面倒だった。


 困っている儀礼を、笑って助けてくれない仲間のことなど、儀礼は知らない。
3人揃って3階の落とし穴トラップに落ちかけたけど、3人とも、ケロッと飛び越えて戻ってきたので、つまらなかった。
儀礼の放った電撃ミサイルが、間違って3人を追尾したけれど、3人とも軽く避けてしまったので、問題ないだろう。


「ギレイは怒らせないようにしよう。」
小声でシュリが2人に何かを言っているが、儀礼は聞かなかったことにした。
それにもう、儀礼は怒ってはいない。
戦闘と同時に、アナザーとのやり取りを手袋のキーを使って行っていたので、忙しすぎた手元がすべっただけだ。
悪気はあったがわざとではない。
この遺跡の新しく発見したトラップなどの情報を逐一、情報屋としてのアナザーに売っていたのだ。


 そして、敵の強さが、ふざけている場合ではなくなってきていた。
今、儀礼たちは昼休憩を挟み、3階を攻略し終え、4階へと上がったところだった。


 4階にあるのは2部屋。
下から上がってくる部屋と、上へ向かう部屋だけだ。
ハートリーたちの言う通り、この階に上がった途端に魔物が急に強くなった。
部屋の空気も邪気で何だか淀んでいるように感じる。


「これさぁ、まさか最上階にボスなんていないよね。」
ははは、と軽い調子で笑った儀礼に、しかし、返す声がない。
3人が戦闘で忙しいということもあるだろうが、それよりも、この敵の強さに、ボスというその可能性を感じているらしい。


「ロームの遺跡のボス戦。もし本当にあったら僕らが初だね。」
心なしか、楽しそうな声で儀礼は言う。
倒せるかも分からない強い敵との戦いを前に、何故だか笑えて来てしまう少年達。


「魔物召喚トラップの放置でボスが出てくる可能性か。遺跡研究者が喜びそうなネタだな。」
「はいはーい。僕、喜んでます。」
ガンガンガンッ。
右手を上げて、笑う儀礼はその右手からすぐに改造銃の弾を撃ち放つ。
その弾は狙い違わず、魔物の急所に吸い込まれていく。


「やっぱり実弾でも効き目弱いなぁ。物理耐性強すぎない?」
「物理か……魔法の方が効くかも知れないな。試してみるか。ファイア!」
ひらひらとした、布のような薄っぺらな魔物に、シュリが炎を浴びせた。
「おー、よく燃えるな。」
その勢いのよさに感心したように獅子が呟く。


 獅子の光の剣は、物理、魔法、関係なく相手にダメージを与える最強武器だ。
カナルも、武器に魔力を纏っているために、着実に敵にダメージを与えている。
シュリももちろん、魔力攻撃ができる。その上、魔法まで使えるのだ。
つまり、普通攻撃しかできないのは、この中では儀礼だけということになる。


「む~。納得いかない。」
すでにこの部屋のトラップは全て解除してしまった。
魔法トラップも残っていない。
儀礼の後方支援はあまり意味を持たない。


「つまんない。」
火力が圧倒的に不足している。
(火力。)
ふと、儀礼は思い浮かんだ。
右手にあった銃を懐にしまい、代わりに小さなライターを取り出す。


 そして、にやりといたずらっこの笑みを浮かべる。
「フィオー!」
ライターの火を儀礼が掲げて持てば、たちまちその炎は天井にまで付くほどに燃え盛り、部屋中を飲み込むほどの炎の渦となって魔物たちに襲い掛かった。


「うわっ。」
「あちっ。」
「あちぃ。」
味方の悲鳴が聞こえた気がしたが、断じて、わざとではない。


 これで、ロームの遺跡、4階の1部屋を攻略した。
しかし、もう1部屋はまだ残っており、その1部屋は上階へと続く階段のある1部屋だ。
最上階から魔物の降りてくる道がある。


「日暮れが近付いてきてる。今日中に攻略するのは無理だな。」
シュリが言う。
「無理はしない方がいいもんね。」
ハートリーたちの例がある。カナルと獅子も頷いた。


「でも、トラップの位置とかだけでも把握しておきたいな。魔物の強さも、この部屋と同じ位なのか、もっと強くなってるのか、確認しておきたいし。」
儀礼が言えば、それもそうだなと、4人で頷き合い、様子見だけして、今日は1階下の3階で休息することにした。


 様子見の結果。トラップの位置はほぼマップの通りで、問題ないことが判明した。
そして、魔物の強さは、少し強くはなっていたが、数が多いわけではないので、何とかなりそうだ、ということで、全員、一度引き上げることにした。
3階部分で、焚き火を起こし、夕食の準備をする。


「2泊3日だけど楽しかったね。」
「いや、俺焦げたぞ!」
マントの端を示して睨む獅子から儀礼は視線を逸らす。


「そんなことより明日の敵だよ。夜は昨日と同じで、見張り交替でいいよね。」
儀礼は颯爽と、話題を逸らした。
遺跡での二日目の夜も更けていく。

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