ギレイの旅

千夜ニイ

ロームの遺跡2階1

 ロームの遺跡1階を全て攻略したところで、日が暮れた。
元々昼過ぎに準備をしてから出発してきたのだ。
一番広い1階部分を半日で攻略できたのは良くできた方だろう。
「どうする、今日のうちに2階へ行くか?」
カナルが言う。


 この塔は5階建てで、1番上が1部屋、2番目が2部屋と、1部屋ずつ増えている。
1階部分の部屋数は5。それを攻略し終えたのだ。
この上は4部屋になる。
部屋と部屋の間には頑丈な扉があって魔物は滅多に出入りしないようだ。
主な移動は、外壁側に付いている小さな窓からか、それぞれの階を繋ぐ移転魔法のトラップかららしい。


まだ暗闇になるには少しの時間がある。
今のうちに、もう一つ上の階で一部屋確保してしまうか、この安全になった1階で休むか。
それが今の問題だった。


「夜中に見張りを立てることを考えるなら、少し早めに1階で休んじゃった方がいいんじゃない? 2泊する予定なんだし、今、暗い中動くよりも、明日の朝早くから動き出した方が楽かも。」
儀礼は提案する。
「でも、2泊なんだよなぁ。1日で5階中の1階だけってのは進行具合からすると遅くないか?」
シュリが言う。


「確かに、もう少し行けると思うけどな。」
獅子も答える。
「獅子も忘れてる。僕ら、朝から動き回ってるんだよ。休みはしっかりととらなくちゃ。それに、夕飯の時間。」
しっかりと獅子とシュリを指差して儀礼が言う。
カナルは急に腹の減り具合を思い出したのか、力なさそうにお腹を押さえている。


「……お前に飯の事を言われる日が来るとは思わなかった。」
獅子が呆然とした顔で儀礼を見る。


「遺跡を舐めたらだめだよ。ここで突然トラップでも発動して、全員ばらばらになったりしたら、休憩なんて取れなくなるだろう。この階の落とし穴トラップは全部解除してあるからいいけど、上の階はそうもいかない。今日はここで休もう。体力残しておく位の方が見張りになるからいいよ。」
真剣な顔で儀礼はさとす。


「それもそうだな。」
シュリも頷いた。
「よし。じゃぁ、飯にしようぜ。」
もう待ちきれないとばかりに、カナルは荷物の中から大きな弁当箱を取り出す。


「待って待って、先に火を熾そうよ。」
笑って儀礼が薪を集める。
固形燃料を加えれば、とてもよく燃える。


「見張りは2人ずつで交替な。グーパーで決めるか。」
食事を取りながら、シュリが笑いながら言う。
「いや、僕とシュリは別れた方がいいんじゃない? 夜中に復活する魔法トラップもあるし、また壊すなら、どっちかが起きてないと。」
「あー、そうか。結界張っときゃいいかと思ったけど、すぐ壊せるなら朝の手間考えればその方がいいな。」
「じゃ、僕とシュリでグッパ。カナルと獅子でグッパだね。」


 その結果。儀礼がグー、シュリがパー。
獅子がグー、カナルがパー。


「身内同士か。」
くくくっとシュリが笑う。
「連携取れていいかもね。」
くすくすと儀礼も笑う。
何が可笑しいのかなど分からない。
ただ、初めての友人同士での遺跡の宿泊に楽しくて仕方がないのかもしれない。


 そうして、2時間交替で見張りと睡眠を取ることになった。
夜中に現れた敵はわずか。
カナルと獅子が少しずつ倒し、儀礼とシュリは一つずつ復活した、魔法トラップを破壊した。


 朝、日の出と共に朝食を取り、4人はロームの遺跡2階へと出発したのだった。
2階へと昇って、短い時間で1部屋目を攻略した。
1階とは違い、遺跡の様子も分かってきて、4人は大分調子を上げてきていた。
夜、早めに休んでおいたことも効果的だったようだ。


 儀礼が魔法トラップをも把握し始めたことも攻略には役立っていた。
まるで、見ているように儀礼は魔法トラップを見つけて、破壊していく。
今まで、マップに記録されていなかったものまで、見つけてしまうほどだった。


「何でトラップの場所が分かるんだ?」
魔法トラップって何? 状態だった儀礼の急成長振りに、シュリは信じられない思いだった。
「僕だったら、そこに仕掛けるから。機械トラップは元々見れば分かるんだ。ありそうなのに、ない所は魔法トラップがある。そういうことだろう。」
にっこりと笑って、何でもないことのように儀礼は言った。


 それが、どれほどの異常であるか、青い顔のカナルを見て想像してもらいたい。
Aランクになるほどの冒険者が苦労して通るトラップの道を、儀礼は、道端の落ち葉を掃くような力加減で終わらせてしまうのだ。
「だからカナル。こいつ、Sランクなんだって。」
「分かったよ。Sランクなんだな。本当に。こんな、小さいのに。」
「大きさ関係ないだろ! 同じ年だ! カナル。」
くだらない冗談を話すほどの余裕が儀礼達にはあった。


 その後も儀礼たちは順調に攻略を進めていった。
2階の3部屋をほぼ攻略し終えた時だった。


「助けてっ! 助けてっ! いやーぁ!!!!」
突如として、女性の悲鳴が遺跡2階に響き渡った。
「隣の部屋だ!」
叫ぶと同時に獅子が駆け出す。
扉を開け駆けつけると、中型の豹のような魔獣と戦っている魔法使いらしい女性がいた。


 金色に近い茶髪を頭の上で二つの団子にしている。
持っているのは宝石の付いた木製の杖。
装備している服も、冒険者用の耐魔効果のあるもので、それなりにいい腕の持ち主であることが分かる。
それでも女性は、魔獣に接近され、魔法を放つことができないでいるようだった。
杖の宝石で必死に魔獣の頭を叩いていた。

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