ギレイの旅
トラップの勉強
ノーグ家での昼食後、儀礼はソファーに座り込み、数枚の紙とにらめっこをしていた。
その紙は今しがた儀礼が集中力を伴って勢いよく書き出した、ある建物の図面。
「それ、アーデスの極北の研究所だよな。」
後ろから紙を覗き込んだシュリが、儀礼に問いかける。
「うん。」
頷いて、儀礼はその紙を机の上に並べた。
「僕が罠を置いたのは庭の、こことか、こことか、ここ。他にも青で示した場所が僕がトラップを仕掛けた場所。」
大量の青い点を見て、シュリの頬が引きつる。
「人の家をなんだと思ってるんでしょうね。」
呆れたような溜息を吐いて、アーデスが言う。
いつの間にか、向かい側のソファーに腰を下ろしていた。
「だからさ。僕の置いたトラップは必要のない物って事でしょう。」
広い極北の庭の中で、儀礼が仕掛けたのは、アーデスがトラップを仕掛けていなかった場所に、だ。
それが必要ないということは――
「そこには目に見えない、魔法系のトラップが仕掛けられてるって事だろう。」
儀礼は確認するようにアーデスを見る。
「それくらい、見れば分かるだろう。」
シュリが当然のように答えた。
「見れば分かるって、見えないのに?」
「魔力に変化があるだろ。そこだけ、魔力の層が極端に濃くなってたり……って、お前、それもわからないのか。」
儀礼がぽかんとした顔でシュリを見ているので、シュリは苦い顔で儀礼を見返す。
「お前、本当にSランクなんだよな? これがドルエド育ち。」
うーん、と唸ってシュリは腕を組んで考え込んだ。
「分からないものは仕方ないだろう。でも、とにかく、ここにトラップがあるって言うなら、こういう感じに、なるってことなんだけど、あってるかな?」
儀礼は赤いペンでトラップのある可能性の範囲を書き記していく。
「まぁ、大体正解ですね。」
アーデスはそれを認めると、おもむろに儀礼の書いた紙をまとめて、手の平の上で燃やし尽くした。
「何するんだよ。勉強中なのに。」
不満そうに儀礼は口を尖らせる。
「人の家の機密をこんな簡単に書き残さないで下さい。でないと、出入り禁止にしますよ。」
睨むように見下ろすアーデスの視線に、儀礼は視線を泳がせる。
「どうせやるなら、遺跡のマップででも試したらどうです? 折角なら、ちょうどいい護衛もいることですし、どこかの遺跡にでも行って来たらどうですか?」
「遺跡!?」
途端に、儀礼は瞳を輝かせる。
「ちょっと待て、その今言った護衛って、俺達のことじゃないよな。」
シュリはアーデスの言葉に嫌な予感を感じて、確認を取る。
「他に誰がいるんだ? 俺が付いていったって楽しくもないだろう。」
「アーデスが一緒でも楽しいよ。難しい遺跡にいけるし。」
にっこりと笑う儀礼だが、その笑みには計算が見え隠れしている。
アーデスが行くなら、どこの遺跡、シュリたちと一緒なら、どこの遺跡、と頭の中ではたくさんの可能性をはじき出していることだろう。
「勉強するなら、答えを全部知ってる俺が付いて行くより、ある程度わかるシュリと、カナルが行く方が面白みがあるだろう。俺は少し休む。」
そう言って、アーデスはソファーに座ったまま目を閉じた。
「そうか、ギレイのせいで極北の結界と魔法トラップほとんど張り直しになったんだな。さすがに疲れてるだろう。ギレイ、ちゃんと謝っとけよ。」
「え? そっか。ごめんなさい。」
気付かなかったと、キョトンとした後、儀礼は素直にアーデスに頭を下げた。
正確に言うなら、トラップや結界を外している間の索敵、警戒をずっとアーデスは請け負っていたのだが、儀礼はそれにも気付いていなかった。
まだ起きているらしいアーデスは軽く手をあげるだけで、返事をした。
それで、許してくれたらしい。
そうして、儀礼たちは近くのどこかの遺跡へ冒険に出かけようということになった。
「どうせ遺跡に行くなら、金になる仕事がいいな。」
カナルが言う。
「それは、ギルドに行って直接聞いてみないと分からないね。」
「ギルドか。ここにもギルドがあるんだな。」
興味深そうに獅子が話しに入ってくる。
「当たり前だろう。どこの国にだってあるだろ。ここのギルドもそう変わらないよ。」
幾つかの国に渡って仕事をしているであろうシュリは言う。
「んじゃ、これから行こうぜ。」
「今からか?」
獅子が剣を持ったので、驚いたようにシュリが言葉を返す。
まだ昼過ぎではあるが、先程まで力いっぱい遊んできた後だ。
仕事に行くというのに、体力の回復はできているのだろうか。
「獅子は元気だよね。」
くすくすと笑って儀礼は言う。
その儀礼も、遺跡に行けるというのならば、疲れなど吹き飛んでしまっている。
「しょうがないな。んじゃ、とりあえず行くだけ行ってみるか。ちょうどいい仕事があるかも分からないしな。」
シュリが言えば、カナルは支度を整え始める。
「行ってらっしゃい。」
目をつぶったままアーデスが言う。
「気をつけてね。」「気をつけてな~。」
ラーシャとワルツがデザートをつまみながら手を振っている。
この家では、出かけるものに対してはこんな感じなのだろうか。
「「行ってらっしゃい。」」
メルーとタシーが玄関まで走ってきた。
「気をつけてね。」
そのすぐ後からココが来て手を振る。
「仕事だな。頑張れよ!」
「シュリたちは仕事だから。今度遊んでもらえるから。」
ノウエルとナイルが一緒に行きたがるケルガを抑えている。
「行ってきます!」
