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ギレイの旅

千夜ニイ

Bランクの遺跡ローム

 結局4人はグラハラアにあるロームと言うBランクの遺跡に行くことになった。
5階建ての塔のような遺跡で、落とし穴を含めれば地下にもう1階分の階層がある。
機械仕掛けの罠が多く設置されている遺跡で、最近は魔物が大量に目撃されているらしい。
遺跡を研究する研究者たちの依頼で魔物討伐の依頼が出ている。
魔物の数が多いため、人数に制限がなく、すでに依頼を受けて中に入っている冒険者たちもいるらしい。


「全魔物を討伐したら依頼達成ですか?」
儀礼は聞く。 
「いや、違うよ。」
そう言って、マスターは依頼書を儀礼へと見せてくれた。
グラハラアの文字で書かれた依頼書。
獅子はすでに遠い目をして、近くの冒険者たちとの会話に参加していた。
なにやら握手を求められたりしている。
有名人だなあ、とくすりと儀礼は笑う。


 儀礼は依頼書に視線を戻す。
『ロームの遺跡、魔物討伐依頼』。
期限は3日。3日経てば、全魔物を討伐しなくても依頼完了になるらしい。
逆に言えば、Bランクのパーティでも全魔物討伐が困難だと言うことだ。
中にいられるのは3日が限度、と。


「随分魔物が増えたみたいですね。」
真剣な表情で儀礼は依頼書を読み解く。


「ああ、それがな。研究中のグループが魔物召喚トラップを起動しちまったらしくてな。トラップの魔力が切れるか、トラップを解除するまで魔物が沸き続けるってわけだ。」


「魔物召喚トラップ……。」
考え込むように儀礼は唇に指を当てる。
「解除方法は?」
儀礼は訪ねる。


「一般的なのは、上から魔封じの陣を張り付けるか、魔法使いがキャンセルを掛けるか、トラップ陣自体を破壊しちまうかだな。」
「ふ〜ん。」
儀礼は拳を口元に当てる。


「シュリかカナルはその召喚トラップの解除はできる?」
「俺はできない。シュリなら多分できるな。」
カナルが答える。
「ああ。近付かないとはっきりとは言えないけど、Bランクのトラップなら大概いける。」
シュリは一瞬考えるように視線を動かしたがすぐに返事をした。


「獅子の光の剣でも切れそうだよね。」
儀礼が言うが、当の本人はまだ、ファンらしき冒険者達に囲まれている。


「朝月は?」
魔物召喚ならば、闇属性の魔法トラップだろう。炎や風よりも光の方が効果がありそうだった。
儀礼の予想通り、銀色の腕輪は透明な石をまばゆい白に輝かせたのだった。


それから、儀礼たちは3日分の探索の準備を整え、正式に依頼を引き受け、出発することにした。
食料、水、冷える夜のための防寒用マント。
鍋やランプといったキャンプに必需品も揃えて、管理局の転移陣の間へとやって来た。


「本当なら移転魔法で飛べれば一瞬なんだけどな、ロームへは行ったことないから悪いな。」
シュリが言う。
移転魔法で、行ったことのない場所へ行くには、何か目印の様な物や人がいないと、ずれやすいらしい。
移転魔法初心者のシュリに無理をさせることもないと、儀礼たちは転移陣でロームの遺跡を目指す。


 転移陣を使ってたどり着いた先は、ロームの遺跡のすぐ目の前だった。
今では解析の進んでいるロームの遺跡だが、グラハラアで数少ない地上に飛び出した型の遺跡だ。
集中して探索できるように、発見されてすぐにこの場所に転移陣が敷かれたらしい。


「遺跡だ〜!」
感激したように儀礼が呟く。
「儀礼、油断するなよ。かなりの数の魔物の気配がする。」
儀礼以外の3人はすでに、それぞれの武器を構えていた。


 遺跡の中だけでなく、外にも、魔物たちは出現しているらしかった。
「魔物召喚トラップがあるのは遺跡のてっぺんだったよね。」
高い塔の上を眺めて、儀礼はうっとりとした表情を浮かべている。


「いや、お前、少しは戦えよ!」
すでに戦闘を開始しているカナルが呆れたように儀礼に促す。
シュリやカナルといい勝負をしたのだ、儀礼が戦えない訳がないと、カナルたちは知っている。


「え? だってCランクの魔物でしょ。僕の出番ある?」
パチパチと瞬きを繰り返して儀礼は3人に聞き返す。
獅子、シュリ、カナルの3人が同時に戦った結果、入り口手前の魔物はあっと言う間に殲滅されていた。


「さあ、遺跡内部にしゅっぱーつ!」
楽しそうな儀礼の掛け声と共に、3人は顔を見合わせ、苦笑を浮かべてその後についていったのだった。


「緑色のブロックには触らないようにね。」
遺跡に入るとまず儀礼はそう言った。
「それ位知ってるよ。」
「当たり前だろう。」
カナルとシュリがそれぞれバカにされたとでも思ったように苛立った声で答える。


「そういや、そうだったな。」
獅子が言った。
途端にシュリとカナルは信じられないものでも見るようにして獅子の方を見ていた。
「そうか、これがドルエド育ち……。」
納得したようにシュリはうなずいた。


「魔法トラップについては見分け方とかってあるの?」
「それを今聞くのかよ!」
シュリが、今度は儀礼に対して呆れたように突っ込みを入れる。
それは本来、遺跡に入る前に付けておくべき予備知識だ。


「魔力を探知すれば異常のある場所が魔法トラップなんだが……お前ら、魔法探知なんて……できないよな。そうだよな。」
キョトンとした顔の二人を見てシュリは諦めたようにため息を吐く。
「魔力探知は俺がやる。カナルと黒獅子は魔物に集中してくれ。ギレイは機械系のトラップな。」
シュリが慣れた様子で指示を出す。


 さすがにAランクの冒険者になるだけのことはある。
「はーい。」
元気よく儀礼は返事をする。
魔物が大量にいる遺跡へ来たとは思えない明るさだ。
近場にピクニックにでも来たようなテンションである。
いや、周囲の壁やトラップを見る目はもっと輝いている。
そして、その瞳は段々と真剣なものへと変わっていった。

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