ギレイの旅

千夜ニイ

ロームの遺跡1階2

「やっぱり聖水は、小型の魔虫にはよく効くよね。」
にっこりと笑って儀礼は言う。
「それで、だから、シュリ! 魔法トラップの無効化だってば。」
ペンとメモを振り回して、紫色の障壁の中で儀礼は言う。


「俺の魔力を流し込んで抑え込んでるんだよ。一時的に破壊する方法もあるし、封印陣を上から貼り付ける方法もある。」
動きの良くなったシュリが、舞うように武器を振り回して答える。
「封印陣って何? 壊すにはどうするの?」
次々と、儀礼の質問は止まない。


「お前! 状況を考えて質問しろ! 今は戦いが優先だ!」
ついに、怒ったようにシュリが怒鳴った。
たちまちビクリとして、儀礼は身体を固めた。


「シュリ、儀礼に怒るのは逆効果だ。働かなくなる。」
獅子の言葉の通り、儀礼はまるで人形のように姿勢よく固まっている。
「じゃぁ、どうしろってんだよ。」
面倒そうに額に浮いた汗を拭きとってシュリが言う。


「戦いが終わったら答えを教えるって言えばいいだろ。」
止まることなく魔物を切り倒しながら言う獅子の言葉に、なるほど、とシュリは頷く。
「そういう訳だ、ギレイ。教えて欲しければお前も戦え。」
シュリが怒りを解いて言えば、たちまち儀礼は戦闘態勢に入る。


 手袋のキーを滑らかな指捌きで操り、一斉に儀礼の白衣から小型のミサイルが飛び出した。
ミサイルは標的を定め、次々と魔物を破裂させていく。
あっという間に、その部屋の中は片付いた。


「お前っ!」
「そんな手があるならもっと早くに出せ!」
シュリとカナルが代わる代わるに儀礼に怒鳴る。
それを、怯えたように耳を塞いで儀礼は聞き流す。
「だって。僕の場合、皆と違って弾切れの心配があるから。できる限り手を後に残しておきたいんだよ。」
目に涙を浮かべて儀礼は言う。


 確かに、儀礼の言うことにも一理ある。
しかし、戦闘をさぼるのはパーティを組む上ではいただけない。
「僕が魔法トラップの無効化もできるようになれば、シュリの手が空いて、戦闘に集中できると思ったんだよ。」
「魔法の使えないお前が、どうやって魔法トラップを解除するんだよ?」
シュリの問いに儀礼はにっこりと笑って左手の腕輪を見せる。


「朝月ならできると思うんだ。」
「そいつか。……確か、光の精霊だったな。妖刀作る。」
「別に、妖刀作る精霊じゃないよ。それ位、力が強いだけ。できると思わない?」
自信ありげに言う儀礼に、確かに、とシュリは頷く。


 精霊に魔法トラップを解除させる精霊使いは、普通にいるのだ。
精霊は魔力そのもののような存在で、その力は強力だ。
古代の物とは言え、人間の作り出した物を打ち破る位の力は持っている。


「ならギレイ。まずはトラップを見つけることだ。精霊にトラップのありそうな位置を探らせろ。」
「あの辺ね。」
そう言いながら儀礼は天井を指し示す。
「……まぁ、そうだが。何で分かった?」
「さっき、魔虫があそこから沸いてた。」
あっさりと儀礼は答える。


「そうか。なら次はそれを具現化、視覚化とも言うが、とにかく、魔力を流して見えるようにするんだ。ただし、直接触ると発動するから離れた所から送り込むんだ。」
シュリの指示を聞き、儀礼は腕輪を天井へと向ける。
「できる? 朝月。」
儀礼の声に反応し、腕輪が白く光ると、天井に白で描かれた魔法陣が出現した。


「確かに、魔物出現トラップだな。これは時間で発動するようだ。6時間おきに魔物が出現する。」
シュリが説明する。
「見ただけで分かるんだ。すごいね。どこがどうなってるの?」
「詳しいことはこの依頼が終わった後に説明してやるよ。かなり複雑になってくるからな。」
シュリの言葉に、儀礼は不満そうにだが、頷いた。
仕事を引き受けた以上、依頼を達成させることの方が重要なのである。


「こいつは面倒だから壊しておいた方がいいな。どうせ一週間もすれば復活しちまうが、今壊せば帰りが楽になる。」
「そうだね。」
儀礼は頷く。
「お前の精霊なら、力があるから魔力を込め続ければ力づくで陣は壊せる。普通は逆効果や封印効果のある陣を作ってぶつからせる。上書きするんだ。」
シュリが説明してくれる。


「ふーん。朝月、壊して。」
儀礼が頼めば、すぐにパリンと音をさせて白い魔法陣は壊れた。
「……一瞬かよ。お前、何でもありだな。」
引きつった表情で、カナルが儀礼を見ている。
「いや、カナル。Sランクだぞ。これで普通なんだ。今までの無知がむしろ異状なんだよ。」
「Sランク……。すげー。」
大きな体で、怯えたようにカナルが一歩後ろに下がる。


 怯えるカナルをフォローするために、一応シュリは説明をしておく。
「普通のBランクの魔法使いなら、今の魔法陣を壊す作業に5分はかかるからな。Aランクでも3分だ。ヤンとかアーデスは特別だぞ。」
「大丈夫。僕の中では、その二人はもうSランクの域だから。」
「ああ、そうか。」
妙に納得して、シュリが頷く。


「で、何をしてどうなったんだ?」
一人、傍観していた獅子がようやく話しに入り込む。
「トラップの解き方が分かったから僕、パワーアップ。」
にぃと笑い、儀礼は獅子にVサインを送る。


「そうか、またできる妙なことが増えたのか。」
何故か面倒そうに儀礼の様子を眺める獅子。
儀礼の起こした面倒事を見るのは、結局いつも獅子になるのだ。


「大丈夫。僕がトラップの担当するから、シュリも戦闘に専念できるようになるよ。これなら予定より早く最上階に着けるかも。」
にっこりと嬉しそうに儀礼は笑う。
「それはいいな。」
にぃと口の端を上げて獅子も笑う。
ロームの遺跡、1階、5部屋中、2部屋を攻略し終えたところだった。

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