元気な見送りに、くすくすと声を上げ、にこやかに手を振って、儀礼は白衣を調えた。
その紙は今しがた儀礼が集中力を伴って勢いよく書き出した、ある建物の図面。
「それ、アーデスの極北の研究所だよな。」
後ろから紙を覗き込んだシュリが、儀礼に問いかける。
「うん。」
頷いて、儀礼はその紙を机の上に並べた。
「僕が罠を置いたのは庭の、こことか、こことか、ここ。他にも青で示した場所が僕がトラップを仕掛けた場所。」
大量の青い点を見て、シュリの頬が引きつる。
「人の家をなんだと思ってるんでしょうね。」
呆れたような溜息を吐いて、アーデスが言う。
いつの間にか、向かい側のソファーに腰を下ろしていた。
「だからさ。僕の置いたトラップは必要のない物って事でしょう。」
広い極北の庭の中で、儀礼が仕掛けたのは、アーデスがトラップを仕掛けていなかった場所に、だ。
それが必要ないということは――
「そこには目に見えない、魔法系のトラップが仕掛けられてるって事だろう。」
儀礼は確認するようにアーデスを見る。
「それくらい、見れば分かるだろう。」
シュリが当然のように答えた。
「見れば分かるって、見えないのに?」
「魔力に変化があるだろ。そこだけ、魔力の層が極端に濃くなってたり……って、お前、それもわからないのか。」
儀礼がぽかんとした顔でシュリを見ているので、シュリは苦い顔で儀礼を見返す。
「お前、本当にSランクなんだよな? これがドルエド育ち。」
うーん、と唸ってシュリは腕を組んで考え込んだ。
「分からないものは仕方ないだろう。でも、とにかく、ここにトラップがあるって言うなら、こういう感じに、なるってことなんだけど、あってるかな?」
儀礼は赤いペンでトラップのある可能性の範囲を書き記していく。
「まぁ、大体正解ですね。」
アーデスはそれを認めると、おもむろに儀礼の書いた紙をまとめて、手の平の上で燃やし尽くした。
「何するんだよ。勉強中なのに。」
不満そうに儀礼は口を尖らせる。
「人の家の機密をこんな簡単に書き残さないで下さい。でないと、出入り禁止にしますよ。」
睨むように見下ろすアーデスの視線に、儀礼は視線を泳がせる。
「どうせやるなら、遺跡のマップででも試したらどうです? 折角なら、ちょうどいい護衛もいることですし、どこかの遺跡にでも行って来たらどうですか?」
「遺跡!?」
途端に、儀礼は瞳を輝かせる。
「ちょっと待て、その今言った護衛って、俺達のことじゃないよな。」
シュリはアーデスの言葉に嫌な予感を感じて、確認を取る。
「他に誰がいるんだ? 俺が付いていったって楽しくもないだろう。」
「アーデスが一緒でも楽しいよ。難しい遺跡にいけるし。」
にっこりと笑う儀礼だが、その笑みには計算が見え隠れしている。
アーデスが行くなら、どこの遺跡、シュリたちと一緒なら、どこの遺跡、と頭の中ではたくさんの可能性をはじき出していることだろう。
「勉強するなら、答えを全部知ってる俺が付いて行くより、ある程度わかるシュリと、カナルが行く方が面白みがあるだろう。俺は少し休む。」
そう言って、アーデスはソファーに座ったまま目を閉じた。
「そうか、ギレイのせいで極北の結界と魔法トラップほとんど張り直しになったんだな。さすがに疲れてるだろう。ギレイ、ちゃんと謝っとけよ。」
「え? そっか。ごめんなさい。」
気付かなかったと、キョトンとした後、儀礼は素直にアーデスに頭を下げた。
正確に言うなら、トラップや結界を外している間の索敵、警戒をずっとアーデスは請け負っていたのだが、儀礼はそれにも気付いていなかった。
まだ起きているらしいアーデスは軽く手をあげるだけで、返事をした。
それで、許してくれたらしい。
そうして、儀礼たちは近くのどこかの遺跡へ冒険に出かけようということになった。
「どうせ遺跡に行くなら、金になる仕事がいいな。」
カナルが言う。
「それは、ギルドに行って直接聞いてみないと分からないね。」
「ギルドか。ここにもギルドがあるんだな。」
興味深そうに獅子が話しに入ってくる。
「当たり前だろう。どこの国にだってあるだろ。ここのギルドもそう変わらないよ。」
幾つかの国に渡って仕事をしているであろうシュリは言う。
「んじゃ、これから行こうぜ。」
「今からか?」
獅子が剣を持ったので、驚いたようにシュリが言葉を返す。
まだ昼過ぎではあるが、先程まで力いっぱい遊んできた後だ。
仕事に行くというのに、体力の回復はできているのだろうか。
「獅子は元気だよね。」
くすくすと笑って儀礼は言う。
その儀礼も、遺跡に行けるというのならば、疲れなど吹き飛んでしまっている。
「しょうがないな。んじゃ、とりあえず行くだけ行ってみるか。ちょうどいい仕事があるかも分からないしな。」
シュリが言えば、カナルは支度を整え始める。
「行ってらっしゃい。」
目をつぶったままアーデスが言う。
「気をつけてね。」「気をつけてな~。」
ラーシャとワルツがデザートをつまみながら手を振っている。
この家では、出かけるものに対してはこんな感じなのだろうか。
「「行ってらっしゃい。」」
メルーとタシーが玄関まで走ってきた。
「気をつけてね。」
そのすぐ後からココが来て手を振る。
「仕事だな。頑張れよ!」
「シュリたちは仕事だから。今度遊んでもらえるから。」
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